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第六話:壮絶な死闘

 ヘビがいなくなってから数分後、ミオも目を覚ましsadakoが創聖剣ウォ

ーター・メロンを引きずってきた。

 数百人じゃ無理だったのか、帰りは数千人に増えていた。やれやれ、ま

たsadakoを森に放さなくちゃな。



 俺らはまた森をゆっくりと歩き始めたが、俺はここで重大な事に気がつ

いた。


「なぁ、マコ……俺そろそろ寝たいんだが――」


 何故かマコは顔を真っ赤にし、


「メロン! 何外でそんな事言ってんのよ……そんな――私と寝たいだな

んて……」


 もしかしてこの世界って……

 俺はグラサンの一人に、今が前世の世界で言うところの何時かどうか聞

いた。


「この世界には朝昼晩って概念(がいねん)は無いです。この世界の住人は勇者様の元

の世界で言う『眠る』と言う事をすることは無いですね。さっきのミオ様

のように気を失うか――子孫を残すために『寝る』かどちらかしか――」

「待て」


 俺はグラサンの長ったらしい説明を遮断(しゃだん)させ、


「つまりこの世界で『寝る』という言葉は……するって事でいいのか?」


 グラサンは前を向いたまま、


「そうですね。『一緒に寝てください』がこの世界の男女共通の口説き方

らしいですぜ」


 俺はマコにそんな事を聞いてしまったのか……! いや待て、分かった

からと言って俺が今眠い事には変わりは無い。眠いというよりは身体に疲

れが溜まったから転がりたい――と言ったほうが正しいかもしれんが。

 いくら異世界に行ったからといって、急にその環境に馴染(なじ)めるはずは無

いだろうよ。



 俺は言葉を選び、慎重にマコにお願いした。


「悪いがちょっと疲れたんだ。転がっても良いか?」


 マコは大きな溜息(ためいき)をつき、


「仕方無いわね。じゃあちょっと休憩にしましょう」


 俺は太い木に寄りかかり、元の世界で言う意味で寝る事にした。





「キーンキーンキィーン」


 金属音のような音で目が覚めた。何だこの音……まるで工具同士を打ち

付け合っているような――

 俺がまだ半分眠ったままの頭で目を開けると、目の前にバールのような

ものが俺に向かって飛んできていた。


「うわぁぁぁぁ!?」

「サバァァ!」


 あと少しで激突する――というところでsadakoの一人が飛んできたバー

ルを止めてくれた。――礼を言う。助かった……


「おらおら! こっから先は通行止めだァ!」


 赤――オレンジ色? のトゲトゲした炎のような生物が、工具をやたら

めったら俺に向かって投げていた。数十人のsadakoがそれを必死で止め、

マコミオムーン三姉妹は木の陰に隠れていた。


「メロン! さっきはどうしたのよ、いくら()さぶっても起きないし!

気絶してるのかと思ったじゃない!」


 マコに怒声(どせい)を浴びせられ、俺は寝起きのままゆっくりと立ち上がった。

とりあえずコイツらが何者かだけは知っておきたいからな。



「俺は解体屋のジョーカー」

「俺は壊し屋のジェン」

「俺は片付け屋のジェフ」


 炎のような生物は綺麗に並び、

「三人揃って3K兄弟だ!」


 高身長でも高学歴でも高収入でも無さそうだが、自ら3Kと名乗ってい

るのだから、ヤジを飛ばすのはやめておく。

 ――それに全員ハンマーとかドライバー、バールにスパナを持っている

から――いや別に怖いんじゃあ無いぞ。

 ジョーカーと名乗る赤い(かたまり)は、


「俺が解体し、ジェンがぶっ壊し――ジェフがそれを片付ける! 俺らは

無敵の兄弟(トリオ)だぜ!」


 言いながらまたバールやスパナを投げてきた。――お前ら物を人に向か

って投げるなと、小学校で習わなかったのか!

 ……習うわけ無いよなぁ……

 がむしゃらに投げるもんだから、投げ合った工具同士が当たって変な方

向へとぶっ飛んでいく。やれやれ、さっきの音はこの音だったのか……


「……………」


 赤い塊たちは黙り込み、俺らの方を見た。


「何でお前ら当たらないんだよ!」


 知るか。コントロール悪いんじゃ無ぇのか。

 グラサンが一人俺に近寄り、


「あいつらバカっぽいので、とりあえず勇者様の剣で切り裂いてしまえば

どうでしょうか?」


 言われなくてもそのつもりだ。当たらなくたって万一の事がある。三姉

妹もさっきから木の影から出てこないし、ここは俺の出番だな。


聖的敏感(アルカディア)剣俺最強(・スイカクイタイ)!」


 創聖剣ウォーター・メロンを軽々と持ち上げ、俺はカッコよく合図をし

て、三人の赤い塊に剣を振りかざし――


「止まって見えるぜ!」


 顔がそっくりなのでどれだかはっきりとは分からないが――多分ジョー

カーだと思われる赤い塊は、視覚では認識できない程のスピードで俺の剣

の攻撃を避けた。

 バカ。地面の一部分が水と酸素になっちまった。



 赤い塊は三人並び、


「そんな眠っちまいそうなノロい剣さばきで、俺らが倒せると思ったか」


 仕方無()ぇだろ、大剣を振り回す力があったらとっくにそうしている。

 グラサンの一人が拳銃を取り出し、


「撃ちますか?」


 当たるか分からんが……


「頼んだ」


 グラサン数十人が一斉に拳銃で赤い塊を撃ち抜いた。――ように見えた

のだったが、地面に数百の穴が開き――赤い塊はいなくなっていた。


「なーんだ。逃げたのか……」


 俺はホッとして後ろを振り返ると――


「!」


 グラサンが大量に倒れ、赤い塊が数十丁の拳銃をこちらに向けていた。

――へぇー……炎だからそんなにたくさんの拳銃を同時に持てるんだぁ…

 なんて言ってる場合じゃ無い!

 数十発の弾丸が俺に向かって放たれた。(さいわ)い創聖剣ウォーター・メロン

は俺の身体より縦横大きいので、盾にすることで何とか(しの)ぐことができた。

 ホッとしている俺に、ムーンが怒声を浴びせてきた。


「何やってんのよ! 奴隷(メロン)! 早くこんな小っちゃいやつら倒しちゃいな

さいよ!」


 じゃあお前がやれ。なんてこんな小さな女の子に言えるはずも無く――

だからと言って、今この剣をどければ一瞬で蜂の巣だ。


「サバァァァ!」


 sadakoの叫び声とともに、とてつもなく生理的嫌悪感を感じる臭いがし

た。俺は少しだけ剣から顔を出し、様子を見たが――俺は見たことを果て

しなく後悔した。



「sadako……」


 赤い塊に飛びかかったsadakoの大群は、赤い塊に触れた瞬間カラカラに

(かわ)き蒸発していき、そこらじゅうにsadakoの干物が出来上がった。

 あいつらの身体って……温度何度くらいなんだ……?

 いや……あいつらは熱で蒸発したんじゃ無いな。もしそんなに熱いなら

……側にいる俺らはもう、汗だくで脱水症状になっているだろう。

 ――ってことは、あいつらの体表は水分を吸収するって事か?

 っていうか、sadakoも体内に水分があったのかぁ……


「勇者よ、次は貴様だ」


 本来はそういう使い方をする物では無い工具を抱え込み、赤い塊は三匹

そろって近づいてきた。――触れられたら俺は死ぬ。

 こうなったら、イチかバチか!


「うりやぁあぁ!」


 俺は創聖剣ウォーター・メロンを横向きに持ち、自分の身体を(じく)にして

赤い塊に向かって振り回した。


「GGGGGYYYYWWWWUUUUU(ギャァァァゥゥゥ)


 工具を大量に抱え込んでいるからか、俺の方に向かって来ていたからか

――先ほどの超スピードの回避に失敗し、赤い塊は上半分を酸素に、下半

分を水にされ――視界から消え去った。


「勝った……」

「違うね」


 背後からの声に、俺は咄嗟(とっさ)に剣を(かか)げ振り返った。――するとそこには

さっきの赤い塊の姿が。

 バカな……今確かにこの手で……


「俺はジェフ。俺をかばって死んでいった兄さん二人のかたき……今はら

させてくれようぞ!」


 その目はメラメラと燃え上がっていた。さっきまでの舐めプレイは無し。

正真正銘の仇討ち――その目は復讐に燃えていた。

 俺は創聖剣ウォーター・メロンを掲げた。本当に本当の……


最終決戦(さいしゅうラウンド)だ!」


 赤い塊は俺に向かって飛びかかってきた。――ジョーカーほどのスピー

ドは無く、なんとか視覚で見切れるスピード。

 だが俺は、そんなスピードで向かってくる物体を回避するだけの身体能

力は無く――


「うおぉぉぉ!」


 創聖剣ウォーター・メロンを縦に向け、ジェフが向かってくる軌道上(きどうじょう)

立てた。


「甘いっ!」


 ジェフは突然軌道を変えた。――あんなに速いスピードで飛びかかりな

がら、身体の向きを変えられる……だと?


「命はもらったぁ!」


 流石赤色(さすがクリムゾン)の戦士……俺はもう終わったな。


「何諦めてんのよ!」


 俺が支えていた創聖剣ウォーなんとかの刃の向きが突然、斜め四十五度

回転した。


「ラ○ダーキック……?」





 結果から説明すると、マコとミオが俺の剣に向かってムーンをぶん投げ

たらしい。その反動でムーンは俺の剣にラ○ダーキックを放ち、剣の向き

が変わりジェフの行動軌道上に刃が向き、創聖剣ウォーター・メロンに切

り裂かれたジェフは、そのまま右半分が酸素になり左半分は水となってこ

の世から消え去っていった。



 壮絶(そうぜつ)な死闘を繰り広げた俺は身体中から汗をかいていた。ミオがせっせ

と俺の汗を拭き取ってくれる――ああ……こういうのも悪く無いかも。


「何デレっとした顔してんのよ」


 マコに顔を(のぞ)き込まれ、俺の心は現実世界へと戻ってきた。


「早くあんたの能力でグラサンとsadakoを生み出しておかないと、今襲わ

れたら大変よ」


 分かってる。分かってはいるのだが。俺を守るために目の前で無残にも

惨殺(ざんさつ)されて行った情景を思い出すと、俺は心がズキズキと痛んだ。

 ――まるで「兵士は使い捨ての道具だ」とばかりに戦争をしていた頃の

日本みたいで……

 マコは溜息をつき、


「あのねメロン。死んじゃった人は戻ってこないの、それとね――あなた

が死んじゃったらsadakoもグラサンもこの世から消え去ってしまうのよ。

だからsadakoとグラサンにとって、あなたは凄く大切な人なの。だから命

をかけてあなたを守ったのよ」


 マコは俺の頭を撫でた。


「私だって悲しいよ? でも、だからと言ってここでしゃがみこんでても、

前に進め無いでしょ?」


 最低だな俺……こんな小さな女の子に励ましてもらってるなんて……

 もう一つ頭を撫でる手が増えた。小さくて温かい……女の子特有の柔ら

かな手。


奴隷(メロン)さん……今回は私も評価します。よく頑張りましたよ……」


 ありがとう、三人とも――


「ひぅ!」


 思わず俺は変な声をあげてしまった。何故ってその……身体を拭いてく

れててたミオのお手手がその……


「何変な声だしてんの?」

「どうやら性的快感を(ともな)った時に出るお声のようですね」


 ジト目をしたマコとムーンに見下ろされた。視線の先には俺のズボンが

あってだな……

 そこにミオが手を突っ込んでいるところをマコとムーンに見られたらし

い。――いえ!? 別に狙ったんじゃ無いぜ? 偶然、偶然ミオの(やわ)らか

くて温かいお手手が――


「あふぅ……♡」


 汗を拭いてくれてるのは解る。でも(にぎ)るな。やめろ! 俺はまだ人とし

て終わりたく無い! ああ、俺の根性保ってくれぇ……ぇぇ。



 マコとムーンは一点を凝視(ぎょうし)したまま後ずさりした。待ってくれ、気持ち

は分かるがその汚い物を見るような目つきはやめてくれ! 精神に来る!


「うっわぁ……」

「どうしようも無いほどのド変態ですね」

「違うんだぁぁぁぁ!」


 俺の悲痛の叫び声が森中にこだました。

 野生のマコとムーンはゴミを見るような目をして逃げ出した。

 ミオは優しく汗を拭き続けてくれた。

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