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第五話:ミオを襲う触手

「なんだったのかしら、さっきの猿」

「きっと欲求不満だったのよ」

「バナナ握りしめてたしね」


 マコとムーンが口々にさっきの猿の悪口を言っていた。――だが不死身

と言っていた。もしそれが本当ならまた俺らを追ってくるんじゃ無いか…

…?

 マコが俺の方を振り返り、俺の心配を見透かしたように、


「心配無いわ……さっきsadakoをもっと増やして、永遠に運び続けてもら

ってるから。多分そうなる前に魔王を倒せるわよ」


 安心と同情が心の中に同時に芽生えた。――あの猿は永遠にsadakoに連

れまわされるのか。

 俺の制服の(すそ)を誰かに引っ張られ見ると、ミオが顔を赤らめ、


「あの……ちょっとお花をつみに行ってきて良いですか?」


 花? だったらその辺のsadakoにでも……

 言ったところでムーンに叩かれた。


本当奴隷(ほんとうメロン)さんはダメですね。女の子が羞恥心を必死に(こら)えて聞いたとい

うのに……ミオ! 早く行ってきなさい」


 ミオはせかせかと森の奥へ走っていった。――危ないぞ、あんまり奥へ

行っちゃあ――

 今度は脚を()られた。何なんださっきから俺に突っかかって!

 グラサンの一人が肩をすくめ「やれやれ」といったポーズをして、


「前世の世界でモテないわけだよ、まったく……」


 何だか無性にハラがたった。そのポーズやめろってんだよ。


「きゃぁぁぁ!」


 ミオの叫び声。クソッ……敵か?


「メロン! ついてきて!」


 俺はマコと数人のグラサン、sadakoと声のした方へと向かい――


「うわっ……!」


 目に飛び込んできた物は、俺には刺激が強すぎた。――危ない意味では

無く、生理的に受け付けたくないっていう意味でだ。



 ミオはヌルヌルした触手(しょくしゅ)のような物に締め付けられていた。かなり強い

力なのか、ミオはもうすでに意識を失っていた。


「ファッキューン……」


 グラサンが一斉に拳銃を構えたが、マコが大声でそれを制した。


「駄目! 撃たないで、ミオが死んじゃう!」


 それはそうだが、じゃあどうやってあの気持ち悪い触手みたいのを倒す

んだ?


「はぁ? 触手って何よ。どう見てもあれはヘビの身体(からだ)でしょ?」


 この世界では触手とは言わないのか――でも俺は触手と呼ばせてもらお

う。


「よし! じゃあ俺の創聖剣ウォーター……」


 重いっ! 何だこれ、全然持ち上がんねぇ!

 マコは(あき)れ顔で、


「あんたバカ? ミオが気絶してるのにどうやってあんたの能力使うのよ。

あんたが能力を使えるのはキスの契約で私たちと――」


 マコが口ごもった。何だよ?


「つっ……(つな)がってるから使えるの! せっ、性的な意味じゃ無くてよ!」


 なるほど、マコ達がシャンプーだとしたら俺は入れ物か。

 中身が無きゃ使えんが、中身は中身で外身(そとみ)が無いと満足な使い方が出来

ない。


「じゃあミオはこの剣を使えるのか?」


 マコは首を横に振り、


「持ち上げるならなんとか……でもメロンみたいに振りかざしたりは出来

ないわ」


 この触手生きてるのか……? さっきからミオの顔が白くなていくよう

に見えるが……


「どうしよう……どうしよう! メロン!」


 そんなこと言ったって――と言おうと思ったが、マコは心配のあまり涙

を流し、口がカクカクと震えていた。――そうだよな、普段強がってるけ

ど……中身は普通の女の子なんだ。姉妹が殺されかけているのを見て平気

な人がいたら、そいつは冷えきった心の持ち主か感情を表に出せない人間

くらいだ。――他にも理由はあるかもしれんが、今はそんな事言っている

場合じゃ無い。

 俺が勇者としての誇りを見せる時なのかもしれないな。



 俺は創聖剣ウォーター・メロンを起こすと、sadakoとグラサンにこっち

に来るようにと(うなが)した。


「マコ。創聖剣は力があれば使えるんだよな?」


 マコは泣き声で、


「どっちみち無理よ。ミオがいないと水と酸素にする能力は使えないから」


 違う! 俺が聞いてるのは――

 マコはハッとした表情で、


「分かったわ! メロン、あなたの能力を使って!」

究極(アルティメット)不完全製造能力(・ザンネンスキル)!」


 数百人のsadakoと数千人のグラサンが現れ、まるで綱引きでもするよう

に並び、お互いの背中を押しあった。


「行くぞ!」


 俺の合図とともに一斉にsadakoとグラサンが創聖剣ウォーター・メロン

を押し出し――凄い勢いで地面を(すべ)っていった。


「ギャウゥゥ!」


 触手は生きていたらしい。――地面を滑った創聖剣ウォーター・メロン

は触手の根元をバッサリと切り裂いた。

 そのまま滑ってどこかへ行ってしまいそうだったので、sadako数百人に

止めてくるよう頼んだ。

 この世界に摩擦(まさつ)という概念(がいねん)があるか分からんが、多分止められるだろう。




「よくも……よくもやったなぁぁ……! GGWWEE(グゥゥェェ)


 樹液のような緑色の液体を噴射しながら、触手の主がこっちに向かって

来た。――マコの言う通りやっぱヘビだった。……尻尾が七つに分かれて

るけど――

 言葉をしゃべるヘビか、携帯持ってたら写メ撮ったのに。


(いて)ぇよぉ……痛ぇょぉ……」


 ヘビは尻尾の切れた部分を舐めながら泣き始めた。――ぐっ……一気に

罪悪感がこみ上げてくる。


「メロン! 惑わされないで」


 マコの言葉は俺の精神を(いや)してくれた。――よし、戦闘開始だ。

 ミオはそのまま地面に向かって落下したが、落ちる直前でsadakoの一人

が受け止めた。ミオの意識が戻ったら、俺は創聖剣ウォーター・メロンで

お前をぶった斬る。


「武器も持ってない所詮人間なんかに俺様が負けるはず……」


 ヘビはもう一度、怪我をしたところを長い舌で舐め、


()ぇだろうがぁ!」


 怪我をした一本の尻尾を除く、六本の長くヌメりとした尻尾(しょくしゅ)が同時に俺

の方へと向かってきた。


「メロン! とりあえず創聖剣ウォーター・メロンでガードを……」


 マコは手ぶらで立ち尽くす俺を見て、可愛らしいお目目をまん丸にした。


「何で肝心な時に持って無いのよ!」


 創聖剣ウォーター・メロンは今sadakoが必死に追いかけている。――待

てよ? 今俺って最大のピンチなんじゃ……


「オラオラオラオラァァ!」


 グラサンが一斉に拳銃の引き金を引いた。拳銃から放たれた無数の弾丸

は、ヘビの六本の尻尾をとらえ……一瞬にして尻尾が蜂の巣状態になった。


「無駄! 無駄ァ!」


 尻尾に空いた穴という穴から、緑色の液体を噴射させながらも――血走

った目を俺に向けながら、無傷(むきず)の尻尾を一本俺に向かって突き立てた。


「ああっ! 五本の尻尾で一本だけ尻尾を守っていたのか」


 もう駄目だ。(とが)った尻尾の先っぽが俺の腹を指している。アドレナリン

とかが大量に分泌(ぶんぴつ)されてるのか、身体は全く動かないが向かってくる尻尾

がゆっくりに見えてきた。


「ウオラァ!」


 突如(とつじょ)左腹にともなう激痛と反動。小学校低学年の時、高学年のお兄さん

が投げたボールが当たった時のような――軽く脳震盪(のうしんとう)を起こしそうな程の

衝撃と振動。


「ぐはぁぁ……!」


 尻尾の攻撃を受けたのは――グラサンの一人だった。俺はこのグラサン

にタックルされ、命拾いをしたらしい。


「オラオラオラオ、オラオラァァァ!」


 他のグラサンが尻尾の先っぽを撃ち抜いた。一瞬で穴だらけになった尻

尾はまたしても液体を噴射し――ヘビはそのまま倒れた。


「ちくしょう……こんなに強い勇者は初めてだぜ……」


 ヘビは穴だらけになった尻尾を(から)め、無傷な一本の太い尻尾を作った。

 どうやら身体は粘土(ねんど)のような素材らしい。じゃあれは血液じゃ無くて溜

まってた水分か。


「俺はお前の強さに敬意を評す! 魔王城ならあっちだぜ、俺はもうお前

らを襲わねぇ!」


 そう言うとヘビはクールに去っていった。


「どうやら俺じゃ、役不足だったらしいぜ――魔王様」

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