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第四話:第三の刺客

 ルームランナーの忠告通り俺たちパーティはやる気を無くしていた。俺

はもう意味もなく足をブラブラさせ、マコは大の字になって寝っころがり

ミオは頭を抱えて石の上に座り――ムーンは口を半開きにして上を向き、

グラサンとsadakoはキチッと整列しその様子を淡々と眺めていた。


「墓場からの道のりは全部パーか……」


 このテンションで旅を続けるのは難しいだろう。面倒くせぇ――さっさ

とムーンの能力を受け取ってマコに大量のsadakoとグラサンを生み出して

もらって――こいつら三人は家に帰しちまおうかなぁ……


「お兄さん……ごめんなさい。私があの時崖に落なければ……」


 ミオは目を(うる)ませた。別に君一人のせいじゃ無いから――そんな抱え込

ま無いで……


「このお()びは……身体(からだ)で――」

「よし、行こうか」


 冗談じゃ無い。こんな大勢に見られながらそんなエッチな事できるか!

いや……見られて無くてもしないぞ?



 結局俺ら四人とsadakoとグラサンはダラダラと歩き出した。今来た道を

引き返す事にどれだけの精神的疲労があるかは言うまでも無いだろう。


奴隷(メロン)~……つまんないから歌でも歌いなさいよ……」


 そんな無茶な……だが俺だって奴隷という名の勇者だ。前世で好きだっ

たアニソンを歌ってやろうじゃ無いか!


「~♪」

「やっぱあんたやめて良いわ」


 イントロ時点でムーンに止められた。――そんなに俺音痴か? カラオ

ケとか行った事無いから解んねーよぉ……


「グラサンさん。あなた歌える?」


 グラサンの一人が深く息を吸い込み――


「……………」


 超テノールボイスで味のある歌を歌いだした。ムーンもノリノリで聞い

ている。この世界の有名曲なのか。

 歌が終わった瞬間、俺以外の全員が盛大な拍手をした。……sadakoが数

十人いるからちょっとうるさいけど……


「うるせーぞ貴様ら!」


 ウキィーっなどと叫びながらツタに引っかかってソイツはやってきた。

この世界ってどうしてこんなに変人が多いんだろう……


「貴様ら! よくも俺様のグッスリタイムを邪魔してくれたなー許さんっ」


 見た目だけ言うと猿――オランウータンを人間っぽくした感じのやつだ

った。右手にツタを持ち、左手にはバナナのような物を持っている。

 ――別に卑猥(ひわい)な意味では無く。


「お前らっ! 新しい勇者だな」


 この世界で勇者が何百人死んだか知らんが、俺には最強の力があるのだ。


「さあムーン。俺とキスをしようでは無いか」


 ムーンは黙ったまま鏡を取り出し俺に見せた。――そういえば俺、顔変

わったん――


「なんじゃこりゃぁぁぁ!」


 さっきの猿はウギィィなどと言いながら耳を(ふさ)いでいた。待て、マジに

これが俺か?


「……かっこいい……♡」


 ヤバイよヤバイよ、マジで格好良い。こんな美少年と知り合いになれた

ら――性別の壁を超えた愛を毎日でも伝えるだろう。いやホントマジで。

 しかしムーンはジト目――って言うのか? 悪い意味で目を細め、


「何うっとりしてるんですか。私とキスするとか身の程わきまえろって言

ってるんです」


 え? いや、格好良いっしょ俺。

 俺が舞い上がっているところに、グラサンがトントンと肩を叩いた。


「あなたが生前どんな顔をしていたか知りませんが、この程度の顔をした

人なら多分世界中にゴロゴロいます」


 ご忠告ありがとう――めっちゃ()えた。



「貴様らっ! いい加減こっち見ろよ」


 とうとう猿がキレて俺らに牙をむいた。こいつは人間か? それとも猿

か?

 マコが腰に手を当て、


「こら猿! 何邪魔してんのよ、私たちは魔王をぶった斬りに行く途中な

のよ。邪魔する暇があったらそのツタ貸しなさい」


 歯に衣着せぬ言い方に、俺はスカッとした。そうだよ、元の世界でも猿

は鬼退治の時の味方だ。正義の味方じゃないか。


「貴様らを倒してこいとその魔王様から直々に命令があったんだよ! ボ

ケがっ」


 口の悪い猿だなー……ってかマジに猿なのか?

 ――口の利き方がギアッ○ョみたいなんだが。

 猿は牙をむきながら、


「あとさっきから猿猿うるせーが! 俺は猿じゃねえ、魔王様の側近で魔

王様の身の回りの世話をしている――」


 マコは間髪いれず、

「パシリね」


「パシリじゃ無ぇ! 人の話聞いてんのかボケっ」


 さっきからボケボケうるせーな。よし、ここは俺の創聖剣ウォーター・

メロンで――


「シャラァーップ!」


 グラサンが一斉に拳銃を取り出してそいつを()った。――ってかこいつ

ら拳銃なんて持ってんかよ。



 俺はこの世界に動物愛護団体が存在しないことを祈り、俺は地面に倒れ

た猿に両手を合わせ合掌(がっしょう)したが――


「いや、死んでねーし」


 身体中穴だらけのまま猿が起き上がった。何だこいつ……

 猿は高らかに大笑いし、


「不死身! 不老不死! この俺様の能力だ。身体中に穴が開こうとバラ

バラに粉砕(ふんさい)されようと、俺は絶対死なん!」


 なるほど、確かに強いな……

 猿は大笑いしながら、


「この俺と出会って死んでいった勇者はおよそ数千人にも及ぶ! 俺は無

敵なのだっ!」


 あれ? 数千人……? マコのお姉さんが言うにはまだ勇者自体数百人

で、鬼とかラオーンに倒された勇者も大量にいるはずなのに。



 ――もしかしてこいつバカなんじゃ無いか?

 俺はフッと策を思いつき、それを実行することにした。

 俺はマコに耳打ちし、マコは一人のsadakoに何かを指令していた。

 猿はその光景が気に食わなかったらしく、

「てめっ! 何俺の目の前で内緒話してんだ。バカッ!」


 その瞬間、綺麗に(そろ)った足音が大量に聞こえてきた。どうやらうまくい

ったらしい。


「なんだ? なんだこの音」


 猿がうろたえて辺りを見渡している間に――


「サバラァァァァ!」


 森中に放していた数千人のsadakoが一斉に猿に突進し、胴上げでもする

ように持ち上げ「ワッショイワッショイ」とでも聞こえてきそうなノリで、

sadakoに連れられ猿はどこか森の奥へと姿を消した。

 これで大丈夫、もう当分戻って来ないだろう。

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