第四十話:終幕
「ぐぁぅ!」
気味の悪い雄叫びえおあげながら向かってくる魔王。
全身から黒くて長いものを伸ばし、ルリと入れの身体に触れようとする。
魔王に触れられた瞬間モモナや元勇者のように電化製品にされてしまうので、まず回避を徹底しなければならない。
「えいっ! ていぃ!」
機動力のあるルリは月詠ノ刀で、伸びてきた魔王の身体を切り裂く。
俺は創聖剣を振り下ろすものの、今までの敵とは違って重々しい攻撃は華麗に避けられてしまう。
俺の会心の攻撃は全て空を切るか床に大穴を開ける程度である。
「緑×紫!」
先ほどと同じく花びらが舞いその一つ一つからツタ植物が伸びる。
無数のツタ植物にもう一度絡められた魔王は今一度身体をぐらつかせる。
「メロンさん!」
「ああ!」
飛びかかる俺。
この忌々しく悍ましい魔王を――この創聖剣で無に返してやる!
「終わりだぁぁ!」
「終わらん!」
縛り付けられた魔王の身体の一部が粘土のように伸びた。
全身ツタだらけの魔王は、全身の力を振り絞って身体の一部をガムのように伸ばしたのだ。
まるでオタマジャクシの尻尾のようになった黒い肉体は、的確に俺の身体に向かって襲いかかってくる。
――ヤバい。
これだけだった。
まさかの逆転劇にありふれた貧相な言葉しか出ない。
触れられた瞬間電化製品にされて一生コキ使われるか、このまま内蔵を貫かれてお陀仏か。
どちらにしても俺はもう敗北する。
飛びかかって創聖剣を振りかざしているという相手からの反撃に無防備な状態を晒してしまったのは俺だ。
俺が悪かった。
最後だからと格好つけようと激しいパフォーマンスを魅せようとしたのが悪かったのだ。
前世での最期もバキュームカーに轢かれるという最低な死に方をしたが、
やり直した世界でも調子に乗ったせいで死ぬことになるのか……
――前世では自転車に乗って死亡。今世では調子に乗って死亡。
こんなマヌケな最期ばかりとか、俺はなんて情けない人生を送ったんだ……
◇
「にゃぁ!」
「あっ! メロちゃん、危ないよそっちは!」
ミオの胸から飛び出したネコ耳娘メロは全力で勇者メロンに向かって駆け出した。
本物のネコのように素早くしなやかな動きでルリの脇を駆け抜け――
「にゃぁ!」
魔王から伸びた黒い身体に触れられ――ネコ耳娘メロはトースターの姿にな
って部屋の床に転がり落ちた。
◇
「守って……くれたのか……?」
俺を狙って発せられた魔王の身体の一部は、メロの身体を張った犠牲により免れることができた。
そして俺の振りかざした創聖剣の刃が忌々しく邪悪な魔王の頭上へと降下する。
――前にモモナが言っていた。
魔王の電化製品にする能力は呪いのようなものだと。
それに魔王の右腕であるフガシの能力も、創聖剣で切り裂いた瞬間消えた。
「UUUUUUUURRRRRRRYYYYYYYY!」
吸血鬼の断末魔のような叫び声とともに魔王の身体内部が露出する。
高熱で煮込んだトマトソースのようにグチョグチョした真っ赤な物が流れ落ち、創聖剣ウォーター・メロンの能力が発動する。
「聖的敏感剣俺最強!」
「よくも……このカスみたいな勇者にこの俺があぁぁ……」
「サシュン……」
生命が一つこの世界から消えた音。
この世界に悪影響を及ぼし続けたわけでも無いのに、何故か妹が増えないようにという理由だけで抹殺対象となった魔王は、
水と酸素という新たなる生命の成長の糧として生まれ変わったのだ。
魔王を倒した今になって思うと、何で俺は魔王を倒そうと必死になってたのかイマイチ理解できない。
転生して三姉妹のお姉さんに頼まれて――
ただそれだけでこんな連続した死闘を真剣に繰り広げたとか、
もしこれで「魔王討伐ありがと。もう用は無いから」とか言って殺されたら恨むからな。
もしそうなったら俺は死んでからもお姉さんを呪い続け、
全身全霊を賭けて魔王を生き返らせてやる。
……落ち着いていた。
人間味はあったものの、姿が人間っぽく無かったからか魔王を切断することに抵抗が無かった。
あんな冗談を考える余裕があるほど俺は今精神が安定している。
魔王が死んだからだろう。
究極完全製造能力で生み出されたホスト顔のイケメンも可愛らしい美少女の大群も姿を消した。
数十人――百人以上のsadakoとグラサンはかろうじて生き残っている。
残りは全員やられてしまったらしい。
悔しい……悔しい、だがこれでいい。
俺がこの世界で行うと決めたことを達成できたのだ。
今までの人生でこんな達成感を感じるのは初めてかもしれない。
――スカッとしたことならあった。
部活の先輩同士が部室で「検閲により削除」をしているところを教師に見られて退学させられていたこと。
当時も非モテの俺としては何で学校でそんなことをするのかと疑問にも思ったことだったが……
「メロンさ――メロン君」
涙を流しながらルリがギュッと俺を抱きしめる。
優しく腕を回され、顔をあげたルリはちょっぴり背伸びをして――
「……………」
ルリの柔らかく甘い香りのする唇が優しく触れた。
同年代の女の子とキスするのは、前にモモナと実験的にやったのを除くと初めて――と言うかちょっと待て。
「メロン君……大好き」
うひょおおぉぉぁぁぁああ!?
大好き? 大好きってあれ? 男性は女性の何気ない行動に――とかの非モ
テ勘違いの痛い路線まっしぐらとは違って、本当に俺のことを?
待て待て……これは夢かもしれない。
前世で俺は女の子からあれだけ避けられたんだ。
多分ルリは魔王を倒した脱力感と緊張感で――
と、ここまで考えたところで、
俺は死後の世界の番人の言葉を思い出した。
『お顔がちょっと変わってしまいましたが』
まさか……
俺が前世で避けられていたのは、俺の行動に何か問題があったからとかじゃ無くて――
マジで顔が悪かっただけなのか?
「きゃぁ! メロン君、ちょっと!」
あまりのショックに気絶した。
心配そうに叫ぶルリの柔らかい腕の中で、
俺は世界一最高な環境――女の子の腕の中でゆっくりと意識を失った。
「う~ん……」
目を覚ますと心配そうに俺の顔を覗き込むルリと目が合った。
俺が目を開けるとホッとしたように溜息をつき、優しく頭を撫でてくれる。
「起きましたか? 王子様」
「おうじ――」
多分俺は今盛大に赤面していることだろう。
茶髪のポニテがさわさわと揺れ、ルリの顔が近づく。
そしてもう一度ほっぺたに柔らかい感触が――
「フハハハハハハ! やった、戻ったぞ!」
触れると思った瞬間、何事かと思うほどの大声が響き、ルリの顔がパッと離れる。
――残念。
「はわわ……! 誰ですか、知らない人が目の前にいますぅぅぅ!」
モモナの焦ったような声。
どうやら魔王の呪いは解けたらしい、良かった。
「にゃぁ」
メロは相変わらずだった。
俺は「やれやれ」と後頭部をさすりながらモモナの方へと身体を起こす。
「まったくモモナ……知らない人がいるはずが……」
ここまで言ったところで、俺は眼前に広がる状況に絶句する。
お前誰だ。
銀髪灼眼の超絶イケメンが高らかに大笑いをしている。
整った目鼻立ちに加えて嫌みを感じさせない微笑を浮かべ、
優しい目つきでニッコリとモモナを見つめる。
「モモナちゃん……」
「もしかして……ルームランナーさんですか!?」
モモナはキラキラしたお目目で元勇者ことアリーヴェデルをうっとりと見つめ返す。
はたから見ても分かるが、モモナは今恋をしている。
しかしまた絵に描いたようなイケメンだ。
生まれながらの王子様ってのはマジだったのかよ。
「モモナちゃん……」
「ルームランナーさん……」
どうでも良かったが、俺が気を失っている間にバラバラの粉々になっていた元勇者をモモナの「魔術的な何か」で修復していたらしい。
電化製品になれば不死身なのだとしたら、
もういっそこのまま元勇者のままで良かったんじゃないかな。
そんな事を考えながら、最上級の愛で抱きしめ合う二人を眺めていると、後ろから誰かにシャツを引っ張られた。
「ル……ルリ?」
「私とも続きしようよ……」
どうやら今までの緊張感と不安感がとれたためか、ルリは非常に積極的になっている。
うっとりとした表情を浮かべ「にへり」と笑う女勇者ルリ。
誘うような目つきで俺の身体に覆いかぶさり、ゆっくりと甘い吐息をかけてくる。
――マジでヤバい。
初めて恋されてこんな積極的に攻め込まれちゃうなんて……!
「メロン君……♡」
とびきり甘い声が俺の耳にとろけるような吐息を放つ。
ダメだ。もう我慢できない。
「ル……ルリ――」
ルリの優しい愛に応えようとしたところである。
「フラグクラーッシュ!」
小さくて白い“何か”が俺の視界に入り――
果てしない衝撃を加えながら俺に顔面ダイブしてきやがった。
「バカぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
マコだった。
真っ白なワンピースを着たマコがボウリングの球のようにグルグルと回転しながら飛んできたのだ。
薄れる意識の中部屋の外の方を眺めると、ミオとムーンが肩をすくめて見せた。
「何デレデレしちゃってんのよ! 私だって……私だってぇ――」
ここまでだ。
ここまで聞こえたところで俺は突然の顔面への衝撃により、もう一度意識を飛ばした。
――残念ながらマコの思いは勇者メロンの心には届きませんでした。




