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第三十九話:最終ラウンドだ!

「メロン!」


 男の声。

 誰の声とは認識できなかった。

 目の前に迫ってきた黒い球体に俺は目を奪われていた。

 ルリの柔らかい感触を楽しむヒマも無く、ただただ目の前に降下してくる魔王の姿を眺めているしか無かったのだ。


「ヌゥ……アリーヴェデル!」

「ぐっはぁ……!」


 眼前に飛び込んできたのは元勇者ことルームランナーの姿だった。

 魔王と元勇者の身体を張った激突。

 ――絵面的には黒い球体と電化製品が正面衝突してるようなものなんだけど。

 元勇者の身体はバラバラに砕け散り、ネジや電池などの破片が部屋中にバラ()かれた。

 ――凄く残虐(ざんぎゃく)なシーンにも見えるが、元勇者の姿はルームランナーなので、

 この場に広がっているのは電化製品を床に落とした時のような衝撃と光景である。


「んぇ! 元勇者さん」


 ルリはようやく事の重大さに気がついたらしく、月詠(つくよみ)の刀を振りかざして頭上に(たたず)む魔王に向かって――


「紫×緑!」


 部屋中に散らばる妖艶(ようえん)な花びら。

 そしてその数百枚の花びら一つ一つから伸びるツタ植物。

 緑○様の能力によって伸びた無数のツタ植物は、いともたやすく魔王をグルグルよ縛り付ける。


「んぬ……」


 流石の魔王でもこれだけの数のツタ植物を引きちぎるだけの力は無いらしく、全身真っ黒な球体は全身を紫色と緑色に塗り固められ、

 視覚を無くしたのかフラフラと揺れながら部屋の壁へと強烈に激突した。


「よくも……よくもこの俺にぃぃぃ!」


 (おぞ)ましい数の眼球がパックリと開く。

 どうやらこの忌々しい魔王殿は目をほとんどつぶって戦っていたらしい。

 ――まあ仕方ないだろう。

 トンボだって見えすぎて目を回すんだ。

 多すぎる物は大抵邪魔な物なんだ。


「きゃぅ!」


 モモナの可愛らしい声とともに、モモナの姿が俺の視界から消え去った。

 そして――さっきまでモモナがいた場所には――


「炊飯器……」


 どこの家にでもあるような小さくて真っ白な炊飯器。

 モモナの姿はどこにも無く、元勇者と同じように電化製品にされてしまったらしい。


「ほえー……勇者様ぁ……」


 パカパカとフタを開けたり閉めたりしながら、炊飯器モモナは能天気な声を出している。

 表情は分からないが、

 何となく「うへへ~……」とか言いながら幸せそうにこたつに入っているようなイメージ。

 もしかすると温かいのかな?




「状況はかなり深刻な状態らしいですよ」


 頬をピンクに染めた女勇者さんは流れる涙を手で拭いながら、自身の剣である月詠ノ刀を(かか)げる。

 その表情には彼女自身のせいで元勇者を破壊してしまったという罪悪感と、モモナが炊飯器になるのを止めることが出来なかったという後悔の念。

 そして――


「メロンさん……行きますよ」


 自分の大切な仲間を救うと心に決めた。

 鋭く頼もしい表情だった。

 ――状況は簡単だ。

 魔王に触れられると俺は電化製品になってしまう。

 俺が魔王に触れると身体のサイズを変化させられるが、魔王には全く意味が無い。

 今までと同じ。

 俺の武器でありもう分身のような存在である、この創聖剣ウォーター・メロンで憎悪(ぞうお)と邪悪が潜むその球体をカッさばいてやればいいだけだ。



 肩を並べて魔王に身体を向ける二人の勇者。

 元非リアと方向音痴なのだが、今この場面でその肩書きが意味するものは何も無い。

 眼前の邪悪なる敵を殲滅(せんめつ)することだけを心に留めた二人は、今までに魔王に会う前に死んだ勇者たち、そしてマコたちの腹違いの姉たちの恨みや悲しみを代弁するように。

 ここで会ったが百年目とでも言うようなオーラを放ちながら、禍々しい雰囲気を(かも)し出す絶倫(ぜつりん)魔王と対峙(たいじ)していた。


「メロンさん……私たち、魔王を倒せますか?」


 心配そうな表情を浮かべるルリに、俺は黙ってしまう。

 経験豊富なリア充さんならここで気の利いた言葉を投げかけることができるのかもしれない。

 だがあいにく俺は無経験だ。

 前世で女の子と話したことは学校内での連絡事項程度。

 こっちの世界でモモナやルリと普通に話せるのが嘘のようである。

 マコミオムーン(幼女だけど)との遠慮のない会話で慣れたのか、元勇者が話しやすい空気を作ってくれてたのかは分からないが。

 だから……俺はここでルリにかけてあげるための言葉が出てこなかった。


「メロンさん……」

「過程や方法などどうでもいい……最終的に勝てばよかろうなのだ」


 宇宙空間に投げ出された柱さんと吸血鬼の名言だが、

 下手に寒い言葉をかけるよりはマシだろう。

 ルリはちょっぴり怪訝(けげん)そうな顔をしているが、こうして俺を頼りにしてくれてるだけで俺はもういっぱいいっぱいだ。

 もっと経験積んで……気の利いた一言くらいパッと出るようになったら、次こそは言ってやるさ。

 しかし経験を積むには経験が必要で――ああ、分かんなくなってきた。


「とりあえず……勝てばいいんだ」

「メロンさん……♡」


 さっきより温かい声。

 ハートマークでもついたようにホッとする甘い声が耳に響く。

 ああ……前世でちょっと憧れたんだよな。

 こうやって女の子と二人で最強の敵を倒すっていう夢――


「オラオラオラァ!」

「サバァ!」

「にゃぁ」

「メロン! ちゃっちゃと倒しちゃいなさいよ!」

「お兄さん、頑張ってくださいっ!」

奴隷(メロン)……魔王倒したらまたキスしてあげるわ」


 ああ。

「二人」では無かったな。

 sadakoとグラサンもギリギリ善戦しているらしい。

 マコの増やす速度では俺らを援護(えんご)するまでは手が回らないようだが、

 魔王の能力で生み出される生物兵器と対等にやり合っている。

 不完全でも完全を上回ることがあるかもしれないな……

 俺はルリに合図をしてから、創聖剣ウォーター・メロンを掲げて全速力で魔王に向かって突進する。

 ――最終決戦(さいしゅうラウンド)だ……!

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