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第三話:魔王の姿

 ルームランナーが言うには、数年前にこの世界へやってきて――魔王と

闘った事があると言う。


「魔王には会わない方がいいぞ」


 ルームランナーは震えながら忠告した。


「あいつの能力で俺はこうなっちまったんだ」


 魔王の能力は何なんだ?

 ルームランナーは首を振り(この表現も何だか滑稽だなぁ)


「知らない。だが魔王の姿は見たことあるぞ」


 そいつぁ助かる! で、どんなだった?

 ルームランナーはしきりに思い出すようにして、


「まず男○器が大量に生えていた」


 俺は吹き出すのを必死にこらえた。こいつは今真面目な話をしてるんだ。

敬意を持って聞かんと――ってお前ら何笑ってんだぁ……!

 マコはゲラゲラ、ミオは両手で顔を(おお)い、ムーンは顔を赤らめニヨニヨ

していた。グラサンは(うつむ)いたまま身体を震わせているし、sadakoだけだ。

真面目に聞いてんの……


「眼球が二百三十八個あった」


 俺はその光景を想像しゾッとした。さっきまで聞こえていた笑い声も()

み、シンと静まり返った。


「それから口が八十八個あった」


 何故こいつがそんなに詳しく覚えているのかは聞かないでおこう。


「黒い球体のような姿をしていて……伸縮自在なんだ」


 気持ち悪ぃなぁ!


「だが真実だ」


 ルームランナーは起き上がり、


「俺は見たものを記憶する能力を(さず)かっていた。だから覚えている――ま

あ、できればこの記憶だけは忘れたかったがな」


 ルームランナーはそのままゴロゴロ転がって(俺は笑わないように太も

もをつまんだ)墓場の奥へと消えた。



「魔王ってそんなに気色悪い姿をしてるのか……」


 マコはさっきから五文字の放送禁止用語を連呼しては、ミオは首を振り

ながら顔を手で覆っていた。

 ムーンは平然とした表情で、


「でもこれで姉妹(きょうだい)がたくさんいる理由が解りました」


 ムーンはムーンでもう少し女の子のテンプレみたいな反応しようよ……


「マコったらもう止めてよ!」


 ミオが顔を真っ赤にしてマコをポカポカ叩き出した。……マコは叩かれ

ながらも叫び続けている。

 その光景を見てグラサンは微笑(ほほえ)ましそうな表情をしているし、sadakoに

(いた)っては何を考えているのかさえ分からない。


「とりあえず、先を急ぎましょう……まだ敵がいないと確信したわけでは

――」

「いつからここに敵がいないと錯覚(さっかく)した?」


 ムーンの言葉を(さえぎ)るように、何者かの声がした。男っぽい声を出そうと

しているお姉さんのような声――どこだ? どこにいる!


「出てこい!」


 俺が叫ぶと同時に墓場の脇の茂みがガサガサと揺れた。


「そこかぁー!」


 俺は茂みに飛び込んだ瞬間。


「うわぁぁぁぁ!」


 びっくりして飛び出した。何? 何が起きたの俺の身に。


奴隷(メロン)! どうしたの!」


 茂みの中には――その。


「あら純情さん」


 布切れ一つ身に付けずに、しゃがみこむ女の人が茂みから立ち上がり姿

を現した。


「敵ね!」


 ムーンはすかさず身を守る体勢をとった。だがこれは酷い、純情な男子

高校生にいったいどうやって素っ裸の女性を倒せと言うのだ。――実際俺

だって恥ずかしくて見れないし……


奴隷(メロン)! 何恥ずかしがってるのよ! あんたが裸なわけじゃ無いでしょ!」


 分かってる、分かってるんだけど――ダメ……直視するとか軽く死ねる

レベルだわ。

 ムーンはキッと女性を(にら)みつけ、


「あんた名前解んないから裸女(ラオーン)って呼ばせてもらうから、覚悟しなさい!」


 あだ名のつけ方が小学生レベルだ……もっともムーンがいくつなのかは

知らんけど。


「ほら奴隷(メロン)! あんたの創聖剣うんたらかんたらでこんなの真っ二つにし

ちゃいなさいよ!」


 んな事言ったって……


「――って言うか、ムーンが俺にくれる能力って何なんだよ! 今がその

時じゃ無いのか?」


 ムーンはこっちを見ずに、


「いつか奴隷(メロン)と呼ばれる事に快感を覚えさせるのが私の能力よ!」

「うそつけ」


 何だよその能力。もっとマシな嘘つけや。


「メロン! 何してんのよ早く倒してよ!」


 マコからもやじが飛んできた。もうやるしか無いのか……


「サバァ!」


 辺りにいるsadakoの数がいつの間にか増えていた。――マコの気まぐれ

って……俺の意思関係無いのかよ!


「バカね! あんたがボッとしてるから私が頑張ったのよ、感謝しなさい!」


 不完全なんだろうか。グラサンは一人も増えていない――まあ今この状

況でグラサンは全くもって意味無いが。


「ちょっと……何よその髪の長いやつ」


 ラオーンがうろたえている。今のうちだ!


「やれっ! sadako――そいつをぶった斬れ」

「サバァア!」


 いつの間にか数千人にものぼっていたsadakoの群れは、一斉にラオーン

に飛びかかった。――まぁ結果は簡単。十秒もかからずあっけなくラオー

ンは粉々になった。――その後ラオーンがどうなったかは知らない、むし

ろ知りたくない。





 流石に数千人のsadakoを連れて歩くのは不可能なため、数十人のsadako

を除き――他のsadakoは辺りの町や森の中を探索させに行かせた。

 何かあったら戻って来るよう指令したため、もう当分sadakoは生み出さ

なくていいだろう。


「ねぇメロン」


 マコに身体をすり寄せられた。


「いつになったら着くの? 私もう疲れたんだけど」


 仕方無いだろ。普通ならもう魔王城に着いてもおかしく無いってのに、

崖から落ちたりルームランナーに邪魔されたり……


「だからルームランナーでは無いっ!」


 ゴロゴロ音をたて、ルームランナーが俺らの前に立ちはだかった。


「野郎! 今度はお前が相手か」


 ルームランナーは溜息(ためいき)をつき、


「違う、お前らにもう一つ忠告しておく事があるのだ」


 何だ? (あめ)ならやらんぞ。


「勇者が飴をもらうためだけにここまで来るかぁ! もっと大事な事だ、

聞いた瞬間多分お前らは力が抜け、闘う気力を無くすだろう……」


 いいから早く答えろ。さもないとこの創聖剣ウォーター・メロンでお前

を水と酸素にしてやるぞ。


「せっかちなヤローだなぁ……絶対お前前世でもモテなかっただろ? 違

うか?」


 グサリとくる事を言うな。そういうお前はどうなんだ。


「俺かぁ? 俺はもう生まれながらの王子様で――」


 ミオがそれを遮り、


「前世の話はどうでもいいですから、ここに来た理由を早く言ってくださ

いっ!」


 ルームランナーは自慢話をやめ、真剣な顔かどうかは分からんがとりあ

えず姿勢を正し、


「ゾッとする話だ。良く聞け」


 俺もマコもミオ、ムーンにグラサンとsadako、全員がルームランナーを

囲んだ。


「魔王城は逆だ。そっちはあんたら三姉妹のおうちの方向だ」


 俺たちは一斉に力が抜け、闘う気力を無くした。

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