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第三十三話:これは魔王ですか? いいえ、ドS女王様です。

「食虫植物……」

「ルリさんが飛び込んだ瞬間。大量の人食い植物に()まれたようです」


 モモナの説明に俺は納得し――っておいちょっと待て!


「人食い植物だって!?」

「はい……生物に噛み付いて体液を吸う、森などによく生息している悪い植物さんなのですっ!」


 ……じゃあさっき俺のことを襲ったのは、ただの威嚇(いかく)行動じゃ無くマジに俺を食い殺そうとしてたってわけか!?

 だとしたらメチャクチャ危険なやつじゃ無ぇか。


「ルリを助けないと!」

「おおっと。そうはいかないね」


 駆け出した俺の目の前に人面樹が立ちふさがる。

 今すぐに「どけ!」とでも言いたかったが、何故かそれを言葉にするのは敗北を感じるので心の中で思うだけに(とど)めた。

 自分の背を軽く超える人面樹に立ちはだかられ、しかもその向こうでは自分の仲間の女の子が無抵抗のまま食われ始めている。

 なのに助けることが出来ない。

 涙が出そうなくらい悔しい。

 ちっぽけな自分の力ではルリを救えない事が何よりも悔しく――悲しかった。

 ルリは自らの危険も(かえり)みず俺を抱きしめながら助けてくれた。

 次は俺がルリを助ける番じゃ無かったのかよ!



 植物の中には触れただけでかぶれたり、手が荒れたりする物もある。

 有名な物で言えばウルシとかだな。

 きのこの中には触っただけで命を(うば)われる物まであるらしい。

 ――だから正体不明な植物に触れるのは怖かった。

 だが怖いからと言ってここで引き下がるわけにはいかない。

 勇者だから。魔王を倒さなきゃならないからでも無い。

 ――ただ一人の仲間を助けるために!



 俺は人面樹の身体に触れ、出せる限りの大声で叫んだ。


悪霊退散海苔茶漬美味(ウマイゼ・コレコソイッキュウヒン)!」


 ――人面樹の背丈(せたけ)がみるみる縮んでいく。

「何をする貴様」だの「テメコノバーロー」だのと叫ばれていた罵声(ばせい)が徐々に小さくなり、最後は蚊の鳴くような小さな声で「ピーピー」言う声だけしか聞こえなくなった。

 俺はアリさんより小さくなった人面樹を踏み潰し、急いでルリの(そば)まで駆け寄った。


「大丈夫か! ルリ」

「ん~……」


 本体である人面樹が死んだからかルリに食いついていた人食い植物は茶色く()れ、床にバラバラと落ちていった。

 ルリは……太ももやズボンを少々噛み食われ、若干危うい格好へと姿を変えていた。


「大丈夫か!? 今モモナに治してもらうからな」

「わっ……わわわ!」


 俺はルリをヒョイと抱え、モモナの方へと向かう――が、ルリは俺のシャツ

の胸元を(つか)み、


「とっ……突然持ち上げるな。しかもお……お姫様抱っことか」


 ああ。そういえばこれお姫様抱っこって言うんだっけ?

 太ももとか怪我してるんだから、おんぶして(こす)れるよりはこっちの方が良いかと思ったんだが……


「すぐ下ろすから我慢してくれ」

「ん……別に下ろさなくても――」

「大丈夫ですか? ルリさん! 今すぐ治します――なのですっ」


 ルリの手当はモモナに任せ、俺は手が荒れたりかぶれていないかどうかじっくりと凝視(ぎょうし)する。


「手相なんて見ても未来が変わったりはしないぞ」


 元勇者が身体(からだ)()らしながら歩いて来た。

 ――何となくニヤニヤと笑っているような雰囲気があるが――元勇者(ルームランナー)に表情は無いのではっきりとした事は分からなかった。

 元勇者は俺のそばまで来て小声で(ささや)いた。


「ルリちゃんのあの反応を見ても自分に意識が向いて無いってマジに思うのか? もしそうならお前……鈍感を通り越して嫌なやつだぞ」


 嫌なやつって……もし百歩譲って、元勇者の言う通りだとしたら。鈍感だから仕方無いで済まされないような事か?


「それに俺は鈍感では無いと思うけどね」


 むしろ敏感な方だと思うがね。

 特に「俺嫌われているんじゃ無いか」とか後ろ向きな考えなんかは。

 元勇者は溜息(ためいき)をつき、


「お前ラブコメ系の漫画とか読んだことあるか?」

「無いな。俺は他人の恋愛事に興味は無い」


 俺は元勇者を見て、言葉を続けた。


「しかし何故そんな事を聞くんだ?」

「今のお前にそっくりな主人公がゴロゴロいるからだよ」


 何だろう。俺の知らない事で罵倒(ばとう)されている気がして少しばかりムッとした。

 ――ラブコメ漫画かぁ……読みたかったけど、買うのが恥ずかしかっただけ

なんだよな。

 前世であんな見た目をしていた俺が、恋愛に興味があるなんて事を知られる

のがな……





 魔王城二階は割と単純なつくりをしている。

 一回ほど迷路のようになっておらず、ホテルの廊下(ろうか)のような一本道を歩くだけ――しかも床には真っ赤な絨毯(じゅうたん)まで敷いてある。

 もしかして。もともとは誰か住人がいて、魔王が現れて奪い取ったのだとしたら……

 という考えが頭の中を駆け巡ったが、だからどうしたと言う自分ツッコミが入ったので余計な事は考えるのを(ひか)えることにする。


「魔王城は三階がてっぺんらしいな。次に階段を見つければもうすぐだろう」


 元勇者の発言に、パーティ全員からホッと胸を撫で下ろす声が聞こえる。

 もちろんその中に俺も入っている。

 魔王と戦う時期が刻一刻と迫ってきているのは何とも言えない気分だが、この戦いばっかりだった冒険を終わらせられるなら、それ以上に良い事は無い。

 ――と少々和やかになった空気の中。

 ルリが突然立ち止まった。




「何よあれ」


 ルリが指差す先には「開けちゃだめダゾ!」と書かれたドアがあった。

 開けちゃ駄目って言ってるんだから、開けちゃ駄目なんだろ。


「もしかしてこの中に魔王さんが……?」

「かもしれないわよ」


 モモナとルリは完璧に疑っているようだったが――普通そんな事しないだろ

う?

 俺だったらなるべく上の階の奥の部屋でひっそりと暮らすね。

 しかもこんな刺客を送り込んでくるような戦い嫌いな魔王なんだから、わざわざイチかバチかに賭けるようなマネはしないと思う。


「突撃してみるわよ」

「勇者様はここで他の方を守っていてください。なのです」


 ルリとモモナは扉に向かって突進した。



「魔王! 倒しに来たわよ」

「倒しに来た……なのですっ」


 扉が開き、俺も中の様子を確認することが出来た。

 しかし――これはまた……


「何だこの色々と危ない格好をした女は!」


 そう絶叫した元勇者はその後絶句して動かなくなった。

 ――何がいたかって……ムチを持ったお姉さん? この場合お姉さまって言

ったほうが良いのかな……?




「あら? そこに書いてある文字が読めなかったのかしら?」


 ツリ眼で舌をペロリと出してチラリと見るような目つきをするムチを持った女の人は――メイド服を着た悪魔っ()をムチで引っぱたいていた。


「はぅ! はぅぅ! もっとお願いしますぅぅ……」

「可愛い娘ね。もっと叩いてあげますよ」


 どうやらちょっぴり早すぎる世界らしい。

 俺は三姉妹を後ろに連れ出し、部屋の中を見られないようにする。

 ――流石にこんな小さな女の子にこのような情景を見せるわけにはいかない

からな。


「さてと。この娘のお仕置きが終わったら……あなたたち二人のお仕置きをしなくてはね」

「何でですかぁ……!? なのですっ」


 ムチを持った女性は突然黒い表情をして、


「入ってはいけない場所に入ったからよ! この女王様であるアテクシがお仕置きしてあげるって言っているのよ」


 俺は元勇者に小声で(とい)た。


「おい。何なんだあいつ」


 元勇者は首を振り、


「知らん! 俺が来た時はあんなやつに出会わなかった。――っていうか、今

回この屋敷に入って前に出会った敵とは一度も出会って無いぞ」


 そういえば当たり前だ。

 元勇者が以前に出会った敵がいるなら、そいつは(すで)に敗北してこの世にいないはずだもんな。


「ちょっと……! 何すんのよ!」

「ひゃぁぁぁ! 身動きがとれないのですぅ!」


 ルリとモモナの救済を求める叫び声。

 俺と元勇者は部屋の中へと飛び込んだ。


「うぉぅ……」

「わぁぁ!?」


 言うまでも無く最初のが元勇者で、次の情けない叫び声の方が俺の声。

 ――部屋の中では満足そうな表情で床を舐めているメイドさんと――長く伸

びたムチで縛り付けられたルリとモモナの姿があった。


「何なんだお前ぇ!?」


 我ながらよく情けない声しか出ないなぁ。と実感する。

 ルリの表情がさっきから――何となく男の子の心の内を刺激するような表情

になっている。

 顔は紅潮し「んっ……」だの「んはぁ……」とか吐息を()らしながら、ネコのような目で必死に何かを堪えている。

 そんなルリを(もてあそ)びながら自称女王様は、


「私の名前はキリノ。可愛い女の子をいじめるのが大好きなんだ~……もちろん男の子もっ!」

 キリノ女王の「バチコン」とでも擬音の聞こえてきそうなウィンク。

 嫌だ。何か気持ち悪い。


「助けて! メロンさぁん!」

「こうもギュウギュウに縛り付けられていると、魔術的な何かが使えないのですぅっ!」


 勝手に入ってこうなったってのに――とか言ってる場合じゃ無い!

 え? でもどうするんだ。

 創聖剣ウォーター・メロンで真っ二つにでもするか?

 だがあのムチはどこまで伸びるか解らんし――ここで俺まで捕まったらその

瞬間全部終わっちゃうじゃん。

 それは困る!

 俺はあまり気が進まなかったが、最後の手段として飛び道具を使うことにした。


究極(アルティメット)不完全製造能力(・ザンネンスキル)!」


 グラサンを二人生み出して拳銃を向けた。

 だがどうしよう。

 もしこの弾丸がモモナかルリに当たっちゃたら――


「ええい! もう一度!」


 俺はもう一度能力を使い、今度はsadakoを三人生み出し――


「sadako! キリノ女王から二人を救い出してくれ!」

「サバァ!」


 sadakoは一斉にキリノ女王に突進したが――ビヨンと伸びたムチに絡め取ら

れ、sadako三人もムチで羽交(はが)()めにされた。


「サバッ……やぁん! もうバカ!」


 前髪がどけられて俺は始めてsadakoの素顔を見たが――

 清楚な感じの可愛らしい女の子だった。

 おい! 俺は今まであんな美少女に戦わさせてたのかよ。

 ――冗談はさておきどうしよう……

 sadakoでもダメ……なら多少の危険は仕方が無いのか……?


「俺が行く」


 元勇者が一歩前に出た。


「俺は今弄びがいのある姿かたちをしていない。一番近づいても害が無いのは俺じゃ無いのか?」

「元勇者……」

「だから俺がやる――うぉぉ!?」


 伸びてきたムチに元勇者も絡め取られた。

 ダメじゃん!

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