第三十一話:メイド戦士
「うおぉぉらぁぁ!」
剣先を前に向けての強行突破。
駆け上った反動で二階の壁に激突しかけたが、何とか目の前で止まる。
「テキダナ」
さっき聞いた声と同じ声。
目の前にいたのは全身に包帯をグルグル巻にして黒いマントを羽織った男だった。
頭から髪の毛が少量飛び出し、片眼は完璧に潰れ――口までしっかりと包帯
で覆っている。
言葉がカタコトなのはこれが原因なのだろう。
ちなみに腕には忍者が使うような――メリケン? に鋭利な刃が四本刺さっ
た物を腕輪のようにして装着している。
さっき俺の目の前に突き立てられた刃はこれだな。
「たぁぁぁ!」
次にルリが月詠ノ刀の剣先を向けて突進してくる。
俺はヒラリと身をかわし、何とかルリに刺されずに済んだ。
――だがルリは勢い余って壁に激突した。
「ヤバっ……! 剣が壁に刺さって抜けない」
ルリが壁に刺さった剣を抜こうとしている様子を眺め、俺は「急がないと危険」だと言う事を伝えようとしたが――
「超速度突進!」
モモナが階段から飛び出し、ルリに体当たりをした。
「ふわわ! 剣がもっと深く刺さってしまいました!」
ルリとモモナがまるで「大きなかぶ」の劇でもやっているように剣を引っ張り始めた。
どうにも抜けそうに無いので、ここはもう俺が戦うしか無いようだな。
「てめーが何者だろうと、魔王討伐の邪魔をするって言うならぶっ殺す」
「ユウシャトノタタカイダ!」
――そのセリフを聞き終えるよりも前に。
俺は左腕を吹き飛ばされていた。
声が出ない。
あまりに衝撃的な怪我をした人間は恐怖のあまり声が出ないらしい。
ちなみに首などが吹っ飛んで亡くなった人の死因には「ショック死」なるものがあるらしい。
突然の大量出血で精神がダメになってしまうのだろう。
だが俺はショック死などをしている場合では無い。
モモナは確か「回復魔法」も使えるはずだ。
だが……この状態でどうやって。
人間にとって大切な物とは、一に水分だが、血液もかなり大切な物だろう。
血液が不足するとそれだけで体調が悪くなったり、気を失ったりする。
――俺は今かなり危険な状態なんじゃ無いか?
「回復魔術!」
モモナの声が聞こえた。
俺の左肩をそっと抱きしめ「ちゅっ」と優しく触れるようなキスをしてくれた。
「とりあえず血は止まりましたよ。腕は後でくっつけますから、ここは片腕ですが頑張ってください!」
モモナが俺の周りに魔法陣を作り、
「防御は任せてください!」
ガシャン! と大きな衝撃。
モモナの魔法陣の壁に向かって包帯男が何度も突進をかましてくる。
目にも止まらぬ速さで一方方向にだけ突進が可能らしく、瞬発力と脚力がよほどのものと見た。
ただ方向転換は不可能ならしく、向かう方向は一方向。モモナも他の部分の魔法陣は解除し、一方向の魔法陣にかなり力を込めている。
「勇者様! 私が魔法陣を解除するので、そこに創聖剣を突き立ててください!」
モモナの頬に汗がにじむ。
どうやら攻撃魔術よりも防御魔術のほうが魔力を使うらしい。
ここでモモナの魔力が充電切れにあると困る。
後でもっと強い敵が現れた時に対処のしようが無いからな。
「分かった。『せーの……なのですっ』で良いか?」
一応確認しておく。
モモナは「ここだ!」というところでよく「なのです」を使うからな。
モモナは汗をにじませながら静かに頷いた。
よし……今だ!
「せーの……なのですっ! なのです」
またタイミングが微妙にずれた。
別に何とかなるから大丈夫だけどさ……ドジっ子にも限度って無いのか?
包帯男の突進。
モモナの魔法陣解除。
――そこに俺の創聖剣ウォーター・メロンの突き攻撃が入る!
刺さった! だが俺への反動もデカイ。
ズルズルと床を滑り、俺は片腕だけで必死に力を込める。
だが包帯男の突進のエネルギーはまだ加えられ続ける。
――危ない。このままでは同士討ちしてしまう。
「これが俺の覚悟だぁ!」
俺は創聖剣の柄の部分を自身の腹に押し当て支えた。
胃の中身が流れ出そうなほどの不快感。
だが何とか……包帯男の突進を止めることはできたらしい。
突進中に身体内で創聖剣の刃がこすれたらしく――包帯男が存在していた床
には大きな水たまりができていた。
俺は右腕だけで身体を支え、どっかりと床に座り込んだ。
「やっと……倒したぁ……」
モモナに左腕を「回復魔術」でくっつけてもらい、ようやく俺は満足に動けるようになった。
三姉妹が元勇者とメロと一緒に階段を登ってくる頃に、やっとルリの剣も抜けたらしい。
「はぁ……やれやれだ」
――魔王城2F
それと言って一階と変わらなかったが、入口で出会ったロリっ子悪魔とは違いかなり強い敵が真っ先に現れた。
ここは今まで以上に用心して進まないと、今度はモモナでも治せないような箇所が吹っ飛ぶかもしれん……
流石に死人は行き返らせることは出来ないだろうからな。
「しかしモモナの『魔術的な何か』は凄いな~……」
元勇者は感嘆するような口調でモモナに抱えられながら喋っている。
「えへへ……回復と攻撃は結構勉強頑張ったんですよ。防御系とか相手の運動量によって威力を変化させなくてはならない『魔術的な何か』はちょっぴり苦手なのですが」
「俺の姿を治すことはできないか?」
モモナは少し残念そうな表情で、
「私の力では無理なのです。呪縛を解いたりする力はほとんど無いので」
「そうか……まあもし戻れたら、俺の顔を見て腰を抜かすなよ? 勇者メロンとは比にならないくらいの超イケメンフェイスだからな!」
元勇者はたまにウザイ事を言うこともあるけど――
この人が一緒にいなかったら……もしかするとかなり暗い冒険を続けていたのかもしれないな……
――まさにこのパーティのムードメーカーだな。
モモナは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「はい。楽しみにしてますね、元勇者さん」
「お待ちなさいな!」
モモナの笑顔を眺めていると、突然前方から誰かの声がして――
「ここから先は通しませんわ!」
そこには銀色の盾とフェンシング用の剣のような武器を持った。三人のメイドさんが姿勢良く立っていた。
「メイド戦士一号。サクヤ!」
「メイド戦士二号。サクユ!」
「メイド戦士三号。サクヨ!」
十○夜さんがモデルなのか。腰にはサバイバルナイフを差し、耳の下で髪を
少し束ねている。
まさか時を操る能力持ちとかいう特典は無いだろうな?
――そもそもこの世界に「時間」という概念があるのかどうか疑問だが。
「私たちが相手をします!」
言われなくても分かってる。
魔王城まで来て「あなたの味方です!」なんてやつが出てきたら、そっちの方がもっと警戒する。
いったい何が目的なんだ? とね。
しかし三人か……俺とルリとモモナの三人で同時に相手をしなくてはならんな。
モモナの魔力は貯めておきたかったが……やむをえん。
「ルリ! モモナ!」
「分かってる!」
「出番なのですね!」
ルリとモモナが颯爽と前へ出た。
――やる気があってマジ良いパーティだわ。この二人連れてきて本当正解。
「では……相手をさせていただきます!」
メイド戦士は俺たちの前に飛び出してくる。
一対一で戦うつもりらしい。
ここはさっさと倒して集団リ○チした方がモモナの魔力的にも効率が――
「てぁ!」
モモナはステッキを踊るように振りかざし、華麗なステップでメイド戦士の一人を奥へ奥へと追い詰めていく。
「たぁぁぁ!」
ルリはと言うと。がむしゃらに刀を振り回しているものの、「黄×黒」の能
力らしくメイド戦士の剣もコスチュームもバラバラに切り刻んでいる。
――どうやら人の心配をする身では無いようだな。




