第二十八話:ルリフラグは華麗にへし折られる
「あの……一緒に寝ても良いですか?」
ルリは可愛らしくアクビをして、毛布のような布に丸まった。
マコが顔を真っ赤にしながらルリに飛び蹴りを食らわそうとしたので、これまた俺は必死にマコをなだめる。
「俺たちの世界ではモモナの充電を『寝る』って言うんだよ」
――という内容の説明を三十分ほど続け、やっと分かってくれたらしくマコ
は静かに洞窟の外を眺めに行った。
「やれやれ……やっと眠れるぜ」
俺とモモナでルリを挟むように眠り、やっと夢の世界へ――というところで
元勇者のゴロゴロ転がる音により目が覚めてしまった。
「何だお前」
「勇者メロン! お前は何でそんな端っこで寝るんだ」
端っこ? 奥の方が安全って言ったのはお前だろ?
もっと洞窟の真ん中で眠れとでも言うのか。
「違う。何故こんなに可愛い女の子二人と寝ているのに、お前は二人の間で寝ないんだ! と聞いているんだ」
「俺は圧迫感があると眠れないんだよ。それ以上の理由は無いね」
「だからせっかくの女の子とのベッドタイムを――」
「うるさあぁぁぁい!」
寝ぼけたルリが立ち上がり元勇者をぶん殴った。
「あほぉぉぇぇ!?」
元勇者は壁にぶち当たって「ガシャン」と嫌な音がした。
――起きたらモモナの「魔術的な何か」で直してもらおう……
俺が目を覚ますと、何やら温かい物が顔を覆っている。
息苦しく鼻先に柔らかい膨らみが押し当てられ、離れようにも身体をギュッと抱えられているから動けず――
「んむぐ!」
「ふへっ……?」
ようやくルリが俺のことを抱きしめている腕を離してくれた。
ルリは真っ赤な顔をして弁解する。
「すみません! 前世ではいつもぬいぐるみを抱きしめながら眠っていたもので!」
俺は「メルヘンチックな趣味で良いね」とだけ言い、洞窟内の湿った空気を吐き出し新鮮な空気を吸いに洞窟の外へ出ることにする。
ルリは俺の後ろにピッタリとくっつき、時々俺を見てはフッと顔をそらす。
――そういえば前世で読んだ本に書いてあったな……
『男性は女性の何気ない行動にドキドキしてしまう事が多い』
確かに勘違いしそうだな。
ただ一緒に歩いているだけなのに。
洞窟の外で深呼吸をしていると、三姉妹がちょうちょのような虫を追いかけて遊んでいる。
俺とルリはその辺の石の上に腰掛け、微笑ましい気持ちになりながら三姉妹の行動を眺めていた。
「こうしていると……何だか私たちの娘みたいですね」
「ハハハ。娘ですか」
ルリにちょっぴり身体を寄せられ、風になびいたポニテの毛先が俺の首筋をくすぐる。
「魔王討伐したら……メロンさんはどうするおつもりなんですか?」
「討伐できたら……どうしましょうねぇ。考えたこと無かったです」
ルリの顔が若干赤らんで見えた。
どうして今日はこうもルリが色っぽく見えるんだろう。
「メロンさん? でしたら私と――」
「あの~! 元勇者さんの電池が取れてたんですけど~!」
洞窟から電池が抜けた元勇者を持ったモモナが出てきた。
――ああ、そうだった。昨日ブッ壊れたんだっけか。
俺は残念そうな表情をしたルリに「すまんな」と謝り、モモナのところまで駆け寄り昨日起こった惨劇を伝達した。
モモナに元勇者を修理してもらい、ようやく魔王城の前までたどり着くことができた。
思えば長い道のりだった。
変なやつと戦ったり、妙なやつと戦ったり、おっちょこちょいなやつと――
まともな敵がいなかったなぁ……
「回想始めるのは終わってからにしろよ。まだ別に魔王と出会って一騎打ち!なんて熱い展開にはならないぞ」
元勇者に突っ込まれ、俺はモノローグ的な世界から戻ってきた。
魔王城か……いわゆるバ○キンマン城的なのを想像していたんだが――
見た感じ外国の古い建物って感じの、魔王城と言われなければ多分気づかないであろう立派なお城だった。
「見た目だけで判断するなよ。中は屍やら虫やらごろごろ落ちているからな」
想像しただけでゾッとする。
――見ろよ。モモナなんてもう帰りたそうな顔をしてるじゃないか。
「とりあえず……どうやって中へ――」
「ピンポーン」
元勇者が魔王城のインターフォンを押した。
「どちらさま?」
「ウェーイ。ピザの配達で~す」
「よし、入れ」
魔王城の扉が「ギギギ……」と開いた。
マジかよ……
普通の民家よりも防犯対策のなっていない、魔王城に俺らは侵入できた。
元勇者が言うには、前に来た時もそう言って入ったらしいが……
「気をつけろよ。いつ敵が襲ってきてもおかしく無いんだからな」
わかっている。
敵の本城に侵入しているんだ。
それくらい理解して――
「おにーたん誰ー?」
目の前に不健全な格好をしたロリっ子悪魔が現れた。
――どう不健全って……ほらあれだ。ツルペタで身体に何も身につけて無い
っていうね。
「えっと……俺は勇者で……」
「じぃ~……」
何だ? 俺の顔に何かついているのか?
さっきからロリっ子悪魔はじーっと俺のことを見つめ――
――突然グラマラスボディへと変貌した。
「うわぉ……」
「どうですか? 勇者様の大好きな大きな膨らみですよ~」
たゆんとした二つの大きな膨らみ。
弾力あるハリのあるツヤツヤな肌を見せつけるように俺に向けて揺らしにくる。
ちょいと視線を下に下ろせば――
「こらぁっ! メロン!」
後頭部に衝撃を受け、俺は我に帰った。
――何だ? 何だ今のは。
「ちぃっ! 一人ならこれで倒せたのに!」
ロリっ子悪魔は大きなお目目で俺を睨みつける。
まさか……こいつの能力って。
「目を合わせた者に幻覚を見せる能力らしいな」
元勇者に先を越された。
「バレたらしょうが無いわね」
ロリっ子悪魔はそのツヤのある肌を撫で、ワキ見せセクシーポーズをしながら太い柱の後ろを通り――
出てきた時には少々身体つきがお姉さんっぽくなっていた。
「これが私の本来の姿よ。ここに来る勇者は大抵ロリコンだから普段はあの姿で戦うんだけど、さっきあなたの見た幻覚はグラマーなお姉さんだったもんね」
――とは言うものの。さっきよりちょっと成長したというだけで、別にグラ
マラスな魅惑のボディとは程遠かった。
ちょっと成長が速い少女――程度だろうな。
見たこと無いから知らんけど。
「さあ! かかって来なさい。もっとも健全な男の子が素っ裸な女の子に攻撃できるとは思わな――」
「てぁぁぁ!」
黄色に光った月詠ノ刀を振りかざしたルリが、ツヤツヤ小悪魔に突進する。
だが小悪魔はビクともせず、月詠ノ刀により真っ二つに切り裂かれた。
「倒した!」
「甘いわね」
上半身と下半身に真っ二つになった小悪魔は、そのスライム状のツヤツヤした身体を粘土のようにグニグニとさせ――
「……っと! 元通り!」
最初に会った時と同じロリっ子悪魔が二人に増えた。
「さっきはよくも私を真っ二つにしたわね!」
「わねー!」
「次こそはあなたの方を真っ二つにしてやるわ!」
「るわー!」
どうやら片方はもっと幼いらしい。
やれやれだ。
「剣も持たないお前らがどうやって真っ二つに――」
元勇者はそこで言葉を止めた。
――いや、止めるしかなかった。何故なら天井から禍々しい雰囲気を醸し出
すような大鎌が二つも降ってきたからだ。
「魔王様直々の私へのプレゼント!」
「ントー!」
地獄で首切りでもするのか。とでも問いただしたくなるようなでかい鎌を二人同時に振りかざし――
「死ねぇー! 勇者ぁ!」
「シャァー!」
双方向から降りかかる大鎌攻撃。
これはまずい。どちらか片方なら創聖剣で受け止められるが、両方同時となるとちとキツイ。
――こうなったら……!
「ああーっと! 勇者メロン。勇者メロンはなんと――逆にロリっ子悪魔の方
へと突っ込んで行ったぁ!」
元勇者の的確な状況説明に、俺は心の中でツッコミをいれる。
お前スピー○ワゴンかよ。
俺はそのまま二人のロリっ子悪魔の身体の間に向かって、両手を伸ばしながら頭を低く下げ「ハリウッドダイブ」をした。
カチャーン! と大鎌同士が当たった音。
「ああっ! 勇者メロンは二人の背後にまわった。それだ! それが良い!
やつらは身体が小さく機動力が高い。だが、大鎌を持っているという事が邪魔をして、今は行動が遅いィィィ!」
今度はシュト○ハイムか。
俺はすぐさま立ち上がり、ロリっ子悪魔が振り返るより早く創聖剣ウォーター・メロンを片方一人の身体にぶちかました。
ロリっ子悪魔一人が消え、大鎌が「カシャン!」と床に落ちる。
そしてもう一人のロリっ子悪魔が振り返ったところを――
「緑○様!」
ルリの月詠ノ刀から放たれたツタのような植物によって、ロリっ子悪魔は縛りつけられ身動きがとれなくなる。
そこに俺は創聖剣ウォーター・メロンを振り下ろし、床に少量の水たまりができ――ロリっ子悪魔は姿を消した。




