第二十七話:迷宮主VS勇者たち
俺とルリは自身の武器を取り出しヤマタノオロチへと近づいた。
一応後ろからグラサン二人が拳銃を持って待機している。
効くかどうかは知らんが、万が一の時は乱射することを許可している。
「メロンさんの創聖剣なんとかで斬れば勝てるんですよね?」
ルリの怯える顔を見ると「そうだ」と言いたかったが――
「元勇者が言うには鱗がかなり堅いらしい。俺が攻撃できるのは腹だけだ」
「でも私の刀の黒○様の能力では、こんなでかい相手を一撃で仕留めるとか絶
対無理ですよ?」
分かってる。分かってるんだが――自分にどうしようも無い事は、例えでき
ないと分かっていても他人を信じるしかしか無いだろ?
突然創聖剣ウォーター・メロンが光って「何でも斬れる力を手に入れた! やったね」なんて事になるはずも無く。
今は能力で変化するルリの刀が一番頼りになるんだ。
モモナはもう座り込みガクガクと震えていて、戦いに参加できるような状態では無い。
もっともモモナを責める気は無いが――
ここで二人だけで戦うのはキツイ……
触れることができれば小さく出来る。
腹に切れ目を入れれば消滅させられる。
だがどちらもこの状態では無理だ。
近づいた瞬間、ヤマタノオロチのどれかの首の先の獰猛な口が俺を丸呑みにするだろう。
グチャグチャに噛み砕かれるとしたらもっと嫌だ。
「ではメロンさん……私がオトリになるので、このでっかいヘビを倒してもらえますか?」
「駄目だ」
俺はルリの手を掴んで止めた。
女の子をオトリにして敵を倒すだと?
流石の俺でもそんな事はできない。
「二人同時に突っ込んで――どちらかが殺る!」
俺の提案にルリは少し怯えながらも納得してくれた。
ルリは月詠ノ刀を――俺は創聖剣ウォーター・メロンを引き抜き、全速力で
突進する。
「ルリ! その能力って二つ以上同時に使えないのか?」
「二つならなんとか……三つ以上だと、私の王子様たちがちょっと疲れてしまうので無理――」
いちいちカップリングで考えるな!
「緑×黒!」
ルリの顔を赤らめながらの叫び声と同時に、黒くなった月詠ノ刀からツタ植物が伸びる
――少量だがヤマタノオロチの顔を一つくらいなら食い止められそうだ。
「黒○様!」
ツタ植物で縛り付けた一つ目の顔に向かってバッサリと斬りかかる。
見ただけで堅いと分かる鱗にドロドロした傷跡が残り、真っ赤な液体を噴射させる。
思わず三姉妹の方を見てしまうが――大丈夫、sadakoが抱え込んで戦闘状況
は見せないようにしている。
俺だって残酷な情景は苦手だが、三姉妹にこの情景はキツすぎる。
俺は創聖剣ウォーター・メロンを盾のように持ち、準備中のルリを守る作業に入った。
「ルリ!」
「黒○様? 次の相手いけますか?」
ルリは頷き俺の脇からダッと駆け出す。
俺は背後からそれを援護しながら、ちょうどヤマタノオロチの周りをグルグル回るように戦闘をこなしていく。
「紫×黒!」
妖艶な紫に光ったその刀から、スミレ? のような綺麗で鮮やかな紫色の花びらが舞い、その隙間から黒光りする刀が飛び出した。
聞いているだけで苦痛をともなうほどの叫び声。
ヤマタノオロチの二つ目の顔も真っ二つに切り裂かれ、グチョグチョしたピンク色の物が顔を覗かせた。
「く……かへっ……!」
ルリの顔色が悪くなってきた。
――もう少しだ、頑張ってくれ……
こうするしか無いんだ。
ルリの弱くとも確実に切り裂くその力で、顔を八つとも全部切り潰したあと――俺の創聖剣で、守れなくなった柔らかい腹を真っ二つに切り裂く――
これがここで思いつく限りの最善策だった。
「黄×黒!」
剣先が光り長く伸びた刃で三つ目の顔を切り裂く――
ルリはふらつき始め、さっきから頭を支える回数が増えた。
「オラオラオラオラァ!」
グラサンに援護射撃を頼んだが、堅い鱗の前では拳銃の弾丸なんかでは軽く跳ね返されてしまう。
弾丸の先っぽがペチャンコになっている残骸を見たとき、俺はこいつの鱗の堅さを今一度理解した。
人体に軽く穴を開けるような弾丸を、逆に潰すほどの堅さ――
逆に、それほどまでに堅い鱗を真っ二つに斬り裂くルリの刀の能力の凄さに感嘆する。
「うぅ……」
ついにルリは口を押さえて座り込んでしまった。
ルリに襲いかかる四つ目の顔を、創聖剣の背でなんとか止めながら、
「無理なら休んでろ! これでもう十分だ!」
別に俺はルリに失望したとかそういうんじゃ無い。
ただ何故か――女の子が目の前で苦しんでいるのを見ていると、何だか心の
奥が重く痛くなってくる。
こんな感覚は初めてだ――
他人が苦しんでいるのを見て自分のことのように苦しむなんて――
「まだまだ……」
ルリは腕で口を拭い、力強く「ニッ」と笑った。
「私だって勇者ですよ? 最後まで全力で戦いますって」
ルリは深呼吸をしたあと、月詠ノ刀をしっかりと握りなおす。
「黄×黒!」
もう一度剣先を伸ばし、黒光する禍々しい刃がヤマタノオロチの四つ目の顔をグチャグチャに引き裂く。
あと半分だ。
ルリと俺の精神安定のためにも、顔を全部切り刻む前に創聖剣ウォーター・メロンで胴体を切り裂かなくては……
「オラオラオラァ!」
グラサンの援護射撃。
だが無駄だ……やつの鱗は弾丸なんて受けてもビクとも――
悲痛な叫び声が響いた。
ヤマタノオロチの残った四本の顔から発せられた、聞いているだけで胸の奥が重たくなってくるような酷い叫び声。
俺は弾丸が撃ち込まれた箇所を見て、思わず吐き出しそうになる。
グラサンの射撃の腕前はかなりのものらしく――さっきルリが斬り潰した顔
の傷口に向かってこれでもかと弾丸が吸い込まれていく。
「勇者様! 今ですよ」
グラサンに叫ばれ、俺は創聖剣ウォーター・メロンを振りかざし――
腹辺りにぶち込んだ――はずだったのだが。
「うわっ!」
予想以上の手応えに俺は後方へとよろめき、尻餅を着いた。
堅い……腹でも切り裂けないのか……?
しかしそれは腹では無かったのだ。
――よく見ると、俺が横殴りに切り裂いたのはヤマタノオロチの五つ目の頭
の鱗だった。
「メロンさんが切り込みに入った途端……突然顔をそこに向けたんです」
ルリの剣は黒くなっていたが、さっきと比べて返り血の量が増えていないようなので、多分切り込みには入っていないのだろう。
実際は切り込みにかかった瞬間。
五つ目の顔が俺の方へと動き、目標が移動したために攻撃が外れてしまったのだろうが……
しかしこれはまずい。
どうせヘビだと甘く見ていたが、自身の弱点を含みどこを攻撃されているかさえ瞬時に判断する頭脳――
一筋縄ではいかないかもしれん……
「たぁぁ!」
ルリの黒々とした刃が六つ目の顔を切り飛ばす。
五つ目の顔は自身の弱点を守りながら徘徊している。
今現在「顔」としての原型を残しているのは八つの顔のうち三つである。
「うぷぅ……ぁぁ……」
とうとうルリがお腹を押さえて倒れ込んだ。
脳天にスイカ割りをする作業を続けていれば誰でもそうなるだろう。
しかもルリは俺と同じ転生者。
元は普通の一般市民だったのだ。
「奴隷! 奴隷!」
背後からムーンの叫び声が聞こえる。
何だ? 何か問題でもあったか?
「あなたの三つ目の能力で! ルリさんの剣を――」
そこまで言ったところでヤマタノオロチが尻尾を器用に使い、そばに落ちていた岩石をムーンに向かって投げ飛ばした。
「危な――」
「えいっ!」
ムーンはいともたやすくその岩石を両手で受け止めると、一瞬でその岩石を砂粒並のサイズへと変化させた。
分かったぞムーン! さっきムーンが俺にした助言の意味が。
俺はうずくまるルリの側まで駆け出し、地面に落ちている黒々と光る月詠ノ刀を拾い上げる。
「ルリ! ちょっと借りるぞ」
能力で切り刻む事は不可能だ。
俺には月詠ノ刀を使用するための能力が無いからな。
だが――ルリの預かっている妹の妖精なら可能だ!
「レミとか言う妖精! この刀をちょっと支えていてくれ!」
「ふぇ!? わ……わかったなの!」
羽の生えた小さな妖精が月詠ノ刀の柄の部分を握った瞬間――
俺は槍投げのポーズで刀を振りかざす。
「悪霊退散海苔茶漬美味!」
俺の手から放たれた月詠ノ刀は、空中を飛びながらみるみるうちに大きくなり――
ヤマタノオロチの身体を軽く凌駕するほどのサイズとなった。
その刀はそのままヤマタノオロチの身体へ向かって飛んでいく。
巨大化した月詠ノ刀は、守りに来た五つ目の顔をも貫き――ヤマタノオロチ
の身体をザックリと切り落とした。
身体の真ん中にどデカイ穴がポッカリと空き、迷宮回廊の壁を真っ赤に染めるほどの血液が大量に噴射された。
ヤマタノオロチの断末魔が三つの首から放たれ、必死に呼吸をするような
「ヒュゥゥ……」という音が傷口の穴から放出される。
腹を上に向け三つの口からも吐血しながらピクピクと身体を震わせ、ヤマタノオロチは動かなくなった。
一応トドメということで、俺は創聖剣ウォーター・メロンで腹に切れ目を入れ――ヤマタノオロチは水と酸素へと姿を変えた。
生臭い臭いが充満してきたので、俺たちは急いで奥の通路へと抜けていく。
やっと臭いが無くなった――と思ったところで、まばゆい光が俺たちを照ら
す。
「出口だ」
元勇者に連れられ、俺たちはようやく迷宮回廊から脱出することができた。
久しぶりに当たる日光。
ルリなんて地面に大の字になって寝転がりながら、幸せそうな表情をしている。
「ルリさん、勇者様。記憶改ざんをさせてもらいますね?」
モモナに額に触れられ、俺たちはさっきの生々しい戦闘の情景を忘れる事ができた。
――一応言うと、戦闘を行ったこと自体を忘れたのでは無く目に入った生々
しい残酷な情景を思い出せなくなる。
魔術的な何かによる力である。
元勇者がゴロゴロと転がりながら、モモナに充電を勧めた。
「みんな。魔王城までもうすぐだ。ここからはほぼ休み無しの戦いが続く……ここから進むのは体力をちゃんと回復してからの方がいいだろう」
珍しく真面目で慎重な発言。
どちらかというと楽天的でマイペースな元勇者がここまで心配するということは、かなり危険な戦闘が続くのであろう。
俺たちは迷宮回廊出口のすぐそばの洞窟内で休憩することにした。




