第二十六話:ヤマタノオロチ
「火炎弾!」
聞き覚えのある女の子の声とともに、トランプ兵複数人の断末魔が響いた。
誰だ? ルリの能力なわけ――無いな。
振り返りたかったが、俺は向かってくるトランプ兵を食い止めるのが精一杯で、それ以上の余裕は――
「火炎弾! なのですっ!」
俺の真横をスレスレで炎の玉が飛んでいき――トランプ兵を十人近く巻き込
みながら、その炎の玉は暗闇へと消えていった。
ここでやっと振り返る余裕ができ、俺はその懐かしい顔に精一杯の笑顔を向けた。
「モモナ!」
「勇者様! もう安心してください、最強の魔女っ娘モモナちゃんがパパッとやっつけちゃいますよ!」
モモナのステッキから二発三発と火炎弾が放たれ、俺たちを追撃しに来たトランプ兵は真っ黒な炭へと姿を変えた。
「それにしても邪魔ね、この炭」
マコが両手を腰に当てながら、さっきまでトランプ兵だった炭をゲシゲシと蹴っている。
「マコ!」
俺は思わずマコを抱きしめる。
その様子を見てモモナがにこやかに微笑み、ルリが唖然とした表情をした。
「きゃっ! メロンったら……お、下ろしなさい! 足が地面につかないわ」
足をバタバタさせるので俺は少し腹が痛かったが、俺はマコたちが無事だった事がなによりも嬉しかった。
「大丈夫でしたか?」
モモナの魔術的な何かのおかげで、俺とルリが負った傷は回復させる事ができた。
「助かりました……あなたは?」
「私は魔術的な何かを極めようと日々精進する魔女っ娘、モモナと申します」
「ドジっ娘だけどね」
ムーンの華麗なツッコミにルリがクスクスと笑う。
「ひどいなぁ、ミオちゃんったら」
「ムーンです!」
あぁ、まだちゃんと憶えて無かったんだ。
「あ! そうそうムーンちゃんか、さっき勇者様と物凄いキスしたのが――」
ルリの眉毛が少~しだけピクリと動いた気がしたが――
気にしないでおく事にしよう。
「再開を感激するのもいいが、早く進んだほうが良いんじゃないか?」
元勇者の発言により、やっと全員揃った勇者パーティは迷宮回廊の通路上に転がった炭を踏まないようにしながら、前へ前へと進む冒険を再開した。
現在のパーティ
マコ:三姉妹の多分一番上のお姉ちゃん。なんだかやたらと俺に突っか
かってくる。
能力:究極不完全製造能力
ミオ:おっとりした大人しい女の子で、多分次女。
能力:聖的敏感剣俺最強
ムーン:現時点では能力不明。多分この中では一番末っ子。もしくは三
つ子で同い年。
能力:悪霊退散海苔茶漬美味
メロン:勇者(主人公)。俺。シャンプーで言うところの外身。三姉妹の
能力を強化して使える。
姿:制服
武器:創聖剣ウォーター・メロン
能力:究極不完全製造能力
聖的敏感剣俺最強
悪霊退散海苔茶漬美味
備考:元非リア
モモナ:「魔術的な何か」を使うことができる魔女っ娘さん。虫が苦手、
特に足が多い虫を見ると気絶します。
sadako:マコの能力で増加する。身体能力は地球上の人類の数倍。
きっと来る。とは全くの別生物です。
グラサン:マコの能力と俺の能力がシナジーする事で生み出せる黒服の
怖いおじさん。拳銃とか持ってる。能力で増加する。
ざわ・・・とか効果音が聞こえてきそうだけど別人。
元勇者:これまで召喚された勇者で、魔王と出会い唯一生き残っている
勇者。
現在は魔王の能力でルームランナーの姿にされているが、思考
能力や言語能力はまだ残っている。
能力:一度目にしたものは完璧に記憶する。
ネコ耳娘:吾輩はネコ耳娘であり、名前はメロ。
可愛らしい少女にネコ耳が生えて、危うい箇所にネコ毛が生
えているような見た目をしている。
しっぽもあります。ぴょこぴょこ動いて可愛いです。
能力:触れた物の汚れを削ぎ落とす。
ルリ:女勇者。極度の方向音痴で迷宮回廊内で迷子になっていたところ
をメロンに保護され、仲間になる。
姿:水色のパーカー生地の洋服にジーパン生地の短めのズボンを
穿いている。ちなみに縦筋なおへそが顔を覗かせている。
武器:月詠ノ刀
能力:有象無象完璧主義者
人類滅亡絶対嫌
備考:ポニテ
さっきまでの太い通路は徐々に、狭く通りにくい通路へと変化していった。
実際今はギュウギュウで一列になって進んでいる。
「ここを抜けたら一気に広い場所に出る。そこに多分迷宮の主がいるから気をつけろ」
元勇者はギリギリ聞き取れる程度の小声でパーティ全員に伝えた。
いったい何をそんなに用心するのか。
「ここを抜けると何があるんだ?」
「首が八本に別れたヘビが眠っている。起こしたら最後……死ぬまで追ってくる」
元の世界でいうところの「ヤマタノオロチ」だな。
尻尾が何本あるかは聞き忘れたが――言わないところを見ると多分一本だろ
う、尻尾が七本あるヘビなら前に森で出会って戦った。
「マジに気をつけろよ。どうせお前は創聖剣ウォーター・メロンで――とか考
えてるかもしれんが、倒せる倒せないは別として危険だからな」
「毒でもあるのか?」
元勇者は俺の耳元に近づき、
「でかいんだ。そして鱗がとてつもなく堅い。もし戦うことになったらお前の
創聖剣で腹の辺りを切り裂くか、ルリちゃんの黒○様の能力を使うしか無いだ
ろうな」
「でかいって?」
「……さっきの広い場所あっただろ? あの広さと同じくらいの胴体だ」
俺は戦う気を無くした。
それじゃ近づいただけで噛み砕かれておだぶつだろうな。
「そして非常に起きやすいからな、気をつけろよ……ちなみに俺は戦ったことは無いからな」
未来予知で逃げたのか。
何でこう凄く強い能力の方の妹さんがマミるのかなぁ……
先頭を歩いていたルリが静かに振り返った。
「そろそろ出口みたいです。お静かに願いますね」
ルリ、俺、元勇者、メロ、モモナ、マコ、ミオ、ムーンと続き――
後ろからグラサンとsadakoが二人ずつ付いて来た。
俺は足音もたてないように静かに静かに――
「ねぇ勇者様」
後ろからモモナに服の裾を引っ張られた。
何だこんなときに。
「実は私、勇者様と別れた後……ドラゴンさんと幽霊騎士さんも倒したんですよ」
へー……そうかい。
頼むから今だけは静かにしてくれ……!
「私……格好良いと思いませんか?」
えへ。と笑い「褒めて褒めて~」とでも言うように、上目遣いで俺を見ている。
――あー、えらいえらい。
モモナは無言の俺に期機嫌を悪くしたのか、
「ですから! 私一人で三人の妹さんを!」
「ばっ――」
バカ! とでも言おうとしたのだろう。
だが元勇者はそこで言葉を止めた。
何故かって? 眠っていたはずのヤマタノオロチの目が開いてギョロリとこちらを見たからさ。
「大丈夫だ。まだ寝ぼけているから、静かに通り過ぎれば――」
「ひゃぁ! すみませんすみません!」
モモナ以外の全員が絶句した。
何故? 何故ここで大声を出す?
「シャァァァァ!」
まずい。完璧に起きた。
おはようございますヤマタノオロチさん。
「ルリちゃん……勇者メロン……頑張ってくれ……」
元勇者は震え声で懇願している。
ルリにまで戦えと言うって事は、マジに危険で獰猛で執念深いやつなんだな。
「メロンさん……ここはやるしか無いようですよ」
言われなくても分かってる。だがな……これだけは言わせてくれ。
「やれやれだ……」




