第二十五話:迷宮内の軍隊
ランプの明かりを頼りに前へ前へ進んでいるが、いっこうに顔が見える気配が無い。
このまま奥へ奥へと迷わせるのが目的では無いだろうな?
「メロンさん、多分そろそろです……」
ルリに言われてヘビの身体を見ると、なるほど少し太くなって
いる。
このままコブラみたいな顔が暗闇にのぞか――
「シュルル……」
覗かせた。コブラのようなでっかい顔が、俺たちを見下ろすような姿で――
細い舌をチロチロと出している。
「私がこのヘビを縛りますから、メロンさんはさっきの能力で!」
触れって言うのか?
俺は嫌だぞ。
面倒だ……創聖剣ウォーター・メロンで真っ二つにしてしまおう。
「緑○様! グリーン・○イ!」
二方向から何か言われそうな――ああ両方同じか。
ルリの月詠ノ刀から細いツタのような植物が飛び出し、大蛇の身体と顔を縛り付けた。
どっちかって言うと隠○の紫じゃ無ぇかな……とか思ったが言わない事にし
ておく。
念写とかできそうに無いし。
「メロンさん!」
「了ー解」
俺は身動きがとれずただジタバタする大蛇の頭――までは手が届かなかった
ので、喉元ってか身体に創聖剣ウォーター・メロンをぶちかました。
サシュッといい音がして、コブラ頭の大蛇はこの世から消え去り――
今来た道がびしょ濡れになるくらいの、大量の水が流れ出した。
しばらくして水が引き、やり遂げた表情の俺と呆気にとられた表情のルリが並んだ。
「……何でそんな凄い能力まで持ってるんですか!」
いやだからあんたの方が――
「しかもこんな最強の能力があるなら、わざわざ顔の前まで来なくても良かったのに」
言われてみればそうだな。
そういえばルリは俺の能力を知らなかったんだっけ。
「ずるいです。攻撃的な能力を二つも持ってるなんて」
ずるいのはお前だろ。
俺はその分三人の子守をしながら冒険している。
ルリは二人じゃ無いか、しかも小さな妖精として。
「それはそうですけどぉ……」
「それより少し戻るぞ、出口はこっちじゃ無い」
ルリのシャツから元勇者が顔を出し、俺らに戻るよう促した。
――気持ちは分かるが「はぁはぁ」言うのはやめろ、気色悪い……
しばらく戻ること数分。
来るときには気がつかなかったが、脇に細い道があった。
「ここを抜けると大広間に出る」
――元勇者の言う通り道とは呼べない程の細さを誇る――細い道を抜けると
割と広い場所に出た。
天井も高く、四方が廃墟のお城のような見た目をしている。
「ここが元の魔王城らしい。いわゆる跡地だな」
皆様。ここが魔王城跡地でございます。
とか言ってみたり?
「ここから遠いんですか?」
「いや……魔王城まではもう少しなはずだが――」
元勇者の言葉をかき消す足音。
何だ、この音……
「グギュルル」
黒い大きな影がこっちに向かってきた。
全身筋肉質で頭からはねじれた角のような物が生え、手には棍棒のような武器を握りしめている――
「ミノタウロスか!」
「メロンさん!」
ルリに呼ばれ、俺も創聖剣を掲げる。
やっと姿が見えてきた。顔は牛のようで手に持っているのは太い骨のような棒だ。
超怪力で叩き込めば人間の骨ならグシャグシャにできそうな……いったいなんの骨なんだろ。
「青き力を……青○様!」
うん。もう突っ込まない事にする。
ルリの月詠ノ刀が青く染まり、少々湿ってきた。
「グギュルルル!」
まるで腹でも壊したかのような叫び声をあげながら向かってくるミノタウロス。
俺は創聖剣、ルリは月詠ノ刀の剣先をミノタウロスに向けて応戦する。
ミノタウロスの持つ棍棒のような骨に、ルリの月詠ノ刀が当たりカキンカキンと――何だか所持金が減っていきそうな音が鳴り響いた。
ついでに言うとルリの剣が骨に当たる度に、少量だが水が発射される。
――俺の特権を少し奪われたような複雑な気分。
ルリとミノタウロスが丁度良くやり合っているので、俺はミノタウロスの背後にまわり創聖剣ウォーター・メロンを振り落とした。
「ギュルル――」
叫び声も途絶え、ミノタウロスは姿を消し――俺の視界には頬を膨らませた
ルリの姿だけが残った。
「イイトコ取り勇者」
返す言葉が無い。
――だって実際そうだし。
「もうメロンさん一人で良いんじゃ無いですか?」
ぷくぅと頬を膨らますルリ、可愛いんだけど何かイラッとするのは俺だけだろうか?
「喧嘩するなよ二人とも~」
元勇者は仲裁をしようとしているようだが――
だったら公平に仲裁しろよ、何でお前はルリに抱っこされてるんだ。
「温かいぞ。何て言うかもう体温が生で伝わってくるようで……」
元勇者の変態的な感想は置いておいて、ここからどっちに行けば良いのかだけでも知りたいんだがな。
「次は……あっちの道に向かって少しずつ歩いていけば、多分出られる」
元勇者は右側の城壁を指差し、俺たちはそれ以上言葉を交わさず奥へと向かって行った。
「なぁなぁ……ルリに勇者よ、そんな事で喧嘩するな。ここからもっと面倒な敵が出てくるかもしれんのだぞ」
俺はルリを見た。
ルリの方はとくに気にせず前を向いたまま歩いている。
一歩足を踏み出す度にポニテが揺れる。
怒ってなきゃ可愛いのに――前世で女の子と接したことの無い俺には、ここ
でどういう行動をとれば良いのか解らんね。
別に解ろうとも思わないけど――あー……モモナとか早くここまで追いつか
ないかなぁ~。
カツカツと地面と靴がぶつかる音だけが響く。二人以上いるのに会話が無いっていうのは流石に少々キツイ。
つーか勝手に機嫌悪くしてるだけなんだから、多分ここでルリが活躍できるような戦いでも起これば機嫌も治るだろ。
――まぁそんな事のためだけに、戦いたくは無いがね。
俺は忘れていたのだ。
俺自身が戦いに関係ある事を考えると、必ず敵が現れることを……
「敵だぁ!」
元勇者の叫び声で俺とルリは戦闘態勢に入った。
どこから来るか分からんが、こっちは二人だ。
俺が戦ってそこにルリがトドメを刺せば、また元の空気に戻るだろ――
甘かった。甘かったのだ。
今まで敵は多くても二人、ゾンビ兵の時はグラサンとsadakoがいた。
「軍隊かよ。迷宮回廊で兵隊が出てくるとは思わなかった!」
元勇者の悲痛の声。
敵は大群だった。多分五十体以上はいる。
何故分かるかって? それは――
「トランプ兵!?」
そりゃもちろんマジモンのトランプ兵では無い。
だが鎧の頭にはトランプのマークがついている。
真っ先に向かってきたのはスペードのジャック。
これはルリに活躍させるとかいう問題じゃ無い。
全員命懸けで戦わないと――死ぬ。
「ルリ!」
「分かってる……」
ルリは震えながらも月詠ノ剣を抜き、
「輝きの黄色……黄○様!」
月詠ノ刀が光る。
「たぁぁぁ!」
スペードのジャックに斬りかかると同時に、光り輝くその刀の剣先が伸びる。
伸びた先には突進してくるトランプ兵。
ルリの一撃でトランプ兵の三人が一気に真っ二つに切り裂かれた。
「次は俺だな」
こっちにはダイヤの軍が向かってきている。
俺は創聖剣ウォーター・メロンを横に向けて持ち、向かってくるタイミングに合わせ、遠心力を利用して切り裂く。
いつも通り良い音とともに、トランプ兵のダイヤ三人は死体さえ残さず消え去った。
「ヤバい。勇者、ルリ! 後ろからも来ている」
振り返るとハートとクラブのトランプ兵が槍を構えながら、俺たちに突進してきていた。
「メロンさん! 背中をくっつけて!」
ルリがハートとクラブ、俺がスペードとダイヤの方を向き――背中を合わせ
お互いを守る体勢に入る。
「背中はまかせた!」
「メロンさんも頑張って!」
しかし思ったほど簡単なことでは無かった。
これまでのザコ敵がウソのようなパワーにより、次から次へとトランプ兵の攻撃を受ける。
一人一人でも十分なくらい強い相手を五十人以上も、そのうえ同時に戦わなければならない。
パワー自体は俺らのほうが上だが、ここまで連続して戦闘をこなしていると流石に疲労がたまる。
――ヤバい。もう限界だ……
俺の創聖剣ウォーター・メロンを握る力がだんだん弱まってきた。
ルリ……俺はもうダメかもしれん。
すまなかった――
「はわ!? 誰ですかあなた!」
ルリの驚いたような声が耳に入る。
何だ……ジョーカーでも現れたか? それとも魔王の幻覚でも見えたのか。




