第二十四話:女勇者ルリの能力
ルリが言うには、二人の妹を連れた女勇者で――羨ましい事に戦ったのはま
だ鬼とゴーレムだけらしい。
能力は有象無象完璧主義者という月詠ノ刀を扱う能力と、人類滅亡絶対嫌と
いう触れた生物を妖精として生み出す事ができる、この二つらしい。
「これが私の預かった妹さんたちです」
ランプに宿っているという小さな妖精は元の名をリラと言い、ランプの火が消えないようにしているらしい。
そしてもう一人が、ダンジョン内を冒険する時には必須とも言える羽の生えた小さな女の子で、ルリの周りを飛んでいる。
この子はレミと言うらしく、こっちが月詠ノ刀を使う能力の方らしい。
「初めてのキス……この娘たちに盗られました」
俺は男だから良かったけど――突然あれじゃあトラウマ物だろうな。
俺だってもしこれが弟だったら、絶対今頃吐いているだろうよ。
「メロンさんの能力は何なのですか?」
俺は自分の能力三つの説明をした。
無駄に長いから憶えるの大変だったがな。
「メロンさん! 私も一緒に行っても良いですか?」
まあ同じ勇者として、魔王を倒す目的があるんだから別に――
「ぜひとも一緒に行きましょう!」
元勇者がしゃしゃり出て来た。
ルリは少しびっくりした様子だったが、ニコリと微笑み、
「はい、ありがとうございます」
――まぁ結果オーライだが……やれやれだ。
今現在一緒に行動をともにしている人。
メロン:勇者(主人公)。俺。シャンプーで言うところの外身。三姉妹の
能力を強化して使える。
姿:制服(破れたズボンはモモナに直してもらった)
武器:創聖剣ウォーター・メロン
能力:究極不完全製造能力
聖的敏感剣俺最強
悪霊退散海苔茶漬美味
備考:元非リア
元勇者:これまで召喚された勇者で、魔王と出会い唯一生き残っている
勇者。
現在は魔王の能力でルームランナーの姿にされているが、思考
能力や言語能力はまだ残っている。
能力:一度目にしたものは完璧に記憶する。
ルリ:女勇者。極度の方向音痴で迷宮回廊内で迷子になっていたところ
をメロンに保護され、仲間になる。
姿:水色のパーカー生地の洋服にジーパン生地の短めのズボンを
穿いている。ちなみに縦筋なおへそが顔を覗かせている。
武器:月詠ノ刀
能力:有象無象完璧主義者
人類滅亡絶対嫌
備考:ポニテ
俺たちは元勇者の記憶を頼りに迷宮回廊の奥へ奥へと潜っていった。
元勇者が前に来た時には、未来予知の能力で戦闘を回避して進んだらしいが、今回はそれが無い。
だからもし敵が現れたら戦わなければならず――
実際今目の前に敵が現れた。
「火車だな」
「火車?」
どう見ても猫なのだが……記憶力には自信があるという元勇者が言うのだからそうなのだろう。
「火車って……死体に集まってくるんですよね?」
「ああ、そうだ。だが今回はこいつ自身が死体を作り出すつもりらしいぞ」
火車――見た目は完全な化け猫は、出刃包丁を持ち出しペロリと長い舌で舐
めている。
これは戦いの意を示しているのだろうか。
「私が戦ってみようと思います」
俺が創聖剣を取り出そうとしたところで、凛とした目つきのルリが月詠ノ刀を取り出し、前へと踏み出した。
「妖精の力を与え――炎の刀へと!」
ルリの刀が突然真っ赤に光り、視覚で認識できないスピードで火車を真っ二つに切り裂いた。
「凄いが……何で炎なんだ?」
それは俺も気になっていた。
あれか? ランプの精霊が――
「赤○様……♡」
ルリがうっとりした様子で、赤い剣を眺めている。
……どうやら俺には早すぎる理由らしい。
俺は何も司らないし、オレンジ色のボールも知らないからな!
あっけなく終了した火車との戦闘後、しばらくルリは妄想の世界へと旅に出てしまっていた。
元勇者はそんなルリを見つめて顔を赤らめてるし――
やれやれだ。
迷宮やダンジョンではどんな敵が出てくるのがデフォなのか、
前世でRPGをやった事の無い俺には分からないことだった。
だが今目の前にいやがるこの機械と岩石の間の子のような生物こそが、次の戦うべき相手なのだろう。
「ほう、ガーディアンか」
「流石迷宮回廊ですね……」
元勇者とルリは好戦体勢に入ったが、俺はこの機械人形みたいな岩石と戦う気にはなれなかった。
創聖剣じゃ斬れないし、触るのも何か嫌だしなぁ……
「ここは私の妖精能力! 闇の波紋、黒○様!」
もう何も言うまい……赤×黒か黒×赤かはしらんが、パトラッシュ……俺は
もう疲れたよ……
ブラックチャイルド的な何かの能力で、ルリは鋼鉄のガーディアンを切り刻み、粉々のバラバラにした。
バラバラになってもまだグニグニと蠢いているので、
俺は生理的嫌悪感を感じながらも一つ一つを触って小さくしておいた。
「メロンさんは変わった能力をお持ちなんですね」
ルリが感嘆の表情で俺を見つめているが――
あんたの方が変わってると思うぞ、その刀どんだけ万能なんだよ。
元勇者がゴロゴロ転がりながら、
「ところでルリさん。その刀は他にどんな能力が出せるんだい?」
ルリはポッと顔を赤らめながら指先をくわえ、
「水の青。新緑の緑。妖艶な花びらの紫。――それと輝きの黄色です」
大体予想はついていたが、
自身の趣味で能力が変わったりするものなのか?
――いや……単にルリが勝手に名前をつけてるだけか。
と、ルリの能力の解説をだらだらと聞いていると――
元勇者が不意に立ち止まり、
「おい……どうでもいいが俺たちは既に包囲されているようだぞ」
「そんなに多勢なのか!?」
ルリと俺はすかさず自身の剣を抜き、応戦体勢に入った――が。
元勇者は横向きに首を振り、
「いや、敵は一人だ。だがちと長すぎる」
――辺りを見渡すと、緑色の大きな筒のような物が暗闇に伸びている。
「何なんだよこれ」
「もしかして……」
シュルシュルと地面に音をたてながら動くその筒の正体は――
紛れもなくヘビ――大蛇だった。
「緑色だけど格好良くありません」
「冗談言っている場合じゃ無ぇだろが」
俺とルリはとりあえず剣をかざしながら、ゆっくりと大蛇の顔を探すことにする。
長く太い身体が動くたびに、耳を塞ぎたくなるような気味の悪い音が響き―
―俺はもう心の底からげんなりしていた。
「元勇者さんはここに隠れててください」
「ふひゃぉぁぁぉ!」
ルリは元勇者を自身のシャツの中へ入れた。
――しかも前側に。もしかして……
「おいルリ。そのパーカーみたいな服の下って……」
「何も身につけておりませんよ」
しれっと答えられ、俺は頭を抱えた。
何で俺が出会う仲間たちは、全員まともじゃ無いんだ!
――と思いながらもちょっぴりドキッとしてしまった、俺の紙切れのような
精神力が憎い。




