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第二十話:魔女っ娘VS魔術師

「コロシテヤル」


 背後からアクアン・ブルーの声がした。

 さっきまで頂上にいたというのに……


「勇者様! 見てくださいあの子、サーフボードを持っています!」

 なるほど……濁流の流れに乗ってここまで……ってそんな都合の良い話があるかぁ!


「マオウサマノメイレイドオリニ」


 さっきまでの可愛らしい表情は無くなり、まるで使い手を無くした操り人形のような――全くの無表情で俺を見つめ、


「ユウシャヲタオス、ソレガワタシニサダメラレタウンメイ」


 右手を俺にかざし――


「危ないですっ!」


 モモナに突き飛ばされたと同時に、さっきまで俺の頭があった部分に向かって凄まじい勢いで水が噴射された。

 もしここに俺の頭があったら――完璧に粉々に吹き飛んでいた。


「ニガサナイ」

「ここは私が戦うのです!」


 モモナは全身に魔術的な何かによる魔法陣を作り、右手から素晴らしく鋭利な刃物を突き出した。

 ――しかも刃の部分だけ、手のひらから生えているような感じで。


「アマイデス」


 そう放った瞬間。

 モモナの行動が停止した。

 停止したと言うよりは――全身を氷漬けにされている。

 どうやらモモナの魔法陣は打撃攻撃や斬撃攻撃には強いが、凍結や内側から来る策士的な攻撃には完全に無力なんだ。


「ツギハアナタデス」


 冗談じゃ無ぇ! 全身氷漬けとか、俺は冷凍食品じゃ無いんだぞ。


「モモナぁ!」


 俺は創聖剣ウォーター・メロンを拾い上げると、モモナの背中に創聖剣をぶち当てた。

 モモナの全身は魔法陣でガードしている。

 いわゆる防護服のような物。

 ならば創聖剣の斬撃も打撃も能力も、本体のモモナには届かない!


「サシュン!」


 いつも通り創聖剣が通った音。

 ――モモナの全身に張り付いていた氷は全て水と酸素になり、モモナは身体を動かせるようになった。


「流石ですよ……勇者様」


 モモナは魔術的な何かで魔力を右手に溜め、


「私の攻撃に合わせて勇者様は斬りかかってください。

 私の魔力で彼女を倒す事は不可能です。

 ですが創聖剣の能力なら、『当たれば勝ち』ですからね」


 モモナの右手に光が宿り、指先に電撃のような火花が散る。


「いきますよ! なのですっ」


 なのですっ! のせいでちょっとタイミングがずれたが、モモナの最大火力の電撃魔術と同時に俺の斬撃がフルショットした。

 ――かのように見えた。


「アマイデスネ」


 はるか後方――数メートル後ろにアクアン・ブルーが立っている。


「何故……?」

「うかつでした……」


 モモナは息を荒げながら、地面を指差した。

 地面が異様なほど湿(しめ)っている。まるで油でも()いたようにツヤツヤだ。


「水を足元に出現させ――その上を滑るようにして逃げたようです」


 飛んだのでは無い! 滑ったのだっ!

 ――とか冗談言ってる場合じゃ無い。


「え? じゃあ……」

「私にはもう魔術的な何かの力は残っていません。

 どこかで充電しなければ……」


 そこまで言うとモモナはドサリと俺の腕の中に倒れた。


「すぴぃ~」


 可愛らしい寝顔。――でも今はそんな物に見とれている場合じゃ無い。


究極(アルティメット)不完全製造能力(・ザンネンスキル)!」


 どこからともなく現れたsadakoにモモナを安全な場所へと逃がしてもらい、数十人のグラサンと残った数人のsadakoに俺を守ってもらう事にする。


「オラオラオラァ!」


 数十発の弾丸が発射されるが、アクアン・ブルーは自身の前面に氷の壁を作り出し、弾丸を綺麗に止めてしまった。

 その上、作り出した氷の壁を崩しながら氷の破片を吹き飛ばしてくる。

 ――水だけじゃなく、氷も使えるって事か。


「勇者様! ここは危険です。ひとまず退散を――」


 駄目だ。あれだけのスピードで動けるやつから逃げられるわけが無い。

 ――モモナが言っていた言葉が頭の中に蘇った。

 近づいたら勝てない。だがな……こちらから近づかなくても、あいつは俺らに近づけるんだ。

 接近戦でも遠距離でも勝てない。

 ――俺の創聖剣ウォーター・メロンでは……


「待てよ」


 俺は思い出した。

 ――sadako数人に預けた。聖剣のウォークが使った最強の剣――


「能力無効化……」


 俺にはあれを持ち上げる力は無い。だが――さっきのアクアン・ブルーの回

避方法が使い方を教えてくれた!


「sadako!」

「サバァ!」

「お前らの仲間が持っているデカイ剣を持ってきてくれ! 急いで」


 sadakoは山の中へと消えた。




「シンデクダサイ」


 アクアン・ブルーは氷を飛ばし終わったらしい。

 俺の前には血を流しながら倒れたグラサンとsadakoが転がっていた。

 俺は心の中で十字を切り――創聖剣を盾のように持ち直し身を守った。

 ――sadako……なるべく急いでくれ。


究極(アルティメット)不完全製造能力(・ザンネンスキル)……」


 この惨状で使いたくは無かった。

 ――だが使わなければ俺はこの場で死ぬ。

 マコが前に言っていた事だが、俺が死ぬイコールこいつらもこの世から消え去る。という事になる。


「頼む……俺を守ってくれ」

「オラオラァ!」

「サバァァ!」


 グラサンとsadakoが現れ俺の前で肩を組む。


「絶対離すなぁ! 勇者様を命をかけて守るのだぁ!」


 グラサンの一人の発言に、全員で「オー!」と返事をする。


「ジャマデス」


 またしても飛んでくる氷の破片。

 しかも今回のは先っぽが鋭利――尖っている。

 完璧に俺を殺すつもりで作ったと思われる形状をしていた。


「グハァ」

「ゴフ……」


 目の前で断末魔を上げ崩れ落ちかけるグラサンとsadako。

 だが肩を組みながら絶命していくため、死亡しながらも壁を作り、俺を守ってくれている。


「サバァァ!」


 山の奥の方からsadakoの集団が大剣を抱えて現れた。


「sadako! 手伝ってくれ」


 数人のsadakoとともに聖剣ゴッド・ハートを(かか)える。

 グラサンとsadakoが決死の覚悟で作り上げた壁の真後ろまでたどり着くと、中央にいたグラサンが肩を離し――道が開けた。


「行けぇぇぇぇ!」


 sadakoに囲まれながら、俺は聖剣ゴッド・ハートの剣先をアクアン・ブルーに向けて突進した。

 今俺はノーガードだ。

 俺の急所に氷が刺さった瞬間。

 俺らの敗北が決定する。

だが逆に! 聖剣ゴッド・ハートを切り込めれれば、俺らの勝利への道が切り開ける。


「シネシネ……シンデクダサイ!」


 アクアン・ブルーの感情を込めない声とともに氷の破片――(つるぎ)が飛びかかってくる。

 だが、これも運のうちか――数人のsadakoは倒れたものの、俺にはまだ破片

が一つも飛んできていない。

 ――だが、これも運命だったのだ。


「シニナサイ!」


 アクアン・ブルーの放った強烈に鋭い氷が、俺に向かって飛んできた。

 ――無理だ。速すぎて避けきれない。


「マコ、ミオ、ムーン……すまなかった」


 俺は目の前に向かってくる氷を眺め――死を覚悟した。

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