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第十九話:水を操る魔術師

 終了した。

 驚愕の表情に微妙に涙を浮かべた顔を最後に、神浄火煉はこの世から消し去られた。

 ――切り裂く瞬間、俺は心をどこかへ投げておいた。

 正常な自分の精神では、こんな怯えた女の子を表情一つ変えずに消滅させるなんて俺にはできない……


「メロン、何しんみりした顔してんのよ」


 俺と神浄さんを覆っていた風の壁が完全に消え、三姉妹たちが俺の傍へと

駆け寄って来た。


「大丈夫ですか? 勇者様」


 モモナに顔を覗き込まれ、俺は少々心の疲れがとれた。


「にゃぁ?」


 メロも舌を出しながらこっちを見つめ、嬉しそうに猫じゃらしのような植

物を握りしめていた。


「さっきの人はどこに行ったのです?」


 ムーンが辺りを見渡し、湿った地面と俺が創聖剣ウォーター・メロンを持

っている事に気がついたらしく、黙って俺を見てた。

 ルームランナーはゴロゴロ転がりながら、


「何しみったれた顔してんだよ、敵は倒さなきゃ進めねーんだから仕方無い

だろ?」


 そうだよな……こんな事で怖気付(おじけづ)いちゃいけないんだ。

 ――俺は……! 勇者として魔王を倒す!


「その言葉を無に返してやる」




 誰だ。人がせっかくやる気になっているっていうのに、やる気を()ぐよう

な事を言いやがって。


「メロン! 気をつけて、どこかに敵がいる」


 俺はパーティをの顔を見て人数を数えた。


「メロ、モモナ、グラサン、sadako、元勇者、マコ、ミオ、ムーン、モモナ

――」


 別におかしいことなんか――


「はわわわ! あなた誰なのですか!」


 モモナがモモナを指差して――あれ? そういえば俺さっきモモナを二回

数えたような気が……


「でも人数は合ってるよな?」

「バカ! 自分を忘れてるのよ!」


 俺を入れてもう一回数えてみた。

 ――ああ、確かに一人多いな。

 帽子を深くかぶった魔女は、ロ○ット団の二人組が変装を解いたときのよ

うにマントをぶわっと広げ――

 魔女さんの絶賛お着替え中にマントは重力によって地面にバサリと落ちた。




「んしょっ……」


 体育座りをして靴下を履きながら、下着姿の元魔女さんはどこかに電話を

かけていた。


「うん、魔王様! 私の能力を使えばこんな勇者チョチョイのチョイなんだ

からっ! 期待しててくださいね。それと……戻ったらまた可愛がってくだ

さいね? 精一杯甘えますから……♡」


 ポッと顔を赤らめ電話を切り、そばにあった真っ白な戦闘服を着衣してか

ら、少女は両手を広げてクルッとターンした。


「お前は何者だ!」


 今の会話から察するにこいつは魔王の手下――それもかなり近い手下だ。

 魔王が抱え込んでいる女性の一人なのかもしれんが、とりあえずかなり手ごわい相手であることは確実だろう。


「私は藍色の魔術師――アクアン・ブルーと申します」


 スカートをふわっと広げ、ペコリと頭を下げた。





 俺の頭の中にはこれまで戦った敵が浮かんでいた。

 ――強そうに見えて大したこと無かったフガシ……バカかと思ったら不死

身の身体を持っていたドラキュラ男――

 この子も何だか弱そうに見えるが、決してそんな事は無いのだろう。

 石橋を叩きすぎて壊す、なんて事は現実には有り得ないだろうからな――ここは慎重に行こうではないか。


「魔術師さんなら、私が相手をするなのですっ!」


 モモナ――気持ちは分かるがここは慎重にだな……


「喰らえっ! なのです」


 モモナの手から魔術的な何かが発され、炎が渦を巻きながらアクアン・ブ

ルーと名乗る少女に向かって放たれた。


 アクアン・ブルーは表情をピクリとも変えず、天高く飛び上がり――


「わぁぁぁ!? 何だあれ」


 山の頂上の方から(おぞ)ましい程の大量の水が波のように流れ込んでいた。

 ムーンは落ち着いたまま顎に手を当てて、


「なるほど、あれが濁流(だくりゅう)というものですか」


 分析してる場合じゃ無ェ! 水って言う物は意外と押し出す力が強いんだ。

こんなところに突っ立っていたら、全員流されておだぶつだぞ!

 ムーンはしれっと、


「sadakoに壁を作ってもらいましょう」


 漂○教室か!

 ――とか突っ込んでる場合じゃ無い。俺は自身の能力でsadakoを大量招集さ

せ、全員どこかから丸太や木の板を持って来た。


「お兄さん! 早くしないともう水がここまで来ます!」


 集まった数十万人のsadako、そしてそれを後ろから押さえる数十人のグラサン。

 ――防御力は完璧だった。



 物凄い轟音とともに、sadakoの大群が数十センチ後退したが――何とかsadakoダムが作られ、俺たちのところまでは濁流は来なかった。


「メロン! 早く倒しなさい!」


 マコの怒声を浴びながら、俺は創聖剣ウォーター・メロンを拾い上げる。

 濁流を生み出した魔女。

 藍色の魔術師ことアクアン・ブルーの能力とは何なんだ……


「モモナ! 大丈夫か?」


 モモナは全身に魔法陣を張っており、魔術的な何かの防御能力で自身の身体は守りきれたらしい。


「大丈夫です! それと勇者様、アクアン・ブルーには近づかない方が良いです!」


 近づかなきゃ剣を使う俺には倒せないだろ。

 しかしモモナは俺のズボンにしがみつき、必死に俺の全身を拒んだ。


「アクアン・ブルーの能力は……その場に膨大な量の水を発現させ、操る能力です……前に魔法学校で高等術の一つとして、存在だけは習った事がありました」


 なら、なおさら遠距離戦は不利じゃないか?

 モモナは真剣な目つきをして、


「接近したら最後。全身に膨大な密度の氷をぶつけられて、全身を粉々に破壊されるでしょう」


 あの小っちゃい女の子がか!?


「もしくは体内に大量の水を――」


 もういい、やめてくれ。

 じゃあどうしろって言うんだ。接近戦しか出来ない俺が、どうやって接近しないで戦えと言うんだ。


「私を頼ってください」


 モモナは自身の胸に手を当てて、真剣な眼差しを俺に向けた。


「私も……できるかもしれません」


 そう言うと、モモナは俺の唇を奪った。

 ――温かく甘い香りのするモモナの唇。鼓動が速まり、全身がドクドクと動

き出した。


「ぷはっ……。私の能力……使えますか?」


 (かす)かに残ったモモナの香り――だがしかし。


「特に変化は無いようだな」


 魔女っ娘とキスをしても、別に能力覚醒とか都合の良い事は起こらなかった。

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