第一話:妹を預かってください。
「妹を預かってください。一人につき一つ、この世界で勇者として生きて
いくために必要な能力を与えられます」
なるほど、ハーレムとチートを同時にもらえると?
「この子達は全員魔王と私の母達の子供なんです」
魔王って絶倫だったの!?
「お願いです。この子達から授かった能力で魔王を倒して来てください、
私はこれ以上妹が増えるのは嫌なんです」
酷い姉だな……
「これでも……もう今までの勇者様に数百人の妹を預けてこの数なんです」
撤回する。かわいそうなお姉さんだ。
「魔王は数千人の女性を抱え込んで生活しています。これまで数百人の勇
者様が闘いを挑み、誰一人として戻っていません――十分お気をつけを」
せっかく頑張ろうとしてるのに……余計な事言うなよ……
「じゃあ、この子とこの子とこの子」
目に付いた中では大人しそうで、少し年上っぽかったので――冒険の邪
魔にならないだろうと信じ、三人の女の子を決めた。
「では……勇者様、しゃがんでください」
何するんだ? 俺は言われた通りその場にしゃがみ――
「んぐっ……」
三人とも白いワンピースのような物を着ているのだが、その中でも赤い
線の入った娘――名前はマコと言うらしい――が、俺にキスをしてきた。
「ぷはっ……」
俺の口から舌を抜き、気の強そうな表情で俺を見つめた。
「んーとですねー……」
お姉さんは落ち着いたままサングラスのような物をかけ、俺を見て言っ
た。
「究極不完全製造能力って言う能力で……」
お姉さんは首を傾げ、
「黒服の怖いおじさんとsadakoを生み出す能力らしいです。人数を指定で
きず、発現する人数とタイミングはマコの気まぐれらしいですね」
「あの……」
俺とお姉さんが同時に声を出した。
「sadakoって何ですか?」
お姉さんはきょとんとした表情で、
「ではスカウターで調べてみます」
さっきのサングラスの横のネジをクリクリとさせ、じっと見ていたが。
「髪の長い女の方で、身体能力は通常の人間(勇者の元の世界の人間)の数
倍――テレビジョンの中などから現れるが、某有名幽霊とは何の関係も無
い。……だそうです」
ああ、あれか。
次にミオと名乗る黄色の線の入ったワンピースの女の子が俺にキスをし
た。さっきのマコと違って深く無く触れ合うだけだった。
お姉さんはサングラスをかけ、
「えーと……創聖剣ウォーター・メロンを操る能力らしいです」
なんだそのスイカみたいな名前の剣は。
――とか何とか考えていると、空からでっかい大剣が降ってきた。
「危ねぇ!」
俺の目の前の地面に突き刺さり、俺はなんとか難を逃れた。
「その剣は――切り裂いた物を水と酸素にしてしまうと言う、環境にとて
も優しい最強の剣だそうです」
優しくて最強ね……
「ちなみに能力名は、聖的敏感剣俺最強――と言うらしいです」
ちなみに今の俺、
姿:制服
武器:創聖剣ウォーター・メロン
能力:究極不完全製造能力
聖的敏感剣俺最強
備考:非リア
最後の娘、ムーンと言うらしいが――俺の顔を見るなり身震いをし、お
姉さんの陰に隠れた。――あ、そう……そんなにキスするの嫌ですか。
「ムーン! 勇者様とキスなさい!」
ムーンは首をフルフルと横に振り、
「まだ時期では無い」
時期では無いって――どう言うこっちゃ……
お姉さんが首を傾げ、
「まだ必要無い能力なのですね? では必要になったらお願いねっ!」
お姉さんは俺の方に手を振り、
「いってらっしゃい、頑張ってくださいね!」
俺はマコ、ミオ、ムーンの三人を連れていざ冒険の旅へと出発した。
「お兄さん名前何て言うの?」
歩き始めて数分後、マコに聞かれた。残念だが名前は憶えていない。
「ふーん……じゃあマコ、ミオ、ムーンだからメロンで良いわね」
異世界来て初めて付けてくれた名前がメロンですか……
「私はお兄さんって呼ぶ。メロンさんって呼ぶのなんかヤダ」
ミオちゃんは少し気を使ってくれたんだろうか? ありがとう……凄く
傷ついた。
最後にムーンがぼそりと、
「私は奴隷って呼ぶわ」
ルビの下が最悪なんですけど……
しばらく歩いていると、急にマコがハッと立ち止まった。
「鬼がいる」
鬼?
「敵よ! メロン――私の能力でこの辺一帯を探して!」
俺は究極不完全製造能力を使い――
「オラオラオラァ!」
「サバラララァ!」
グラサンのおじさんと髪の長い女性が大量に出てきた。うんごめん、自
分で出しといてなんだけど、凄く気持ち悪い。
「みんな! この辺に鬼がいる。捕まえて来て!」
マコの指令にグラサンとsadakoは、
「イエッサー!」
「ウホッ!」
クモの子を散らすように一斉に森の中に消えた。あちこちで叫び声が聞
こえるけど、大丈夫かな……?
数十分の戦いの後。グラサンとsadakoが数人戻り、鬼が三人付いてきた。
どうやら他の鬼は倒したらしい、グラサンとsadako強ぇぇ……
「お前ら、また勇者だな」
また勇者?
「次から次から何人寄こすんだ。何度ぶった切っても毎日のように来る!
俺らだって毎晩ぐっすり眠りたいんだよぉぉぉぉ!」
どうやら寝不足らしい。目が血走っている。
「テメーら良く聞け! 俺らはもう勇者をぶった切るお仕事は疲れた。や
りたく無い! だがな、こうして毎日毎日来られるとこっちだってストレ
スが溜まるんだよ! だから今回は俺らが闘いのルールを決める!」
勝手に何始めてくれちゃってんですか。
「今回のお題は――野球拳だ!」
しばらく俺は茫然としていた。は? なんておっしゃいまして?
鬼はニヤニヤ笑いながら、
「そこのロリっ子三人と俺らで野球拳で勝負する! お前はそこで眺めて
ろ、良いな!」
お断りだ! と言おうとしたが――
「望むところよ!」
マコが威勢の良い声で立ち向かった。――だがマコ、ちょっと待て。
何故か知らんが鬼は数十枚の服を重ね着している。こっちの三人の少女
はパンツとワンピースだけ、どう見ても鬼が有利に決まっている。
「大丈夫よメロン! 私絶対負けないから」
もしかしてジャンケン無敗とか言う能力を持っていたりするのか! な
ら頼もしい。こいつらにマコの能力を見せてやれーっ!
「ジャンケン……ポイ!」
鬼:パー
マコ:グー
……全然ダメじゃん! 初っ端から負けてるよ!
「あれれ……?」
マコは自分の手を見つめながら後頭部をかいていた。冗談じゃ無いよ!
野球拳って……あれだろ? 負けたら服を一つ脱ぐって――
「ほれ――成長前の綺麗な身体を見せとくれ」
鬼が顔を赤らめニヤニヤしている。この鬼たち変態……ヤダもう。
俺は「やれやれ」とボヤきながら側にあった石の上に腰掛けた。しゃー
ない、マコが負けた瞬間。創聖剣ウォーター・メロンで真っ二つにするし
か無ぇな。
「では脱ぎます」
マコは平然と――ワンピースでは無くパンツを脱いだ。
鬼たちは目を丸くしてマコの脱衣姿を凝視している。ダメだこいつら…
…本格的に人――鬼として終わってる。
しかし俺はこの後のマコの言葉に、心の底から頭を抱える事になった。
「これ、欲しい?」
マコは指に下着を引っ掛け、クルクルと回している。鬼たちは必死にそ
の行方を追い、頷いた。
「じゃあ! これからのジャンケン全部グー出して! そしたらあげる」
やり方は文字通り汚いが、なんたる策士――マコは実は凄いのかもしれ
ない。
鬼は「ウォー!」だとか叫び、ジャンケンが終了するまで三人ともグー
しか出さなかった。――変態さんが相手で助かったぜ……
素っ裸になった鬼は「はぁはぁ」言いながらマコに近づいてきた。さて、
俺は変態鬼さんを退治する仕事にかかりますか……
スパリと良い音がして、俺の創聖剣ウォーター・メロンは鬼たちを真っ
二つに切り裂き――上半分は酸素となり空中に紛れ、下半分は水になり―
―地面へと染み込んでいった。――これでひとまずめでたしめでたしだ。