表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/43

第十七話:変わった温泉

「おいルームランナー」


 俺は元勇者(ルームランナー)を持ち上げると、ぐるぐる回って遠心力を利用して遠くまで

ぶん投げた。


「痛ぇ! 何すんだ現勇者(メロン)

「何すんだじゃ無ぇよ。何が温泉だ」


 ルームランナーはゴロゴロ転がりながら、


「俺が来るよりもっと前に某合衆国から転生した勇者だかが、『ニッポン

のオンセンヤドは立派でーす。この世界にも取り入れるといいデース』と

か何とか言って作らせたらしい」


 ニッポンバンザイ大国か……


「俺も前にここで疲れを(いや)した。お前もここで少し休め、それとだな……」


 元勇者が俺の耳元に近寄った。


「ここの温泉宿は元の世界の温泉とはちょっと変わってるんだ。見たらび

っくりすると思うぞ」





 扉をくぐり抜け入った途端、俺は目の前に広がったデカ文字に心の底か

ら頭を抱えた。


「男湯」


 これはまだ良い。


「混浴」


 ――女湯はどこだよ!

 入口付近で茫然とする俺(勇者)。

 何だよこのエロ大魔神の野望と願望で作られたような温泉は。


「責任者呼んで来い!」

「その勇者なら魔王の手下に殺されたよ」


 元勇者はしれっと答える。

 ――なるほどね、確かにびっくりした。

 まぁ確かにここまで来るのは歴戦を勝ち抜いた勇者と、連れてきた妹ちゃんだから――女湯が必要無いっちゃあ必要無い。

 もし女勇者だったら、それはそれで男がいないんだから混浴に入っても

何の差し支えもない。

 うむ、確かに理にかなっている――


「んなわけあるかぁ!」


 ――三姉妹に妙な感情を抱かないのは確実だ。

 俺はロリコンじゃ無いからな。

 だが待て、うちには若干二名ヤバいのがいるだろう……

 発展途上中なモモナと見ただけで心が奪われそうなネコ耳娘。

 この二人の素肌を見て正気でいられる保証は俺には出来ない。

 だからと言ってこんなに素晴らしい「温泉」というものに入らせないなんて、そんな鬼のような事は俺には出来ない。


「俺は男湯に入る。ルームランナー、お前もだ」

「ちょっとちょっと……俺は混浴に入りたくてだな? お前! 家電をお

湯に()けてもいいと思って――」

「ドボ~ン!」


 ルームランナーをお湯の中に投げ込み、浴槽に波紋(はもん)が広がった。

 ――やれやれだぜ。





「はぁ……」

「……………」

「は~ぁ~……」


 うるさいなさっきから、何だよお前。


「何だよじゃ無いだろ……せっかく可愛い魔女っ娘ちゃんとネコ耳ちゃん

がいるのに、何が悲しくて男湯なんかに浸かってるんだよ」


 やっぱりこいつは……


「ああ~! 魔女っ娘ちゃんかネコ耳ちゃ~ん!」


 真性のアホ。だな……

 俺が元勇者のアホさに「やれやれ」と溜息が出そうになっていると、

 突然外からドタドタと足音がした。


「勇者様ぁ! 大変です」


 突然男湯の扉がガラっと開き――


「ごふぅ!」


 可愛らしい魔女っ子さんが腰のみにタオルを巻き、素っ裸(普段からそ

うだけど)のネコ耳娘を抱えて飛び込んできた。


「メロちゃんの能力が分かりました! 凄いんです」


 メロちゃん?


「……にゃぁ」


 ネコ耳娘の名前はメロになったのか。何か俺の名前に似ている気がする

のは気のせいか?


「見てください!」


 ――これまたスベスベしたお綺麗な素肌ですわね。とでも言って欲しい

のか。


「にゃぁ?」


 メロが全裸で俺に飛びついてきた。一応言っておくと俺も全裸だ。風呂

だからな、すなわち全裸×全裸いわゆる「()・ハグ」とかいうボーイ・ハ

グ・ガール――ならぬボーイ・ハグ・キャット。

 ――とか訳解らんツッコミは置いておいて。


「にゃぁ?」


 耳元で恐ろしく愛らしい声をあげる。

 ――こら足をバタバタさせるな、当たってる当たってるってば。


「にゃぁぁ?」


 物凄い高揚感(こうようかん)とともに、極上の快感が俺を襲い――

 引くな。別にいかがわしい意味じゃねーよ。


「これがメロちゃんの能力です……」


 俺の身体から(あか)という垢がボロボロとこぼれ落ちた。



 ヒリヒリする。凄くヒリヒリして身体中の表面が凄く痛い。

 例えるなら海水浴に行って真っ黒に焼けた肌を、上から下まで一気に()

ぎ取ったような――


「にゃぁ」

「痛ぇぇぇぇぇぇ!」


 メロの能力はいたって簡単、身体に付着した汚れを綺麗に削り取る――

まさに除菌も出来るメロ。

 でも制御できないみたいで、身体中の垢をこそぎ落とされた。

 マジで痛い、救急車カモォ~ン。


「大丈夫ですか!」


 慌てて俺の身体を撫でるモモナ。


「あぉぉぉ!」


 痛いから! マジショック死するから、早く魔術的な何かで治してくれ!


「はーい。でもお洋服着てからにしますね」


 そう言ってメロを抱えると、男湯から出て行った。


「ほほぅ……」


 元勇者がいかがわしい声を発した。

 ――場合によっちゃお前をこの風呂の栓を繋いでいるチェーンに縛り付けて放置してやるぞ。


「魔女っ子ちゃんはまだまだ発展途じょ――」

「ブクブクブク……」


 元勇者を風呂に沈め、俺はその上にドッカリと座った。


「おのれ勇者ぁ……!」


 何を言ってもどかないぞ。


「男にしては良いケツをしておるの、お主」


 ――光の速さで俺は元勇者の上から離脱した。





 外に出ると、肌がツヤツヤになった三姉妹が混浴の扉の前で座り込んで

いた。

 モモナだけ特に変わっている様子が無かったので、多分俺と同じ目に遭

ったところをモモナの魔術的な何かで回復させたんだろう。


「メロン! 私の肌綺麗でしょ」


 マコに飛びつかれ、俺は床に倒れ込んで悶絶(もんぜつ)した。


「ああっ! 忘れてました」


 モモナにそっと撫でられ、全身のヒリヒリ(つう)が無くなった。

 やれやれ。


「さぁ……先を急ぎましょうか」


 ムーンが立ち上がり、混浴の脱衣所から湯気のたったsadakoとグラサン

が浴衣を着て出てきた。

 ――お前ら……旅行に来たんじゃ無いんだよぉぉ!





 温泉を出てから歩くこと三十分弱。どうやら敵は現れない、安全に山を

登って魔王城への道を辿っている。


「このまま敵が現れ無ければ――」

「メロン、その言葉聞き飽きたわ。どうせ同じこと言うなら、もっと面白

く言いなさいよ」


 ではご希望通りに……


「誰も出ない――ここは本当に戦場か?」

「つまんないわ」


 だろうな。俺だってつまらないが、楽な方が良い。

 俺は前世で遊園地に行っても(一人で行きました)ジェットコースターに乗ったことは無いんだよね。

 マコは頭の後ろで手を組みながら、さもつまらなさそうに歩いている。


「はぁ……ここで超強い敵とか出てこないかしら」


 待てマコ。仮に出てきたとして、戦うのは誰だ? ――もちろん俺だ。

俺は無駄な戦いはしたくない、だからわざわざ出てこなくても――


「勇者メロン! その首頂戴いたす」


 袴姿の女性が薙刀を持って現れた。

 ――何だよこのタイミング…… 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ