第十六話:ネーミングセンス
フガシは凄くスッキリした表情で俺たちを見た。
「初めてだ……俺の二つ名と通り名を全部最後まで聞いてくれたのは……
俺今めっちゃ感激してる」
その感激を冥土の土産に――駄目だ。
こいつのせいで若干こじらせ感のある言葉遣いになっちった。
フガシはニッと歯を見せて笑い、
「俺の能力! 未完全製造・右方!」
ガサガサと辺りから音がした。
――まずいぞ。もしこれでsadakoとかグラサン以上の戦闘力を持つ者が
現れたら、魔王どころかこいつを倒すこともままならないだろう。
「ハーイ!」
「ニャー!」
妙な高い声と同時に出てきた人々を見て、俺は心底ホッとした。
「ハァーイ」
ナイスバディなギャル娘さんが大量に現れた。
――何か……理想をそのまま作り出したような能力だな……
「ニャァ~ン」
可愛らしく猫の鳴き真似をするネコ耳娘も大量にやってきた。
――ギャル娘とネコ耳娘のハーレムはいかがですか~とか言って怪しい
商売でもできそうだ。
ギャル娘はボインボインな膨らみを上下左右に揺らし、ネコ耳娘は自身
の肌色な腕をペロペロと舐めている。
――別の意味で物凄く役に立ちそうな能力だな。
「フフフ。我が下僕たちよ……この勇者とやらを永遠の闇へと沈めてさし
あげろ」
ギャル娘はギロっとフガシを睨み、
「はぁ? 何命令しちゃってんの?」
「にゃぁ~」
ネコ耳娘は俺の膝に擦り寄り甘え始めた。
――ああもう! 一つもらっても良いですか!?
フガシはそれどころでは無かった。数十人のギャル娘に囲まれ、全員に
見下ろされている。
――ドMなら超喜びそうな光景だけど、フガシ君はどっちなのかな?
「やかましいぞ!」
フガシはギャル娘の胸を全員分撫で、一瞬にして全てのギャル娘を家電
製品にしてしまった。
ゴロゴロと転がる電子レンジ。
空気清浄機とか加湿器とか――俺の家に無いような高級な家電が――え?
普通の家にならあるって?
「仕方無ェ。俺の第三の能力を使って倒すしか無いようだな」
もしや。魔王の三つ目の能力に何か関係がある能力かもしれん……
俺は創聖剣ウォーター・メロンを掲げ、盾のようにかざした。
「我が究極の黒魔術――闇の遊戯板!」
はあぁ! と言いながら右手を俺に向けたが、黒魔術的な何かどころか
煙さえ出なかった。
「ふっ……勇者。我が究極の黒魔術を受けて立っていられるとは……恐る
べき生命力! そこまでしてこの世に未練があるか」
未練っていうか、とりあえずこのネコ耳娘を抱いても良いですか?
凄く可愛いんですけど。
「だが我が五つ目の能力でお前を消し飛ばしてやるわぁ! ――四つめは
死を示すから縁起悪いって母ちゃんが言ってた」
――突然喋り方を変えるな。思わず驚いてしまったではないか。
フガシは「ハッハッハッハ」と高笑いをして。
「我が最強かつ混沌のエネルギー! 暗黒鎧の死弾!」
結局フガシの右手からは何も出なかった。
――とりあえず害は無さそうだが、このまま放っておいても邪魔だし、
しかも敵なので創聖剣で討伐することにした。
「にゃぁ」
俺は思わずネコ耳娘をギュッと抱きしめ、創聖剣を掲げたままフガシへ
と全身全霊をこめた突進を食らわした。
「我が右腕の最強防御壁――」
フガシの抵抗も虚しく、フガシは残ったギャル娘とネコ耳娘と一緒にこ
の世から消え去ってしまった。
――ちょっと残念だな。さっきのネコちゃん可愛かったし……
「にゃぁ」
俺はびっくりして腕の中を見た。するとさっきの可愛らしいネコ耳ちゃ
んがペロペロと俺の腕を舐めていた。
――あれ? フガシが死んだのになんで生きてるんだこいつ。
「もしかしてそれ。本物のネコ耳ちゃんなんじゃないの?」
マコが恐る恐るネコ耳娘を撫でると「にゃぁ」と幸せそうに鳴いた。
「ニャアニャア鳴くのは?」
ムーンの問いに思わず「ウミネコだ」とか答えそうになったが、ちょっ
と待てこの世界にはこんなに可愛らしい生物がいるのか!?
「にゃぁ」
スベスベした身体にちょこちょこっと毛が生えている。
可愛らしいお目目でじっと俺を見つめ、愛らしい声で「にゃぁ」と鳴く――
「連れて行こう!」
三姉妹もモモナも気に入ったらしく、ネコ耳娘は俺の背中にペタリとひ
っつきながら嬉しそうにペロペロ俺の首筋を舐めていた。
――チャッチャラ~ン。仲間が増えた!
現在のパーティ
マコ:三姉妹の多分一番上のお姉ちゃん。なんだかやたらと俺に突っか
かってくる。
能力:究極不完全製造能力
ミオ:おっとりした大人しい女の子で、多分次女。
能力:聖的敏感剣俺最強
ムーン:現時点では能力不明。多分この中では一番末っ子。もしくは三
つ子で同い年。
メロン:勇者(主人公)。俺。シャンプーで言うところの外身。三姉妹の
能力を強化して使える。
姿:制服
武器:創聖剣ウォーター・メロン
能力:究極不完全製造能力
聖的敏感剣俺最強
備考:元非リア
モモナ:「魔術的な何か」を使うことができる魔女っ娘さん。虫が苦手、
特に足が多い虫を見ると気絶します。
sadako:マコの能力で増加する。身体能力は地球上の人類の数倍。
きっと来る。とは全くの別生物です。
グラサン:マコの能力と俺の能力がシナジーする事で生み出せる黒服の
怖いおじさん。拳銃とか持ってる。能力で増加する。
ざわ・・・とか効果音が聞こえてきそうだけど別人。
元勇者:これまで召喚された勇者で、魔王と出会い唯一生き残っている
勇者。
現在は魔王の能力でルームランナーの姿にされているが、思考
能力や言語能力はまだ残っている。
能力:一度目にしたものは完璧に記憶する。
ネコ耳娘:吾輩はネコ耳娘であり、名前はまだ無い。
可愛らしい少女にネコ耳が生えて、危うい箇所にネコ毛が生
えているような見た目をしている。
しっぽもあります。ぴょこぴょこ動いて可愛いです。
能力:あるかどうかもまだ不明。
可愛らしい仲間も手に入り、凄くほんわかした気分で魔王城への旅を再
開した。
ちょこっと顔を向けると「にゃぁ」と可愛らしく鳴き、俺は思わず頬が
緩む。
「私にも抱かせて!」
「何よ。次は私なの!」
「二人ともおよしなさい、私が抱くんだから!」
「三人とも~! ここは公平にこのモモナお姉さんが……」
凄い人気。さっきから三姉妹やモモナ――挙句の果てにはsadakoやグラ
サンもネコ耳娘を抱っこしていた。
――とりあえず名前をつけてあげなくちゃな……何がいいだろう。
「にゃぁ」
にゃぁにゃぁ言ってるし――「ニャァ」なんてどうかな?
――勇者パーティ全員が俺を見て、例えようも無いような物凄い顔をし
た。
「あんたそれ本気で言ってんの?」
マコに心にグサッとくる感想を言われ、俺は誰かの名前を考えるのは一
生しないことにしようと心に決めた。
「おっ! そろそろだぞ」
元勇者が嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねた。
――もしや魔王城がそろそろ見えてくるのか?
「温泉だ」
元勇者の案内する先には元の世界でいうところの和風な建物があり、
「おいでませ温泉宿へ」と書かれていた。