第十四話:不死身人間ぎゃあとるズ
気絶したグラサンを介抱し、モモナの魔術的な何かで回復させ終わり―
―またしても俺たちの冒険は開始される。
さっきから何も出てきやしない。
もうこのまま魔王城まで何事も無くいけるんじゃないか?
もしくは森に放したsadakoとグラサンが戦績を上げているのかもしれな
い、あれはあれで最初に鬼の群れを倒せるほどのレベルだからな。
モモナが安心した様子で、
「もうしばらく何も来なさそうですよ」
俺はホッとしたと同時に何だか退屈もした。
――だからといって突然魔王級の強敵が現れたら現れたでそれは困るけど
な。
「フゥーハハハハ!」
妙な笑い声と同時に地面がボコボコと膨らんだ。モグラでもいるのか?
とりあえず俺は創聖剣ウォーター・メロンで地面の膨らみを切り裂いた。
「サシュッ……」
といい音がして、膨らんだ地面は水の溜まった穴へと姿を変えた。
――マジにモグラだったのか? なら悪いことしちまったな……
俺が少しばかり罪悪感を感じていると、また……
「フゥハハハハハ、ハハハハハハハハアッハハハハハハハハハハハハハア」
明らかに正常では無い。何だこれ。
俺は膨らんだ地面を踏みつけた。――すると地面の下から、
「痛いわね! 神聖な乙女に傷でもついたらどうするのよっカバっ!」
――と、低いおっさんの声で聞こえた。やれやれだ……
「誰だあんた」
「お答えいたしましょう!」
さっき俺が水にした場所から、ドラキュラのような男が姿を現した。
「てめぇか、さっきからうるせーのは」
「その通りでごさいます。勇者様」
これまでの敵みたいに胸糞悪い言葉遣いをしないだけマシだが、これは
これでなんかムカつく。軽くケンカ売られてる気分だ。
「メロン! 逃げて、さっきの笑い声はこいつじゃない!」
マコの忠告に、俺は数歩後ろに下がった瞬間。
「フゥー! ハハハハハハハハハッハハハアアアハハハハハ」
全身腐敗臭、頭には数本の釘が刺さった巨体。
――フランケンシュタインか。
ドラキュラ男はそばの岩の上に立ち、
「フランケン! その余りある力と不死身の身体で勇者達をやっつけてお
しまいなさい!」
「ハハハハアハハハハハアアアッハハハッハ」
フランケンはこっちに向かって突っ走ってきた。途中でsadakoが数人タ
ックルを仕掛けたが、攻撃の甲斐無く弾き飛ばされてしまった。
「オラオラオラァ!」
グラサン数人の射撃。だが不死身の身体には弾丸がめり込むだけで、走
ってくるスピードをほんの少しも緩めようとしない。
「ならばこの創聖剣ウォ――」
創聖剣を掲げた瞬間、突然飛んできた短剣に右手を貫かれ――創聖剣ウォ
ーター・メロンを手から落としてしまった。
飛んできた方向には――
「流石の勇者でも、二人を相手にしては犬死にするしか無いようですなぁ」
ドラキュラ男が短剣を振りかざし、
「その剣を拾おうとしたら、次は喉元を狙いますよ」
オホホホホとか貴族のように笑っているが、やつの命中率はかなり良い。
これはマジに創聖剣を拾うことができないのかもしれん……
「とりゃぁぁ!」
モモナの可愛らしい声とともに、ドラキュラ男の立っていた岩が真っ二
つに割れ、ドラキュラ男の足場が崩れた。
「今なのです! 創聖剣ウォーター・メロンを拾ってフランケンとか言う
あのでっかいやつを真っ二つにしてやるです!」
ドラキュラ男が足場を無くしてふらついている間に、俺はすぐさま創聖
剣ウォーター・メロンを拾い上げ、フランケンに向かって振りかざした。
「死ねぇ! この腐敗者ぁぁ!」
フランケンの突進の力は破格のパワーだった。綺麗に半分に切り落とす
間にも、ゆっくりと俺の方へと近づき――あと一歩で殺される! という
ところでなんとか真っ二つに切り裂いた。
「ギャハァァァ!」
真っ二つにはできた物の、フランケンの中身は空っぽだったらしく――
綺麗に切り落とすには外まわりを、ノコギリで切る時のようにギコギコ切
り落とさなければならず、意外とこの世から消し去るのには時間がかかっ
た。
ちなみに俺がフランケンを始末している間、モモナの魔術的な何かとド
ラキュラによる死闘が繰り広げられていたらしいが、俺はフランケンが復
活する前に水と酸素にしなければならず、よそ見をしていられなかったの
で残念ながらモモナの大活躍を見ることは出来なかった。
「やりますね!」
「ドラキュラさん……あなたも何か能力を持ってますね!」
モモナの身体がガクガクと揺れ始めた。――どうやらかなりの魔力消費
があったらしい、MPとかそういうのがあるのかは知らんが――充電が必要
なら、今のうちにしておいた方が良い。
「ここは俺にまかせろ、決着は俺がつける」
「かかってきなさいっ!」
ドラキュラは俺の前まで飛び出すと、ポケットに手を入れたまま俺の前
で「気をつけ」の姿勢で堂々と立っていた。
――こいつは俺をバカにしてるのか? それともこの体勢で俺を倒す策
があるのか……
ドラキュラ男は黙ったまま俺を見つめている。――うん、ただのバカだ
な。
「死ねぇ!」
創聖剣ウォーター・メロンで真っ二つに切り落とし、ドラキュラ男は一
瞬で自然環境の素となった。
――やれやれ、おバカさんで助かった。
「そうでも無いんですねぇ」
地面に染み込んだ水が集まり、そのままさっきのドラキュラ男の形にな
ったかと思うと――
「私の能力を見くびられては困りますよ」
元の姿に戻った。――バカな……この創聖剣はあらゆる物質を水と酸素
にすることができるというのに……
ドラキュラ男はニマリと笑い、
「私は身体をどんな物質に変えられようと、土に帰ればすぐに元の姿に戻
る事ができるのです」
――すなわち、お前を倒すには殺してから空中に放置すれば良いってわ
けだな?
俺は嬉しさのあまりニヤケが止まらなかった。簡単じゃないか、だった
ら――
「ミオ!」
うつらうつらしていたミオはハッと顔を上げると、俺の方を見て首を傾
げた。
「なーに? お兄さん」
「ちょっと来てくれ」
俺が呼ぶとミオは可愛らしくあくびをして走ってきた。
――ドラキュラは紳士なので少女とのお話中には攻撃してきません。
規則ですから。
ミオは俺のお願いをコクコクと頷きながら聞き、小さな手でOKマークを
作ってからさっきまでいた木陰まで戻って行った。
「では対戦を――」
次に俺はマコを呼んだ。
――大事なことなので二回言うが、ドラキュラさんは紳士なので、少女と
のお話中は攻撃してこない。
これが鉄則です。
マコは嬉しそうにニンマリと笑うと、俺の頬に優しく手を当ててから木
陰へと戻って行った。
――たまには可愛いことしてくれるじゃ無いか。
「対戦再開だ!」
ドラキュラがキバを向き俺に向かって飛びかかってきた。俺はすかさず
創聖剣の刃をドラキュラに向け、真っ二つに切り裂いた。
「アギャァァァァァ!」
水が大量に――だが今回のは通常の水では無く、真っ赤な水――いわゆ
る血液だ。この世界のドラキュラに血が通っているかどうかは知らんが、
とりあえず何らかの体液が大量に降り注いでいる。
――ヤバい、目がチカチカして吐き気が……
「おえぇ……」
マヌケにも勇者が吐いてしまった。――でも仕方無い、目の前で血だら
けになったドラキュラを切り裂いているのに、「何とも思いません」なん
て言えるやつぁ、重度の中二病か職歴の長い警察官くらいだろう――他は
知らん。ここで救急隊員は? とか消防隊の人ー! とか言う人は直接本
人にでも聞いてくれ、ただお仕事の迷惑にはならないようにしろよ?
「サバァァァァァ!」
さっきマコに頼んでおいたsadakoの群れがドラキュラの半死体に突進し、
どこか遠くへと運んで行った。
ちなみにミオを呼んだのは、一時的に創聖剣の能力を消してもらうため
で――いくら紳士でも攻撃抑制させるのはいささか反則かなぁ? とか思
いながらも、俺はマコミオのおかげでドラキュラに復活されずに済みそう
だ。
「うぷっ……」
とりあえずこの戦いで失った物は、モモナの魔力ポイントみたいな物と
俺のこれまで大量出血なる物を見たことが無い! という黄金歴史だな。
――持ってて意味のあるものかは知らんけど。