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第十二話:元勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている。

 三姉妹が戻り、俺たちパーティは魔王城を目指して冒険を再開した。ま

ったく無意味な戦闘で時間と体力を使っちまった。


「すみません……なのです」


 モモナがシュンとして(うつむ)いた。いや大丈夫、別にモモナが悪いんじゃ無

いからな、悪いのは全部あの物分りの悪いクレイとかいう魔法使いなんだ

からな。

 マコが俺の脚にひっつき、


「ねぇメロン。さっきから気配を感じるんだけど、また誰か敵が――」


 待てマコ。これまでの勇者は鬼のあたりで惨殺されてるんだ。何故今回

に限ってこんな休む暇も無く魔王は刺客(しかく)を送り出してくるんだ。俺はもう

これ以上戦うのは嫌だぞ。


「ハッハッハ」


 聞き覚えのある高らかな笑い声とともに、電化製品がゴロゴロと転がっ

てきた。


「ハハハ、私だ」


 ルームランナーかよ。


「だからルームランナーなどでは無いっ!」


 元勇者こと現ルームランナーは高らかに笑いながら、


「もうすぐこの森を抜けるぞ、良かったな!」


 何だろう、凄く良いことを言っているのに無性に殴りたくなってきた。

 ルームランナーはぴょこぴょこ飛び跳ね、


「だがこれからだ。この森を抜けると魔王城の手前の山にたどり着く、そ

こが厄介なんだ。魔王城からは勇者の居場所が丸見えだから、休む暇も無

く刺客がやってくる」


 これからもっと増えるのかよ……


「ハッハッハ! そんなに落ち込むな、何故俺がここまでお前らを追いか

けて来たかわからんのか?」


 まさか一緒に戦ってくれるのか!?

 ルームランナーは「えへん」と胸を張り(本当にそう見えた)


「俺はここからの道を(おぼ)えているからな。それに俺以降の勇者でここまで

来れたのはお前が初めてだ。――もしかするとお前は十年に一度の天才勇

者かもしれん」


 十年に一度……褒められてるんだかよく解んねぇが、一緒についてくる

ってやつは大歓迎だ。sadakoにでも運んでもらおう、その姿で移動するの

は結構大変だろう?


「ありがとな、礼を言うぜ!」




 マミムメモのパーティにルームランナーも追加され、sadakoとグラサン

を除くと実質六人のパーティ――と言いたかったが、ルームランナーはル

ームランナーであり現在は人では無いので、戦闘力が増えたー! と喜ん

でいいのかはよく分からない。

 しかしルームランナーの言ったとおり森は抜けることが出来た。

 脇道に入ると小さな町があることを、偵察に行ったsadakoとグラサン

から教えられたため、sadakoとグラサンには引き続き森と山の周辺を偵

察してもらいグラサン二人を含むマミムメモパーティプラスワンは、近く

の町で宿をとることにした。

 眠らないにしても、ずっと歩きっぱなしでは疲れてしまう。現に三姉妹

と魔女っ娘はもうクタクタで足もふらついていた。


「疲れたー……早く転がりたいわ」


 道を見つけたグラサンに案内され、俺らは町に着き宿を見つけることが

できた。





 小さい町にしては綺麗で大きい宿だったので、俺は何となく宿主に「で

かくて綺麗っすね~」なんてのんきに聞いてみたが、宿主は暗い顔で「そ

こに魔王城があるから勇者様用に一応……な」とボソボソ呟いた。

 でっかい剣を持ってるから勇者だってすぐわかると思ったけど、宿主の

お爺さんは俺らが魔王討伐の勇者パーティだとは微塵(みじん)にも思わなかったら

しく、ごく普通の大部屋に全員一緒に詰め込まれた。

 ふかふか――とは言えないベッドの上に乗り、マコがキョロキョロと辺

りを見渡した。


「そういえばさっきのでっかい剣はどうしたのよ?」


 ああ……あれか。あれならsadakoが持ってる。森で狩りとかができるだ

ろ? それにあんな重いもの持ってても俺には無用の長物だ。


「ふーん」


 マコは残念そうにベッドに倒れ込んだ。ミオも隣に転がり、ムーンもそ

ばに座り――モモナは可愛らしい寝息をたてていた。

 ――ん? 寝息?

 そばに立っているグラサンが前に話してくれたおっさんと同じやつかど

うかは分からんが(多分違うだろうが)一応聞いてみる事にした。


「魔術的な何かを使う方の中には、勇者様の元の世界でいう『眠る』に近

い行動をする方はいるようですね。でもあれは魔術的な何かのエネルギー

を回復させている状態――いわゆる充電みたいなものですが」

「スピィ~……♡」


 可愛い。眠ってる女の子の顔なんて初めて見たけど、こんなに可愛らし

いものなのか。

 俺も眠らないと明日からやってけそうになかったので、モモナと密着す

るようなかたちで(ベッドが狭いんですよ)高鳴る胸を抑えながら、ゆっく

りと眠る事にした。






「ギシ……ギシ……」


 誰かが廊下を歩いている。――(さび)れてるにしても宿は宿だ。誰か泊まり

にでも来たんだろう……


「ギシ……ギシ……はぁ……はぁ……」


 まさかお隣のお部屋様が新婚さんなんてオチは無いだろうな? こっち

は男三人(俺とグラサン二人)に女四人という、超ウルトラ級な擬似(ぎじ)ハーレ

ムなんだぞっ! まあ内三人が幼女なので、ハーレムには程遠いがな。


「はぁ……はぁ……」


 どうやら俺の考えは違ったらしい。これは性的興奮による(あえ)ぎ声ではな

く、ゾンビとかが人間を襲う時のような――すなわち攻撃的な野郎がこっ

ちに向かってきているってわけだ。


「ガバァァァ!」


 俺と三姉妹、グラサンは一斉に壁際に飛び退いた。――モモナはぐっす

りとベッド上で充電している。――もしかしてモモナの充電って、人間の

眠りよりも危険なものなんじゃ無いか……?


「ガバババ……」


 部屋のドアをこじ開け、入ってきたのはここの宿主であるお爺さんだっ

た。――しかし正常では無いことは俺の目にも分かった。

 ――何故って……白目むいて目が紫に光ってて、手術用の鉗子――いわ

ゆる金属製のハサミみたいなやつを両手に握り締め、大口を開けながら部

屋に入ってきたのだ。これで「何のご用です?」なんて間抜けなこたぁ聞

け無いわな。




「てめぇ何者だ!」


 俺はとっさに創聖剣ウォーター・メロンを掲げ、宿主の男に剣先を向け

た。


「ガバァ」


 宿主の口から大量にハサミが飛んできた。――俺は創聖剣を盾のように

して持ち替え、必死に三姉妹をガードした。こんな時sadakoを連れていな

かった事に若干の後悔を覚えたが、後ろでうずくまるマコを見てマコ単体

の能力でもsadakoを生み出せることを思い出した。


「マコ!」

「了解よ! メロン」


 マコが俺の背中を触り、


究極(アルティメット)不完全製造能力(・ザンネンスキル)




 部屋中の至るところからsadakoが出現した。狭い部屋だったので十数人

しか出せなかったようだが、長い前髪で顔を隠したその姿は今から俺らを

守ってくれる! と、非常に頼もしかった。


「ガバァァァ!」

「サバァァァ!」


 宿主おじさんの口から飛んでくるハサミを、sadakoはいともたやすく弾

き飛ばした。そのうちの一人はハサミをキャッチして刃先を宿主に向ける

と、物凄い勢いで向かって行った。


「サバァァァ!」

「ガバッ!」


 宿主は白目をグルグルとスロットのように回しながら、向かってきたsa

dakoの身体を跳ね飛ばした。――バカな……sadakoは人間の数倍の身体能

力があるんだぞ……

 ムーンは某探偵のように(あご)に手を当て、


「何者かに肉体ごと操られていると考えるのが普通ね」


 誰かって誰だ!

 ムーンは黙って天井を指差した。


「……………」


 天井には忍者のような格好をした人がペッタリと張り付いていた。

 ――お前は黒い虫か!


「バレてしまってはしょうがない……」


 天井から華麗に空中三回転をしながら下りてきた男は、全身黒服の変な

やつだった。――あ! 別にグラサンをディスってるわけじゃ無いんすよ?

 ってかスーツじゃなく、この変な敵は忍者服だし。


何奴(なにやつ)!」


 ちょっとノってみた。

 忍者風の男は顎に手を当て(この世界で流行ってんのかな?)


「名を名乗るときはまず自分から……だ」


 これはどこのせかいも共通なのね。


「俺は勇者メロン! 魔王討伐のために、三姉妹と共に異世界(元の世界

の事)からやってきた!」


 忍者は「フゥん」と某社長風に鼻を鳴らし、


「俺の名はフーガ・エジェン。魔王様からのご命令でお前らを始末しに来

た! 能力は御地獄人形(ヘル・ドール)こと人間一人をモンスターへと変えて操る事がで

きる!」


 あれ? そこまで言っちゃうんですね。別に俺は相手の能力が見えると

かいうチート能力は持ってないんですけど。

 三姉妹はクスクス笑い、小声で「マヌケ」だの「バカ」とか言っている。

 ここでグラサンが一言。


「あのー……私たちがつけてるこれは、別に能力が見えるサングラスとか

では無いですよ?」


 フーガ・エジェンは腕組をしたまま固まった。

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