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『仮想世界の風景画』  作者: ゲル=テナー
5/5

『絵描きと戦乙女』


出会いとは


突然に始まり


突然に終わる


流れる時の中で


また出会えるとは


限らないだろうに



――とあるNPCの一言



「次ッ!」


「右後方に一匹接近!」


「はいッ!!」


体の動きを阻害しない

最低限の服装をした

綺麗な長髪の少女が

俺の言った方向に


戦斧、一般的に

バルディッシュと

呼ばれる形のそれを自身が半回転するように振り


後ろから迫っていた

黒毛の狼を両断する。


そして体勢を整えてから


「次ッ!」


次の指示を仰ぐ




………何でこんなことになってるかって?



◆数十分前



マウラスからペンキ塗りを頼まれた俺が

遂に終わりの見えた依頼に喜々としながら外に出ると

辺りは既に暗く、門や塀に飾られた不気味な人形が、たまに青白く光る他には


月明かりが、ぼんやりと照らすだけだ。だが俺が《魔法》を外し

《夜目》をセットすると


遠くに港町が見える。


それも当然この館は

北の草原にあるのだから


詳しく場所を言うならば

町の北西、西の山を背に館は建っていた。



《夜目》のおかげで

視界は問題ないし本音を言えば早く帰りたい俺は

マウラスから受け取ったハケとペンキを取り出す


受け取ったときも一悶着あったのだが

それについては語らないことにしよう。




だが俺は門を出てすぐに違和感を感じた


………牛がいない。



あの牛は家畜等ではなくれっきとしたモンスターである

非アクティブなうえ

攻撃がパターンなので

初心者にオススメの相手だと聞いている。


だが狩りつくされたなんて話は聞いたことがない



その時、牛が消えたことに困惑する俺には

何者かが音もなく

忍び寄っていることなど気づけなかった。



――バキッ


「……ッ!?」


俺が奴らに気付いたのは

何かが折れる音と

遅れて右腕に走る

鈍い痛みによってだった


俺がゆっくりと

右腕へと、目を向けると大型犬ほどある

漆黒の狼が、強靭な顎で俺の腕を噛み砕いていた



周りをよく見てみると

一匹だけでなく数匹

しかもゆっくり俺に

近寄って来ていることに気付いてしまった。



牛達は狩り尽くされたのではなかったのだ。


そう、時間による

ポップモンスターの変化


こんな基本的な仕掛けに俺は気づかなかった。



たった一撃


それだけで俺は危機的な状況に追い込まれた。


HPは半分を切り

未だ噛みつかれている為

逃げることも出来ない


かといって今の俺には

攻撃手段が無いために

強行突破も叶わない。



ふと周りを見ると

後一歩で噛みつける場所まで狼がよって来ていた


俺は、わざとらしく

微笑を浮かべて


「……ここまでか」


とか言ってみる。

これがアニメや小説なら生存フラグなのだが


現在助かる手段もなく

仲間もいない以上

このフラグは、ブレイクされるに違いない

だがこのゲームはRPG

役になりきるのが

プレイヤーとしての

礼儀ならば、ここは

言うべきだと思ったのだ




だが俺の予想を裏切り

このフラグは回収される



「ギャワンッ!?


俺に噛みついていた狼に

どこからか

松明が飛んできたのだ


だが驚いたことに

当たった狼だけでなく

松明に怯えるように

周りの狼まで

跳び退いたのだ



「そこの人!跳んで!」


そう言われた俺は

反射的に跳び上がる


次瞬、俺の足下を

巨大な何かが振り抜かれ

狼を二、三匹真っ二つにして切られた狼が光の粒になり消える。



着地した俺の隣に

駆け寄ってきたのは

その巨大な刃に似合わぬ可憐な少女。



「大丈夫ですか?」


「ええ、助かりました」


俺が感謝の意を伝えると彼女は構えを解く


「見たところ武器を持ってないようですね、魔法使いですか?」


因みに投げつけた松明は

既に消えてしまっている


「もし魔法使いなら

明かr」


「危ないッ!」



俺が彼女の腕を引き

抱き寄せると


先程まで彼女がいた場所で黒毛の狼が

牙を打ち鳴らした。


未だに抱き寄せたままの姿勢に彼女は

恥ずかしそうに離れ


……なんてことはなく



彼女は実に不思議そうに


「貴方…見えるの?」


と言ってきたのだった。





後で聞いた話だとこの狼

明度が15以上でないと見えないうえに

集団で襲いかかってくる初心者キラーだそうだ


そして《夜目》を取っているプレイヤーはかなり少ないらしい


スキルブックも未発見で実質キャラクター作成時しか手に入らないが


五個しか選べないなかでわざわざ選ぶプレイヤーがいないのは


基本的に闇に紛れる

モンスターに火を怖がる性質があることと

松明やランタンの入手が容易であるのが大きい



そして彼女は


西の山へ向かう途中

見えない敵に襲われる

俺を発見したらしく


明かりを忘れた

プレイヤーだと思い

松明を投げることで

辻補助をするつもり

だったらしい


だが彼女は自分が

松明を一つしか、持っていなかったことに

気付き


自分が投げた松明の方を見るとなんと一匹や二匹ではなく


十数匹いるのが

一瞬見えたそうだ。


そして襲われていた俺は武器を構えるどころか

装備すらしていない


彼女はそれを見て

俺を魔術師だと見抜き


明かりになりそうな

魔法を使えることに

かけて俺を助けた。


俺はその期待に反して

魔法すら使えなかったが


まさかの《夜目》

習得者だと判明し

俺が敵の位置を伝えると


その巨大な武器故の

攻撃範囲と威力をもって

見えない敵を両断する。



三回に一回なにやら呟いているのが気になるが


その踊るような

斧さばきはかなりの腕前を感じさせる。



「右前方!」


「はいッ!」


「今ので最後です」


なにやら呟いていた彼女に敵の全滅を伝える


彼女は一度、安堵の息をもらして

その隙のない構えを解く


「危なかったぁ~」


どうやら見えない敵と

戦うのは疲れるようで

彼女はその戦斧を杖に

その場にへたり込んだ


俺は折れたままの右腕に初心者用生命ポーションを振りかけている


「あ、そうだ」


「?」


俺が思いついたように

そう声をあげる。



「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「私ですか?私は――」





これが


キャラクターネーム

Nagiナギとの出会い




彼女が補助魔法使いだと知るのは


また別の話






――暗闇の用語集――


【ペンキ塗り】


いっ今ありのまま

起こったことを話すぜ…

ペンキ塗りを書こうと

思ったら

“戦闘していた”


何を言ってるか

分からねぇと思うが


俺も何が起こったか

分からなかった……


頭がどうにか

なりそうだった


とにかくあれは


予告詐欺だとか

遠隔操作だとか


そんなチャチなもんじゃ

断じてねぇ……


もっと恐ろしいものの


片鱗を味わったぜ……。



【Nagi】


ヒロイン候補?


リアルでは家が道場の為

幼いころから

薙刀を習っており


友人に誘われて始めた

このゲームでも

薙刀を使うつもり


彼女が始めたのは

主人公の二日前で


港町には薙刀を売る

NPCもプレイヤーも

いなかったので

戦斧で代用していた。


ちなみに

現在のスキル構成は


《斧》

《棒》

《槍》

《刀》

《魔法》

《投げ》



《投げ》は依頼報酬で

他のスキルは薙刀が

どの武器種になるのか

分からなかったため


彼女が使える魔法は

多分本編で解説する筈



【モンスター】


現在出てきた

モンスターまとめ


◇1

通称:牛

正式名:ミルクカウ


非アクティブ


アイテム:搾りたて牛乳


考察:昼限定



◇2

通称:狼、黒狼

正式名:ハイドウルフ


アクティブ


アイテム:隠狼の毛皮


考察:夜限定

明度15以下視認不可

明度15以上では

近寄ってこない。



【明度まとめ】


◇月明かり

明度:10

範囲:フィールド全体

持続:無限


◇松明

明度:18

範囲:8メートル

持続:三十分


◇ランタン

明度:15

範囲:7メートル

持続:一時間


◇夜目

明度:20

範囲:特殊

持続:特殊



考察:あくまでも

プレイヤーからの見た目の明るさしか上がらない

故にハイドウルフなども逃げないし

パーティーを組んでも

他のプレイヤーの世界は一切明るくならない


そしてスキルを外すまで効果は続く




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