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『仮想世界の風景画』  作者: ゲル=テナー
4/5

『マウラス』


どんなに素晴らしい

行動だとしても


誰にも理解されなければ


ただの奇行でしかない。



――〈奇術師〉ティル





「ここか……」


所々、謎の物体が飛び出したり奇妙な模様が描れていたりする五メートルはある大きな塀の前に俺は居た


そんなツッコミどころしかない怪しげな塀をスルーしつつ


これまた怪しげな門を抜けて

(色がまともなら)立派な洋館の扉を叩く。


「すみませーん!依頼を受けて来たんですけどー!」



するとどうしたことか、扉が一人でに開くではないか。


俺は少し周りを警戒しながら中へと入って行った。



……形だけなら豪華で素晴らしい館なんだが


内部は大量の絵の具をぶちまけたかのような内装になっておりとてつもなくカラフルだ


そんなカラフルな風景からポツンと浮いた一つの影が正面の大階段の踊場でタップダンスをしている……


タキシードにシルクハット上から下まで黒一色に染められた男が一心不乱にタップダンスに興じているのだ。



そんな意味の分からない光景に唖然としていると

後ろで扉が閉まる。


――バタン


意外にも大きなその音に男がタップダンスを止める


そして右足を後ろに引き

やたらキレのある

“回れ右”で此方を向く


濃いめのアイメイクと無精髭が特徴的だが

かなり整った顔をしていると言えるだろう


彼は右手を口元にあてて

小さく唸る


そして何かに気づいてように「ハァ~」と小さく呟いて

俺をゆっくりと指差し


「新しい使用人の方かなぁ?」


とんと検討違いなことを

聞いてきたのだった。








「……掃除しろよ」


物が散乱し埃の舞う館の中で不釣り合いな程に真新しいエプロンをつけてテキパキと掃除をする男

Kirieはそうボヤく


すると何故か片付けた筈の物が空中に出現しまた散らかった


「あの野郎……」


そこまで言って俺は言葉を飲み込む。



“あの野郎”こと

グレゴリー・マウラスは


港町郊外に館を構える変わり者の魔法使いだ


そしてこの依頼

依頼書だけ見ればペンキ塗りだが、ペンキを塗る段階になるまでマウラス氏から出される理不尽な要求に応えなければならない


……と、ここまでがギルドで受けた説明だ。


館にたどり着いて

いったいどんな要求をされるのかヒヤヒヤしていた俺は

彼から“掃除”と言われたときはホッとしたものだ


だがそれは間違いだった


この館、無駄に広いうえ


殆どの部屋が使っていないのか埃まみれだし


何故か廊下に気味の悪い人形や謎の文字で書かれた本なんかが散乱しているのだ


そして意地の悪いことに

少しでも彼の機嫌を損ねると、今まで片付けた物がご丁寧に埃つきで返って来やがる


そんなことが出来るなら自分で片付けろ!


……とか言うと大変な事になるので

無言で掃除を再開する。


なるほど、この依頼

誰も受けなかったのではなく、誰もクリアしなかったのだ



キャンセル費さえ払えば依頼を途中で止めることが出来るし

誰もゲーム内で掃除なんてしたくないだろう。







――八時間後


「ご主人様、お掃除が終了したのでご報告致します」


俺は、階段の踊場で未だタップダンスをしている彼にそう報告する。


あれから


遅いという理由で

二回


報告時の口調が失礼だと

三回


“最初から”にされた。



おかげさまで掃除が上達しましたよっと


心の中で皮肉りながら

顔では笑顔を作る。


彼はタップの締めなのか右足を勢い良く踏み抜き

ターンと良い音を鳴らす


余韻を味わっているのか

三秒程そのままでいたが


無駄のない動作で素早く姿勢を正し


癖なのか

右手で口髭を弄る


「ん~あーあれだ、次は料理しちゃおうか」


そう言った彼がいつの間にかホットドッグをかじってるのはツッコまないでおくか……


「台所は、モグ、あっち、モグ、だから」


食べながら話すために

床が汚れるのが気になるのは、先程の掃除のせいだろうか


俺は彼に深くお辞儀をし

静かに台所へと向かった







「……どうするか」


台所に立ったは良いが

俺は料理を作れずにいた


理由は簡単


【料理】スキルを

持っていないから。


スキルがないとそもそも調理自体が出来ない


かといってそれを言ったところで奴がすんなり諦めるとは思えない



俺はとりあえず周りを調べることにした。


台所は掃除をしていないので初めて入ったが

人気料理店の厨房と言われても疑わない程の広さだ。


部屋の中程に冷気を纏った箱があり中には様々な食材が入っている。


壁際に沿って連なる流しと作業場(?)の下の収納に包丁や鍋が入っている


俺は次から次へその収納を開いて中を確認する


殆ど同じような内容だが


二十個目の扉を開いた時

他の収納とは、明らかに違うものを見つけた



鍋やフライパンの影に隠れるように置かれているそれは一冊の本



俺はその本が一体何か

知っている。


俺だけじゃない

このゲームをするなら

誰しもが知っている



――スキルブック



このゲームには三通りのスキルを習得方がある


まずキャラクター作成時に選択する方法

この時選べるスキルは五百個程あるなかで五個だけだ


次に、依頼やイベントで手に入れる方法

しかしスキルが報酬になっている依頼は少なく、総じて難易度が高い



最後に世界中に隠されたスキルブックを探し出し使用することで習得する方法だ


発売から2ヶ月経つが

未だ半数以上のスキルが見つかっていない。



俺は鍋を除けて

本を引きずり出す


そして念じることで

アイテム情報を呼び出す



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


【料理】のスキルブック



効果

《料理》スキルを習得。


《料理》

調理をすることができる



△△△△△△△△△△




……やはりか。


おそらくスキルを持っていないプレイヤーへの救済処置なんだろう


これによりスキルの問題は解決したが

問題はこれだけじゃない



俺は料理が出来ないのだ


スキルがあっても

奴が満足する料理を俺に作れるだろうか



とりあえずスキルブックを使用し《料理》の替わりに《夜目》を外し


もう一度食材を確認する


魚は駄目だな

捌けないし…



……うーん

何を作ればいいんだー?


奴の好みねぇ

ホットドッグか?



パンは……、あるな


ケチャップとマスタードが無いのは作れってことか?



うん、無理。



えーっと

俺が作れるのは

目玉焼き、茹で玉子

玉子焼き、スクランブルエッグ(のようなもの)

ベーコンエッグ

焼いたベーコン




……どうしろってんだよ






考えろー考えろー


俺でも作れる料理


卵……




「……これだッ!!」



俺は鍋に卵が沈む程の

水を入れて火にかけ

卵を五個茹でる


そして卵を茹でている間にレタスを大きめに千切り笊に入れて洗う


次にコッペパン程の大きさのフランスパン(?)を真ん中に切り目を入れる



そして少し待ってから

鍋の火を止める


茹で玉子を全てわり


マッシャー(?)とかいう道具で潰していく


潰し終わったらレタスを挟んだパンに入れていき


見た目と味を整えて


完成!



俺式簡単たまごドッグ


味付けが塩だけなのが不安だが


初めてにしては

良く出来たのではないだろうか。



俺はたまごドッグを皿に乗せて、なんか映画とかでみる銀のアレに入れたりして


自信ありげに

厨房を後にした。







「ご主人様、お料理が出来あがりました」


階段の踊場で何故か逆立ちをしているマウラス氏にそう報告し


銀のカバーを外し

たまごドッグを差し出す


すると無駄の無い動きで逆立ちを止め


「52点ってとこかっ」


と言ってからたまごドッグを手に取って


一度、美味しそうに

唸ってから


「新しい、40点!」


と意外に低めの点数を

つけてをくれた


ちなみに39点以下だともう一回のようなので、なんとかなったようだ。



彼はたまごドッグを食べ終わると


口髭を弄りながら

最後の指令を下した



「あー我が館の塀を塗って貰らわないと」





こうして


やっとのことで

たどり着いた

ペンキ塗りは


俺の想像を

遥かに超えるものだった




――奇妙な用語集――


【マウラス】


イメージは

○ョニー・○ップ


奇妙な行動には

実は意味があるのですが

主人公がそれを知ることは無いかもしれませんね



【52点】


たまごドッグではなく

主人公のマナーへの評価のようです。


ちなみにサンドイッチ系以外だとどんなに美味しくても食べて貰えません。


主人公は知りませんでしたが運良く乗り切りました


奥義

ゴツゴウ=シュギ


ってやつです。



【ペンキ塗りまで】

ここまでおよそ九時間

次回ついにペンキ塗り!


まあ


奥義

ヒキ=ノ=バシ


とでも思ってください。



【スキルブック】


レアアイテムですが

望んだスキルを見つけるのは至難の技です



【スキルを外す】


スキルは五つまで。


……ということはないのですが、主人公はそう勘違いしてます。




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