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『仮想世界の風景画』  作者: ゲル=テナー
3/5

『ギルド』


どれほど航海術に

たけようとも


陸に居たんじゃ

意味がない


才能ってのは

そんなもんだ。


――船乗りNPC





「~~♪」


時折かすれて贔屓目にも音楽になっていない口笛を吹きながら

俺は西側にある町が一望できる高台にやって来た


此処から見ると町の東には青々とした森があり

手付かずの自然を思わせる。


北を見ると牛のいる草原が広がり

草が風になびいている。


南を見ると陽光が海に反射してキラキラと輝き

時折水面から飛び出す大きな尾鰭が何者かの存在を覗かせる。



俺は一通り眺めて満足し

左肩から右脇へと紐をかけた無地の質素なポーチを開いた。



「…………」


そして驚くべき事実を目の当たりにする






画材が……無い。



何度も確認するが無い

それもそのはず


買っていないのだから。



何故こんなことに気づかなかったのか

ゲームを始めて数十分程経つが、今の今まで気づかなかった。


風で買ったばかりのエプロンがなびく


財布は今や空気しか入っておらず、数分前の自分を悔やむ。



俺はもう一度景色を眺め

高台を後にした。






さて今俺は町の東側にある生産ギルドに来ている。


少し説明すると

ギルドとはどの町にもいくつかある施設で

プレイヤーがギルドを立ち上げると

そのギルドの種類にあった依頼を他プレイヤーやNPCから受けることが出来るようになる他


ギルドはその依頼を

他のプレイヤーに依頼することもできる

その場合仲買料がギルドに入るため少し高くなるが


依頼主からすれば自分から内容にあったプレイヤーを探すより

ギルドに依頼して待った方が

その時間で他のことが出来るので

結局はプラスなのかもしれない。



この港町にあるギルドは三つ

生産ギルド《オルカ》

戦士ギルド《シャーク》

商人ギルド《ホエール》



港町にぴったりの名前だ

三つとも名付けの方向性が似ているのは話合いか何かをしたのだろうか。





俺がそんなギルドの一つ《オルカ》に来ている理由は当然依頼目当てだ。


普通ならば戦闘をしてお金を稼ぐという手段もあるが、残念ながらまだ魔法を一つも知らないために

一切の攻撃手段がないし

物を売ろうにも、売れそうな物はあのエプロンとベレー帽だけ。



なので俺は契約金がいらない

低ランクの依頼を探しにきている訳だが


生産ギルドだけあって

生産をして欲しい、素材を集めて欲しい、などの依頼が多い

どちらも今の俺では厳しいものばかりだ。



俺は壁一面に貼られた依頼書を右から左へ流し見ていく。



壁際に沿って部屋の三分の二程読み進めた時だ


「……ん?」


俺の目に一枚の依頼が目にとまる。


「塀のペンキ塗りか…」



それはNPCによる依頼で、家の塀に色を塗って欲しいというものだった。


依頼日時が2ヶ月前になっていることから

この依頼をまだ誰も受けていないということが分かった。


契約金がゼロなことと

必要スキルが

《ペイント》のみなのを確認すると俺は


近くのカウンターに依頼書を持って行っく。


「あのー依頼を受けたいのですが」

そう俺が言うと

奥の方で書類を書いていた白いブラウスに黒いベストを着た女性がこちらにくる


「はい、では依頼書を確認致します。」


彼女はそう言って俺から依頼書を受け取ると

少し困った表情をする。


俺が何事かと疑問に思っていると

彼女がゆっくりと顔をあげ作り笑いをした。


「失礼ですがお客様

難易度の確認はなさいましたか?」


彼女はそう言うと依頼書を俺から見えやすい位置に差し出す。



▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


塀のペンキ塗り

(生産クエスト)


依頼主(NPC)

グレゴリー・マウラス


契約金

不要


必要スキル

《ペイント》


内容

塀にペンキを塗って欲しい



難易度

ランク9



△△△△△△△△△△




ランク…9


だが俺はその数字を見ても驚かない


何故なら



「……すいません

難易度の説明をしてくれますか」


高いのかどうか分からないからだ


俺が今まで語った説明などは友人の話や噂で聞いた受け売りばかりで

こういった基本的な情報には結構疎いのだ。



彼女は俺がほぼ初心者装備なのを見て、仕方なさそうに説明を始めた。



「いいですか?まず、難易度は十五段階で表記されています

下から六段はF~Aのアルファベットで表記され、Fが最も簡単な依頼となります」


俺が頷くと彼女が続ける。


「そしてAから上は9~1までの数字で表されランク1が最も難しい依頼となります、ランク1は主に凶悪モンスターの討伐依頼なので基本的に生産ギルドでは見ることはありませんけどね」


その話を聞きながら俺はもう一度依頼書を見る



ランク9



……気になる

何故ペンキ塗り程度が

ランク9なのか



俺が依頼書を睨んでいると、彼女が依頼書を受け取ろうと手を出す。


「他の依頼をお探し下さい」


そう言って微笑む




しかし、彼女の手に依頼書が乗ることは無かった。



「…受けます」


依頼書をカウンターに置きながら

俺はそう言った


しかし彼女から反応はない



「依頼を受けます」


仕方ないのでもう一度言うと



「………はい?」


と間の抜けた声が返ってくる


なので更にもう一度言ってやる


「この、いらいを、うけます」


すると流石に伝わったようで、依頼書を引き寄せ判子を押して俺に渡す。



「………どうなっても知りませんよ?」


俺は依頼書を受け取ると

出来る限りのキメ顔をする。



「ペンキ塗り程度、俺に任せときな!」




そう言ってギルドから出ようとした俺は

彼女に止められ詳しい依頼内容を聞かされるのだった。






――面妖な用語集――


【ギルド名】

《オルカ》

《シャーク》

《ホエール》


じつはこの三つのギルド

マスター同士がリア友という関係で

ギルド名はキャラ名と同じだったり



【尾鰭】

海にもモンスターが居ますが、この尾鰭の正体は近海の主と呼ばれるボスモンスターで未だ無敗

1ヶ月前から戦士ギルドが討伐を狙っている。


【東の森】

虫系モンスターの出現するエリアで全体的に動きが速いモンスターが多い。


【北の草原】

町の近くには温厚な性格をした牛しかいない安全なフィールド

だが、町から離れ過ぎると…?


【西の高台】

西は小高い山のようになっていて

今回Kirieが登ったのは町から一番近い頂上


頂上と言っても

かなり低いが。



【画材】

大体一番安いセットでも2s程の価格

絵の具などの消耗品は別売り。




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