表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

第05話 魔法騎士《ミラクルナイト》変身セットと淑女の嗜み

「うーん。どうすっかね~」


 クリスは迷っていた。と、言うよりヘタレていた。

 当初想定していた事態とは異なる展開になりそうだからだ。


「助けたことを恩に着せて、この世界のこととか聞き出したかったんだけど・・・。あの金髪のイケメンあんちゃん、なんか鋭そうだしなぁ。下手すると、こっちのこと根掘り葉掘り聞かれそうだ。うーんうーん」


 ティエレDをてれてれ転がしながら対応を考えるクリス。

 金髪のイケメンあんちゃんとはアーサーのことだ。行きがかり上、助けてしまった妙な一行。冒険者を装っているがどうも怪しい。さりとてようやく出会えた人間である。

 廃墟になったオルテアの街。人を襲う自動兵器などなど。聞きたい事は山ほどあるクリス。


 「ふふふ、あたし命の恩人ですよね? いえいえ、謝礼など無用ですよ? ふふふ」とか言って聞き出そうと思っていたのだが、金髪イケメンあんちゃんことアーサーには額面通りには通じないだろうという確信がクリスにはあった。

 【直感】もそう告げている。


 質問には素直に応じてくれるだろう。問題は、クリスの事情も同時に聞かれるということだ。

 まさか、「オンラインゲームをしてて、気がついたらゲーム世界に入ってました。てへ」とは言えない。信じてはくれないだろうし、逆に信じられたらもっと厄介だ。

 質問の内容が内容だけに、当然のことながら何故それを知らないのかの疑問が沸くだろう。


「いっそ、知らない理由も知らない。気がつけば荒野の真ん中に居たで押し通すか? だって本当のことだし、嘘は言ってないよね。そうと決まればそれっぽい演出もしておいたほうがいいか。一般職業クラスでそれらしい職業を選んでセットを組みなおしてっと・・・」


 とりあえず方針を決め、一般職業クラスから役に立ちそうな職業をピックアップする。


「こういう時は、ミステリアスな雰囲気をかもし出して相手を呑んでしまうに限るな。それにしても、全職業コンプリートしておいたのがこんな所で役立つなんて、人生何が起きるか分からんね」


 『パンツァー・リート』には、冒険者職業クラス・一般職業クラスあわせて三百以上の職業クラスがある。

 狩りや戦争を楽しむなら冒険者職業クラスが重要となるが、武器・防具を作成する【鍛冶屋】やアイテム購入・販売に有利な【商人】など、一般職業クラスにも楽しめる職業が豊富だ。なかには何故こんなのがと疑問を感じずにはいられない職業もあったりするが。

 クリスは桐生徹時代、コレクター根性を発揮して全職業100レベルという偉業を達成していた。


 職業クラスのスキルは職業クラス使用設定欄にセットしていなければ使用できない。職業クラスの組み換えはいつでも出来るが、使用設定欄には定数がある。中には設定欄にセットするだけで自動発動するスキルもあるので、どの職業クラスをセットするかはよく考えなければならない。


「とりあえず【異邦人】と【占い師】かなぁ。あと幾つか不思議系職業入れて・・・。【貴婦人】は対人関係強いし礼儀作法とかもあるし、失礼のないようにセットしといたほうがいいかな」


 荷車を引いて四人組の元に戻るまでの間、あーでもないこーでもないと考えを巡らせるクリスであった。






 後ろ手にキャリーを引いて戻ってきた濃緑色の重装甲機甲騎兵が、圧倒的な存在感を主張しつつ目前で駐機体勢を取る。操縦室の展望塔ハッチが開き、中からやたらと小柄な騎手が姿を現した。

 軽い身のこなしで降りてきた騎手であるクリスを見て目が点になる四人。アーサーはすぐに表情を戻したが、残りの三人はかぱんと顎を開いたままだ。


 呆然とした三人に視線をやり小首をかしげるクリス。

 アーサーに歩み寄ると、笑顔を見せて声をかけた。


「みなさん、ご無事でなによりです。始めまして。クリスティナと申します」

「あ、ああ。私の名はアーサーだ。友と部下の命を救ってくれたこと、改めて礼を述べたい」


 なんでもない風を装ってはいるが、アーサーは戸惑っていた。後ろの三人は完全に固まっている。

 自分たちを救ってくれた凄腕の騎手は年端もいかぬ少女であろうことは声で察していたが、目の前の少女はどう見ても13~14歳くらいにしか見えない。

 思っていた以上に幼い。そして美しかった。


 天使のように整った容姿。左眼を眼帯で覆っているが、右眼からは透通るような翠の瞳が覗いている。銀細工のごとく細く美しい銀髪は頭の左右でリボンでまとめられていた。華奢で細い体。身長は140Cmくらいだろう。アーサーの胸くらいしかない。

 目の前の少女が、神業のような砲撃を連続して決めた騎手とはとても思えなかった。そして、おそらくはヘカトンケイルを沈めた大規模魔術の使い手だとは。


 やたらと唖然としている四人の様子に内心苦笑するクリス。


(まあ、こんなちみっこい女の子がパイロットだったなんて、普通戸惑うよね)


 実は違う。

 たしかにアーサー達は想像以上に幼い姿のクリスに戸惑いはしたが、それ以上にもっと驚いていることがあるのだ。

 それはクリスが身に纏う衣装。

 羽織ったマントは良いにしても、身体をぴっちりと覆う薄手のスーツ。腰を申し訳程度に覆うピンク掛かったスカート。そこから伸びる細い足は、絶対領域を経てニーソックスに覆われている。


 これこそが、数ある衣装アイテムの中でも異色中の異色と言われる魔法騎士(ミラクルナイト)変身セットであり、その中でも人気度抜群の某魔砲少女雷系金髪ツインテール小娘バージョンであった。

 魔法騎士(ミラクルナイト)変身セットの中でも玉数の少ないレアアイテムである。


 この衣装、クリスが着用するとトンデモナイ事態が発生する。

 ただでさえ身体をぴっちりと覆う衣装。さらに胸の上下を通る細い二本のベルト。そして、クリスは低い身長とは逆に非常に胸が豊かだ。幼い容姿にかかわらず、胸のサイズは成人女性を超える。胸だけでなく身長を除けばボンキュッボンの大人顔負けのボディなのだった。

 それが何を意味するのか?

 胸の形がはっきりと出る衣装の上に、さらにそれを強調するかのごとく二本の細いベルトが上下に通っているのだ。まるで挟んだモノを搾り出しているかのように。

 これがどれほど危険な爆弾か、簡単にご理解頂けるだろう。


 クリスの中の人、桐生徹はオタクである。ただし自ら行動するオタクではなく見て楽しむオタクだ。

 同人即売会にも同人誌購入やイベントの見学が目的で、それらに参加側から出た事はない。レイヤーではない徹がその手の衣装を身に着けることは無かった。

 そのクリスが魔法騎士(ミラクルナイト)変身セットに腕を通したのは、オルテアの街でやらかした大ポカの気分転換だ。

 誰にでも魔が差すというのはあるよね?変身するとき、誰にとも無く言い訳をして試してみたのだった。

 ゲーム上では何度も変身させていたのだが、リアルで身に着けるとどうだろうという好奇心もあった。


 最初は「おお、似合うじゃない!」とか喜んでいたが、すぐにダウナーな気分がぶり返し、黙々とティエレDの修理に戻った。着替えることも忘れて。


 胸の爆弾をさらけ出したまま天使の微笑で挨拶をするクリスに、アーサー達はいかほど戸惑っただろうか。まず幼さに驚き、ついで少女の美しさに驚き、そして最後に胸の爆弾に驚く。

 互いに名乗り挨拶を交わしたのち、なにを話せばいいか分からなくなったとしても、四人を責めるのは筋違いというものだろう。

 やたらと強調される胸元に視線が集まったとしても、それは仕方の無いことではないだろうか。


 四人の態度に違和感を覚えたクリスは、やがて彼らの視線が自分の一点を指しているのに気が付く。その視線を追い、自らの視線を下に落とした。

 そこには、薄い衣装の内側からはち切れんばかりに布地を押し上げる双丘の膨らみがあった。

 此処にきて始めて、クリスは自分の姿態が如何ほどのものか理解したのである。男たちの視線の意味も。


「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」


 羽織ったマントを身体の前で合わせ、クリスはその場でしゃがみ込む。うなじまで真っ赤であった。

 これに慌てたのはアーサー達である。

 悪意や作為を見破ることには長けているアーサーだが、そんなものは欠片もない天然自然には不慣れであった。


「え? あ、ちょっ。は? なんで!?」

「これこれ、君たち。そんなにじっくり見ては失礼だよ」

「どどど導師だってしっかり見てたじゃないですか!」

「えみりーよりでけぇ・・・」


 アーサー達にぜんぜんまったく非はない。だがしかし、目の前で幼い少女が男たちの視線から身体を隠すようにマントを寄り合わせ真っ赤になってしゃがみ込んでしまうと、まるで自分たちが非道な行為をしてしまったかのような錯覚に陥ってしまう。

 少女が目じりに涙まで浮かべていればなおさらだ。

 クリス自身もパニックに陥っていた。


(ハスカシイーーーて、なんで恥ずかしい? 私の中身は男だし、別に俺が慌てることは何も・・・。見たきゃ別に見ればいいし・・・みみみ見せるなんてトンデモナイ!)


 クリスのパニックは、実は一般職業クラス【貴婦人】が原因だ。

 プレイヤーであるクリスは知らないことだが、【貴婦人】には【淑女の謹み】という隠し自動スキルが存在する。

 ゲームではNPCへの好感度アップ補正に留まるが、こちら側では少々勝手が異なっていた。対人スキルに更なる有利な修正が加えられる代わりに、使用者に女性としての仕草や立ち振る舞い、羞恥心を芽生えさせるスキルだ。

 一見無駄に思えるスキルだが、実はクリスにとって重要なスキルだ。なぜならクリスは地球世界では桐生徹という男だったのだから。


 男性は仕草ひとつをとっても女性とは異なる。

 例を挙げるなら着席する場合を見てはどうだろうか。男性は無意識に脚を開くが、女性は脚をそろえて座る。これは男の脚の間には閉じるにはジャマな物があるからだが、長年続けていると脚を開いて座ることがあたりまえになり早々改めることは出来ない。。

 身体は少女でも、その中身が男ではどうしても仕草や態度に男らしさが表れ違和感が残る。それを補正してくれるのが【貴婦人】であり【淑女の謹み】だった。


 クリスにとってはとても有難いスキルではあったのだが、現状のような四人の視線の集中砲火を受けている状態ではむしろマイナス面が目に付く。

 あられもない格好を男に見られたという羞恥心がクリスの心に爆発的に広がった。つい一週間前には男だったクリスにはまったくの未知である女性の羞恥心に心を乱され、思考がぐるぐると回転する。


(あんな格好を人に見られた見られた見られた見られた! むむむ胸見られたーーー1)


「にゃあああーーー!」

「どへぇーーー!」


 パニックが最高点に達したクリスは、悲鳴とともに無秩序に魔力を放出してしまった。

 魔術に転化されてない単純魔力とはいえ、大規模魔術を数十発撃っても平然としているクリスの魔力だ。並みとは違う。しかもそれが無秩序に放出されたのだ。それはすでに強力な魔術とすら言える。

 膨大な魔力の奔流に巻き込まれたアーサー達は、見事なくらいに吹き飛ばされもみくちゃにされて気を失ったのだった。






「すすす、すみません、すみませんっ」


 パニックから立ち直ったクリスは自分がしでかした大惨事に青ざめ、即座に気を失っている四人を介抱した。とはいえ単純魔力の放出であるため四人に怪我らしい怪我はない。精々、吹っ飛ばされた衝撃で体の各所に打ち身がある程度だ。


 地面にシートを敷き、アーサー達はマグロのように並んで寝かされている。それぞれの額には濡れタオルが置かれていた。

 アーサーだけが半身を起こし、ふら付く頭を抑えつつ目前で謝罪しまくる少女を眺めていた。

 クリスは着替えたのか件の衣装ではなく、パンツァージャケットにスカートという普段の服装に戻っていた。


 アーサーの前で少女はひたすら恐縮している。

 その様子は、ヘカトンケイルを一撃で屠った大魔術を操る魔術師にはとても見えなかった。はからずしもその一端を我が身で味わうことになりはしたが。

 クリスへの恐れが無くなり、等身大の姿になった少女を視界に納め、くすりと笑みをこぼすアーサー。


「そう恐縮しないでくれ。言わば、まあ、事故みたいなものだ。お互い忘れよう」


 可憐な(アーサーにはそう映った)姿をもっと見たかったかな、などと不謹慎な考えが過ぎるが頭の隅に追いやる。


「改めて自己紹介をしよう。私はアーサー。アーサー・オーランド。エスクリード王国の騎士だ」


 あっさりと身分を名乗るアーサー。傍らで轟沈していたランスロットが親友の思わぬ言葉にピクリと反応する。


「あ、はい。私はクリスティナ・グィネヴィア・ロウゼンです。冒険者をしています」

「冒険者? ああ、だから狩りで荒野にいたのか。それにしても良い腕だ。お陰で命拾いしたよ。なにか礼がしたいのだが」


(狩りね。ゲーム時代の狩りは魔物や『蟲』相手が主だったけど、今じゃ自動兵器狩りが冒険者の主な仕事になっちゃってるのかな。それはともかく--)


 タイミングを見計らってこの世界の事情を聞き出したかったのだが、なぜかアーサー相手に切り出せず躊躇ってしまうクリスであった。


「礼をされるほどのことはしていません。私は狩りをしていただけですから。・・・勢いあまってやりすぎてしまいましたが」

「ああ、あの大魔術か。あれほどの大魔術初めて目にしたよ。君はどこで魔術を学んだのかな? リンクドラムの魔術学園--ではないか・・・」


 リンクドラム魔術学園とは、アリストリア大陸東の一角に位置するリンクドラム王国国立の魔術師養成校のことを差す。毎年優秀な魔術師を輩出していることでも有名だ。

 この王国は、魔動術全盛のこの時代にあってかたくなに古の秘術を守り通している保守的な国だ。自然、魔動術を嫌う土地柄で、王族からして優秀な魔術師であり、魔術師の地位が他国よりも高いという大陸では珍しい国家だった。

 国を挙げて魔術師の保護・養成を行っており、外部からも多くの魔術師が参入していた。


(あっちゃー。やっぱり探り入れてきてるよ、この人)


 クリスは内心溜息をついた。が、当然と言えば当然と言える。

 リンクドラムは古代魔法王国直系を標榜し、魔動術を多用する周辺諸国とのトラブルが絶えない国なのだから。そもそも自動兵器は魔動術の産物であり、その反乱が世界に混乱をもたらし数多の犠牲者を出したのは魔動術の根本的な過ちが原因だと公言している。

 クリスがリンクドラムの出身だとしたら、騎士として警戒するのは当然だ。

 苦笑しつつ、左手袋の甲に装着してあるマギスジェムを示すクリス。


「それは聞かぬが花ですよ」


 マギスジェムは魔動術最大の発明品と言われている。

 魔術アイテムの究極の形。すなわち、マギスジェムに複数の術式を封入し、必要に応じて選択・起動・実行する。地球世界のパソコンとソフトウェアの関係に酷似している。

 これまでの魔術アイテムはアイテムひとつに付きひとつの術式だったが、マギスジェムの発明で、ひとつのアイテムで複数あるいはそれ以上の魔術を使い分けることが可能になった。


 魔動術はこの時代において文明の礎であり基本でもある。

 かつて世界を席巻していた古代魔法王国。魔術を使える魔術師が特権階級として魔術を使えない多くの民を支配していた。魔術の素養の無い者にとって屈辱と隷属の暗黒時代。

 千年前、魔法王国が謎の崩壊で滅んだ後、心ある一部の魔術師達が二度と魔術を特定の者に独占されないよう試行錯誤の末完成させたのが魔動術の始まりとされている。時代が下ると錬金術や機械技術を取り込み、独自の進化を遂げて現在の姿へと至る。


 魔術の素養が無くとも、魔術が付与された道具は使い方さえ知っていれば誰であろうと使える。照明の魔術と照明が付与された魔術アイテム。どちらでも明かりが灯るのは同じだが、前者は魔術師にしか使えないが後者は誰もが扱えた。

 誰でも簡単に魔術を使える新しい魔術体系、それが魔動術だ。


 魔動術の登場で、秘術とされた魔術は誰もが扱える便利な道具となった。

 特別な存在で居られなくなった魔術師は、魔動術を敵視する者が多い。その代表格がリンクドラム王国だが、彼らとは異なる考えをする魔術師がいるのもまた事実。そういった者達は野に下り、ひっそりと私塾を開いて古の業を継承している。魔動術への敵意を持つ者も少ない。

 中にはリンクドラムの魔術師達でさえ知らない術を知る者もおり、魔動術への抵抗が少ない野の魔術師達はリンクドラムの魔術師達にとって目の上のたんこぶだ。

 噂ではそういった者達を懐柔・暗殺する特殊部隊があるとかないとか。

 クエストでリンクドラムに行った時は苦労したなーと感慨にふけるクリスであった。


 その手の情報はゲーム内でも聞かされており、クリスも熟知していた。ゆえにマギスジェムを見せれば私塾で学んだと察してくれると考えたのだ。

 同時に、私塾で学んだものは自らが魔術師であることや師の名を伏せる場合が多い。リンクドラムの追及をかわすためだが、これもクリスには都合が良かった。

 アーサーも「それは失礼した」と素直に引き下がってくれた。


「キ、キミっ! あの自動兵器はキミが仕留めたのかい!?」


 突如、ランスロットの素っ頓狂な声が響く。


「突然どうしたんだランス。彼女が引っ張っていたキャリーなのだから、彼女が仕留めたに決まっているだろう。それより人の成果をじろじろ見るのは不躾だぞ」


 新たな質問を振ろうとして遮られたアーサーは、やや不機嫌に友を嗜める。しかし当のランスロットは興奮しているのか聞こえていないようだ。

 クリスのキャリーはシートで覆われ中の全容はうかがえないが、納め切れなかった自動兵器の脚部がニョキっとシートから突き出ている。

 スクラップでも売れるかもしれないと、拾えるものは拾ってきたのだ。


「アーサー! これを見てみろよ、コレコレ!」

「なんだと言うのだ、まったく。あー、すまない。荷物を見せてもらっても良いだろうか?」

「それはかまいませんが、あの人は何に興奮しているのでしょうか?」

「わからん。あれは魔動機械が絡むと人が変わるんだ」


 ぼやきながら友人の元に向かうアーサー。付き添うクリス。

 ランスロットはキャリーの荷台から突き出ている自動兵器の脚部に一人興奮していた。子供のような顔でぺたぺたと触りまくっている。


「人のものを勝手に触るなと・・・むっ!?」

「君も気が付いたかい? この自動兵器は今まで見たことの無いものだよ。えーと、キミ。クリスティナ君だっけ? この自動兵器はどこで仕留めたのかな?」


 アーサーもランスロットも見たことが無いのは道理だ。クリスがオルテアで仕留めた自動兵器は新型の先行試作機なのだから。

 近年力をつけてきた人類に対する対抗機として開発されたものだ。高出力AMFや電磁投射砲など、自動兵器群にとって捜索部隊が組織されるほど超重要機密満載の機体なのだ。

 クリスにはまるで通用しなかったが。


「ああ、この機体ですか。これはオルテアの街で遭遇したものです。いきなり撃ってきたから撃破しましたけど」


 これにはアーサーもランスロットも驚いた。

 オルテアの街は自動兵器にとって重要な戦略拠点だ。その奪回は人類側にとって悲願といえるが当然防衛戦力はすさまじく、道中は自動兵器の大軍に阻まれ近づくことも出来ない。

 もっとも、そんなこと露とも知らぬクリスの実験と証する超絶破壊活動により、街の警備隊はことごとく破壊されてしまったのだが。


 自動兵器反乱前の知識しかないクリスにとって、街を警備する自動兵器はあってしかるべき存在だ。ましてクリスは事情を知る人間を探していた。まさか自動兵器が自分を取り囲み、隠れて攻撃を仕掛けようとしていたとは考えもしなかった。

 包囲を完了した自動兵器が集中砲火を行う直前に、クリスの広範囲無節操破壊魔法の「実験」が開始され、その大法撃の連射でことごとくスクラップと化したのだった。

 その破壊の威力はすさまじく、街の数ブロックの区画がまとめて消滅してしまったほどだ。自動兵器群にとってさらに不幸だったのは、その消滅したブロックの中に自分達の地下基地があったことだろう。むろんそれらは消滅したブロックと共に露と消えた。


「キ、キミはオルテアに行ったのか!?」

「よく無事だったな。さすがと言うべきなのか・・・」

「無人の街でしたよ?」

「それは確かにそうなのだが」


 オルテア行って無事に帰ってくるなど聞いたことがない。改めてクリスの実力に驚かされるアーサー達である。

 クリスはと言えば、二人の驚きように首を傾げるのみだ。なにせクリスにとってオルテアの街は、本当に「人のいない」廃墟だったのだから。知らずの内に壊滅させられた自動兵器群こそ哀れだろう。


「クリスティナ君! この自動兵器を売ってくれ! 五万、いいや八万だそう!」


 スクラップにしては破格の値段だ。ただし、価値を知るものはその数倍の値が付いても欲しがるだろう。なにせ自動兵器の先行試作機。破壊されているとはいえ重要機密満載なのだから。

 とはいえかなりの高額な値段に、いつの間にか復活していたハリソンとランバートも驚いていた。八万あれば家族四人で一年間充分生活できる。

 しかし、クリスの反応は薄かった。


「ええ、いいですよ」


 なにせクリスの財産はそのはるか上だ。驚くほどの金額ではない。


「ただ、今は手持ちが無いので街に帰ってからになるけど、いいかな?」

「街というとラスカーシャですか? それともお国の街?」

「ラスカーシャだよ。そこに僕たちの拠点があるんだ。国から研究費と活動資金をイッパイ貰ってるからそれで払うよ」

「おひおひ」


 いきなり機密を漏らすランスロットに、そろって裏手突っ込みするハリソンとランバート。

 最重要機密は漏らしていないが、国がらみの人間だと公言したランスロットに苦笑するアーサー。もっとも先に王国騎士と名乗った手前、あまり強く諌める事は出来ない。


「では金はラスカーシャで払うとして、街まで同行願えるかな。そう言えばクリスティナ嬢は冒険者だったね。ラスカーシャは長いのかい?」

「いえ、私は流れの冒険者ですので、ラスカーシャを拠点にしている訳ではないです。ラスカーシャのギルドに登録もしてないですし」

「ほう。では今まではどちらに?」

「いろいろですよ。西も東もいろいろ回りました。ここ最近は荒野に出ずっぱりでしたので、海が見たくてラスカーシャに行こうと思っていた所でした。っと、出発の準備をしますので、私はこれで」


 いささか強引に話を打ち切り、ぺこりと頭を下げるとクリスはティエレDに向かって走り出していた。小走りで走り去る小さな後姿を眺め、アーサーは思わず頭をかく。

 傍らに寄ってきたランスロットがにやりと笑い言った。


「探ってばかりいると嫌われちゃうよ?」

「職業病というやつかな。つい癖でね」


 肩を竦めるアーサー。


「にしてもキミ。えらく彼女のことを気にしているようだけど」

「それは当然だろう。あれだけの人材だ。少しは噂が立っていてもよさそうなのに、少しも彼女の噂を耳にしたことがない。気にするなというほうが無理だな」

「それだけかい?」

「・・・なにが言いたい?」


 人の悪い笑顔を浮かべ、ランスロットが言った。


「べつにー。さて、我々も出発の準備をしようじゃないか。いつまでも彼女の後姿を追ってないでさ」



次回でようやく街に到着。展開、遅っ!


H23/10/04 ご指摘を受け一部表現を変更。

H23/11/28 誤字修正。ご指摘、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ