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第19話 決戦(1)

うまくまとまらない……。

とっても不満の残る内容になってしまいました。

後日差し替えるかも。


なにはともあれ第19話です。

 乾いた荒野から吹き付ける冷たい風に耐え、無数の鋼の巨人が並び立つ一軍は諸共に遠く土煙を上げる地平を睨みそのときが訪れるのをじっと待っていた。

 背後に並ぶ破壊をもたらす鋼の群れと共に陽の光を受けて鈍色に輝く。


 自動兵器群の来襲に対し、街から150キロ程北にあるなだらかな丘に防衛線を築くことを定めたゴードカート防衛軍は持てる戦力を集中して備える。

 本来なら遮蔽物の無いだだっ広い丘に陣地を構えるなど自殺行為なのだが、防衛軍はあえてこの丘を決戦の場に選んだ。守りを固めるためでなく、勝利を勝ち取るために。

 万が一の事態に対し、街を脱出する避難民護衛のわずかばかりの戦力を残しての全軍出撃である。


「―――うじゃうじゃいやがるぜ」

「そうだな。まったく、嫌になる」


 誰かが呟き、誰かが応えた。

 応えは風にのまれて消える。

 決戦のときは近い。




 結局のところ、方針をめぐり紛糾した会議は槍鋼の人形傭兵団が主戦論側に回ったことで決着がつく。

 街の剣であるふたつの傭兵団がともに打って出ることを主張したため、ゴードカート騎士団も不承不承ながら出撃に同意し総力戦をもって自動兵器撃退に挑むことが決定された。


 もっとも両傭兵団とて無策だった訳ではない。

 無策ならばいかに傭兵団が交戦を主張しようと議会は良しとしなかっただろう。(奥の手)は剣十字騎士団、槍鋼の人形双方からそれぞれ提示され作戦会議で検討された。


 剣十字騎士団から提示されたのは、はおよそ400に及ぶ新兵器・ロケット推進式半自立自走爆雷による一斉攻撃。

 槍鋼の人形からはAMF範囲外からの広範囲魔術による"物理攻撃"の魔術攻撃。


 どちらもそれまでの常識外の作戦だった。

 会議の途中、一部混乱はあったものの共に実例を示し結果を見せることでゴードカート自治政府は攻撃の決断を下す。

 もとより、打って出るが街を捨てるかの二択しかなかったのが現状だ。僅かでも勝利をもたらす術があるならそれに賭けてみようという、いささか後ろ向きな決断ではあったが、故郷を護りたいという思いは誰もが同じだった。


 方針が決まれば後は早い。

 手早く出撃準備を整える傭兵団と招集された冒険者たち。

 大量の武器弾薬が運び込まれ各部隊に配分された。ゴートカート騎士団とて方針が決まれば覚悟も決まる。非常用の武器庫からも武器弾薬が放出され、城壁に備え付けられた砲門すら引っぺがして運び出すという文字通りの総力戦だ。


 迎撃準備のさなか、先行偵察している斥候から驚くべき報がもたらされる。

 新たに現われた別の一群と同士討ちを開始した自動兵器は片方を殲滅し、その生き残りを加えて勢力を増したという。さらにそろって南下を始めたというのだ。

 時間的猶予は一日もない。

 あわただしく準備は進められ出撃となった。


 出撃は街の大通りを通り北門から防御地点へと向かうルートが設定される。

 その際、自治政府の要望もあり、街に蔓延する厭戦気分を払拭し戦意を鼓舞するためパレード形式がとられた。

 整列し足並みそろえて行軍する巨人の群れという普段お目にかかれない光景が見られるとの噂を耳にし、知らせを受け集まった人々は期待に胸を膨らませて機甲騎兵の登場を待っていた。


 機甲騎兵とは力の(あかし)

 機甲騎兵とは守護の具現者なのだ。


 人々が機甲騎兵に寄せる期待は想像以上に大きい。

 100騎を越える機甲騎兵がそろって行進する姿を見る機会などめったになく、街の中央通りの沿道ぞいには騎兵の行軍を一目見ようと集まった市民で溢れかえった。

 とくに中央広場には大勢の市民が集まっている。ここにすべての騎兵が集まり進軍するのだ。歩道に収まりきれない市民は道両側の建物の窓や屋根の上にまで鈴なりにり巨人の群れが訪れるのをまった。


 各部隊は別々の場所から行進を開始し、中央広場で一堂に会した巨人の群れは隊列をなし北門へと進んでいく。

 先頭を歩くゴードカート騎士団の勇壮で絢爛な姿に酔いしれる市民。誰もが期待に目を輝かせていた。

 それぞれの機体が掲げる巨大な武器を見て、自動兵器なにするものぞと勝利を確信していた。そこに昨日までの悲壮感など見当たらない。


「ゴートカート騎士団、抜剣! 掲げ!」


 騎士団長の合図でゴードカート騎士団は一斉に抜剣しその剣先を高らかに天へとかざす。

 誰もがその剣にて打ち倒される自動兵器の姿を想像する。陽光を受け光り輝く刀身を間近に見た人々の熱気と歓声は最高潮に達した。


 ゴードカート騎士団が通り過ぎても人々の熱気は納まらない。

 次々に新たな騎兵が現われるからだ。

 なかでも人々の度肝を抜く一団がある。


 剣十字騎士団の列にあって他の騎兵とは一線を画するその異様ともいえる騎兵たち。

 全高が他の騎兵より頭ふたつ飛び出たその機体は全身を分厚い装甲で覆われていた。

 普通の騎兵が全身鎧を着込んだ優美な騎士の姿とするならば、その一団は戦車を無理やり人の形にしたような印象の常識はずれの重厚感溢れる漆黒の機体。

 その中に、さらに頭ひとつ飛びぬけた大きな機体があった。

 頭部に一本の角を生やした、やはり漆黒の機体。


 歩くだけで地震のような振動を周囲に振りまく超重量機体の群れ。

 それぞれが持つ武器も異様だ。

 只でさえ他の騎兵より頭ふたつ高い自身のさらに3倍はあろうかという騎兵用の長槍(ランス)。その槍には穂先からヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状の鍔まで一本の螺旋の溝が刻まれている。さらにその後ろにどのような役目があるのか直径も長さも1メートルはあろうかという円柱状のブロックが取り付けられていた。


「剣十字騎士団! 掲げ!」


 角付きの巨大な騎兵から老人らしき声が発せられた。

 その声を合図に、漆黒の重量級騎兵11騎を含む30余騎の騎兵が一斉に武器を掲げる。なかでも目立つのはやはり螺旋の溝を持つ計11本の長槍(ランス)だろう。

 掲げられたその超重の長槍(ランス)が陽光を受け煌めく。その輝きは希望の光として人々の胸中に満たされていく

 天を突き抜けんばかりに突き上げられた槍に観衆は爆発的な歓声を上げた。


 人々の興奮冷めやらぬなか、次に現われた一団は前ふたつの一行とはいささか様相を異にする。

 前ふたつがそれなりに統一された機体だったのに対し、3番目の団体は各種バラエティに富んでいた。

 優美な外見ながら突撃速度では何者にも負けないガレンハルト。重量級でありながら攻守のバランスの取れた傑作機ロナルディナ。大剣無双の白兵戦専用騎イグベル。

 他にも各種有名騎兵が目白押しだ。それはまるで機甲騎兵の展覧会のようなありさまだった。

 次々現われる騎兵に人々の興奮も増していく。


 だが、最後に現われた騎兵の異様すぎるその姿を目の当たりにした瞬間、興奮に満ちていた群集は冷水を浴びせられたように静まり返ることになる。










 決戦の地に立ち並ぶ無数の巨兵たち。

 後の歴史書にゴートカートの狂宴と記される伝説の戦闘が、人類反抗の狼煙とされるはずの第一戦がここにきって落とされようとしていた。


「障壁展開!」


 総司令の号令で、両翼ならびに中央の部隊に随行していた大型トレーラーが動作を開始する。架台に設置された巨大な機械上部の上空に向けられた放物曲面反射器から怪光が発生した。

 その光はまるで煙のように上空に昇り、防衛軍を覆いつくさんばかりの透明な上下逆さのお椀状の膜のようなものに転じてそれぞれの部隊をすっぽりと包み込んだ。


「ほんとにこれ役に立つんですか?」


 自分たちを覆う謎の膜を不安げに見つめ、シディルは騎兵の操縦席で傍らのスミスに通信を送った。


「剣十字の爺さんは自信ありげだったよ。実験では量産8.8センチ砲を10メートルの距離で防いだ。お蔭でバジルのヤツが凹んだがな」

「あの8.8センチ砲をですか!? ……けど、地上船にはとんでもない巨砲を載んでるって聞きましたが、そっちは大丈夫なんですか?」

「2000を割られると保障できないそうだ。あるいは自動兵器に近接されれば終わりだな。なにせ向こうにはAMFがある。あの膜は魔動術による結界だからな」

「駄目じゃないですか」

「だが、こっちの手の届かない距離から一方的に殴られることはないだろうよ。出来ることと出来ないことをちゃんと述べる。あの爺さん思ったより正直だ」


 スミスはその脳裏に、会議室にて兵器の効用を述べる鷲鼻の背の低い老人の姿を思い浮かべていた。


自動兵器(やつら)砲撃を開始したぞ!」


 遠くに輝く砲炎を目にした者が叫ぶ。

 自動兵器群は遠距離攻撃を得意とするタートルアーチャー部隊を引き連れていると報告にあった。六本脚の亀のような形の自動兵器はその甲羅の上に75ミリ砲を備えている。

 ただ単に遠距離からの砲撃ならば騎兵の防御フィールが防いでくれるが、防御フィールドを中和された状態で遠距離狙撃されれば防げる騎兵は少ない。


「セオリー通りですね」

「ああ、基本に忠実な奴らだ。すぐに近接用の自動兵器がやってくるぞ」


 彼方に輝く砲炎を睨むスミス。

 自動兵器も遠距離攻撃可能な兵器を多数所有している。本来なら押し寄せる『蟲』に対し、遠距離からの砲撃で突入する騎兵の支援用砲台としての姿こそが自動兵器の役割だからだ。


 自動兵器反乱後は砲口を向けれれる立場になった人類だが、人類側の主力兵器である機甲騎兵には防御フィールドがあり遠距離攻撃を無効化する。

 そのため、自動兵器部隊の基本戦術として遠距離からの対地攻撃で騎兵をかく乱・足止めし、その間に近接戦闘用の自動兵器が接近。AMFで騎兵の防御フィールドを中和しつつ近接攻撃を行い、砲撃部隊は遠距離狙撃といういのが自動兵器の基本戦術だった。

 高速演算装置を装備した狙撃部隊は乱戦状態であろうと遠距離からきっちり中ててくる。もっとも自動兵器は味方に誤射しようと一向に気にも留めないが。


「いつもなら自動兵器(やつら)の対地攻撃でシェイクされて辟易するんだが……」


 広範囲にばら撒かれる着弾の衝撃波に、騎兵はともかく中の騎手は揺られ揺すぶられてかき回され「いっそ殺してっ!」と叫ぶ者も居るとか居ないとか。


「大丈夫みたいですね」


 覚えがあるのか、膜の表面に広がるいくつもの波紋を見つめ、シディルは安堵のため息をこぼした。

 75ミリ砲だけでなく、誘導推進弾の一斉攻撃すら余裕で耐えている防御障壁。

 それは言わば機甲騎兵の防御フィールドを単独で、しかも広範囲に発生させる防御用魔動機械だ。それ自体は防御兵器として古くから活用されていたのだが、自動兵器反乱後、AMFの登場でその存在意義を失っていた。

 それを改良し、より広範囲かつ強力な防御障壁結界として再開発したのが鷲鼻の老人―――剣十字騎士団団長にして特別技術顧問ヨアヒム・レッツェンベルガーだった。


「妙だな……地上船からの砲撃が無い」


 足元のタートルアーチャーは盛んに砲火を煌めかせているものの、もっとも警戒している地上船の主砲塔は沈黙を続けている。


「前の戦闘で破損したか、あるいは故障―――なんてことは無いでしょうな」

「4つの主砲すべてなんてことはありえんだろ。ヤツラなに考えてやがる」

「遠距離攻撃が駄目なら自動兵器(やつら)束になって突っ込んでくるぞ。地上船からの攻撃も開始されるだろうし、その前にこっちの作戦にかかるか」


 スミスは背後に顔を向ける。その頬にはなぜか一筋のしずくが流れて落ちた。

 そこに控えているのはクリスの乗騎ティエレD。

 そのティエレは普段と様相を異にしていた。なんと言うか、コテコテに追加兵装を装備している。パレード時に比べればずいぶん大人しめではあるが、なんと言うが、そこだけがあまりに他の騎兵と存在感が異なる独特の空間になっている。


 現状のティエレDは以下の通り―――

 左背面装備の8.8センチ魔動砲はいつも通りだが、右背面には7本のぶっとい銃身を束ねた30ミリガトリング砲が追加されていた。1000発を越える弾を収めた巨大なドラムマガジンは操縦室の下に設置され給弾ベルトで砲に繋がれている。

 さらに両肩の大型シールドをスタブ翼のように水平に広げ、その下に20ミリ機関砲、横4列×縦5列の計20発に及ぶ直方体型ロケットランチャーをそれぞれ両翼の下に装着している。さらに腹部両側に2連装対戦車ロケットランチャー、両脚の5連装戦車ロケットランチャーなどなど。まるで歩く火薬庫といった有様だ。

 スタブ翼化した両肩の大型シールドの代わりに更なる大型シールドを二対増設したティエレは、見方を変えれば三対左右計6枚の羽を持つ優雅な機体に見える。

 「これこそティエレDの完全武装バージョンです! ティエレDのDは"ですとろい"のD!」と自慢げに胸をそらしていた少女の姿が脳裏に浮かぶスミスだった。


「―――嬢ちゃん。準備は良いか?」

「ばっちりです! パーフェクトです! いつでも出撃可能です!」


 鋼と火薬の塊と化した機甲騎兵から年端もいかぬ少女の弾んだ声が聞こえてくる。今にも飛び出して行きそうな、とてもとても嬉しそうな声だ。

 思わず眉間を押さえてしまったスミスは深いため息をつく。


「そうじゃなくてな、作戦通りに進めて欲しいんだが……」

「了解です。冗談ですよ。半分は」


 残りの半分は本気かい!、と言う周囲の突っ込みはどこ吹く風のクリス。

 ハリネズミのように追加された火器に計4枚の巨大な追加楯、さらには機体各所に追加装甲まで増設され超超重量機体と化したティエレDではあったが、【レッド・チャペル】が生み出す魔力に支えられた魔動機関と機体重量軽減用紋章機関の作動で余裕を持った機体運用を可能にする。

 通常の騎兵ならば全力出力に等しい魔力消費をアイドリング状態で消費している現状のティエレD。その出力を維持し続けるには空中に漂うマナだけでは到底足りない。その差分を埋めているのはクリスの自身の持つ膨大な魔力だ。


 普通のアーク・ドライブにそのような機能は無く、騎手の魔力を流用し膨大な出力を生み出す特殊アークドライブ【レッド・チャペル】あってこそ可能な荒業。もっとも、【レッド・チャペル】そのものはプレイヤーに大不評だった。膨大な出力を得られるものの消費されるMPも桁外れだからだ。

 【レッド・チャペル】を装備した騎兵の多くは戦場に到着した時点でプレイヤーのMP切れで立ち往生し、ただの的になった。【レッド・チャペル】は「役立たず」、「欠陥品」と言うのが多くのプレイヤーの評価だ。

 だが逆を言えば、消費量を賄える膨大な魔力(MP)さえあれば非常に有効なアークドライブではある。

 膨大な魔力出力で増幅された強固な魔力装甲は魔法・物理にかかわらずほとんどの攻撃を弾き返し、溢れんばかりの魔力を流し込まれた全身の筋肉筒は従来の騎兵のほぼ倍の出力を捻り出す。超重量で鈍重なはずのティエレが戦場を舞うように駆け抜けれるのも【レッド・チャペル】あってそこだ。

 重量を感じさせないその機体は、いっそ優雅ともいえる足取りで隊の先頭に立った。


「でも、作戦前に邪魔者を片付けておいたほうが良いですよね」

「なんのことだ?」

「上空に飛来物多数接近中。敵と判断し迎撃します」

「なに?」


 簡易ペイロードとして各種武装がマウントされた巨大楯の内側からラインメタル/マウザー・ヴェルケPMG-34機関銃を取り出したティエレは、両腕にそれぞれ機関銃をかまえ銃口を虚空へと向けて引き金を引いた。

 突如なにも無い天空に向け銃撃を開始したティエレに周囲が騒ぎ出す。


「どうした!?」

「なに撃ってる!」

「嬢ちゃん! なにやってんだ!?」


 騒ぐ鷹の翼の面々をよそにクリスは銃撃を続ける。解き放たれた銃弾は"なにも無かったはず"の空中で突如火花を散らして爆発した。爆発はひとつでなくティエレの銃撃がなぞった十数か所で連続して起こる。


「なんだ!? 爆発!?」

「光学迷彩―――不可視状態の敵が上空から接近していました。おそらく報告にあった"突如現われた"四枚羽根の飛行自動兵器と思われます」

「―――パトロール隊が遭遇したってアレか!」

「不可視、つまり周りから見えない透明な状態になってこっそりと近づき、上空で広範囲のAMFを展開する。そういう類の兵器でしょう」

「新兵器ってヤツか。それにしてもよく気づいたな」

「透明になった程度では私の"眼"は誤魔化せません」


 実のところはクリスという"プレイヤーキャラクター"の能力だ。

 プレイヤーキャラクターに標準装備されているレーダーは周囲の敵味方をはっきりと映し出す。戦闘に備え遠距離に切り替えておいたのも功を奏した。

 レーダーを誤魔化す技能(スキル)を備えた敵も存在するが、四枚羽根にはそうした技能(スキル)は無かったようだ。


「ますます頼もしいぜ。よし! 作戦実行だ!」


 スミスはクリスに声をかけた。

 槍鋼の人形側が提案した超遠距離広範囲攻撃呪文。広範囲に降り注ぐ雷槍の雨で地上船の巨砲――出来れば本体も――と周囲の大型自動兵器を撃破する。

 地上船の上甲板に設置された砲塔の巨砲さえなんとか出来れば、ゴートカート防衛軍にも勝機が見えてくる。


「頼むぞ嬢ちゃん」

「はい、わかりました。ところで剣十字の特務部隊はもう突入を開始しましたか?

「いや。突入は爆雷攻撃の後のはずだから、まだ左翼の陣地にいると思うが……どうした?」

「そうですか。突入してたらまとめてこんがり焼いてやれたのに。残念です」

「ちょっ!? 嬢ちゃん、怖ぇよ! 駄目だからな! 焼いていいのは機械どもだけだからな!」

「ク、クリスちゃん! 抑えて! ここは抑えて!」


 突如述べられた物騒な台詞に慌てるスミスとシディル(ふたり)

 周囲の鷹の翼のメンバーも一緒になって必死にクリスを宥める。やると言えばそれが出来るだけの実力があるクリスだ。

 彼女は二日前から妙に目が据わっている。

 実は会議において一番時間を費やしたのは作戦の説明ではく、ふたりのやり取りであった。どうも剣十字の特別顧問と何かあったようだが、接点のないふたりがどうしてああもいがみ合っているのか格納庫での一件を知らないスミスには理解できなかった。


「ふふふ……大丈夫です。まだチャンスはありますしね。うふふ」


 普段の天使のような愛らしい少女の姿はどこへやら。

 噴き上がる黒いオーラを隠そうとすらせず不気味な冷笑を続けるクリス。容姿が整っているだけに恐ろしい。どう扱えばいいのか、鷹の翼のメンバーは蒼白となりつつも説得(?)を続けていた。中には泣き落としにかかる者もいるくらいだ。


「とりあえず『作戦』を開始してくれ。嬢ちゃん」


 『作戦』の部分に祈るよう韻を含めて告げるスミス。


「了解です。さくっと片付けましょう。お楽しみは後にとって置くものですよね。

 堕ちよ神鳴り! 【轟雨閃雷滅陣】!」


 10キロ近く離れた自動兵器本隊頭上に突如巨大魔法陣が出現する。

 金色に輝くそれは帯電しながら鳴動し、魔法陣の直下で10個ほどの金色の塊を形成していく。バチバチと激しい音が本隊のほうまで聞こえてきそうな激しさで雷蛇のほとばしりを空中に放っていた。


 直後、光の爆発が世界を覆った。


 落雷の数十倍の規模の研ぎ澄まされた雷槍の豪雨が地表を舐め尽くす。

 地上船を中心に直径1キロにも及ぶ空間全体に無秩序の破壊がもたらされた。


 自動兵器を襲った雷はその装甲をえぐり内部機構をずたずたに引き裂いていく。雷蛇は自動兵器の内部を食い荒らし、腹に抱える炸薬を誘爆させる。

 荒れ狂う破壊の意思は自動兵器(獲物)を喰らい尽くすだけでは飽き足らず、その牙を大地へと向け襲い掛かった。

 雷は大地すら吹き飛ばしすべてを光に変えていく。


「…………」

「…………」

「…………」


 その光景を見た者は、只ひとりの魔術師が放った魔術攻撃の結果とは思えない惨劇に言葉を失う。

 僅か1分ほどの間にもたらされた破壊の嵐。それはまさに圧倒的と言える力だった。

 だが―――


「―――ふぅん」


 驚愕の静寂を破るのは涼やかな少女の声。


「あれに耐えるとはなかなかですね」


 見れば破壊の空間に曝された中にあって形を保っているものがある。

 驚くべきことに件の地上船はその形を保っていた。距離がありはっきりとは目視できないが確かに顕在していた。

 兵士たちの間に動揺が広がっていく。


「作戦失敗か―――いや!?」


 展望塔から身を乗り出し、取り出した双眼鏡を覗きこんで様子を探るスミス。最大望遠で見えた光景に落胆は無かった。

 二足歩行の地上船は破壊されはしなかったがけして無傷とはいいがたい状況だった。船体上部の艦橋やもっとも警戒すべき巨砲はその尽くが破壊され骸を曝している。副砲や高射砲など根元から吹き飛んでいた。

 さらに、地上船の周囲にいた都市攻略用大型自動兵器と遠距離攻撃用の自動兵器も残らず破壊されていた。

 地上船のみがなんとか耐えた―――そういう状況だった。


「作戦は成功だ! でか物の大砲は始末した! 周囲の大型自動兵器も全滅だ!」


 ことさら大きな声で周囲に伝えるスミス。

 鷹の翼だけでなく、この戦場に集った冒険者に歓声が轟いた。まだ300以上の自動兵器が残っているが、最大の懸念であった地上船の巨砲を封じたことによる安堵を覚えた人々の間に歓喜の輪が広がっていく



H24/05/06 誤字修正。ご指摘ありがとうございます。

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