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第17話 滅ビノハジマリ

大変お待たせいたしました。第17話をお送りいたします。

いよいよ序盤の節目の話が始まります。

いやー、一月中に続きが書けてよかった。しかも、知らない間に100万PV突破してるしっ!(オイ)

読んで下さっている皆さん、ありがとうございます!

 ゴードカートの街から250キロほど北上した丘陵地帯。

 満天の空には大地を焦がす太陽が浮かんでいる。季節が夏場なら文字通り大地を焦がす太陽の光も、冬となった今の季節ではむしろ心地よさを誘う優しい光だ。

 むしろ冷たく吹く風が日の光に照らされ温まった大地から熱を奪い、人々に今は冬だということを思い知らせている。


 そんな寒風吹きすさぶ荒野の真っ只中。道なき道を進む複数の影があった。

 所々塗装が剥げ落ち地肌むき出しの装甲を隠すでもなく歩を進める鋼の人型、つまり機甲騎兵が二騎とそれに続く一両の戦車。


 堅固な装甲を誇るロンドブリッツと軽快な機動が身上のブルーレイ。今では共に旧式に分類される騎兵だが、大陸西部ではまだまだ第一線で活躍している騎兵だ。

 後方から付き従うのは騎兵戦車クロムウェル。

 装甲より速度・機動力を重視した車両を騎兵戦車と呼称するが、その中にあっても優秀な魔動機関を搭載したクロムウェルは70ミリを超える装甲を有しながらも最高速度は時速60キロを超える快速を誇る戦車だ。


 いずれの機体にもデフォルメされた人形の背中に交差する二本の槍を意匠化したマークがペイントされていた。それはゴードカートに本拠を置く傭兵団"槍鋼の人形"所属を表すマークだ。


 本来なら複数の搭乗者を必要とする戦車は、ワンマンシステムと呼ばれる集中操縦装置を用いることで戦車長一人で運用可能となる。

 軍隊と違い、限られた人数で行動しなければならない冒険者に必要とされたシステムなのだが、一人で一車両を運用できる利点に目を付けた傭兵団でも運用する者は多い。


 彼らはゴードカート周辺を巡回するパトロール任務の只中にある。

 一団が歩むのはなだらかに傾斜した丘への上り坂。冬が到来したこの季節に吹く風は冷たい。

 遥か彼方に霞んで見える山々の頂はすっかりと白で覆われていた。


 砲塔の展望塔から上半身を覗かせ、双眼鏡を用いて油断なく周囲を警戒する若い戦車長に、前を歩く機甲騎兵ロンドブリッツから無線機を通しからかい混じりの声が投げかけられた。


「よう、ジョージ。お前さんも真面目だなぁ。そんなに必死になって警戒しなくても、ここんとこ自動兵器(やつら)は大人しいもんだぜ? もうずいぶん姿を見せてねぇよ」

「だからこそですよ。見かけないからこそ、いつ現れても不思議じゃないんですから。注意を払うに越したことはありません」


 ゴードカート周辺から自動兵器の姿が消えてすでに三週間がたつ。街とその周辺には不気味な静寂の(とき)が流れていた。

 彼ら以外のパトロール隊からも自動兵器発見の報は入っていない。


 伝え聞く話しによればラスカーシャ周辺でも同様の事態が続き、街を拠点とする冒険者達は獲物が取れず商売にならないと嘆いているようだ。


「やれやれ。優等生君は言う事が違うねえ」

「その辺にしとけよ。ジョージの言うとおり、不気味な平穏が続いているんだ。警戒は怠らないほうが良い」


 前を歩くブルーレイから嗜める声が無線機を通じ届いた。


「やれやれ。真面目君が二人もかよ。どうせ『蟲』共の対応に大わらわでこっちにまで手が回らないんだろ。へっ、いい気味だぜ。いっそ共倒れしろってんだ」

「いい加減にしと―――おおう!」


 前を歩いていたブルーレイが急にバランスを崩した。

 騎手の平衡感覚を利用したオートバランサーが働き、騎兵の主制御装置たるマギスジェムが自動で体勢が崩れた機体を無理やり立て直す。引きずる脚で何度かたたらを踏み、ケンケンするように片脚で軽く連続ジャンプ。手脚を振り回してバランスを取ろうと自動制御を行う。

 下手糞な舞踊を舞うような不恰好な様を見せながらも何とか転倒を回避でき、騎手は安堵の息を漏らした。


 操縦席の中で騎手は吹き出た冷や汗を袖口でぬぐう。

 無理やりの制御のおかげで操縦室がシェイクされ、騎手は胃の奥からナニやらこみ上げて来るものを感じたが気力でそれを留める。何とか操縦室を汚すという不名誉を回避できたようだ。


「……おいおい。なに素人みたいなことしてるんだよ」

「す、すまん。急に機体が重くなったような気がして……」


 操縦桿に急に負荷がかかったような、どこか覚えのある感覚に騎手は首をかしげる。

 ゴードカートに籍を置く傭兵としてなじみのある感覚。思わず映像盤を見渡し周囲を確認してみるが"やつら"の姿は何処にも見当たらない。


 思い過ごしかと機体を進めようとするがやはり脚は重い。脚だけでなく機体全体の動きが妙に緩慢になっている気がした。


「しっかりしろよ―――って、あれ? こっちの機体も急に重くなりやがった。故障かよ」

「こちらもです!」


 騎兵だけでなくクロムウェルの状況も急激に悪化していた。

 どう考えても異常事態だ。二騎一両同時に故障するなどありえない。


「どうした! なにが起きている!」

「アークドライブが……アークドライブの出力が急激に落ちてます!」

「なんだこりゃ! なんで急にこんな!」

「この魔力の急速な減少―――まさか、AMF!?」

「馬鹿言え! 自動兵器なんざ影も形も見えねぇぞ!」


 若い戦車長―――ジョージが思わず叫んだとおり、二騎一両の主機関、アークドライブが急速にその出力を減じていた。複数のアークドライブが同時に出力を弱める原因はひとつしかない。


 三人はきょろきょろと周囲を見渡し原因である自動兵器の姿を探す。

 周囲はなだらかな丘で見晴らしがよく、姿を隠せるような遮蔽物は周りに見当たらない。空は雲ひとつない青空が広がりどこまでも蒼が広がっていた。

 ただ一点を除いて。


「シグさんっ! 上!」


 若い戦車長の声が飛ぶ。

 言われて真上を見上げれば、そこには円盤状の本体から金属で出来た鳥の翼のようなものを四方に生やした奇妙な物体がふわふわと浮かんでいた。


 比較するものがないため正確な大きさは分からないが、翼の先端から対角線上の端まで7メートルはあるだろう。高度は50メートル程だろうか。

 そんな物体が自分たちの上空に浮かんでいることに一同は驚愕した。


「なっ! なぜあんな物が急に!?」

「ジョージ! お前、見張りしてたんじゃなかったのかよ!」

「幾らなんでもあんな物が飛んでくれば見落としたりしませんよ! 突然現れたとしか思えません!」

「馬鹿言うな! そんな訳あるか!」

「ふたりとも言い争いは後にしろ! とにかくアレを何とかするんだ!」

「くそっ!」


 ロンドブリッツは携帯していた小銃型魔動兵装を上空に向け引き金を引き絞る。しかし銃は軽い金属音を立てただけで何の反応も起こさなかった。


 ゴードカートに拠点を置く傭兵団"槍鋼の人形"はその任務の特性上、最新型の魔動兵装を各員に配備している。もちろんAMF内での戦闘を考慮してだ。


 白兵武器の形を模した旧型のそれと異なり、はじめから魔動術を"撃つ"ことを目的とした"銃"の形をした騎兵用魔動兵装。

 装備された新型は実弾を装填することで実弾射撃も可能な最新式魔動兵装P-M1カービン。


 だがしかし、いかに実弾射撃可能な最新式であろうと魔動術モードにしている限りAMF効果範囲内では不恰好な棍棒程度にしか役には立たない。


「くそうっ、火弾出ねぇぞ! 壊れてんのか!」

「馬鹿! AMF内で魔動術が使えるか! 実弾射撃モードに切り替えろ!」

「あ、そうか」


 言われて銃のセレクターを操作し実弾射撃モードに切り替える。

 隣ではブルーレイが同じくカービンを空に向け、上空の円盤を撃ち落そうと射撃を続けていた。

 だがしかし、先ほどの無理な制御のツケが回ったか、脚部のどこかを悪くしたらしく下半身が安定せず翼には何発か命中するものの円盤本体には掠りもしない。


「くそっ! 脚がふらついて射線が安定しない!」

「よしきた、任せとけ!」


 セレクターを実包に切り替えたロンドブリッツがカービンを空へと向け引き金を引く。しかし、やはり銃は軽い金属音を立てただけで何の反応も起こさなかった。


「くそうっ、弾出ねぇぞ! やっぱ壊れてるじゃねぇか!」

「阿呆! コッキングレバー引け! 初弾を装填しろ!」

「だあああーーー!! 面倒くせぇ! こんなんいるかーーーーー!!!」


 騎兵のアークドライブから必要な魔力を組み上げ術を放つ魔動術モードならいざ知らず、魔動兵装で実弾を発砲する場合、コッキングレバーを引いて弾を薬室に装填しなければならない。


 しばらくガチャガチャとやっていたロンドブリッツの騎手は操作がうまく出来ずにいた。色々と頭にきた騎手はカービンの銃身を掴むと思い切り振り被り、円盤目掛けて力の限り放り投げる。

 投げ飛ばされたカービン銃はくるくると勢いよく回転しながら宙を突き進む。


「馬鹿野郎! なにやって―――」


 その様子を横目に目撃したブルーレイは非難の声を挙げようとしたが、


「よーし、ストライーク!」

「「んなアホな……」」


 ものの見事に円盤の中心を貫いた小銃を見てガッツポーズを決めるロンドブリッツ。

 その他のふたりはあまりの成り行きに呆然としていた。


 件の円盤はしばらくふらふらと宙に浮かんでいたが、空を漂う能力を失ったか重力に引かれ地面に落下する。盛大な砂埃が舞い上がり周囲を白く染めた。


「ケホケホ……酷いですよ、クラークさん」


 密閉された操縦室にいる騎手ふたりと違い、展望塔から半身を出していた戦車長は砂埃をまともに浴びてしまっていた。


「あ、悪りぃ。しかし終わり良ければすべて良しだ。支給品の銃を壊しちまった件はこの円盤を持って帰ればちゃらだな」

「なんといういい加減な……しかし、確かにこれはいい研究材料になる。そもそも空飛ぶ自動兵器なんて初めて見たぜ」

「やっぱこれ自動兵器(やつら)か……」

「円盤の破壊と共にAMFが切れた。疑う余地は無―――」


 何かが飛来する大気を引き裂く音が聞こえたかと思えば、突然ロンドブリッツの下半身が吹き飛んだ。ハンマーで横殴りされたように機体が破壊され、ついで足元で爆発が起きる。

 下半身を失ったロンドブリッツの機体は爆炎と土煙の中に消えた。


「クラーク!」

「クラークさん!」


 巻き上げられた土砂が粉塵となって周囲に降り注ぐ。

 ブルーレイもクロムウェルも大量の土砂を浴びて半ば埋まっていた。若き戦車長にとって幸運だったのはAMFが消滅して戦車の防御フィールドが回復していたからだ。でなければ爆風による衝撃か炎に焼かれ絶命していただろう。


 騎兵とは比べ物にならないが、戦車もアークドライブを搭載している以上防御フィールドは発生する。歩兵用の小銃を防ぐくらいが関の山の弱々しい防御力だが。


 なにが起きたか理解できずその場で固まる騎兵と戦車。

 最初に我を取り戻したのはブルーレイの騎手シグだった。この爆発はおそらく砲撃によるものとあたりをつけ、いまだ土まみれで呆然としているジョージに叱咤する。


「砲撃だ! すぐに第二射がくるぞ、散らばれ!」

「し、しかし―――クラークさんが!」

「ぐずぐずしていると次は俺たちが食らうぞ! とにかく動くんだ!」

「―――了解」


 咄嗟に出掛かった非難の言葉を飲み込みクロムウェルを動かす。

 かつてロンドブリッツが居たはずの場所、今は大きく抉られ陥没した地面を一瞥し、ジョージは唇を強く噛んだ。


「クラークさん。貴方の仇は必ず僕が―――」

「馬鹿野郎。勝手に殺すな……」


 ジェム通信を通して弱々しい声が伝わってきた。大破したはずのロンドブリッツの騎手、クラークの声だった。


「―――あれ?」

「クラーク! 無事だったか!? 生きてるんだな!?」

「付けてて良かった緊急脱出装置。だが肩をやられちまった。脱出装置に放り投げられて全身強く打った。死ぬほどイテェし動けねぇ。拾ってくれ」

「運のいい奴。何処だ?」


 砂塵が収まりなんとか周囲を見渡せるようになる。あたりを見渡すと爆撃で抉り取られた土砂で出来た山の一角でひらひらと動く何かがあった。よく見れば人間の腕だ。

 シグの胸から下は土砂で埋まっている。動く右腕で仲間に自分の位置を知らせていた。


 すぐさまブルーレイが駆け寄り、騎兵の腕で積み重なった土砂を崩し救い出すと負傷したクラークを両掌で持ち上げた。いささか乱暴に思えるその動きはクラークの傷にさわり、折れた肋骨が痛みを誘う。


「イテェよ。もっと優しくしろよ」

「それだけ話せれば大丈夫だな。ジョージ、悪いがクラークを運んでやってくれ。すぐにここを離れるぞ!」


 クラークをそっとクロムウェルの車体の上に乗せ、急いでその場を離れる。騎兵戦車の名に恥じぬ速度で戦車を走らせたジョージは腰のポーチから回復薬を取り出し、ぐったりとしているクラークに手渡した。


「クラークさん。これを飲んでください」

「こりゃ白ポじゃねぇか。いいのか、こんな高級品」

「こんななときの為の回復薬ですから」

「―――すまねぇ。恩に着る」

「動けるようになったら中に入ってください。戦車跨乗(タンク・デサント)は危険です」


 巷で白ポと呼ばれる高級回復薬、<ロクベルの白>を飲み干し怪我を癒すクラーク。

 高価な回復薬のお蔭で骨折などの酷い傷はほぼ完治した。打ち身による鈍痛はまだ身体の各所に残り、ろくに動くことは出来ないが程なく回復するだろう。


 負傷者を乗せた騎兵戦車クロムウェルを先行させ、ブルーレイはその後に続く。戦車の楯になるつもりだ。AMFの影響さえなければ騎兵の防御フィールドが守ってくれると信じて。


 周囲に敵の姿は見えない。そのことにシグは焦りにも似た不安を感じていた。

 砲撃の飛来音と着弾痕から北西からの攻撃と大体の方角はわかる。しかし、北西は荒野が彼方まで続き自動兵器の姿など影も形も無かった。遥か地平に小山と森の姿が霞んで見えるのみだ。


 痛む身体に鞭を打ち、予備ハッチから砲等部に入ったクラークは双眼鏡片手に周囲警戒を手伝う。時折双眼鏡を放して上空を確認するのは飛行型自動機械に対する警戒だろう。


「敵なんざどこにも見えねぇ……。シグ、やつら(自動兵器)の姿は見えるか?」

「いや、姿は見えない、いったいどこから撃ってきたんだ……第二射がないのも気になるな」

「砲弾が飛んできた方角はどっちだ?」

「おそらくだが北西の方向」

「……山と森ばっかだな―――いやまて!」


 山の陰で何かが動いた気がして目を凝らすクラーク。


「なにか居たか!? どこだ!?」

「山がふたつ連なっている向こう側でなにか動いたぞ!」


 クラークが指差すはるか先に微かに霞む山々が見えた。

 シグもジョージも、クラークが指差すあたりに注目する。


 そこに『それ』はいた。


 のっそりと山の陰から現れた巨大な鉄の塊。

 いまだ遠くなれど、その巨体さはまさに山が動いているのかと錯覚するほどだ。


 形的に例えるならば『それ』は船だろう。

 だが従来の帆船とはまったく形状が異なっている。帆の類は一切なく、船体上部の中央付近に巨大な鋼鉄の塔が天を突くほどに聳え立っていた。


 甲板には巨砲と評するに相応しい二連装回転式砲塔を前後にふたつずつの計四門。

 中央の塔付近と船体の各所に副砲や連装高角砲、機銃が配置されている。


 地球の知識がある者、それこそクリスが見れば『あ、戦艦だ』とでも言うだろうが、こちらの世界の人々にそのような知識はなく、なにより地上を『歩く』船などただの一人も見たことはないだろう。


「……な、なんだアレ」

「……船?」

「馬鹿言え……地上に船なんて聞いたこともないぜ」

「ええ。まして二本足で歩く船なんて……」


 のっそりと山陰から姿を現したそれは、たしかに二本の脚で歩いていた。さらにその足元には無数の影がちらついている。


「……アレの足元。なんか自動兵器がいっぱいいないか?」

「あー、数えるのも面倒なほどいますね」

「お、止まったぞ?」


 謎の二足歩行船は立ち止まり、そして発砲。


「「「―――だあ!!! 撃ってきた!」」」


 無数の砲火が瞬き、雨あられと砲弾を撃ち放った。砲煙で船の姿が隠れたほどだ。

 天を覆いつくさんばかりの砲弾の雨が舞い踊る。

 それはまさに弾の幕。


「「逃げろーーー!!」」

「はははははは、はいっ!」


 砲弾の雨の合間をちょこまかと必死で逃れる騎兵と戦車。

 逃げ回る獲物を追いかけるように、まるでなぶる様に砲弾は点でなく面となってあたり一面に注がれた。

 大地は深くえぐられ衝撃は大地を揺らし、大量の土砂が巻い上がって傭兵たちの視界を遮る。


「―――みんな生きてるか!?」

「奇跡的にな!」

「なんとか!」

「と、とにかくゴードカートに戻るぞ! あのバケモノ―――いや、バカモノのことを知らせるんだ!」

「ははは! その例え、言いえて妙だな!」

「なんだか冷静ですね、クラークさん」

「馬鹿言え。あんなもん見たら笑うしかできねぇよ」


 互いの無事を確認し合い、必死で逃げる傭兵をあざ笑うかのように再び轟音が轟く。

 天空にて無数の雷が荒れ狂うがごとく音は衝撃波と化して大気を伝わってくる。そして着弾。

 再び大地がえぐられる音が鳴り響いた。


 遠く離れた場所で。


「「「―――え?」」」


 一行は今度こそ死を覚悟したが、砲弾の雨はまったく異なる場所に降り注いでいた。

 遠く彼方の場所で舞い上がる多くの土煙。そして、なにかが爆発したような音も響いてくる。


「―――なんだ?」

「あっちに何かいるのか……シグ、見えるか?」

「……いや。よくわからん。だが、誰かが戦闘を仕掛けたようだ。土煙の間から砲火が見える」

「あの化け物相手に正気か!?」


 見れば『船』はその船先を転じ、新たな目標に向けて文字通り歩を進めていた。シグら一行を追いかけるべく姿を現した自動兵器の群れも、『船』の進路に合わせるよう潮が引くように森の中に消えていく

 そのようすを視界に納め、誰のものとも知れぬ安堵のため息が漏れる。


「―――た、助かった……のか?」

自動兵器(やつら)、すべて森の向こうに消えました。おそく新たな敵の元に向かったのでしょうね」

「どうする? 追いかけるか……救援に向かうか?」


 自動兵器の群れが消えた森を呆然と眺めながら、傍らを走るブルーレイを見上げクラークが尋ねる。


「……いや。たった一騎の騎兵と戦車だけではなんの足しにもならん。それより急いでゴードカートに戻るぞ。あの『地上を歩く船』や自動兵器の群れのことを報告して対策を練らなければな」

「対策ったって……自動兵器ならともかく、あの化け物相手にどうしようってんだ?」

「さあな。逃げるか戦うか、それを決めるのは上の判断だ。とにかく報告に戻る」


 遠ざかる森の姿、そして山陰の合間に微かに見える脅威の姿に、なにかが始まった不安を感じながら一行は街を目指しひたすら荒野を急いだ。




 かくして滅びの予兆は齎された。

 クリスもいまだ知らぬ出来事だった。




 ちなみに、その頃のクリスが何をしていたかというと、




「この馬鹿たれ! 女の子を見ててやれって言っただろう!」

「いってー。殴んなくてもいいだろ!」

「こちらの少年はレイチェルさんのお知り合いですか?」

「ん? ああ、こいつは―――」

「おお! 美少女発見! はじめましてお嬢さん。僕の名前はロベルトと言います。

 レイチェル姉がお世話になってます。至らぬ姉がご迷惑をかけてはいませんか? 具体的に言うと所かまわず勝負を持ちかけて来るとか。

 お詫びと言っては何ですが、お茶でも奢らせてください。そこでゆっくと二人の今後についてお話を―――」


 ゴチン!


「いきなりナンパするんじゃない!」

「出世前の男の頭を二度も殴った! そんな事だからいつまでたっても成長しないんだ。少しはこのお嬢さんを見習え!

 特に胸!」


 ゴチン! ゴチン!!


「―――くおぉぉぉぉ……」

「なかなか愉快な弟さんですね」

「ったくコイツは!」

「ひとつ訂正しておきますが、レイチェルさんは着やせするタイプです。脱ぐとすごいんですよ? 割と」

「最後に付け足した台詞がちょっとアレだけど、それは良いことを聞いた」

「わー! わー!! わー!!!」






 割と呑気で平和だった。




誤字脱字ありましたらご連絡ください。

あと、出して欲しい兵器とかありましたらご連絡ください。出来れば馬鹿っぽいもの希望。

ドリル戦艦とか出そうかなー。


H24/01/29 誤字修正。ご指摘、ありがとうございます。

H24/02/01 誤字・脱字修正 ご指摘、ありがとうございます。

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