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第11話 盗賊街道

べ、別に超・変形合体の変形シーンを考えてない訳じゃないんだからねっ!

『見よ! 久遠の彼方より訪れし破滅の機神! まさに神成る姿!

       超・変形合体ティエレ・エクストリーム・Σ! ここに推参!!』


 渦巻く竜巻を引き破り、それは姿を現した。濃緑色にカラーリングされた異色の重装甲騎兵。

 引き裂かれた風が砂塵と共に乱れ舞う。






「おーおー。見事なくらいに動揺してるな」


 愛機ロックベルの操縦室で、スミスは映像盤に写る右往左往する盗賊たちの様子を眺めながら苦笑する。商隊の警備担当としてもちろん周囲警戒は怠っていない。


「・・・俺のときもあんな感じだったんですかねぇ」


 ヘッドセット越しに傍らのジンカートから通信が入る。シディルの声だ。

 どこか遠くを見ているような力ない声だった。


「そうだな」

「似たようなもんだ」

「動けなかった分もっと悪いな」

「げふっ」


 仲間から容赦ない言葉を浴びせられ落ち込むシディル。とくに尊敬するバジルからの言葉は強く心にダメージを与えたようだ。


 ラスカーシャを出発して三日。

 ベレツ商隊は、俗に盗賊街道と呼ばれるメンテルヒアへと続く荒れ果てた街道を西に進んでいた。ラスカーシャからメンテルヒアまで約1000キロ。五日ほどの距離だ。

 地球世界の整備された路を行くなら一日とかからないが、ここは異世界。しかも整備する者のない荒れ果てた街道を行くにはどうしても時間がかかる。時速40キロも出せればいいほうだろう。

 護衛の機甲騎兵や戦車も含めればさらに足は遅くなる。


 機甲騎兵のローラーギアは戦闘時の運用が普通で、それ以外では徒歩での移動か車両での運搬が基本となる。

 商隊の護衛が主な仕事の鷹の翼は、騎兵専用の運搬車両を有しており、他の冒険者達より移動速度は稼げはするが、メンバーには戦車乗りもいるので結果的には足は早くはない。


 足が遅くなれば盗賊などにも狙われやすくなる。そして此処は、盗賊街道とも呼ばれる盗賊どもが跋扈する無法地帯だ。治安を守る組織があるわけではなく、自分の身は自分で守らなければならない土地だ。

 かくして獲物に群がるハゲタカのように盗賊たちが現れる。機甲騎兵七騎、戦車五両という大所帯の盗賊団だった。

 盗賊たちの出現に、クリスの操るティーガーⅠが先陣を切る。。


 単身突撃し、盗賊たちの目の前で変形すれば、どんな新兵器が現れたかと動揺する盗賊団。ただでさえ烏合の衆の盗賊たちは、ろくな連携も取れずてんでに行動しはじめた。なかにはすでに逃げ始めるものまでいる始末だ。

 それでも向かってくる剛毅な相手を出迎えるのはティエレの8.8センチ魔動砲だ。

 長砲身を上下に折り畳んだショートバレル状態の魔動砲が、300メートル以上の距離を置いて火を吹いた。命中打を受けた盗賊の機甲騎兵は片脚をもぎ取られ横転する。

 倒れた騎兵から這い出し、慌てて逃げていく盗賊。なにやら悲鳴をあげつつ丘の向こうへ遁走していく。


「・・・おいおい。嬢ちゃんの大砲、騎兵を倒したぞ?」

「すごい威力ですね、あの大砲」


 想像を超える魔動砲の威力に驚くシディル。闘技場であの大砲を自分に向けられなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 シディルの呑気な感想にスミスはかぶりを振る。


「そうじゃない。騎兵を相手に大砲を直撃させたんだぞ? 起動中の騎兵相手にだ」

「--あ!」


 アークドライブを起動させた機甲騎兵は、自機の周囲に防御フィールドを展開する。

 その防御は魔法物理を問わず、射撃攻撃を逸らしてしまう効果がある。然るにクリスのティエレは背中の魔動砲で騎兵を倒した。接射でもしない限り、起こりえない現象のはずだった。

 驚愕するふたりの会話に割り込んだのはバジルだ。


「これは嬢ちゃんから聞いた話なんだが」

「バジル?」

「嬢ちゃんの騎兵が背負っている戦車砲、アハトアハトと言ったか。フルバレルなら二千の距離から80ミリの装甲板を撃ち抜けるそうだ」

「ぶっ!」

「に、二千で80ミリって・・・」

「500メートル以下なら110ミリの装甲板でも抜けるらしい」

「・・・・どんな化け物砲ですか、それ」

「もはや言葉もねえよ」


 機甲騎兵の防御フィールドは、例えるなら空気の詰まった風船のようなものだ。魔動兵装や魔法ならば強固な防壁と化すが、実体弾に対しては硬度で弾くのではなく、優しく包み込むように受け止め弾力で受け流す。実体弾に対しては撓むのだ。

 この撓むというのが曲者で、8.8センチ砲の徹甲弾ともなると防御フィールドが受け流す前に本体に命中してしまう。高い貫通力を持つ実体弾ならではの戦果だった。


「それはともかく俺たちも行くぞ。このままだと嬢ちゃんに全部喰われる。ベレツの旦那に給料泥棒呼ばわりされちまうぜ」


 見ればティエレは敵陣の真っ只中に突撃し、ハルバートを振り回して装甲騎兵をなます切りにしていた。

 横手から斬りかかってきた相手の剣を肩のシールドで受け流し、体を入れ替えると反撃とばかりにハルバートを振るう。胴体を真っ二つにされた騎兵が乾いた大地にごとりと落ちた。

 さらに迫りくる敵騎兵に手の中の獲物を投げつける。高速回転して飛来したハルバートが相手の胸の装甲をかちわって突き刺さった。火花を散らし機能を止めた装甲騎兵が大地に崩れ落ちる。

 予備武器の小太刀を引き抜いた。するとどうしたことか、小太刀の刀身が延び一振りの太刀と化す。

 太刀を構え、更なる獲物を求めティエレは戦場を駆けた。


「行くぞ、野郎ども! 嬢ちゃんばっかいいカッコさせるなよ!」

「「「「「おう!」」」」」


 商隊の護衛に戦車隊を残し、護衛団の機甲騎兵が一斉に盗賊団に襲い掛かった。






「ふう。いい仕事をしました」


 ティエレの操縦室でかいてもいない汗をぬぐうクリス。非常にさわやかな笑顔だ。

 それもそのはず。ティエレとティーガーをいくら乗り換えても魔術の成果だと勘違いさせることに成功したクリスは、思う存分装甲を堪能できるのだから。


 機甲騎兵を愛する少女は同じくらいに戦車も愛していた。ティーガーⅠのミスリルタングステン合金の装甲は、ティエレとはまた違う魅力があると固く信じている。

 これからいつでも気兼ねなく機甲騎兵と戦車とを【乗り換え】られると思うと、緩む頬を押さえることが出来ないクリスであった。


「ご苦労さん。商隊も移動を再開するだろうから嬢ちゃんは戻ってくれ」


 無線機からスミスの声が流れる。彼は残敵がいないか周囲を警戒していた。

 クリスに統制を崩され、泡を食っていたところに鷹の翼の騎兵に追い討ちを駆けられた盗賊団は僅かの時間で壊滅した。機甲騎兵はことごとく潰され、逃げ延びられたのは戦車一両のみという体たらくだ。もはや再起は無理だろう。


 護衛の冒険者達は、捕らえた盗賊に僅かな水と食料を与え放逐する。

 周囲100キロはろくに緑もない岩山が連なるだけの街道。運がよければ生き延びられるが、運が悪ければそのまま野垂れ死にだ。

 賞金首でもいれば連れ帰れば金になるが、あいにく手配されている者はいなかった。

 もとより人道などという言葉に意味などない無法地帯。襲ってきた盗賊にかける情けはない。本来ならその場で殺されても文句は言えないのだ。


「ちょっと待って下さいね。せっかくだから持ち主のいなくなった騎兵拾ってきます」


 クリスは一人で五騎の騎兵を倒すという快挙を成し遂げていた。圧倒的なスコアだ。

 倒した騎兵のうち、二騎は大破させてしまったが、残りの三騎は比較的損傷が少ない。修理すれば充分使えるだろう。


「特別ボーナスを期待してもよろしいでしょうか?」

「欲がないのかチャッカリしているんだか。鹵獲品はベレツの旦那が買い取ってくれるだろうし、ボーナスは期待しててくれ」


 ベレツと鷹の翼との間の雇用条件では、護衛中に鹵獲した品々は鷹の翼の所有物になることになっている。一番多く仕留めたのはクリスだが、今は鷹の翼に雇われた身だ。鹵獲品の所有権は鷹の翼にあると言っていい。

 無理を通すなら所有権を主張できなくもないが後にしこりが残るだろう。

 クリスの台詞は、鹵獲の騎兵に対して所有権を主張するつもりはないと言外に語っていた。

 騎兵を回収しているとシディルが手伝いを申し出る。


「クリス嬢ちゃん、手伝うよ」

「ありがとうございます、シディルさん」

「いやいや。そのかわり食事に一品追加してもらえると嬉しいな」

「そうですね。ではジャガイモとベーコンでなにか作りましょう」

「ひゃっほう! サンキュー!」


 ヘッドセットからはしゃいだ声が聞こえてくる。


「・・・シディルの奴。すっかり餌付けされやがって」


 スミスの呆れた呟き声は誰にも聞かれなかった。当初の敵愾心は何処へやら。嬉々として騎兵回収を手伝うシディルの態度に頭痛がする思いのスミスである。


 シディルが完膚なきまでに倒された模擬戦のあと、鷹の翼にはなんともいえない雰囲気が漂っていた。

 まだ若手とはいえ鷹の翼一番の騎兵乗りとして全員に認められていたシディルだ。そのシディルを僅か十代前半の少女の操る騎兵が圧倒したのだ。優秀な護衛団として名を売っていた鷹の翼のメンバーとしては、自尊心とかプライドとかいろいろあるが、華奢な体躯の愛らしい少女に面と向かって何かすることも出来ず複雑な感情をもてあましていた。

 団内の微妙な空気に懸念を覚えたスミスの脳裏にグラスの台詞がリフレインされる。


『嬢ちゃんのことで団内に不協和音を感じたなら嬢ちゃんに料理番させとけ。それで解決する』


 最初はなんのことだか分からなかったが、試しに料理番を頼んでみれば即座にその意味を理解した。

 美味いのだ。言葉も出ないくらい美味いのだ。


 それほど複雑な料理ではない。

 干し肉と野菜を煮込み塩コショウで味を調えたシチュー。炙ったパンにスライスしたトマトとチーズをはさんだホットサンド。香草で包んだ鶏肉の蒸し焼き。ヴィネガーにオリーブオイルをたらし、香辛料を加えたドレッシングをかけた野菜サラダ。

 ただそれだけだ。

 とくに手間隙をかけた様に見えない料理が泣けるほど美味かった。

 メンバー全員が無言でがっつき、クリスの「シチューお代わりあります」の台詞に全員がこぞってシチュー皿を差し出したほどだ。

 少女に対する負の感情が氷解した瞬間だった。とくにシディルなどメンバーが呆れるほど顕著で、そのことを揶揄された彼は悪びれる様子もなくこう宣った。


「なに言ってるんですか。俺は冒険者の格言に従ったまでですよ。『飯を食わせてくれる相手は大切にしろ。それが美味い飯ならなおさらだ』ってね。」


 あきれ返る言葉だが、それはメンバー全員が一致する意見でもある。

 移動中の冒険者の食事はとにかく貧しい。味など二の次で満腹感が得られればそれでいいと考える冒険者が多いからだ。凝った料理に時間を費やすなら身体を休めるほうを優先させる。干し肉とパンだけという食事も珍しくない。

 街に着いた冒険者が、酒と食事を求めて食べ物屋に群がるのもそれが理由だ。


 クリスがいれば「美味いものが食いたいなぁ」「食えるだけありがたいと思え」という旅の間の食事事情から解放されるのだから、これ以上の贅沢はないだろう。


「ほう。ジャガイモとベーコンか。俺も手伝おう」


 横手から更なる手伝いの手が上がった。バジルだ。

 言うが早いかバジルの戦車が移動を開始する。運転手のクライスもやる気満々のようだ。バジルを皮切りに鷹の翼のメンバー全員が我も我もと手を上げるにいたり、スミスの額に青筋が浮かびあがる。


「リーーック! ロットン! てめーらは持ち場を離れるな! まだ安全が確認されたわけじゃないんだぞ! 俺達は商隊の護衛だってこと忘れてんじゃねぇ! --嬢ちゃん、すまないが一品追加は全員分頼む。このままだと護衛そっちのけで手伝いに行っちまうよ」

「はい」


 クリスの楽しげな笑いを含む声が届く。

 団に少女が受け入れられ不協和音が消えたことは喜ばしいが、新たな問題がちらつき始めたことに頭を悩ませるスミスであった。


「ったくよ」


 クリスの料理が美味すぎるのがいけないのだ。美味すぎるのが。


「・・・ジャガイモとベーコンか。うむ」


 いそいそと手伝いに向かうスミスに、団員からの盛大なブーイングが乱れ飛んだ。




誤字脱字ありましたらご連絡下さい。


H23/10/27 誤字訂正。ご指摘、ありがとうございます。

H23/11/28 誤字修正。ご指摘、ありがとうございます。

H24/02/22 誤字修正。ご指摘、ありがとうございます。


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