プロローグ
初投稿です。駄文、稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。
桐生徹(会社員 27歳 独身)は途方にくれていた。
荒野の真っ只中で。
桐生徹(会社員 27歳 独身)はオタクである。
ゲームにしろアニメにしろ、好きなジャンルはロボット物と魔法少女物。
近年人気が低下しているロボット物に未練を残しつつも魔法少女物にうつつを抜かし、ファンタジーなRPGにも手を出すが銃器やロボットへの愛執を捨てきれず、もやもやしていたときに出会ったのがMMORPG『パンツァー・リート』だった。
このゲーム、剣と魔法と銃と陸戦兵器(ロボットあり)というハチャメチャな世界観を持っていた。
銃を連射しつつ魔法を唱え、剣で切り結んで敵を倒すというトンでも世界だ。しかもロボット兵器、機甲騎兵で。
ハマった。
どっぷりとハマってしまった。
キャラはもちろん萌えるミニスカ少女。
キャラ身長より大きな白兵武器や銃を振り回し、範囲魔法で敵をなぎ払う。生身で立ち向かうには難しい相手も、戦車や機甲騎兵を持ち出せば十分以上に戦える。
狩りあり戦争あり。製造技能を駆使し、自分専用の機甲騎兵を設計製造までできた。
まさに徹の為にあるようなゲームだった。
どっぷりハマること5年。
レベルをカンストし、転生して再びカンストする。そしてさらに転生。
転生とレベルカンストを繰り返すことでさらに強くなる廃人仕様の『パンツァー・リート』。執念と執着を持って成長と転生を繰り返し、ドラゴンとでも生身でガチバトル可能となった徹はゲーム内でも有名人だ。
強くなりすぎたためパーティーを組めるプレイヤーは減ったが、レア素材ゲッターとしてギルド内でも重宝されていた。主にネタ装備な方向で。
所属ギルドには徹以外にも廃人は多数いたが、その実、ネタ装備系のほほんギルドな為、ギルド内関係は友好だ。
レベル上げに飽きがきたら、ギルメンとの無駄話や狩りに付き合ったり、レア装備、ネタ装備の品評会をしたりと充実した毎日を送っていた。
そんな折だ。
新フィールドと新装備の実装が発表されたのは。
発表はされたが、詳細はまったく公開されない謎の新フィールド。噂ではかなり異色なものらしい。
ネットの某巨大掲示板にはさまざまな推測と共に激論が繰り返されたが、現物が出るまでは幾ら論議してもまったくの無駄と言う当たり前の結論に落ち着き、プレイヤー達は実装その日を待ちに待った。
新フィールド実装当日。
その日、徹は有給を取ってゲームが始まるのを心待ちにしていた。データは前日にダウンロード済み。ゲーム開始の正午までは、同じく休みを取ったギルメンとチャットなどで時間をつぶしていた。明日からの土日は休日。この週末は新フィールドを遊びつくすつもりだ。
そしていよいよ正午。
サーバーにアクセスし、ゲーム開始のエンターボタンを押したところで徹の意識は途切れた。
「・・・・・あれ?」
意識を取り戻したとき、そこは一面の荒野だった。
ところどころ緑(たぶんサボテンと思われる)が見える以外は赤茶けた大地がどこまでも広がっている。
風が砂塵を巻き上げ空を赤く染めていた、と思ったら夕日だった。
「んなアホな」
先ほどまで、たしかに自分の部屋にいたはずだ。ゲーム開始は正午からだったのだから。
キーボードのエンターを押した所で気絶でもしたのだろうか? そう言えば、最近身体の調子が良くなかったし。
「いやいや。まてまてまて。幾ら気絶してたからって、いきなり荒野のど真ん中にいるか? あの大家、アパートをいきなりリフォームしたのか? どんな匠がリフォームしたらいきなり荒野になるんだ? って、そりゃリフォームじゃなくて更地にしたって言うのか・・・ってか街はどこ?」
周囲をぐるりと見渡しても、街どころか人影すら見当たらない。
「くうううぅぅぅぅーーー!!」
わけがわからず両手で頭をかきむしる。と、指に絡まった何かが顔から外れた。外れたそれをよく見ると、黒い紐に丸い何かがくっついている。
目の高さまで持ち上げてよく見てみる。
「なんだこれ。眼帯? 何でそんなものが俺の目に?」
ここ最近視力は落ちたものの徹の目に異常は無い。今も普通に見えている。いや、やはり異常があった。
眼帯を持つ自分の左手が妙に小さく見える。
徹の体格は平均的な日本人とさほど変わらない。最近下腹の弛みが気になり始めたとはいえ、今見えているそれはまるで子供の手のような・・・。
「どうわわわわぁああぁぁぁーー! お、俺の手が小さくなってる! ってこの声は?」
どうやら耳にも異常があるらしい。
今の声は普段聞きなれた自分の声などではなく、まるで子供の−−それも女の子のような?
ぽよん。
飛び跳ねる心臓を落ち着かせる為に胸に手を当ててみれば、思わぬ弾力が返って来た。
ぽよんぽよん。
思わず両手で両胸を押さえてみると、双方の掌に異次元の弾力が−−
「どっしぇぇぇぇぇぇぇぇえーーー!!」
(拝啓、国の御両親様。息子は知らぬ間に娘になってしまったようです!)
桐生徹だった少女の悲鳴が、風に乗って夕日の荒野に消えていった。