【勃発企画】妖精な妹は夜だけ魔王可愛いよ魔王ぺろぺろ
淫らで乱れた妄りな接吻←使うとこ無かった
「何処へ行く」
とある家の中。その玄関で、何かを阻むかの様に仁王立ちする青年。
時刻は既に夜の12時を回り、家の外は闇に包まれている。
この時間帯に外を出歩くのは、何か特別な用事がある者。夜通し遊ぶ者。裏の世界の者。後は精々『不審者』ぐらいだろう。
「……退きなさい」
そしてその男に相対し、明らかな敵意を発している少女。
普段は大きくパッチリと開かれているその目は、今はまるで親の敵を見るかの如く、鋭く青年を睨み付けていた。
「大人しく部屋に戻れ」
「……もう一度言うわ、退きなさい」
少女は一層険しくなった表情を隠そうともせず、それどころか牙を剥き、拳を握り締め、腰を落として何時でも襲い掛かれる体勢を取った。
そして先ほどよりも数段強い眼光を飛ばす。まるでこれが最終通告だと言わんばかりに。
「だが断る」
それでも青年は一切動じず、毅然たる態度で要求を突っぱねた。
不敵に、口元を吊り上げながら。
「あらそう、残念――ねッ!」
瞬間、少女の右脚が青年の顔に飛来する。
右脚は風切り音を掻き鳴らし、空を切り裂いて、青年の側頭部まで後幾ばくかという所まで肉薄する。
一切遠慮の無い、洗練されたハイキック。およそ10センチ近くある身長差を物ともせず、それは正確に顔面を捉えたかと思われた。
だが――
「見えたァッ! いちごぱんつ!」
「――っ!」
青年は至って冷静にそれを屈んで避けた。そして青年は前を向いている為に、自然と右脚を振り上げている少女の股間が視野に入る。
――いちごぱんつ。
それは高慢かつ傲慢な態度を崩さなかった少女とはあまりにアンバランスであり、だからだろうか、少女はいちごぱんつを見られた事で相当な羞恥心を煽られたらしい。
振り抜いた右脚を素早く引き戻し、両手でスカートを押さえつけてしまった。
そしてそれは、致命的な行動だった。
「隙有り鯖折りっ」
「きゃっ」
「からのー、抱き上げっ」
「ちょっと!」
「うおおおおお!」
青年は少女を抱きかかえ、少女の背後にあった階段を一気に駆け上がる。
少女が抗議の声を上げる暇も無く、青年はそのまま一つの部屋に飛び込んだ。
そこにあったのは素敵なピンク色。卑猥な意味の隠語ではなく、この部屋の外とは別次元なんじゃないかと思える程のピンク。目が痛くなるほどにピンクピンクしたピンク色。
そこではあらゆる家具がピンク色だった。
ベッドは勿論、枕もタンスも机もクローゼットも。絨毯から壁紙まで全てがピンク色だった。
それは一般的な大多数の人間から見ると異様だろう。初めて目にした時、思わず固まってしまうに違いない。
しかし青年は違った。ここが少女の部屋で、少女の部屋はこうなのだと把握しているからだ。
「そおい!」
青年は少女をピンク色のベッドに放り投げると、馬乗りになって両手を頭上で拘束する。その速さ脱兎の如く。
「ふははは! どうだ動けまい!」
「くっ……まさか私が、この『魔王』が遅れを取るとはね……!」
それはいつもの光景。
外界を蹂躙せんとする『魔王』を足止めし、12時15分まで内界に押し止める事が出来れば青年の勝ち。それが出来なければ世界は滅ぶ。
世界を守る為、今日も今日とて『勇者』は『魔王』との壮絶な聖戦を制したのだ。
ちなみにこれで『勇者』の戦績は683戦683勝0敗。まだ一度も世界が滅ぼされた事は無い。
いつからだったか、と青年は思い巡らす。
青年の記憶に依れば二年前だったか、少女が初めて『魔王』を名乗ったあの夜。12時きっかりに青年の部屋にやってきて、15分阻止出来なければ世界は滅びるとか何とか言い出したのは。
青年は状況に理解が追い付かず、しかし何やかんやしている内に世界を『魔王』の手から守ってしまった。
その日から今日まで、青年と『魔王』の日々が続いている訳だ。
――確か、少女の部屋がピンク色に染まり始めたのもあの時からだったかな。
青年は静かに苦笑する。
そして青年がそんな事を思い出していた時。
「――え? な、何……?」
俄かに声が聞こえてきて、青年は我に返る。
ベッドの脇に置かれた時計の長針は既に16分を指していた。
タイムリミット。『魔王』が示した15分の期限。
そしてそれを超えた今、少女の人格は既に本来のものに戻っていたのだった。
「い、いや! やめて、放してよ!」
「あ、ごめん」
パッと少女の両腕から手を放し、青年は上体を起こす。
青年に馬乗りにされながら僅かに涙ぐむ少女に、先ほどまでの傲岸不遜な雰囲気は無い。
そう、少女は二重人格者だった。
ある時、青年が密かに精神科の先生に少女の症状を尋ねた所、そう診断されたのだ。
少女に自覚は無く、『魔王』の時の記憶も無い。
そもそも二重人格が発現する際には何らかの原因があるらしい。
曰わく、精神的なダメージから精神を守る為。そして二つ目の人格が表に出てくる場合、それはその原因となった状況である事が殆どらしい。
しかし青年にはそのようなダメージに心当たりは無かったし、夜の12時から15分だけという時間的な条件がキーとなっている意味も分からなかった。
「……降りてよ」
少女は涙ぐんだ目で、恨めしそうに青年を見る。
「あ、はい」
いつもなら、青年は15分になる直前に少女を解放するのだ。だから今回のようにジト目で見られる事も無い。
青年は、しまったなあ、と思いながら腰を上げる。
だが――
「――隙有りっ」
青年の体勢が不安定になった瞬間、少女は青年の服を掴み、一気に引き倒す。同時に体を足下の方へ滑らせ、青年の股下をくぐり抜け、一瞬でマウンドポジションを取った。
そうして僅か数秒で先程までとは立場を逆転させたのだった。
「……え?」
「んふふー、形勢逆転だね?」
そう言って、ぺろりと口元を舐め、ニヒルに微笑む少女。唇に付いた唾液が蛍光灯の光を反射して妖しく光る。
対して何が起こったのかと、青年の脳は動作不良を起こしていた。
「……えっと、『魔王』は15分までしか出て来ないんじゃ……」
「あら。『12時から15分足止め出来ればあなたの勝ち』、けれどそれ以外で出て来ない、なんて言った覚えは無いけど?」
思わず「詭弁だっ!」と青年は叫びたくなった。そして実際に叫ぼうとしたのだ。
しかしそれは叶わない。
少女の顔が急速に接近し――
「――んぅ!?」
青年の唇を、少女の唇が塞いだ。
青年は驚きに目を見開く。頭を動かして逃れようとするが、少女の腕が左右から捕らえて離さない。
ただ青年の両手は拘束されておらず、自由に動かす事が可能で、やろうと思えば少女の髪を掴んででも引き離す事は出来る。しかし少女に危害を加える事は青年には憚られた。
少女は青年が無理に抵抗しない事を悟ると、さらに強く唇を押し付ける。
ぴちゃり、と粘り気のある水音が響く。
少女の舌が青年の口内へ侵入し、歯の表面をなぞる。上下に並ぶ歯の羅列を舐め回し、付着していた唾液を自分の唾液に塗り替える。
少女は肉感を楽しむように、青年の内頬を舐め上げ、唇を啄み、再び口腔を蹂躙する。
少女は激しいキスを繰り返しながら、体を青年に密着させていた。平時は形良い胸が、今は少女と青年の体躯の間で潰れている。
少女が動く度、長い黒髪が少女特有の甘い香りを漂わせ、青年の鼻を擽る。
青年の視界に映る少女は頬を赤く染めている。容姿端麗な少女が顔を上気させた姿は、酷く淫靡に見えた。
気付かぬ内に青年は少女の腰と背中に腕を回していた。
青年は視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚の全てを支配され、完全に雰囲気に呑まれてしまっている。
「……んぅ……っふ」
くぐもった声が少女の喉から漏れる。長時間口づけていた為に、苦しくなってきたらしい。
ほんの少しだけ唇を離すと、静かに深呼吸をする。
二人の唇は唾液が糸を引いている。
それは確かな背徳の跡。しかし少女は勿論、青年も全く気にした素振りは無い。
と言うよりも、ただ単に青年は惚けていた。あまりに非現実的で淫猥な行為に、考える事を放棄していたのだ。
しかし行為が中断すると、青年は徐々に思考能力を取り戻し始める。
そして現在の状況と先程の行為の意味を把握した時、青年は赤面すると同時に巨大な罪悪感を覚える。
「……だあああああ!」
「きゃっ!」
青年は少女を撥ね除け素早く立ち上がる。
「おま、なななななんて事を!」
噛みまくりながら憤激する青年を、少女は妖艶な笑みで見やる。そんな少女の様子を見て、青年はさらに顔を赤く染める。
青年は悔しそうに呻きながら、くるりと少女に背を向けた。
「くそっ、こんな所に居られるか! 俺は部屋に戻るぞ!」
そう言い捨てて乱暴にピンクの絨毯を踏み歩く。
その様子は宛ら機嫌を損ねた子どもの様で。少女はそんな青年を愛おしそうに、蕩けた目で見つめる。
そして青年がドアノブに手を掛けた瞬間。
「待って」
「! ……な、何だよ」
少女が青年を制止する。その声に青年はビクリと肩を震わせるが、すぐに静かに一呼吸。
青年が厳めしい顔を作り、振り返ったその時。
「――これ、なーんだ?」
青年の目に入ってきた物。少女の手の中にあるそれは――
「ビデオ、カメラ……」
青年は絶望した。それが何を映していたか、理解してしまったからだ。
少女はビデオカメラをベッドの横に置くと、ゆっくりと青年に近づいていく。
青年は逃げられなかった、動けなかった。そうするなと、少女が言外に命令していたからだ。
最早青年は蜘蛛の巣に絡め捕られた昆虫。後は巣の主の捕食を待つだけの存在。
「良かったわね、今日は家に誰も居ないから」
長い髪をふわりと揺らし、少女は青年の首に抱き付く。両腕を首の後ろで交差させ、青年の股下に右足をねじ込ませる。
唇を耳に吐息がかかる距離まで寄せ、呟いた。
「もしかして、逃げられると思った?」
非難めいた声で、しかし楽しそうに。
「駄ぁ目。『勇者』は『魔王』に絶対に勝たないといけないの。逃げちゃ駄目なの」
「ど、どうして……」
青年は、顔の近くにある少女の髪の甘美な香りに、少女の柔らかな肉感に、理性を削られながらも尋ねる。何かを口にしなければ、最後の防波堤が決壊してしまいそうだったからだ。
しかし青年は、少女の味を知ってしまった。
「……『お兄ちゃん』、知らなかったの?」
それは越えてはならない一線。禁忌の誘い。
今だ口の中に残る感触が、叫ぶ。
――甘い果実の罠に、呑まれろと。
ゆっくりと、『魔王』は言葉を紡ぐ。
「――『魔王』からは、逃げられない――」
次にお前らはこう言う
「ギャグなのかシリアスなのかハッキリしろ」