プロローグ
ざさぁっと砂埃を巻き上げ、赤い長髪の青年が地面を転がった。
彼は受け身をとって直ぐ様起き上がり、白髪の老人の隣に並ぶ。
「ったく、仕方ねぇな。おいじじぃ。貴様、本当に大丈夫なんだろうな?」
青年は砂と血の混じった唾を吐き出し、目だけで隣に佇む小柄な老人を見た。
青年は身体中に怪我を負っている。
それは老人も同様だった。
二人は今、共通の敵に立ち向かっている。
敵の力は恐ろしく強大で、この世界で最も強い力を持つ二人でも、ぎりぎりの戦況だった。
このままでは、倒すことはできない。
なれど、封印することはできるだろう。
老人は両手で印を組み、鷹揚に頷く。
「当たり前じゃ。お主のような若造とは、年期が違うからの」
白い眉の下から、紫水晶のような瞳が笑う。
青年はフンと鼻を鳴らし、老人の援護をすべく敵と対峙した。
「俺様が協力してやっているんだ。失敗なんかしやがったら貴様を殺すぞ」
青年は不敵に笑い、敵を引き付けるために躍り出た。
背後では老人が印を結び、呪文を唱える声が聞こえる。
老人の呪文が完成したとき、敵の身体が二つに別れた。
その身体を、それぞれ天空と地下の牢に封じ込める。
世界を脅かす存在は、激闘の末、二人によって封印された。
これは、まだ人が生まれる以前、神話が生きていた時代に刻まれた逸話。
今や、その戦いを知る者は、たった一人となった。