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第36話 全員生存

 『投票を開始します』


 AIの声が——部屋に響いた。


 俺たちは——円形に座っていた。俺、白岩、黒岩、灰垣、ミオ——5人が、円を描くように座っている。


 円形守護——俺が白岩を、白岩が黒岩を、黒岩が灰垣を、灰垣がミオを、ミオが俺を守る。全員が隣の人を守れば——全員が1票ずつ守られる。誰も死なない。


 それが——ミオが用意した穴だった。


 30分の話し合い時間——その大半を、俺たちはミオの告白を聞くことに費やした。ミオがなぜデスゲームを作ったのか。なぜ全てのゲームに抜け道を用意したのか。なぜ——俺たちを助けようとしていたのか。


 そして——俺たちはミオを許した。


 7人の死に関わった主催者。でも——俺たちは、ミオを許すことにした。ミオが——俺たちを助けようとしていたことを知ったから。


 『順番に、守りたい人の名前を宣言してください』


 AIが続けた。


 俺は——深呼吸した。緊張している。手のひらに汗がにじんでいる。攻略法は分かっている。でも——本当にうまくいくのか?誰かが裏切らないか?——その不安が、まだ消えない。


 ゲーム2の記憶が——蘇る。あの時も——攻略法は分かっていた。「全員、自分に投票しろ」と言った。でも——失敗した。9人もいて、信頼関係がなかった。誰かが裏切るかもしれない——その恐怖が、みんなを支配していた。


 鈴木と園崎が死んだ。協力できなかったから——2人が死んだ。


 でも——今は違う。


 今は——5人だ。俺、白岩、黒岩、灰垣、ミオ——5人の仲間だ。何度も一緒に死線をくぐり抜けてきた。信頼関係がある。絆がある。


 ゲーム2では失敗した「相互信頼」——今度こそ、成功させる。


 俺は——みんなを見た。


 白岩が眼鏡をクイッと上げた。その目には——冷静な知性と、仲間への信頼が見える。


 黒岩が静かに頷いた。元自衛隊員の目には——決意と覚悟が見える。仲間を守る——その使命感が、黒岩を支えている。


 灰垣が涙を拭いて微笑んだ。看護師の目には——優しさと強さが共存している。みんなを癒してきた——その温かさが、灰垣の本質だ。


 ミオが小さく頷いた。赤い瞳には——不安と期待が入り混じっている。自分のゲームで——全員が生き残ってほしい。その願いが——ミオを突き動かしている。


 みんな——覚悟ができている。みんな——信じている。円形守護で——全員が助かると。


 『最初の投票者——楠生蓮』


 AIが俺の名前を呼んだ。


 俺は——立ち上がった。


 「俺が守るのは——」


 俺は——白岩を見た。白岩が眼鏡をクイッと上げた。その目には——信頼が見える。俺を——信じている。


 「——白岩拓海」


 俺がはっきりと言った。


 『楠生蓮は、白岩拓海を守護しました』


 AIが記録した。


 白岩が——小さく頷いた。


 「……ありがとう」


 白岩が小声で言った。俺の選択を——受け入れた。


 『次の投票者——白岩拓海』


 白岩が立ち上がった。眼鏡をクイッと上げて——黒岩を見た。


 「俺が守るのは——黒岩剛」


 白岩がはっきりと言った。迷いのない声だった。


 『白岩拓海は、黒岩剛を守護しました』


 黒岩が——深く頷いた。無表情だった黒岩の目に——感謝が見えた。


 「……感謝します」


 黒岩が静かに言った。


 『次の投票者——黒岩剛』


 黒岩が立ち上がった。背筋を伸ばして——灰垣を見た。元自衛隊員の目には——仲間を守る決意が見える。


 「私が守るのは——灰垣アヤ」


 黒岩が静かに、でも力強く言った。


 『黒岩剛は、灰垣アヤを守護しました』


 灰垣が——涙を流した。嬉しさの涙だ。守られている——その実感が、灰垣の心を満たしている。


 「黒岩さん……ありがとう……」


 灰垣が震える声で言った。


 『次の投票者——灰垣アヤ』


 灰垣が立ち上がった。涙を拭いて——ミオを見た。主催者だったミオを——灰垣は守ろうとしている。


 「私が守るのは——天宮ミオ」


 灰垣が言った。声が震えている。でも——はっきりと聞こえた。


 「ミオちゃん——私はあなたを守るよ」


 灰垣がミオに向かって言った。優しい声だった。


 『灰垣アヤは、天宮ミオを守護しました』


 ミオが——目を見開いた。自分が守られる——その事実に、驚いている。主催者である自分が——参加者に守られる。それは——ミオにとって、想像もしていなかったことだろう。


 「灰垣さん……」


 ミオが小さく呟いた。目に涙が溜まっている。


 『最後の投票者——天宮ミオ』


 ミオが——ゆっくりと立ち上がった。小柄な体が——震えている。でも——その目には、決意が見える。


 ミオが——俺を見た。赤い瞳が——俺を見ている。その目には——感謝と、信頼と、そして——様々な感情が入り混じっている。


 「私が守るのは——」


 ミオの声が——震えている。


 「——楠生、蓮」


 ミオが俺の名前を呼んだ。フルネームで——はっきりと。


 「あんたを——守る」


 ミオが付け加えた。小さな声だったけど——俺にははっきり聞こえた。


 『天宮ミオは、楠生蓮を守護しました』


 AIが記録した。


 これで——円形守護が完成した。


 俺→白岩→黒岩→灰垣→ミオ→俺——5人が、円を描くように守り合っている。


 全員が——1票ずつ守られている。


 『集計を開始します』


 AIの声が——響いた。


 俺は——息を止めた。心臓がドクドクと鳴っている。緊張で——体が震えている。うまくいくはずだ。計算は合っている。でも——本当に?


 隣を見ると、白岩も緊張している。眼鏡を何度もクイッと上げている。普段は冷静な白岩が——落ち着かない様子だ。


 黒岩は——目を閉じている。祈っているのか。無表情だった黒岩の顔に——緊張が見える。


 灰垣は——ミオの手を握っている。二人とも——震えている。


 ミオは——俯いている。小さな体が——震えている。自分が作ったゲームの結果を——待っている。


 『集計完了』


 AIが言った。


 部屋が——静まり返った。誰も動かない。誰も話さない。ただ——AIの次の言葉を待っている。時間が——止まったように感じる。


 『結果を発表します』


 AIが続けた。


 俺は——拳を握りしめた。


 『楠生蓮:1票』


 俺は——1票。ミオに守られた。よし——計算通りだ。


 『白岩拓海:1票』


 白岩も——1票。俺に守られた。白岩が小さく息を吐いた。


 『黒岩剛:1票』


 黒岩も——1票。白岩に守られた。黒岩が目を開けた。


 『灰垣アヤ:1票』


 灰垣も——1票。黒岩に守られた。


 『天宮ミオ:1票』


 ミオも——1票。灰垣に守られた。


 全員——1票ずつ。


 同数だ。


 『守護票数が最も少ない者:該当なし』


 AIが言った。


 俺は——その言葉の意味を、ゆっくりと理解した。該当なし——つまり、誰も死なない。


 『ゲーム10:守護選択——クリア』


 AIの声が——部屋に響いた。


 『全員生存』


 その言葉が——俺の耳に届いた。


 全員——生存。


 誰も——死ななかった。


 俺たちは——ゲーム10をクリアした。


 「……っ……!」


 最初に声を上げたのは——ミオだった。


 ミオが——崩れ落ちた。床に膝をついて——泣き崩れた。小柄な体が——激しく震えている。


 「終わった……終わったよ……!」


 ミオが叫んだ。涙が——溢れている。


 「みんな……生き残った……!」


 ミオの声が——悲鳴のように響いた。喜びの悲鳴だ。安堵の悲鳴だ。


 灰垣が——ミオに駆け寄った。


 「ミオちゃん……!」


 灰垣がミオを抱きしめた。二人とも——泣いている。


 「良かった……本当に良かった……!」


 灰垣の声が——震えている。


 黒岩が——深く息をついた。


 「……お疲れ様でした」


 黒岩が静かに言った。無表情だった黒岩の目に——涙が光っている。黒岩も——泣いている。


 白岩が——眼鏡を外した。


 「……まったく」


 白岩が言った。眼鏡を拭いている。でも——その手が震えている。白岩も——感情を抑えきれていない。


 俺は——天井を見上げた。


 終わった——そう思った。


 ゲーム10——ミオの最高傑作。残虐性Sのゲーム。でも——俺たちはクリアした。全員で——生き残った。


 俺は——ミオを見た。


 ミオは——まだ泣いている。灰垣に抱きしめられながら——泣き続けている。


 「終わったぞ、デスミ」


 俺が言った。


 ミオが——顔を上げた。涙で濡れた赤い瞳が——俺を見た。


 「……うん……」


 ミオが答えた。声が震えている。


 「終わった……私の——デスゲームが……」


 「全員生きてる。お前の願い通りだ」


 俺が続けた。


 ミオが——目を見開いた。


 「……え……」


 「お前、最初から全員生存させたかったんだろ。やっと——叶ったな」


 俺の言葉に、ミオが——また泣き出した。


 「うわあああん……! ありがとう……ありがとう……!」


 ミオが俺に抱きついてきた。小柄な体が——俺にしがみついている。


 「……おい」


 俺は困惑した。


 「離れろ。泣くな。鼻水つくだろ」


 「いいもん……! 今は……今だけは……!」


 ミオが泣きながら言った。俺の胸に顔を押し付けている。


 「……べ、別に嬉しくて抱きついてるわけじゃないから……! 足がガクガクして立てないだけだから……!」


 ……立てないって、抱きついてる言い訳になってないだろ。


 「はいはい」


 俺は、ため息をついた。


 まあ——今日くらいは、いいか。


 ミオの言葉に、俺は——頷いた。


 ミオのデスゲーム——それが終わった。ゲーム1からゲーム10まで——全てのゲームが終わった。


 11人が参加して——7人が死んだ。田辺、鈴木、園崎、田中、佐藤、山田、杉内——7人が死んだ。


 でも——5人が生き残った。俺、白岩、黒岩、灰垣、ミオ——5人が生き残った。


 それが——このデスゲームの結果だ。


 白岩が——眼鏡をかけ直した。そして——ミオを見た。


 「評価だ」


 白岩が言った。


 ミオが——顔を上げた。白岩を見ている。不安そうな顔だ。また——0点を言われるのか?そんな表情をしている。


 白岩が——眼鏡をクイッと上げた。


 「ゲーム10:守護選択——」


 白岩が言った。


 「——10点」


 その言葉に、ミオが——目を見開いた。


 「10点……?」


 ミオが信じられないという顔で——白岩を見た。


 「満点だ」


 白岩が続けた。


 「このゲームは——完璧だった。『守る』という優しい言葉で『見殺し』を強いる残虐さ。でも——協力すれば誰も死なない設計。残虐性と救済の両立——それは、ゲームデザインとして最高峰だ」


 白岩の言葉に、ミオが——また泣いた。


 「10点……やっと……10点もらえた……!」


 ミオが嗚咽を漏らしながら——喜んでいる。白岩に——認められた。それが——ミオにとって、どれほど嬉しいことか。


 灰垣が——ミオを抱きしめた。


 「良かったね、ミオちゃん……」


 灰垣が優しく言った。


 黒岩が——小さく微笑んだ。


 「お見事でした。素晴らしいゲームでした」


 黒岩が静かに言った。


 俺は——白岩を見た。


 「お前、意外と優しいな」


 俺が言った。


 白岩が——眼鏡をクイッと上げた。


 「事実を言っただけだ」


 白岩が答えた。でも——その口元が、わずかに緩んでいる。白岩も——嬉しいのだ。全員が生き残ったことが。


 黒岩が——立ち上がった。


 「これで——全てのゲームが終わったのですね」


 黒岩が静かに言った。


 俺は——頷いた。


 「ゲーム1から10まで——全部終わった」


 俺が答えた。


 「11人で始まって——5人が生き残った」


 灰垣が——涙を拭きながら言った。


 「田辺さん、鈴木さん、園崎さん、田中さん、佐藤さん、山田さん、杉内さん——7人が死んじゃった……」


 灰垣の声が——震えている。死者への追悼だ。一緒に戦った仲間——その死を、灰垣は忘れていない。


 俺は——死者たちのことを思い出した。


 田辺——ゲーム1で俺の指示を無視して、鬼に捕まった。


 鈴木と園崎——ゲーム2で互いを疑って、協力できなかった。


 田中——ゲーム3で若い奴を生かすために、自ら死を選んだ。


 佐藤と山田——ゲーム4で壁に分断されて、時間切れになった。


 杉内——ゲーム5でAIがルールを補完して、どうしようもなかった。


 7人——それぞれの死に方があった。それぞれの人生があった。


 「みんな——忘れないでいよう」


 俺が言った。


 「死んだ7人のことを——忘れないでいよう」


 俺の言葉に、全員が——頷いた。


 白岩が眼鏡を外して、目を拭いた。


 「……ああ。忘れない」


 黒岩が深く頷いた。


 「忘れません。彼らの分まで——生きます」


 灰垣が涙を流しながら頷いた。


 「忘れないよ……絶対に……」


 ミオが——俯いた。


 「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……」


 ミオがまた謝っている。7人の死——それは、ミオの心に重くのしかかっている。


 俺は——ミオの頭を軽く叩いた。


 「もう謝るな」


 俺が言った。


 「お前は——許されたんだ。俺たちに」


 俺の言葉に、ミオが——顔を上げた。涙で濡れた顔で——俺を見た。


 「……うん……」


 ミオが小さく頷いた。


 俺は——深く息をついた。


 終わった——本当に終わった。


 ゲーム1からゲーム10まで——ミオが作った全てのゲームが終わった。


 11人で始まったデスゲーム——5人が生き残った。


 俺たちは——このデスゲームを、生き延びた。


 「さて」


 俺は言った。


 「これからどうする?外に出られるのか?」


 俺の問いに、全員が——俺を見た。


 「ゲームが終わったんだ。解放されるはずだ」


 白岩が眼鏡をかけ直して言った。


 「ミオちゃん——出口は?」


 灰垣がミオに聞いた。


 ミオが——考え込んだ。


 「えっと……ゲーム10が終わったら、自動で扉が開くはずなんだけど……」


 ミオが言いかけた——その時だった。


             ◇


 白岩「評価:9点。ここで全員生存は意外性がある。読者の予想を裏切った」クイッ

 クズオ「何の読者だよ」

 白岩「比喩だ」クイッ

 クズオ「毎回言ってるけど比喩じゃねえだろ」

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