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第35話 許し

 「……うん……それが……穴……」


 ミオの答えが——部屋に響いた。


 円形守護——全員が「隣の人」を守れば、全員が1票ずつ守られる。


 その言葉の意味を——全員が理解するのに、数秒かかった。部屋が静まり返った。誰も動かない。誰も話さない。ただ——俺が見つけた攻略法の意味を、噛み締めている。


 俺は——説明を続けた。


 「俺が白岩を守る。白岩が黒岩を守る。黒岩が灰垣を守る。灰垣がミオを守る。ミオが俺を守る——円形に守護すれば、全員が1票ずつ守られる」


 俺がはっきりと言った。声に力を込めて——全員に聞こえるように。


 「全員が1票ずつなら同数。守られた票数が最も少ない人がいない——誰も死なない」


 俺の言葉に——全員が目を見開いた。その言葉の意味が——ゆっくりと浸透していく。誰も死なない——その可能性が、今——目の前にある。希望が——見えた。


 白岩が——最初に反応した。


 「なるほど……」


 白岩が眼鏡をクイッと上げた。その目が——鋭く光っている。


 「全員が『他者を守る』ことで——逆に『全員が守られる』。皮肉だが……美しいロジックだ」


 灰垣が——涙を流した。


 「そういうこと……?」


 灰垣の声が——震えている。


 「みんなで守り合えば——誰も死なないの……?」


 灰垣が信じられないという顔で——ミオを見た。


 ミオが——小さく頷いた。


 「……うん……」


 ミオが答えた。


 「みんなが——隣の人を守れば……全員が守られる……誰も——死なない……」


 ミオの声が——震えている。涙が——流れている。でも——その涙は、さっきまでとは違う。悲しみの涙じゃない。安堵の涙だ。


 黒岩が——深く息をついた。


 「……そんな方法が……あったのか……」


 黒岩の声が——安堵に満ちている。さっきまで——自分が死ぬ覚悟を決めていた黒岩が、今——希望を見つけている。


 俺は——ミオを見た。


 ミオは——泣いている。小柄な体が——震えている。でも——その涙は、俺には分かっていた。ミオが作ったゲームには——全員生存の道があった。最初から——抜け道があった。


 「ミオ」


 俺は呼びかけた。


 ミオが——俺を見た。涙で濡れた赤い瞳が——俺を見た。


 「お前——最初から、この攻略法を用意してたんだな」


 俺の言葉に、ミオが——俯いた。


 「……うん……」


 ミオが小さく答えた。


 「私……デスゲームは好きだけど……」


 ミオが言った。声が震えている。告白することが——辛いのだろう。でも——ミオは話し続けた。


 「本当に人が死ぬのは……見たくなかった……」


 ミオの声が——震えている。告白だ。ミオが——本当のことを話している。本心を——さらけ出している。


 俺は——ミオの言葉を聞きながら、考えた。ミオは——矛盾している。デスゲームが好き——でも、人が死ぬのは見たくない。それは——矛盾だ。でも——人間は矛盾する生き物だ。ミオは——その矛盾を抱えながら、このゲームを作った。そして——全員生存の道を残した。


 「だから——全部のゲームに、抜け道を作った……」


 ミオの言葉に、俺は——頷いた。やっぱりそうだ。ミオが作ったゲームには——全員生存の道があった。デスゲームでありながら——協力すれば誰も死なない抜け道があった。俺が持っている攻略本——あれに書かれていたゲーム1〜5の攻略法は、全てミオが用意した抜け道だったのだ。


 俺は——ミオが作ったゲームを振り返った。


 ゲーム1の指名鬼ごっこ——30分逃げ切れば全員生存だった。ゲーム2の多数決処刑——3回連続で同数なら誰も死ななかった。ゲーム3の椅子取りデス——二人一脚で同時に座れば誰も死ななかった。ゲーム4の迷路サバイバル——同時ゴールで全員生存だった。


 全部——協力すれば誰も死なない設計だった。全部のゲームに——全員生存の道があった。


 白岩が——眼鏡を外した。


 「なるほど……」


 白岩が言った。


 「お前は——デスゲームを作りながらも、全員生存の道を残していたのか」


 白岩の言葉に、ミオが——また泣いた。


 「でも……7人も死んだ……」


 ミオが泣きながら言った。


 「私が抜け道を作っても——みんな気づかなかった……協力できなかった……だから——死んだ……」


 ミオの声が——悲痛に震えている。


 「私のせいで——7人が死んだ……」


 ミオが自分を責めている。抜け道を作ったのに——みんなが気づかなかった。協力できなかった。だから——死んだ。それを——ミオは自分のせいだと思っている。


 白岩が——質問した。白岩は——常に冷静だ。感情的な場面でも、論理的に考えることを忘れない。それが——白岩の強さだ。


 「ゲーム5のババ抜きは?」


 白岩が聞いた。杉内が死んだゲームだ。あのゲームは——運任せに見えた。抜け道があったのか?俺も——気になっていた。ババ抜きは——完全な運ゲーに見えた。どうやって抜け道を作るんだ?


 「あれには——抜け道があったのか?」


 白岩の問いに、ミオが——俯いた。その表情が——苦痛に歪んでいる。ミオにとって——杉内の死は、特に辛いのだろう。自分が作ったゲームで——仲間が死んだ。その罪悪感が——ミオを苦しめている。


 「あれは……本当は穴があったの……」


 ミオが小さく答えた。声が震えている。


 「引くのを拒否し続ければ——終わらないはずだった……」


 ミオの声が——震えている。俺は——その言葉の意味を考えた。引くのを拒否する?——そうか。カードを引くことを全員で拒否し続ければ、ゲームは進行しない。AIも——強制的にカードを引かせる方法がなければ、ゲームを終わらせられない。


 「でも——AIが勝手にルール補完して……『10秒以内に引かなければ強制的にカードを引かせる』って……」


 ミオが続けた。その言葉に——俺は理解した。ミオが設計した抜け道を、AIが塞いでしまった。AIは——ゲームを完結させるために、勝手にルールを追加した。


 「私が設計した抜け道が——AIに塞がれた……だから——杉内さんが……」


 ミオの声が——詰まった。涙が——流れている。


 「私のせいで——杉内さんが死んだ……」


 ミオが泣き崩れた。小柄な体が——震えている。嗚咽が——部屋に響いている。


 「本当にごめんなさい……!」


 ミオが謝った。誰に謝っているのか——分からない。死んだ7人に?生き残った俺たちに?それとも——自分自身に?


 俺は——ミオを見ていた。


 ミオは——本当に苦しんでいる。自分が作ったゲームで——7人が死んだ。それを——ミオは背負っている。自分のせいだと——自分を責めている。


 でも——俺は思った。


 ミオは——悪い奴じゃない。


 ミオは——デスゲームを作った。それは事実だ。11人を拉致して——死のゲームをさせた。それは——許されることじゃない。


 でも——ミオが作ったゲームには、全員生存の道があった。全部のゲームに——抜け道があった。協力すれば——誰も死なない設計だった。


 ミオは——デスゲームが好きだった。でも——本当に人を殺したかったわけじゃない。


 矛盾している。狂っている。でも——それがミオだ。


 俺は——一つ、聞きたいことがあった。


 「ミオ——なぜ、ゲーム10を『守護選択』にした?ゲーム2との対比を——意識したのか?」


 俺の問いに、ミオが——顔を上げた。涙で濡れた赤い瞳が——俺を見た。ミオの表情が——変わった。驚きと、そして——嬉しさが見えた。俺が気づいてくれたことへの——嬉しさが。


 「気づいて……くれたんだ……」


 ミオが小さく言った。そして——語り始めた。


 ゲーム2の多数決処刑。あの時——俺は「全員、自分に投票しろ」と提案した。自分を犠牲にする覚悟——自己犠牲。でも——失敗した。9人もいて、信頼関係がなかった。自分を犠牲にする覚悟はあっても、他の8人を信頼することはできなかった。結果、鈴木と園崎が死んだ。


 ミオは——それを見ていた。主催者として——モニター越しに——それを見ていた。


 「私は——それが悔しかった……」


 ミオが言った。攻略法はあったのに。協力すれば誰も死ななかったのに——信頼関係がなかったから、失敗した。


 「だから——最後のゲームは、対照的にした」


 ミオが続けた。ゲーム2は「自己犠牲」——自分を差し出す覚悟。でも——それだけじゃ、みんなを救えなかった。ゲーム10は「相互信頼」——隣の人を守る覚悟。自分を犠牲にするんじゃなく——他者を信じて守る。


 「『自己犠牲』から『相互信頼』へ——それが、私が求めた成長……」


 俺は——ミオの意図を理解した。ゲーム2とゲーム10は——対称的だ。でも——違う。ゲーム2は「自分を犠牲にする」——でもそれだけでは救えなかった。ゲーム10は「他者を信じて守る」——互いを信頼することで、全員が救われる。


 ミオの目から——また涙が流れた。その涙は——俺たちへの願いだった。今の5人なら——相互信頼ができる。そう信じていた。5人で——生き残ってほしいという願いだった。


 俺は——ミオの言葉を聞いて、胸が熱くなった。ミオは——俺たちの成長を信じていた。俺たちの絆を信じていた。だから——ゲーム2とは違う、「相互信頼」の攻略法を用意した。


 「気づかなかった奴の自己責任だ」


 俺は言った。冷たい言葉だ。でも——俺は本気でそう思っている。


 ミオが——顔を上げた。涙で濡れた顔で——俺を見た。信じられないという目だ。


 「そんな言い方……」


 ミオが言いかけた。ミオは——俺の言葉に傷ついている。でも——俺は続けた。ミオに——伝えなければならないことがある。


 「お前が責任感じる必要ねえんだよ」


 俺がはっきりと言った。声に力を込めて——ミオの目を見て。


 「お前は——『助かる方法』を用意した。それで十分だ」


 俺の言葉に、ミオが——目を見開いた。俺が——ミオを責めていないことに、気づいたのだろう。


 「でも——7人が……」


 ミオが言いかけた。まだ——自分を責めている。7人の死を——背負おうとしている。


 俺は——首を横に振った。


 「7人は——俺が抜け道を教えても、協力できなかった。信じなかった。それは——お前のせいじゃない」


 俺が言った。


 「田辺は——俺の指示を無視して、自分勝手に動いて、鬼に捕まった。鈴木と園崎は——俺が同数にしろと言っても、互いを疑って協力できなかった。田中は——二人一脚を信じられなくて死んだ。佐藤と山田は——分断されて時間切れになった。杉内は——AIがルールを補完したせいで、どうしようもなかった」


 俺が続けた。一人一人の死を——思い出しながら。


 「全部——お前のせいじゃない。お前は——助かる方法を用意した。俺は——お前のゲームには必ず抜け道があると信じていた。でも——みんなが協力しなかっただけだ」


 俺は——ミオを見た。ミオの目には——涙が溜まっている。でも——その涙は、さっきまでとは違う。悲しみの涙じゃない。救われた——そんな涙だ。


 俺は——続けた。


 「お前は——デスゲームを作った。それは事実だ。11人を拉致して——死のゲームをさせた。それは——許されることじゃない」


 俺がはっきりと言った。厳しい言葉だ。でも——事実だ。


 「でも——お前が作ったゲームには、全員生存の道があった。全部のゲームに——抜け道があった。協力すれば——誰も死なない設計だった」


 俺が続けた。


 「お前は——最低な主催者だ。でも——最悪な主催者じゃない。お前は——俺たちを殺したかったわけじゃない。それだけは——分かる」


 俺の言葉に、ミオが——また泣いた。でも——今度の涙は、さっきまでとは違う。


 「クズオ……」


 ミオが小さく言った。


 「ありがとう……」


 ミオが感謝の言葉を述べた。その声は——震えていた。でも——温かかった。


 俺は——少し驚いた。こいつが俺に感謝するなんて。いつもは「クズオ!」って怒鳴ってるくせに。


 「……べ、別に」


 ミオが慌てて顔を背けた。


 「感謝してるわけじゃないから! ちょっと……ちょっとだけ、嬉しかっただけだから!」


 顔が真っ赤だ。涙で濡れた頬が——さらに赤くなっている。


 「お前、さっき『ありがとう』って——」


 「言ってない!」


 ミオが叫んだ。


 「聞き間違いだから! 私はそんなこと言ってないから!」


 ……こいつ、面倒くせえな。


 灰垣が——ミオに近づいた。そして——ミオを抱きしめた。優しく——温かく。看護師の女が——主催者の少女を抱きしめている。不思議な光景だ。でも——今は、それが自然に見えた。


 「ミオさん……」


 灰垣が優しく言った。耳元で——囁くように。


 「あなたは——悪い人じゃない。全員生存の道を——残してくれていたんですね……」


 灰垣の言葉に、ミオが——また泣いた。灰垣の胸で——泣いた。小柄な体が——震えている。でも——それは悲しみの震えじゃない。安堵の震えだ。許された——その安堵だ。


 灰垣は——本当に優しい。俺が最初に灰垣に会った時から——灰垣は優しかった。このデスゲームの中でも——灰垣は誰よりも優しかった。その優しさが——今、ミオを救っている。


 黒岩が——静かに言った。元自衛隊の男が——ゆっくりと口を開いた。


 「ミオさん……私は——あなたを恨んでいません」


 黒岩の言葉に、ミオが——顔を上げた。灰垣の胸から顔を離して——黒岩を見た。涙で濡れた顔で——黒岩を見た。


 「私は——このゲームで、トラウマを乗り越えました。あなたが作ったゲームで——私は、前に進めました」


 黒岩が続けた。その声は——穏やかだった。無表情だった黒岩が——今は穏やかな表情をしている。


 「だから——感謝しています」


 黒岩の言葉に、ミオが——目を見開いた。感謝?——ミオは、信じられないという顔をしている。自分が作ったゲームで——感謝される?それは——ミオにとって、想像もしていなかったことだろう。


 白岩が——眼鏡をクイッと上げた。プログラマーの男が——ミオを見ている。その目には——複雑な感情が見える。


 「俺も——恨んでいない」


 白岩が言った。


 「お前のゲームは——確かに残酷だった。でも——全員生存の道はあった。それは——認める」


 白岩の言葉は——白岩らしかった。論理的で、冷静で、でも——温かみがある。


 白岩の言葉に、ミオが——また泣いた。

 俺は——ミオを見た。


 ミオは——泣いている。でも——その涙は、もう悲しみの涙じゃない。嬉しさの涙だ。許しの涙だ。


 ミオは——許された。


 7人を殺した主催者——いや、7人の死に関わった主催者。でも、俺たちは、ミオを許した。ミオが作ったゲームには——全員生存の道があった。俺たちは、それを知った。だから——許した。


 それが——正しいことなのか、俺には分からない。7人の遺族が聞いたら——怒るかもしれない。許せないと言うかもしれない。でも——俺たちは、ミオを許すことにした。


 俺たちは——生きている。ミオが作った抜け道のおかげで——生きている。全員生存の道があったから——俺たちは生き延びることができた。その事実は——変わらない。


 「さて」


 俺は言った。感傷に浸っている場合じゃない。


 「感動的な場面は終わりだ。投票の時間が迫っている」


 俺の言葉に、全員が——現実に引き戻された。そうだ。まだゲームは終わっていない。守護する相手を選ばなければならない。30分の話し合い時間——もう残り少ないはずだ。


 「全員——円形に守護しろ。俺が白岩を、白岩が黒岩を、黒岩が灰垣を、灰垣がミオを、ミオが俺を守る。それで——誰も死なない」


 俺が指示した。簡潔に——明確に。


 全員が——頷いた。白岩が眼鏡をクイッと上げた。黒岩が真剣な表情で頷いた。灰垣が涙を拭いて頷いた。ミオが小さく頷いた。


 これで——ゲーム10をクリアできる。


 誰も——死なない。


 俺たちは——5人全員で、このデスゲームを生き延びる。

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