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第34話 ゲーム10:守護選択

 俺が口を開こうとした——その時だった。


 沈黙を破ったのは——意外にも、黒岩だった。


 黒岩が——先に口を開いた。


 「私が行きます」


 黒岩が——はっきりと言った。その声には——迷いがなかった。決意が込められていた。さっきトラウマを乗り越えたばかりの男が——今度は自分の死を選ぼうとしている。


 全員が——黒岩を見た。黒岩は——真剣な表情で俺たちを見ていた。無表情だった黒岩が——今は強い意志を見せている。その目には——覚悟があった。自分の死を受け入れる——その覚悟が。


 俺は——黒岩を見つめた。黒岩は——変わった。4年間——判断することを恐れていた黒岩が、今——自分の死を判断しようとしている。それは——成長なのか?それとも——別の何かなのか?


 「元自衛隊として——仲間を守るのが役目です」


 黒岩が続けた。その言葉には——重みがあった。黒岩は——本気だ。自分が死んで——みんなを守ろうとしている。


 「私は——ここまで生き延びてきました。でも——私より若い人たちが死にました。田辺さん、鈴木さん、園崎さん、田中さん、佐藤さん、山田さん、杉内さん——7人が死にました」


 黒岩の声が——少し震えた。死んだ7人の名前を——一人一人呼んでいる。黒岩は——彼らのことを忘れていない。


 「私は——彼らより長く生きました。もう十分です。だから——私が死にます」


 黒岩の言葉に、俺は——複雑な気持ちになった。黒岩が——自分の命を差し出そうとしている。それは——立派なことかもしれない。でも——俺は受け入れられない。黒岩に——死んでほしくない。


 黒岩の言葉に、灰垣が——涙を流した。


 「黒岩さん……」


 灰垣の声が——悲しみで震えている。


 「そんな……黒岩さんが死ぬなんて……」


 灰垣が泣いている。優しい看護師の女が——黒岩の決意を、受け入れられないでいる。


 「さっき——トラウマを乗り越えたばかりなのに……」


 灰垣が続けた。


 「やっと——前に進めたのに……なのに死ぬなんて……」


 灰垣の言葉に、黒岩が——小さく微笑んだ。


 「だからこそ——です」


 黒岩が言った。


 「私は——トラウマを乗り越えました。クズオさんのおかげで——判断することへの恐怖を、克服できました」


 黒岩が続けた。


 「だから——今なら、自分の死を判断できます。怖くありません」


 黒岩の言葉に、俺は——胸が痛くなった。黒岩が——自分の死を「判断」と言っている。トラウマを乗り越えたから——自分の死を選べる。それは——なんという皮肉だ。


 白岩が——眼鏡をクイッと上げた。


 「いや——俺だろ」


 白岩が言った。その声は——いつもの冷静な声だった。論理的に——自分の死を提案している。


 全員が——白岩を見た。白岩は——いつもの冷静な表情で俺たちを見ていた。でも——その目には、決意があった。


 「俺は——技術者だ。プログラマーだ。暗号解読とか、ハッキングとか——そういうことはできる」


 白岩が続けた。自分の価値を——客観的に分析している。いつもの白岩だ。


 「でも——もう教えた。白岩流暗号解読法は——みんなに伝授した。あとは——お前たちでやれる」


 白岩が眼鏡を外した。ゆっくりと——外した。眼鏡を外した白岩の目は——少し寂しそうだった。


 「俺の役目は——終わった。技術は教えた。あとは——頼む」


 白岩の言葉に、俺は——首を横に振った。白岩が——自分を過小評価している。白岩の価値は——技術だけじゃない。白岩の冷静な分析——それが、俺たちを何度も救ってきた。


 「馬鹿言うな」


 俺が言った。


 「お前の技術は——まだ必要だ。これからも——ゲームがあるかもしれない。お前がいなければ——クリアできないゲームがあるかもしれない」


 俺の言葉に、白岩が——苦笑した。


 「そうか?——でも、俺より若い奴らが生き残るべきだろ」


 白岩が言った。


 「俺は——もう35歳だ。人生の折り返しは過ぎた。でも——お前らはまだ若い。これからの人生がある」


 白岩の言葉に、俺は——何も言えなかった。白岩が——自分の年齢を理由に、死を選ぼうとしている。それは——論理的な判断かもしれない。でも——俺は受け入れられない。


 灰垣が——また涙を流した。


 「私が——行きます……」


 灰垣が小さく言った。


 全員が——灰垣を見た。灰垣は——涙を流しながら、俺たちを見ていた。


 「私は——看護師です。人を助けるのが仕事です。でも——このゲームでは、誰も助けられなかった……」


 灰垣の声が——震えている。


 「田辺さんが死んだ時——私は何もできなかった。鈴木さんが死んだ時も——何もできなかった。7人が死んだのに——私は、誰一人助けられなかった……」


 灰垣が泣いている。


 「だから——私が死にます。役立たずの看護師が死ねば——みんなが生き残れる……」


 灰垣の言葉に、俺は——怒りを感じた。


 「馬鹿言うな」


 俺がまた言った。


 「お前は——役立たずじゃない。お前がいなければ——俺たちの心は折れていた。お前の優しさが——俺たちを支えてきたんだ」


 俺の言葉に、灰垣が——俺を見た。涙で濡れた顔で——俺を見た。


 「でも……」


 灰垣が言いかけた。でも——俺は遮った。


 「お前が死んだら——誰がみんなを癒すんだ。誰が——俺たちの心を支えるんだ」


 俺の言葉に、灰垣が——また泣いた。嬉しさで——泣いた。


 話し合いが——続いた。


 黒岩が自分を犠牲にすると言った。白岩も自分が死ぬと言った。灰垣も自分が行くと言った。みんなが——自分を犠牲にしようとしている。


 俺は——考えた。


 俺が死ぬべきか?——俺は攻略本を持っている。でも——攻略本の内容は、もうほとんど共有した。俺がいなくても——みんなは生き残れるかもしれない。


 でも——俺が死にたいとは思わない。正直に言えば——俺は生きたい。死にたくない。まだ——やりたいことがある。まだ——生きていたい。


 みんなも——同じだろう。黒岩も、白岩も、灰垣も——本当は死にたくないはずだ。でも——誰かが死ななければならない。だから——自分が死ぬと言っている。自己犠牲——それは美しいことかもしれない。でも——俺は嫌だ。誰にも死んでほしくない。


 これが——このゲームの残酷さだ。


 誰かを殺すか、自分が死ぬか——その二択しかない。逃げ道がない。どちらを選んでも——地獄だ。誰かを選べば——その人を殺すことになる。自分を選べば——自分が死ぬ。どちらにしても——苦しい。


 俺は——頭を抱えた。どうすればいい?答えが見つからない。このゲームには——正解がないように思える。


 時間が——過ぎていく。30分の話し合い時間——もう10分以上過ぎたはずだ。残り時間が——少なくなっていく。決断しなければならない。でも——決断できない。


 その時だった。


 ミオが——口を開いた。


 「私を——守らないで」


 ミオが言った。


 全員が——ミオを見た。ミオは——涙を流しながら、俺たちを見ていた。


 「私が——主催者だから」


 ミオが続けた。


 「全部——私のせいだから。7人が死んだのは——私のせいだから」


 ミオの声が——震えている。


 「私が死ねば——丸く収まる」


 ミオが言った。


 その言葉に——全員が凍りついた。ミオが——自分を犠牲にすると言っている。主催者が——自分が死ぬと言っている。


 「私が——このゲームを作った。私が——みんなを巻き込んだ。だから——私が責任を取る」


 ミオが涙を流した。


 「私以外の人を——守って。誰も私を守らなければ——私が死ぬ。そうすれば——みんなが生き残れる」


 ミオの言葉に、俺は——ミオを見た。


 ミオは——泣いている。小柄な体が——震えている。でも——俺は違和感を感じた。


 ミオの泣き方が——いつもと違う。


 今まで——ミオが泣く場面は何度もあった。田辺が死んだ時、杉内が死んだ時——ミオは泣いた。でも——今の泣き方は、それとは違う。


 何かが——違う。


 俺は——ミオを観察した。ミオの表情、ミオの仕草、ミオの声——全てを観察した。


 ミオは——確かに泣いている。涙を流している。でも——その涙の奥に、何かがある。悲しみだけじゃない。何か——別の感情がある。


 決意——そう、決意だ。


 ミオは——何かを決めている。何かを——企んでいる。俺は——ミオの目をじっと見た。涙の奥に——光が見える。希望の光——そう、希望だ。ミオは——何かを知っている。何かを——俺たちに伝えようとしている。


 俺は——思い出した。


 ミオが作ったゲーム——それには、いつも穴があった。


 ゲーム1の指名鬼ごっこ——30分逃げ切れば全員生存だった。田辺が死んだのは——逃げ切れなかったからだ。でも——ルール上は、全員生存が可能だった。


 ゲーム2の多数決処刑——3回連続で同数なら誰も死ななかった。鈴木と園崎が死んだのは——同数にできなかったからだ。でも——協力すれば、誰も死なずに済んだはずだ。


 ゲーム3の椅子取りデス——二人一脚で同時に座れば誰も死ななかった。田中が死んだのは——俺が二人一脚を説明したのに、自己犠牲を選んだからだ。若い奴を生かすために——自ら死を選んだ。


 ゲーム4の迷路サバイバル——同時ゴールで全員生存だった。佐藤と山田が死んだのは——壁で分断されて、時間切れになったからだ。佐藤は山田を置いていけなくて——二人とも死んだ。


 全部——「協力すれば誰も死なない」設計だった。


 ミオは——デスゲームを作った。でも——本当は誰も殺したくなかったんじゃないか?だから——抜け道を作った。協力すれば——誰も死なない設計にした。ミオは——残虐なゲームを作りながらも、参加者を救おうとしていた。


 なら——このゲームにも、穴があるはずだ。


 ミオが「残虐性S」と言われたゲーム——それにも、必ず穴がある。ミオが——AIの改善を拒否した理由——それは、穴を残したかったからじゃないか?


 俺は——ミオを見た。ミオは——まだ泣いている。でも——俺にはもう分かった。


 ミオは——俺たちを助けようとしている。


 ミオが「私を守らないで」と言った——それは、本当の意味じゃない。ミオは——俺たちを誘導している。俺たちに——何かを気づかせようとしている。


 俺は——ゲームのルールを思い出した。AIが説明したルール——一言一句、思い出そうとした。


 『5人の中から「守りたい人」を1人選んでください。自分以外の誰かを選ばなければなりません』


 『守られた票数が最も少ない人が死亡します』


 『棄権は不可です。必ず誰かを守ってください』


 自分以外の誰かを守る——


 俺は——考えた。5人がそれぞれ自分以外の誰かを守る。全員がバラバラに選んだら——誰かが守られない可能性がある。守られなかった人が——死ぬ。


 でも——待て。


 俺は——ある可能性に気づいた。


 もし——全員が「隣の人」を守ったらどうなる?


 俺→白岩→黒岩→灰垣→ミオ→俺——円形に守護する。


 そうすれば——全員が1票ずつ守られる。全員が同数——最少得票者がいない。誰も——死なない。


 これが——このゲームの穴か?


 俺は——ゲーム2を思い出した。


 多数決処刑——「誰を殺すか」を選ぶゲーム。あの時も——「全員が自分に投票すれば同数になる」という攻略法があった。俺は——みんなに提案した。「全員、自分に投票しろ」と。


 でも——失敗した。9人もいて、信頼関係がなかった。「自分に投票する」——それは自己犠牲だ。自分を犠牲にする覚悟はあっても、他の8人を信頼することはできなかった。結果——鈴木と園崎が死んだ。


 俺は——悔しかった。攻略法を知っていたのに。みんなに説明したのに。協力できなかった。


 でも——今は違う。


 そして——ゲーム10は、ゲーム2と対になっている。


 ゲーム2は「誰を殺すか」——自分に投票することで、自分を犠牲にする。自己犠牲のゲームだった。


 ゲーム10は「誰を守るか」——隣の人を守ることで、全員を救う。相互信頼のゲームだ。


 ゲーム2の攻略法は「自己犠牲」——自分を差し出す覚悟。


 ゲーム10の攻略法は「相互信頼」——隣の人を信じて守る覚悟。


 真逆だ。でも——どちらも「協力すれば全員が助かる」。


 ミオは——意図的に、ゲーム2と対になるゲームを作った。「自己犠牲」から「相互信頼」へ——俺たちの成長を試している。


 俺は——ミオを見た。


 ミオの目が——俺を見ている。涙の奥に——期待が見える。俺が気づくのを——待っている。俺が——正解に辿り着くのを、待っている。


 俺は——理解した。


 このゲームの穴——それは——円形守護だ。


 「おい、デスミ」


 俺はミオを呼んだ。あえて——「デスミ」と呼んだ。ミオの主催者としての名前——デスミ。その名前で呼ぶことで——俺はミオに問いかけた。


 ミオが——俺を見た。涙で濡れた赤い瞳が——俺を見た。その目には——期待と、緊張が見える。


 「このゲームにも——穴あるんだろ」


 俺がはっきりと言った。


 ミオが——体を震わせた。図星だ。やっぱり——穴がある。俺の推測は——正しかった。


 「全員が『隣の人』を守る——円形に守護すれば、全員が1票ずつ守られる」


 俺が核心を突いた。


 ミオが——目を見開いた。そして——涙を流しながら、小さく頷いた。


 「……うん……それが……穴……」


 ミオが答えた。


 その言葉に——全員が目を見開いた。


 円形に守護すれば——全員が1票ずつ守られる。全員が同数だ。最少得票者がいない——誰も死なない。


 それが——ミオが用意した穴だった。残虐性Sと呼ばれたゲーム——その残虐なゲームの中に、ミオは小さな希望を隠していた。

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