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第33話 最後のゲームは私が作る

 ゲーム10——守護選択。


 5人の中から「守りたい人」を1人選ぶ。自分以外の誰かを選ばなければならない。守られた票数が最も少ない人が死亡する。棄権は不可。話し合いの時間は30分。


 それが——ミオの最高傑作だった。


 俺たちは——言葉を失っていた。今まで——色々なゲームをクリアしてきた。指名鬼ごっこ、多数決処刑、椅子取りデス、迷路サバイバル、ババ抜きデス、ロシアンルーレット、暗号解読、脱出ゲーム、同時ボタン押し——9つのゲームをクリアしてきた。


 でも——このゲームは違う。


 今までのゲームには——攻略法があった。協力すれば——全員が生き残れる可能性があった。知恵を絞れば——誰も死なずに済む方法があった。でも——このゲームは違う。必ず——1人が死ぬ。誰かを守れば——他の誰かが守られない。守られなかった人は死ぬ。逃げ道がない。


 部屋の空気が——重くなっていた。さっきまでの——黒岩の成長を祝う温かい雰囲気が、完全に消えていた。代わりに——絶望と恐怖が、部屋を満たしていた。


 俺は——自分の心臓の音を聞いた。ドクン、ドクン——激しく鳴っている。恐怖だ。今まで感じたことのない種類の恐怖だ。今までは——敵がいた。AIがいた。ゲームのルールがあった。でも——このゲームでは、敵は俺たち自身だ。誰を守るか——その選択が、誰かを殺す。


 沈黙が——部屋を支配していた。


 誰も——何も言わない。言えない。何を言えばいいのか——分からない。誰を守る?——そんな議論を、どうやって始めればいいのか。「俺を守ってくれ」と言うべきか?「お前を守る」と言うべきか?——どちらも、言葉にできない。


 白岩が——床を見つめている。眼鏡の奥の目が——動いていない。いつもは分析を始める白岩が——今は何も言わない。分析すべきことがないからだ。このゲームに——論理的な解決策はない。


 黒岩が——拳を握りしめている。さっきまで——トラウマを乗り越えた喜びで満ちていた黒岩が、今は——苦悩で顔を歪めている。せっかく前に進んだのに——また絶望に引き戻されている。


 灰垣が——両手で顔を覆っている。優しい看護師の女が——現実を受け入れられないでいる。涙が——指の隙間から流れ落ちている。


 俺は——ミオを見た。


 ミオは——俯いていた。小柄な体が——震えている。泣いているのか?——分からない。でも——ミオの様子が、いつもと違う。


 「ミオ」


 俺は呼びかけた。


 ミオが——顔を上げた。赤い瞳が——潤んでいた。やっぱり泣いていた。でも——その涙は、いつもの涙とは違う気がした。


 「なぜ——このゲームを作った?」


 俺は聞いた。


 ミオが——俺を見た。涙を流しながら——俺を見た。


 「……話す……」


 ミオが小さく言った。


 「私がこのゲームを作った理由……話す……」


 ミオが——話し始めた。


 「私……デスゲームが好きだった……」


 ミオが言った。その言葉に——俺は驚いた。好き?デスゲームが?人が死ぬゲームが——好き?


 俺は——ミオを見た。小柄な体が震えている。赤い瞳が涙で濡れている。ミオは——本当のことを話そうとしている。今まで隠していた——本当のことを。


 「小説で読んで……憧れた……」


 ミオが続けた。声が震えている。告白することが——辛いのだろう。でも——ミオは話し続けた。


 「デスゲーム小説が好きだった。『バトル・ロワイアル』『カイジ』『神さまの言うとおり』……たくさん読んだ。映画も観た。漫画も読んだ」


 ミオの声が——震えている。俺は——ミオの言葉を聞きながら、考えた。デスゲームを好む人間——それは、珍しくない。フィクションとして——デスゲームを楽しむ人は多い。俺だって——デスゲーム小説は嫌いじゃなかった。


 でも——ミオは違った。ミオは——フィクションでは満足できなかった。


 「極限状態で人間がどうなるか……それを見るのが好きだった。裏切り、協力、犠牲、愛……普段は見えない人間の本性が見える。それが——面白かった」


 ミオが俯いた。その横顔には——深い後悔が刻まれていた。


 「私は——そういう人間だった。人の死を娯楽として楽しむ——最低な人間だった」


 ミオの声が——自己嫌悪に満ちていた。自分を責めている。自分が——許せないでいる。ミオは——自分の欲望を恥じている。でも——その欲望が、このデスゲームを作った。


 「そして——思った。自分でもデスゲームを作りたいって。自分で設計して、自分で運営して、自分の目で見たいって」


 ミオが続けた。その言葉には——狂気があった。普通の人間は——そんなことを考えない。でも——ミオは考えた。そして——実行した。


 「AIに手伝ってもらって——このデスゲームを作った。参加者を集めて——ゲームを始めた」


 ミオが顔を上げた。涙が流れている。頬を伝って——顎から落ちている。ミオは——泣きながら、自分の罪を告白している。


 「でも……実際に人が死んで……」


 ミオの声が——詰まった。


 「田辺さんが死んだ時……私は震えた。怖かった。本当に人が死んだって……信じられなかった」


 ミオが続けた。


 「でも——止められなかった。ゲームは続いた。鈴木さんが死んだ。園崎さんが死んだ。田中さんが死んだ。佐藤さんが死んだ。山田さんが死んだ。杉内さんが死んだ——」


 ミオの声が——悲鳴のようになった。


 「7人も死んだ……!7人も……私のせいで……!」


 ミオが泣き崩れた。小柄な体が——震えている。嗚咽が——部屋に響いている。


 「全部……私のせい……私がこのゲームを作ったから……私が主催者だから……7人の命が……私のせいで……」


 ミオが自分を責めている。ずっと——自分を責めていたのだろう。ゲームが進むたびに——人が死ぬたびに——ミオは自分を責めていた。


 俺は——ミオを見ていた。


 ミオは——最低な人間だ。デスゲームを娯楽として楽しんでいた。自分でデスゲームを作った。11人を拉致して——死のゲームをさせた。7人が死んだ。それは——ミオの責任だ。


 でも——ミオも苦しんでいる。自分の罪を——自覚している。後悔している。苦しんでいる。それは——本当だ。


 「今更だろ」


 俺は言った。


 その言葉に——ミオが顔を上げた。涙で濡れた顔で——俺を見た。ミオの赤い瞳が——俺を見つめている。何を言われるのか——怖がっているような目だ。


 俺は——ミオを見た。小柄な体が震えている。涙が流れ続けている。ミオは——本当に苦しんでいる。自分の罪を——自覚している。後悔している。


 でも——俺は容赦しなかった。


 「7人が死んだのは——お前のせいだ。それは事実だ。今更泣いても——死んだ奴らは戻ってこない」


 俺がはっきりと言った。厳しい言葉だ。でも——事実だ。田辺、鈴木、園崎、田中、佐藤、山田、杉内——7人が死んだ。それは——ミオが作ったゲームのせいだ。ミオが——主催者だから。ミオが——全ての元凶だ。


 ミオが——また泣き出した。俺の言葉が——ミオを傷つけている。小柄な体が——さらに小さく縮こまる。でも——俺は続けた。言うべきことを——言わなければならない。


 「でも——お前も参加者だ。お前も——このゲームに巻き込まれている。お前も——死ぬ可能性がある」


 俺が言った。


 「お前は——なぜ自分も参加者になった?主催者なら——安全な場所から見ていればよかったはずだ」


 俺の問いに、ミオが——小さく答えた。涙声で——震える声で。


 「……ノートを……取り返しに来たの……」


 ミオが言った。


 「あんたが拾ったノート——私の大切なノートだったから……取り返したくて……点検口から降りてきて……」


 ミオの声が——震えている。


 「そしたら——AIに参加者として登録されちゃって……」


 俺は——思い出した。そうだ。ミオが参加者になったのは——偶然だった。ノートを取り返そうとして、点検口から落ちて、AIに勝手に登録された。ミオは——自分から参加者になったわけじゃない。


 「主催者権限も剥奪されて……もう——ゲームを止められなくなった……」


 ミオが続けた。


 「でも……参加者になってから……7人が死ぬのを見て……私は——責任を感じた。私が作ったゲームで——人が死んでいく。私のせいで——みんなが苦しんでいる……」


 ミオの声が——さらに震えた。ミオは——最初は偶然だった。でも——今は違う。今は——責任を感じている。


 「そして——このゲーム10……これだけは、AIの改善を拒否した」


 ミオが俺を見た。涙で濡れた赤い瞳が——俺をまっすぐ見ている。


 「私が作った——最後のゲームだから。私の手で——ちゃんと終わらせたかったから」


 ミオの言葉に、俺は——何かを感じた。ミオは——何かを隠している。何かを——企んでいる。「ちゃんと終わらせる」——その言葉の意味が、まだ分からない。でも——ミオは何かを計画している。


 「うん……でも、最後くらい……」


 ミオが小さく言った。


 「私の手で——ちゃんと終わらせたい……」


 ミオの言葉には——決意が込められていた。何かを——決めている。何かを——覚悟している。俺は——ミオの目を見た。涙の奥に——強い意志が見える。ミオは——何かを企んでいる。


 白岩が眼鏡をクイッと上げた。


 「ミオ」


 白岩が言った。


 「お前の言いたいことは分かった。お前は——罪悪感を抱えている。自分のせいで7人が死んだと思っている」


 白岩が続けた。


 「でも——今は、そんなことを議論している場合じゃない。ゲーム10が始まった。30分後に投票が始まる」


 白岩の言葉に、全員が——現実に引き戻された。そうだ。今は——ミオの罪悪感を議論している場合じゃない。ゲームが始まっている。30分後——誰かが死ぬ。


 黒岩が——重い声で言った。


 「……誰を選ぶか……話し合わなければならない……」


 黒岩の言葉に、全員が——顔を見合わせた。


 誰を選ぶ?——その議論を、どうやって始めればいいのか。自分を犠牲にする?誰かを犠牲にする?——どちらを選んでも、地獄だ。


 灰垣が——涙を流した。


 「そんな……やっとここまで来たのに……」


 灰垣の声が——悲しみに震えている。


 「9つのゲームをクリアして……7人が死んで……やっと5人で生き残って……」


 灰垣が続けた。


 「なのに——また誰かが死ぬなんて……」


 灰垣の言葉に、全員が——沈黙した。そうだ。9つのゲームをクリアした。7人が死んだ。でも——5人は生き残った。やっと——ここまで来た。


 なのに——また誰かが死ぬ。


 5人のうち——1人が死ぬ。


 俺たちの誰かが——死ぬ。


 「……話し合おう」


 俺は言った。声を出すのが——辛かった。でも——誰かが言わなければならない。


 「30分ある。その間に——決めなければならない」


 俺が続けた。


 「誰を選ぶか——話し合おう。全員の意見を聞こう」


 俺の言葉に、全員が——頷いた。重い頷きだった。誰も——この話し合いをしたくない。でも——しなければならない。逃げることは——できない。


 話し合い——それしかない。30分後には——投票が始まる。それまでに——何らかの結論を出さなければならない。合意できなくても——投票はある。誰かに票を入れなければならない。


 俺は——全員を見渡した。白岩、黒岩、灰垣、ミオ——4人の仲間だ。この中から——1人を選ばなければならない。


 白岩——プログラマー。論理的で冷静。暗号解読で活躍した。技術的な知識がある。生き残れば——今後のゲームで役立つ。


 黒岩——元自衛隊。体力と精神力がある。さっきトラウマを乗り越えた。戦闘能力がある。危険な状況で頼りになる。


 灰垣——看護師。医療知識がある。怪我の手当てができる。優しい性格で、チームの精神的支柱になっている。


 ミオ——主催者。このゲームを作った張本人。でも——ゲームの内部情報を知っている。攻略本の内容を——一番理解している。


 そして——俺。攻略本を持っている。リーダーシップを取ってきた。でも——特別な技能があるわけじゃない。


 誰を選ぶ?——論理的に考えれば、「一番役に立たない人」を選ぶべきだ。でも——そんな計算ができるはずがない。俺たちは——仲間だ。誰が一番役に立つとか、立たないとか——そんな計算で命を決めていいのか?


 あるいは——俺自身が選ばれるかもしれない。俺に票が集まれば——俺が死ぬ。それは——覚悟しなければならない。


 どちらにしても——地獄だ。


 でも——俺たちは、話し合わなければならない。


 残り時間——29分。


 話し合いが——始まった。


 誰も——最初に口を開けない。重い沈黙が——部屋を支配している。5人が——床を見つめている。互いの顔を——見れない。見れば——「この人を選ぶかもしれない」と思ってしまう。


 俺は——深く息をついた。重い息だった。誰かが——最初に話さなければならない。この地獄のような話し合いを——始めなければならない。


 俺は——口を開こうとした。


 その時だった。


   ◇


 白岩「評価:9点。AIが自作ゲームを作る展開は予想外だ。やられた」クイッ

 ミオ「ナビ子ちゃんすごいでしょ!」

 白岩「お前は関係ない」クイッ

 ミオ「私が作ったの!!」

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