第32話 評価:10点
ゲーム9が終わった。
俺たちは——床に座り込んでいた。疲れている。緊張が解けて——体から力が抜けている。でも——生きている。全員が生きている。致死レベルの電流を——回避した。
黒岩が——自分で判断した。「押せ」と言った。4年間——判断することを恐れていた黒岩が、最後の瞬間に——自分で判断した。そして——成功した。
俺は——黒岩を見た。黒岩は——穏やかな表情をしていた。無表情だった黒岩が——今は少し柔らかい表情をしている。トラウマを——完全に克服したわけじゃない。でも——一歩を踏み出した。大きな一歩を——踏み出した。
白岩が——ゆっくりと立ち上がった。
プログラマーの男が——眼鏡をゆっくりと外した。いつもの仕草とは違う。いつもは素早く眼鏡をクイッと上げる。でも——今は違う。ゆっくりと——丁寧に眼鏡を外した。その動作には——敬意が込められていた。
白岩が——黒岩を見た。眼鏡を外した白岩の目は——いつもより柔らかかった。いつもの鋭い分析者の目じゃない。人間としての——温かい目だった。白岩は——普段は感情を見せない。論理的で、冷静で、常に分析している。でも——今は違う。白岩が——人間らしい表情を見せている。
俺は——その変化に驚いた。白岩が——こんな表情をするのは、初めて見た。白岩も——人間だったのだ。論理と数字だけじゃない。感情も持っている。ただ——普段は見せないだけだ。
「黒岩」
白岩が言った。その声も——いつもより柔らかかった。
黒岩が顔を上げた。白岩を見た。無表情だった黒岩の目が——わずかに潤んでいる。白岩が——何を言おうとしているか、黒岩は——予感していたのかもしれない。
「評価じゃない」
白岩が言った。
その言葉に——黒岩が首を傾げた。評価じゃない?白岩はいつも評価をする。ゲームが終わるたびに——評価をする。それが白岩だ。白岩にとって——評価は呼吸のようなものだ。なのに——評価じゃない?
白岩が続けた。
「お前、やるじゃねえか」
白岩が——珍しく、人を褒めた。論理的な分析じゃない。数字じゃない。ただ——人として、黒岩を認めた。
「4年間——判断することが怖かった。部下を失った記憶が——お前を縛っていた。でも——お前は乗り越えた」
白岩が続けた。
「最後の1回——致死レベルの電流が待っている中で、お前は自分で判断した。『押せ』と言った。それは——並大抵のことじゃない」
白岩の言葉に、黒岩が——目を潤ませた。
「トラウマを抱えながらも——前に進んだ。それが、どれだけ難しいことか——俺は知っている」
白岩が真剣に言った。
「だから——これは評価じゃない。ただの——敬意だ」
白岩がそう言った後——眼鏡をかけ直した。ゆっくりと——丁寧に。そして——いつものように眼鏡をクイッと上げた。
「でもまあ——評価もしておくか」
白岩がいつもの調子に戻った。
「ゲーム9——黒岩の最終判断について。評価:10点だ」
白岩がはっきりと言った。10点——満点だ。白岩が満点をつけることは——ほとんどない。白岩は厳しい評価者だ。いつも欠点を見つける。でも——今回は違う。黒岩に——満点をつけた。
黒岩が——深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
黒岩が感謝の言葉を述べた。その声は——震えていた。嬉しさで——震えていた。白岩に認められた——それが、黒岩には何より嬉しかった。
灰垣が優しく微笑んだ。
「黒岩さん、かっこよかったです」
灰垣が言った。
「最後の瞬間——黒岩さんの声が聞こえました。『押せ』って。力強い声でした。迷いのない声でした」
灰垣が続けた。
「私——感動しました。黒岩さんが、トラウマを乗り越える瞬間を——見れて」
灰垣の目が——潤んでいる。看護師の女が——黒岩の成長を、心から喜んでいる。
ミオも嬉しそうに言った。
「うん、すごかった!」
ミオが目を輝かせて言った。
「黒岩さん——かっこよかった!私、あの瞬間——鳥肌立った!」
ミオが興奮気味に言った。小柄な体が——嬉しそうに揺れている。
「黒岩さんが『押せ』って言った時——私、絶対成功するって思った!黒岩さんの声——すごく強かったから!」
ミオの言葉に、黒岩が——照れたように俯いた。無表情だった黒岩が——今は少し赤くなっている。褒められ慣れていないのだろう。
俺は——黒岩の肩を叩いた。
「……まあ、悪くなかった」
俺は素っ気なく言った。でも——その言葉には、確かな敬意が込められている。黒岩は——よくやった。本当に——よくやった。
黒岩が——全員を見渡した。白岩、灰垣、ミオ、そして俺——4人の仲間が、黒岩を認めている。黒岩を称えている。
「皆さんのおかげです」
黒岩が言った。
「私一人では——ここまで来れませんでした。クズオさんが道を示してくれた。白岩さんが分析してくれた。灰垣さんが支えてくれた。ミオさんが励ましてくれた」
黒岩の声が——少し震えた。
「私は——一人じゃなかった。だから——前に進めました」
黒岩の言葉に、全員が——温かく微笑んだ。
俺たちは——チームだ。
11人から始まったデスゲーム。7人が死んだ。田辺、鈴木、園崎、田中、佐藤、山田、杉内——7人が死んだ。でも——残った5人は、強い絆で結ばれている。互いを助け合い、支え合い——共に戦っている。
それが——俺たちの強さだ。
『休憩時間を終了します』
AIの声が響いた。
俺たちは——顔を上げた。休憩が終わる?もう次のゲームが始まるのか?
『ゲーム10を開始します』
AIが宣言した。
ゲーム10——それは、ミオが承認した3つの改善版ゲームの——最後だ。ゲーム7、ゲーム8、ゲーム9——俺たちはクリアしてきた。そしてゲーム10——これが最後だ。
でも——AIが続けた。
『本ゲームは、主催者が改善を拒否したため、原案のまま実行されます』
その言葉に——俺は驚いた。改善を拒否?原案のまま?——それは、どういうことだ?
俺は——ミオを見た。ミオは——複雑な表情をしていた。嬉しそうな——でも不安そうな——複雑な表情だ。
「ミオ」
俺は聞いた。
「お前——改善を拒否したのか?」
俺の問いに、ミオが——小さく頷いた。
「うん……」
ミオが答えた。
「これだけは——絶対に私のゲームでやりたかったの」
ミオが言った。その声には——決意が込められていた。
「AIが改善案を出してきた。でも——私は断った。これだけは——私の原案のままでやりたかった」
ミオの言葉に、俺は——眉をひそめた。ミオの原案——それは、どんなゲームだ?
俺は——攻略本の内容を思い出した。ミオが作ったゲームのリスト。その中に——ゲーム10があった。でも——詳細なルールは書いてなかった。ただ——こんな評価だけがついていた。
『残虐性S』——
俺は——ミオを見た。
「……お前の原案、『残虐性S』って言われてたよな」
俺がはっきりと言った。
その言葉に——全員が緊張した。残虐性S?最高レベルの残虐性?——それは、どんなゲームだ?
ミオが——俺を見た。
「大丈夫!」
ミオが言った。
「これは——私の最高傑作だから!」
ミオが自信満々に言った。でも——その言葉は、全く安心できなかった。最高傑作?残虐性Sのゲームが、最高傑作?——それは、むしろ不安を増大させる。
白岩が眼鏡をクイッと上げた。
「不安しかない」
白岩が正直に言った。
「残虐性S——それは最高ランクだ。今までのゲームで一番残虐なゲームだということだ」
白岩が分析した。
「そして——ミオがAIの改善を拒否した。つまり——ミオ自身が、このゲームの残虐さを望んでいるということだ」
白岩の言葉に、全員が——ミオを見た。ミオは——複雑な表情をしていた。
「ミオ」
灰垣が優しく聞いた。
「なぜ——改善を拒否したんですか?」
灰垣の問いに、ミオが——俯いた。
「……それは……」
ミオが言いかけた。でも——言葉が続かない。何かを——言いたいけど言えない——そんな様子だ。
俺は——ミオを見た。ミオの表情には——決意と、罪悪感と、何か別の感情が——混ざっている。
「ミオ」
俺は言った。
「お前——何を考えている?」
俺の問いに、ミオが——顔を上げた。
「……後で話す」
ミオが小さく言った。
「ゲームが始まったら——分かるから」
ミオの言葉に、俺は——頷いた。今は——ミオを信じるしかない。
『ゲーム10のルールを説明します』
AIの声が響いた。
俺たちは——AIの説明を待った。ゲーム10——ミオの最高傑作。残虐性S——最高ランクの残虐性。それが——どんなゲームなのか。
AIが——説明を始めた。
『ゲーム10:守護選択』
守護選択——その名前を聞いた瞬間、俺は——首を傾げた。
守護——誰かを守る。選択——誰かを選ぶ。つまり——誰かを選んで、守る。それだけなら——悪いゲームには聞こえない。でも——残虐性Sのゲームだ。何か——裏があるはずだ。
俺は——全員を見た。みんな——困惑している。ミオが俯いている。灰垣が不安そうな顔をしている。白岩が眼鏡をクイッと上げている。黒岩が——無表情のまま、AIの説明を待っている。
AIが続けた。
『ルールを説明します。5人の中から「守りたい人」を1人選んでください。自分以外の誰かを選ばなければなりません』
守りたい人を選ぶ——自分以外の4人の中から、1人を選ぶ。誰を守りたいか——それを選ぶ。
『守られた票数が最も少ない人が死亡します。残り4人は生存します』
俺は——凍りついた。
守られた票が最も少ない人——つまり、誰からも守られなかった人が死ぬ。「守る」というポジティブな行為が——「見殺し」につながる。誰かを守るということは——他の誰かを守らないということだ。
俺は——考えた。5人で投票する。全員が自分以外の誰かを守る。最も守られなかった人が死ぬ。つまり——人気投票だ。誰が一番守られないか——それを競う地獄のゲームだ。
『棄権は不可です。必ず誰かを守ってください』
棄権不可——誰も守らないという選択肢はない。必ず——誰かを選ばなければならない。でも——誰かを選ぶということは、他の誰かを選ばないということだ。守るという行為が——誰かを死に追いやる。
『話し合いの時間は30分です。30分後、投票を開始します』
30分——それだけの時間で、誰を守るか決める。30分——長いようで短い。でも——誰を守っても、誰かが死ぬ。5人全員を守ることはできない。
AIの説明が終わった。
俺たちは——言葉を失った。
これが——ミオの最高傑作。残虐性Sのゲーム。
5人の中から——誰を守るか選ぶ。
でも——守られなかった人は死ぬ。
全員を——守ることはできない。
黒岩が——震える声で言った。
「誰かを守れば……他の誰かが死ぬのか……」
黒岩の声が——苦痛に満ちている。
白岩が眼鏡を外した。
「最悪だ……『守る』という優しい言葉で——人を殺すゲームか……」
白岩が言った。評価なんてできない——そんな声だった。
灰垣が——涙を流した。
「そんな……やっとここまで来たのに……」
灰垣の声が——悲しみに震えている。
俺は——ミオを見た。
ミオは——俯いていた。複雑な表情で——俯いていた。嬉しそうでも、悲しそうでも、怒っているようでもない。ただ——何かを決意しているような表情だった。
これが——ミオの最高傑作。
これが——ミオが作ったゲーム。
そして——ミオはこのゲームを、自分の手で実行したかった。AIの改善を拒否してまで——このゲームを、原案のまま実行したかった。
なぜだ?——俺は疑問に思った。
ミオは——なぜ、こんな残酷なゲームを作った?ミオは——このデスゲームの主催者だ。11人を拉致して、死のゲームをさせている。7人が死んだ。それは——ミオの責任だ。
でも——ミオ自身も、このゲームに巻き込まれている。ミオも——死の危険にさらされている。ミオは——なぜ、自分も参加者になった?
そして——なぜ、AIの改善を拒否した?
このゲームは——守護選択だ。誰を守るか選ぶ。でも——守られなかった人は死ぬ。「守る」という優しい言葉の裏に——「見殺し」という残酷さが隠されている。ミオが作ったゲームだ。ミオが——こんな皮肉なゲームを考えた。
ミオは——何を考えている?
その答えは——まだ分からない。
でも——確実に分かることがある。
俺たちは——これから、仲間の一人を殺さなければならない。
5人の中から——1人を選ぶ。
話し合いの時間は——30分。
そして——投票が始まる。
俺は——全員を見渡した。白岩、黒岩、灰垣、ミオ——4人の仲間だ。この中から——1人が死ぬ。俺が選ぶか、俺が選ばれるか——どちらにしても、地獄だ。
30分後——俺たちは、最も残酷な選択をしなければならない。
◇
白岩「評価:10点。……俺がつけた評価の話だ。当然満点だろう」クイッ
クズオ「自画自賛かよ」
ミオ「ずるい!」
白岩「何がずるい」クイッ
ミオ「自分の回だけ満点!」
白岩「客観的事実だ」クイッ




