表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

第32話 評価:10点

 ゲーム9が終わった。


 俺たちは——床に座り込んでいた。疲れている。緊張が解けて——体から力が抜けている。でも——生きている。全員が生きている。致死レベルの電流を——回避した。


 黒岩が——自分で判断した。「押せ」と言った。4年間——判断することを恐れていた黒岩が、最後の瞬間に——自分で判断した。そして——成功した。


 俺は——黒岩を見た。黒岩は——穏やかな表情をしていた。無表情だった黒岩が——今は少し柔らかい表情をしている。トラウマを——完全に克服したわけじゃない。でも——一歩を踏み出した。大きな一歩を——踏み出した。


 白岩が——ゆっくりと立ち上がった。


 プログラマーの男が——眼鏡をゆっくりと外した。いつもの仕草とは違う。いつもは素早く眼鏡をクイッと上げる。でも——今は違う。ゆっくりと——丁寧に眼鏡を外した。その動作には——敬意が込められていた。


 白岩が——黒岩を見た。眼鏡を外した白岩の目は——いつもより柔らかかった。いつもの鋭い分析者の目じゃない。人間としての——温かい目だった。白岩は——普段は感情を見せない。論理的で、冷静で、常に分析している。でも——今は違う。白岩が——人間らしい表情を見せている。


 俺は——その変化に驚いた。白岩が——こんな表情をするのは、初めて見た。白岩も——人間だったのだ。論理と数字だけじゃない。感情も持っている。ただ——普段は見せないだけだ。


 「黒岩」


 白岩が言った。その声も——いつもより柔らかかった。


 黒岩が顔を上げた。白岩を見た。無表情だった黒岩の目が——わずかに潤んでいる。白岩が——何を言おうとしているか、黒岩は——予感していたのかもしれない。


 「評価じゃない」


 白岩が言った。


 その言葉に——黒岩が首を傾げた。評価じゃない?白岩はいつも評価をする。ゲームが終わるたびに——評価をする。それが白岩だ。白岩にとって——評価は呼吸のようなものだ。なのに——評価じゃない?


 白岩が続けた。


 「お前、やるじゃねえか」


 白岩が——珍しく、人を褒めた。論理的な分析じゃない。数字じゃない。ただ——人として、黒岩を認めた。


 「4年間——判断することが怖かった。部下を失った記憶が——お前を縛っていた。でも——お前は乗り越えた」


 白岩が続けた。


 「最後の1回——致死レベルの電流が待っている中で、お前は自分で判断した。『押せ』と言った。それは——並大抵のことじゃない」


 白岩の言葉に、黒岩が——目を潤ませた。


 「トラウマを抱えながらも——前に進んだ。それが、どれだけ難しいことか——俺は知っている」


 白岩が真剣に言った。


 「だから——これは評価じゃない。ただの——敬意だ」


 白岩がそう言った後——眼鏡をかけ直した。ゆっくりと——丁寧に。そして——いつものように眼鏡をクイッと上げた。


 「でもまあ——評価もしておくか」


 白岩がいつもの調子に戻った。


 「ゲーム9——黒岩の最終判断について。評価:10点だ」


 白岩がはっきりと言った。10点——満点だ。白岩が満点をつけることは——ほとんどない。白岩は厳しい評価者だ。いつも欠点を見つける。でも——今回は違う。黒岩に——満点をつけた。


 黒岩が——深く頭を下げた。


 「……ありがとうございます」


 黒岩が感謝の言葉を述べた。その声は——震えていた。嬉しさで——震えていた。白岩に認められた——それが、黒岩には何より嬉しかった。


 灰垣が優しく微笑んだ。


 「黒岩さん、かっこよかったです」


 灰垣が言った。


 「最後の瞬間——黒岩さんの声が聞こえました。『押せ』って。力強い声でした。迷いのない声でした」


 灰垣が続けた。


 「私——感動しました。黒岩さんが、トラウマを乗り越える瞬間を——見れて」


 灰垣の目が——潤んでいる。看護師の女が——黒岩の成長を、心から喜んでいる。


 ミオも嬉しそうに言った。


 「うん、すごかった!」


 ミオが目を輝かせて言った。


 「黒岩さん——かっこよかった!私、あの瞬間——鳥肌立った!」


 ミオが興奮気味に言った。小柄な体が——嬉しそうに揺れている。


 「黒岩さんが『押せ』って言った時——私、絶対成功するって思った!黒岩さんの声——すごく強かったから!」


 ミオの言葉に、黒岩が——照れたように俯いた。無表情だった黒岩が——今は少し赤くなっている。褒められ慣れていないのだろう。


 俺は——黒岩の肩を叩いた。


 「……まあ、悪くなかった」


 俺は素っ気なく言った。でも——その言葉には、確かな敬意が込められている。黒岩は——よくやった。本当に——よくやった。


 黒岩が——全員を見渡した。白岩、灰垣、ミオ、そして俺——4人の仲間が、黒岩を認めている。黒岩を称えている。


 「皆さんのおかげです」


 黒岩が言った。


 「私一人では——ここまで来れませんでした。クズオさんが道を示してくれた。白岩さんが分析してくれた。灰垣さんが支えてくれた。ミオさんが励ましてくれた」


 黒岩の声が——少し震えた。


 「私は——一人じゃなかった。だから——前に進めました」


 黒岩の言葉に、全員が——温かく微笑んだ。


 俺たちは——チームだ。


 11人から始まったデスゲーム。7人が死んだ。田辺、鈴木、園崎、田中、佐藤、山田、杉内——7人が死んだ。でも——残った5人は、強い絆で結ばれている。互いを助け合い、支え合い——共に戦っている。


 それが——俺たちの強さだ。


 『休憩時間を終了します』


 AIの声が響いた。


 俺たちは——顔を上げた。休憩が終わる?もう次のゲームが始まるのか?


 『ゲーム10を開始します』


 AIが宣言した。


 ゲーム10——それは、ミオが承認した3つの改善版ゲームの——最後だ。ゲーム7、ゲーム8、ゲーム9——俺たちはクリアしてきた。そしてゲーム10——これが最後だ。


 でも——AIが続けた。


 『本ゲームは、主催者が改善を拒否したため、原案のまま実行されます』


 その言葉に——俺は驚いた。改善を拒否?原案のまま?——それは、どういうことだ?


 俺は——ミオを見た。ミオは——複雑な表情をしていた。嬉しそうな——でも不安そうな——複雑な表情だ。


 「ミオ」


 俺は聞いた。


 「お前——改善を拒否したのか?」


 俺の問いに、ミオが——小さく頷いた。


 「うん……」


 ミオが答えた。


 「これだけは——絶対に私のゲームでやりたかったの」


 ミオが言った。その声には——決意が込められていた。


 「AIが改善案を出してきた。でも——私は断った。これだけは——私の原案のままでやりたかった」


 ミオの言葉に、俺は——眉をひそめた。ミオの原案——それは、どんなゲームだ?


 俺は——攻略本の内容を思い出した。ミオが作ったゲームのリスト。その中に——ゲーム10があった。でも——詳細なルールは書いてなかった。ただ——こんな評価だけがついていた。


 『残虐性S』——


 俺は——ミオを見た。


 「……お前の原案、『残虐性S』って言われてたよな」


 俺がはっきりと言った。


 その言葉に——全員が緊張した。残虐性S?最高レベルの残虐性?——それは、どんなゲームだ?


 ミオが——俺を見た。


 「大丈夫!」


 ミオが言った。


 「これは——私の最高傑作だから!」


 ミオが自信満々に言った。でも——その言葉は、全く安心できなかった。最高傑作?残虐性Sのゲームが、最高傑作?——それは、むしろ不安を増大させる。


 白岩が眼鏡をクイッと上げた。


 「不安しかない」


 白岩が正直に言った。


 「残虐性S——それは最高ランクだ。今までのゲームで一番残虐なゲームだということだ」


 白岩が分析した。


 「そして——ミオがAIの改善を拒否した。つまり——ミオ自身が、このゲームの残虐さを望んでいるということだ」


 白岩の言葉に、全員が——ミオを見た。ミオは——複雑な表情をしていた。


 「ミオ」


 灰垣が優しく聞いた。


 「なぜ——改善を拒否したんですか?」


 灰垣の問いに、ミオが——俯いた。


 「……それは……」


 ミオが言いかけた。でも——言葉が続かない。何かを——言いたいけど言えない——そんな様子だ。


 俺は——ミオを見た。ミオの表情には——決意と、罪悪感と、何か別の感情が——混ざっている。


 「ミオ」


 俺は言った。


 「お前——何を考えている?」


 俺の問いに、ミオが——顔を上げた。


 「……後で話す」


 ミオが小さく言った。


 「ゲームが始まったら——分かるから」


 ミオの言葉に、俺は——頷いた。今は——ミオを信じるしかない。


 『ゲーム10のルールを説明します』


 AIの声が響いた。


 俺たちは——AIの説明を待った。ゲーム10——ミオの最高傑作。残虐性S——最高ランクの残虐性。それが——どんなゲームなのか。


 AIが——説明を始めた。


 『ゲーム10:守護選択』


 守護選択——その名前を聞いた瞬間、俺は——首を傾げた。


 守護——誰かを守る。選択——誰かを選ぶ。つまり——誰かを選んで、守る。それだけなら——悪いゲームには聞こえない。でも——残虐性Sのゲームだ。何か——裏があるはずだ。


 俺は——全員を見た。みんな——困惑している。ミオが俯いている。灰垣が不安そうな顔をしている。白岩が眼鏡をクイッと上げている。黒岩が——無表情のまま、AIの説明を待っている。


 AIが続けた。


 『ルールを説明します。5人の中から「守りたい人」を1人選んでください。自分以外の誰かを選ばなければなりません』


 守りたい人を選ぶ——自分以外の4人の中から、1人を選ぶ。誰を守りたいか——それを選ぶ。


 『守られた票数が最も少ない人が死亡します。残り4人は生存します』


 俺は——凍りついた。


 守られた票が最も少ない人——つまり、誰からも守られなかった人が死ぬ。「守る」というポジティブな行為が——「見殺し」につながる。誰かを守るということは——他の誰かを守らないということだ。


 俺は——考えた。5人で投票する。全員が自分以外の誰かを守る。最も守られなかった人が死ぬ。つまり——人気投票だ。誰が一番守られないか——それを競う地獄のゲームだ。


 『棄権は不可です。必ず誰かを守ってください』


 棄権不可——誰も守らないという選択肢はない。必ず——誰かを選ばなければならない。でも——誰かを選ぶということは、他の誰かを選ばないということだ。守るという行為が——誰かを死に追いやる。


 『話し合いの時間は30分です。30分後、投票を開始します』


 30分——それだけの時間で、誰を守るか決める。30分——長いようで短い。でも——誰を守っても、誰かが死ぬ。5人全員を守ることはできない。


 AIの説明が終わった。


 俺たちは——言葉を失った。


 これが——ミオの最高傑作。残虐性Sのゲーム。


 5人の中から——誰を守るか選ぶ。


 でも——守られなかった人は死ぬ。


 全員を——守ることはできない。


 黒岩が——震える声で言った。


 「誰かを守れば……他の誰かが死ぬのか……」


 黒岩の声が——苦痛に満ちている。


 白岩が眼鏡を外した。


 「最悪だ……『守る』という優しい言葉で——人を殺すゲームか……」


 白岩が言った。評価なんてできない——そんな声だった。


 灰垣が——涙を流した。


 「そんな……やっとここまで来たのに……」


 灰垣の声が——悲しみに震えている。


 俺は——ミオを見た。


 ミオは——俯いていた。複雑な表情で——俯いていた。嬉しそうでも、悲しそうでも、怒っているようでもない。ただ——何かを決意しているような表情だった。


 これが——ミオの最高傑作。


 これが——ミオが作ったゲーム。


 そして——ミオはこのゲームを、自分の手で実行したかった。AIの改善を拒否してまで——このゲームを、原案のまま実行したかった。


 なぜだ?——俺は疑問に思った。


 ミオは——なぜ、こんな残酷なゲームを作った?ミオは——このデスゲームの主催者だ。11人を拉致して、死のゲームをさせている。7人が死んだ。それは——ミオの責任だ。


 でも——ミオ自身も、このゲームに巻き込まれている。ミオも——死の危険にさらされている。ミオは——なぜ、自分も参加者になった?


 そして——なぜ、AIの改善を拒否した?


 このゲームは——守護選択だ。誰を守るか選ぶ。でも——守られなかった人は死ぬ。「守る」という優しい言葉の裏に——「見殺し」という残酷さが隠されている。ミオが作ったゲームだ。ミオが——こんな皮肉なゲームを考えた。


 ミオは——何を考えている?


 その答えは——まだ分からない。


 でも——確実に分かることがある。


 俺たちは——これから、仲間の一人を殺さなければならない。


 5人の中から——1人を選ぶ。


 話し合いの時間は——30分。


 そして——投票が始まる。


 俺は——全員を見渡した。白岩、黒岩、灰垣、ミオ——4人の仲間だ。この中から——1人が死ぬ。俺が選ぶか、俺が選ばれるか——どちらにしても、地獄だ。


 30分後——俺たちは、最も残酷な選択をしなければならない。


             ◇


 白岩「評価:10点。……俺がつけた評価の話だ。当然満点だろう」クイッ

 クズオ「自画自賛かよ」

 ミオ「ずるい!」

 白岩「何がずるい」クイッ

 ミオ「自分の回だけ満点!」

 白岩「客観的事実だ」クイッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ