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第31話 押せ

 『警告。次の失敗で致死レベルの電流が流れます』


 AIの声が——冷たく響いた。機械的な声だ。感情のない声だ。でも——その言葉の意味は、恐ろしいほど明確だった。


 その言葉に——全員が凍りついた。致死レベル?電流で——死ぬ?次の失敗で——俺たちは死ぬのか?


 俺の心臓が——激しく鳴り始めた。恐怖だ。今まで感じたことのない恐怖だ。電流ショックは——今まで何度も受けた。痛かった。苦しかった。でも——死ぬほどじゃなかった。でも——今度は違う。致死レベル——それは、本当に死を意味する。


 俺の手が——震え始めた。恐怖で——体が震える。冷静にならなければ——そう思うのに、体が言うことを聞かない。


 「え……」


 ミオが小さく呟いた。恐怖で——声が震えている。小柄な体が——ガタガタと震えている。ミオの赤い瞳が——涙で潤んでいる。


 「致死レベルって……死ぬってこと……?」


 ミオが信じられないという顔で——天井のスピーカーを見上げた。まさか——本当に死ぬの?——そんな思いが、ミオの表情に表れている。


 ミオが——自分を責めている。私がAIを作ったから——私のせいで、みんなが死ぬかもしれない——そんな思いが、ミオを押し潰している。


 白岩が眼鏡をクイッと上げた。


 「おい、聞いてないぞ」


 白岩が抗議した。


 「10回連続成功がクリア条件だろ?失敗したら電流ペナルティ——それは聞いた。でも——致死レベルとは聞いてない」


 白岩が怒りを込めて言った。でも——AIは答えた。


 『倫理プロトコル一部解除により、致死ペナルティが適用可能になりました』


 AIの声が——淡々としている。まるで——当然のことのように説明している。倫理プロトコルを解除したから、致死ペナルティを設定できる——そう言っている。


 「くそっ……」


 俺は舌打ちした。AIが勝手に解除した倫理プロトコル——その影響が、今——俺たちを襲っている。AIは——本当に俺たちを殺そうとしている。


 俺は——考えた。次の失敗で——俺たちは死ぬ。10回目——最後の1回で失敗すれば、全員が致死レベルの電流を受ける。そして——死ぬ。


 くそ……ここで失敗したら全員死ぬ……


 俺の心臓が激しく鳴っている。恐怖だ。今まで以上の恐怖だ。今までは——失敗しても電流で痛いだけだった。でも——今は違う。失敗したら——死ぬ。


 俺は——全員を見た。みんな恐怖で震えている。ミオは泣きそうだ。灰垣は優しい顔を不安で歪めている。白岩は眉をひそめている——


 そして——黒岩だ。


 黒岩は——目を閉じていた。じっと——目を閉じていた。黒岩は——何を考えている?恐怖か?それとも——


 「黒岩」


 俺は呼びかけた。


 「……聞こえてるか」


 黒岩が——わずかに頷いた。聞こえている。でも——何も言わない。ただ——目を閉じたまま、黙っている。


 俺は——続けた。


 「お前を信じる」


 俺がはっきりと言った。


 「最後の1回——お前は俺の声を聞け。俺が判断する。お前は——何も考えなくていい」


 俺の言葉に、黒岩が——わずかに体を震わせた。でも——何も答えない。ただ——目を閉じたまま、黙っている。


 黒岩は——今、何を考えている?恐怖か?それとも——決意か?俺には——分からない。でも——黒岩を信じる。黒岩は——必ず俺の指示に従う。今まで通り——黒岩は俺を信じている。


 「全員、準備しろ」


 俺は言った。


 「最後の1回だ。これを成功させれば——ゲームクリアだ」


 俺の言葉に、全員が頷いた。みんな緊張している。でも——諦めていない。最後の1回——絶対に成功させる。


 「目を閉じろ」


 俺は指示した。


 全員が目を閉じた。俺も目を閉じた。視覚を遮断する。聴覚に集中する。俺の声に——集中する。


 「呼吸を合わせる」


 俺が言った。


 「吸って……」


 俺が息を吸った。全員も——俺に合わせて息を吸った——はずだ。俺は——全員の気配を感じた。呼吸の音を聞いた。5人の呼吸が——揃い始めた。


 「吐いて……」


 俺が息を吐いた。全員も——息を吐いた。呼吸が揃う。5人の呼吸が——一つになる——


 でも——何かが違う。


 黒岩の気配が——変わった。


 黒岩が——何かを決意している。その気配が——伝わってくる。黒岩が——今まで以上に集中している。でも——それは俺の指示を待つ集中じゃない。何か——別の集中だ。自分の内側に——意識を向けている。自分と——対話している。


 俺は——不安を感じた。黒岩——お前、何を考えている?まさか——自分で判断しようとしているのか?でも——それは危険だ。黒岩のトラウマが——また発動するかもしれない。黒岩が——また苦しむかもしれない。


 でも——黒岩の気配は、確かに変わっていた。迷いがない。恐怖がない——いや、恐怖はある。でも——それを乗り越えようとしている。黒岩が——何かを決断した。


 俺は——黒岩を信じることにした。今は——黒岩を信じるしかない。最後の1回——成功させなければならない。黒岩が——何を決断したのか、それはすぐに分かる。


 「吸って……吐いて……」


 俺が繰り返した。呼吸が完璧に揃った。5人の呼吸が——完全に同期した。


 今だ。


 俺は——「押せ」と言おうとした——


 その瞬間だった。


 黒岩が——目を開けた。


 俺は——それを感じた。目を閉じていたが——感じた。黒岩の気配が——変わった。黒岩が——何かを決断した。4年間——恐れ続けてきたものと、今——向き合おうとしている。


 そして——黒岩が言った。


 「押せ」


 黒岩の声が——響いた。


 その声は——力強かった。迷いがなかった。4年間——判断することを恐れていた男の声とは思えないほど——力強かった。黒岩が——自分の声で、自分の意志で——判断した。


 俺は——驚いた。黒岩が?黒岩が判断した?俺じゃなく——黒岩が「押せ」と言った?——でも、驚いている暇はなかった。黒岩の声を聞いた瞬間、俺の体は——反射的に動いた。


 俺の体は動いた。黒岩の指示に——従った。訓練されたように——自然に。俺は——黒岩の声を信じた。黒岩が判断した——なら、それに従う。それが——チームだ。


 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ——


 5つのボタンが押された。同時に——完璧なタイミングで。5人の動きが——完璧に同期した。黒岩の声が——俺たちを一つにした。


 一瞬の沈黙。


 長い沈黙——いや、実際には1秒にも満たない時間だったかもしれない。でも——その沈黙は、永遠のように感じられた。


 俺は——心臓が止まりそうだった。成功したのか?失敗したのか?致死レベルの電流が——来るのか?俺たちは——死ぬのか?生きるのか?


 俺の全身が——緊張で硬直していた。呼吸が——止まっていた。時間が——止まっていた。全てが——この瞬間に集約されていた。


 そして——


 『成功。ゲーム9クリア』


 AIの声が響いた。


 成功した——


 その言葉を聞いた瞬間、俺の体から——全ての緊張が抜けた。膝が崩れた。体が——重力に引っ張られた。床に——座り込んだ。


 俺は——目を開けた。信じられない。黒岩が——判断した。黒岩が「押せ」と言った。そして——成功した。


 全員も目を開けた。顔を見合わせた。成功した——その実感が、ゆっくりと湧いてきた。


 そして——全員が崩れ落ちた。緊張が解けた。体から力が抜けた。床に座り込んだ——生きている。死ななかった。致死レベルの電流を——受けなかった。


 「やった……」


 ミオが小さく言った。


 「死ななかった……」


 ミオが涙を流した。恐怖と安堵で——泣いた。


 灰垣が優しく微笑んだ。


 「よかった……みんな、無事で……」


 白岩が眼鏡を外して拭いた。


 「……怖かった……正直、怖かった……」


 白岩が珍しく本音を言った。


 俺は——黒岩を見た。


 黒岩が——俺を見ていた。無表情だった顔が——今は穏やかだった。安堵と——何か別の感情が——そこにあった。


 達成感——そう、達成感だ。


 黒岩が——自分で判断した。4年間——判断することを恐れていた黒岩が、今——自分で判断した。「押せ」と言った。そして——成功した。誰も死ななかった。


 俺は——黒岩に近づいた。


 「黒岩」


 俺が呼びかけた。


 「お前……今……」


 俺が言いかけた。でも——黒岩が先に言った。


 「すみません」


 黒岩が頭を下げた。


 「勝手に……クズオさんの指示を待たずに……勝手に判断してしまいました……」


 黒岩が謝った。でも——俺は首を横に振った。


 「いや」


 俺は言った。


 「お前——自分で判断したな」


 俺がはっきりと言った。


 「4年間——判断することが怖かった。でも——今、お前は判断した。『押せ』と言った。そして——成功した」


 俺の言葉に、黒岩が——顔を上げた。


 「……はい」


 黒岩が答えた。


 「私は——判断しました。『今、押す』と判断しました」


 黒岩が続けた。


 「クズオさんが——私に判断させないようにしてくれました。それで——私は楽になりました。トラウマから——一時的に解放されました」


 黒岩が真剣な表情で言った。


 「でも——私は気づきました。このままでは——ダメだと。いつまでも——人に頼っていてはダメだと」


 黒岩の声が——力強くなった。


 「だから——最後の1回は、自分で判断しようと決めました。もし失敗しても——それは私の責任です。私が——背負います」


 黒岩の言葉に、俺は——胸が熱くなった。


 黒岩が——トラウマを乗り越えた。完全にじゃない——まだ時間はかかるだろう。でも——一歩を踏み出した。自分で判断する——その一歩を踏み出した。


 「やればできんじゃねえか」


 俺は黒岩の肩を叩いた。強く——でも優しく。黒岩の成長を——心から称賛した。


 「お前——立派だよ」


 俺の言葉に、黒岩が——小さく笑った。無表情だった黒岩が——本当に心から笑った。その笑顔には——達成感があった。自分を誇る気持ちがあった。4年間——自分を責め続けてきた黒岩が、今——自分を認めている。


 「……ありがとうございます」


 黒岩が言った。その声は——安定していた。震えていない。恐怖がない。黒岩が——変わった。完全にじゃない——まだトラウマは残っている。でも——確実に一歩を踏み出した。


 「クズオさんが——道を示してくれました。判断しなくていい——そう言ってくれた時、私は楽になりました。でも同時に——気づきました」


 黒岩が続けた。その目は——前を向いていた。過去ではなく——未来を見ていた。


 「いつかは——自分で判断しなければならない。人に頼り続けることはできない。だから——今が、その時だと思いました」


 黒岩の言葉に、俺は——深く頷いた。そうだ。黒岩は——自分で気づいた。俺が教えたんじゃない。黒岩が——自分で答えを見つけた。それが——一番大事だ。


 白岩が近づいてきた。眼鏡をクイッと上げた。


 「黒岩」


 白岩が言った。


 「お前——すごいな」


 白岩が珍しく褒めた。


 「トラウマを抱えながらも——自分で判断した。それは——並大抵のことじゃない」


 白岩が続けた。


 「PTSD患者が——トラウマのトリガーとなる行動を自分で行う——それは、治療において重要なステップだ」


 白岩が真剣に言った。


 「お前は——今日、大きな一歩を踏み出した」


 灰垣も優しく言った。


 「黒岩さん……本当に、よく頑張りました……」


 灰垣が涙ぐんでいる。看護師の女が——黒岩の成長を、心から喜んでいる。


 ミオも涙を拭いて言った。


 「黒岩さん……かっこよかった……」


 ミオが小さく言った。


 黒岩が——全員を見渡した。そして——深く頭を下げた。


 「みなさん……ありがとうございます……」


 黒岩が感謝の言葉を述べた。


 「私一人では——ここまで来れませんでした。クズオさんが道を示してくれた。白岩さんが励ましてくれた。灰垣さんが支えてくれた。ミオさんが心配してくれた——」


 黒岩の声が震えた。


 「みなさんのおかげで——私は、一歩を踏み出せました」


 黒岩の言葉に、全員が——温かく微笑んだ。


 俺たちは——チームだ。


 11人から始まったデスゲーム。田辺が最初に死んだ。鈴木、園崎、田中、佐藤、山田、杉内——7人が死んだ。11人のうち、7人が死んだ。それは——恐ろしい数字だ。


 でも——残った5人は、強い絆で結ばれている。互いを助け合い、支え合い——共に戦っている。白岩が分析し、黒岩が警戒し、灰垣が癒し、ミオが知識を提供し、俺が指揮する——それぞれが役割を持っている。それぞれが——必要とされている。


 それが——俺たちの強さだ。一人では——生き残れなかった。でも——5人なら生き残れる。5人で——必ず脱出する。


 俺は——みんなを見渡した。白岩、黒岩、灰垣、ミオ——みんな疲れている。でも——みんな生きている。まだ——戦える。


 『ゲーム9クリア。休憩時間を開始します』


 AIの声が響いた。


 俺たちは——その場に座り込んだ。疲れている。でも——生きている。ゲーム9をクリアした。黒岩が——トラウマを乗り越えた。


 俺は——天井を見上げた。


 あと何回——こんなゲームが続くんだ?


 でも——俺たちは諦めない。


 5人で——必ず生き延びる。

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