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女神の護符  作者: のはな
北の小国編
98/98

イーゴリの荷物整理

仕事場には仕事の物しか置かないでおきましょう

という、話です…笑

イーゴリが消息不明となって、10日が経った。


「サトウ。団長の私物を整理しろ」


レオニードの一言により、ケンジはイーゴリの執務室へ向かった。ヴェーラがすでに段ボールを広げて待っていた。


「手伝います」

「助かります」


二人で作業を始める。

書類、騎士団の記録、几帳面な字で書かれた戦術メモ。そして難しい学術書が数冊。


(こんなに緻密に……本当はこういう人なんだよな)


しみじみしていたその時。


「………なんか、難しい本の中に時々混ざってるこのタイトルの本は一体…」


本棚の隙間から、ケンジは恐る恐る一冊を引き抜いた。



『女体の神秘』



「…………」


隣の一冊。



『あなたの知らない愛の秘技』


「…………………」


さらに隣。


『古今東西、夜の実技』


「………なにを学術書に混ぜてるんですかぁぁぁ!!!」


「…気づかなかった。これ、私と住んでた時も真剣な顔で居間で読んでて…」


「居間で!?堂々と!?古今東西を!?」


「…よく見ると…卑猥です」


「犯罪じゃありませんか!?バレるスリル楽しんでたとか!?」


さらに本棚を掘り進めると、明らかにジャンル分けされているコーナーが現れた。


「………映画シリーズ?」


嫌な予感がする。


『ロード・オブ・ザ・●●●』

『ロード・オブ・ザ・●●● ふたつの●』

『ロード・オブ・ザ・●●● 王の帰還』




「三部作!?なんで三部作になってるんですか!?」


「…続きがあるんだけど…」


ヴェーラが無表情で隣の列を指さした。


『●●●・ポッターと賢者の医師と看護師』

『●●●・ポッターと秘密の部屋(物理)』

『●●●・ポッターと●●●バンの囚人(自業自得)』


「魔法使いシリーズまで!?」


さらにその隣。


『となりのとろとろ奥様』

『●の谷の●●した』

『もののけ●●姫』

『●の下のポニョ』


「な……なんですかこのコーナー!!アニメ映画パロディコーナー!?ジャンル分けしてるんですか!?几帳面か!!」


几帳面に背表紙を揃えて並べられた本たちを前に、ケンジは膝から崩れ落ちた。


「…律儀です」

「褒めないでください!!」


そこからはさらに地獄だった。

避妊具の山。


「うわぁぁぁーーーっ!!」


正体不明の小瓶。


「何に使うんですかこれ!!聞きたくない!!」


そして——蓋付きの箱。


ケンジが恐る恐るパカリと開けると。

真っ赤な紐状の女性物の下着上下がヒラリと出てきた。


「ぎゃぁぁぁぁぁーーーっっ!!なんですかこれ!?誰のですか!?なんで団長が!?」


ヴェーラが静かに下着を段ボールに入れた。


「…見てません」

「見ちゃいましたよこっちは!!」


さらに箱の奥から何かがぶーんと動いた。


「ぎゃああああああーーーーっっっ!!!!」


箱を放り投げ、部屋の隅まで全力で逃げた。壁を背にして膝を抱えるケンジ。涙目だった。


「ひ……卑猥すぎる!!やだぁぁぁーーーっっ!!職場に置くもんじゃないですよこんなの!!なんで!!なんで几帳面に整理してるんですか!!」


ヴェーラは無表情のまま静かに言った。

呆れを通り越してもはや、虚無に近い感情のようだ。


「……燃やしましょう」

「賛成です!!!」



その時、廊下から足音が聞こえた。


「…片付いたか?」


レオニードが顔を覗かせた。

二人は無言で段ボールを背中に隠した。

ケンジはまだ涙目だった。


「…もうすぐ終わります」

「そうか」


レオニードは床に散乱した書類と涙目のケンジを一秒見て、何も言わずに去った。


(…見なかったことにしてくれてる)


ケンジは震える手で作業を再開した。


「……燃やすのは、団長が帰ってきてからにしましょう」

「…帰ってきたら本人に燃やさせます」

「それがいいですね」


二人は顔を見合わせ、無言で作業を再開した。


段ボールの底には、几帳面な字で書かれた戦術メモと、一冊の学術書が残っていた。

表紙には小さく「ヴェーラへ」と書かれた付箋が貼ってあった。


ケンジはそっとそれをヴェーラに渡した。

ヴェーラは何も言わなかった。

ただ、その本だけは燃やすとは言わなかった。



(これをまた、外の倉庫に一時保管っていうのがまた…)


うんざりしながら段ボール2個をヴェーラと2人で運び、荘厳な騎士の館の廊下を行く。

とりあえず、卑猥なものと卑猥じゃないものに分けた。

禍々しい遺産にうんざりしつつ、ケンジは卑猥な方を運んでいる。


重いし、早く手放したい嫌な空気をまとっている気がする。

廊下の角を曲がったその時。


「ーーー 失礼。第二騎士団の執務室はどちらか?」


後ろから声をかけられた。


(!?)


聞き覚えのある声だった。

あの豪快な、よく通る声。



(団長!?帰ってきた!?)


ケンジは振り返った。


そして固まった。



そこにいたのは、イーゴリ…によく似た壮年の男だった。

二人の上級書記官を従え、上背のある筋肉質な大きな体。

騎士団とは別の深い青の制服に身を包み、多くの装飾が誂えてある。


(…老けてる?なんか、めちゃくちゃ老けてる?でも声が…顔の造りが…浦島太郎!?)


声も顔の造りも、驚くほどイーゴリに似ていた。だが目の前に立つ男は、明らかに年上だった。

背筋の伸びた、威圧感のある壮年の男。


「…あの、どちら様でしょうか」

「お前、失礼だぞ」


書記官のうち若い男のほうが背後から威圧する目で言ってくる。


壮年の男はケンジを横目で確認し、値踏みするようにねっとりと見てくる。

名乗る気などはないのか、書記官に会話を任せていた。



「中央騎士局の次官、ラドミル・メドベージェフ様だ。」


「メドヴェージェフ…」


うわ言のように苗字を復唱して、すぐに気づいた。


イーゴリの父親。


(父親!!!)


威圧するような眉間にシワを寄せた男とようやく目があった。


納得した。似ているわけだ。



「…失礼しました!!サトウ・ケンジと申します。第二騎士団の書記官です」


深く一礼した。


ラドミルはケンジをもう一度値踏みするように見てから、視線をヴェーラへ移した。


その瞬間、空気が変わった。


ラドミルの眉間のシワが、さらに深くなった。


「…お前は」


低い、静かな声だった。

ヴェーラが無表情のまま顔を上げた。

ラドミルの目が細くなる。


(え…なんだ?)


ケンジは卑猥な段ボールを抱えたまま、二人の間で完全に固まった。

さて、次回は修羅場です

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