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女神の護符  作者: のはな
北の小国編
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イーゴリのいない日常と父の歪み

イーゴリが戦闘で消息不明となり、約1週間ほど経った頃だった。


第二騎士団は「極北の獅子」レオニードを新たな団長として迎えいれ、日々の訓練を以前と変わらず積み重ねいた。


イーゴリを探しに出ていったオレグも居ない今、騎士団の勢力は大きく変わっていた。


先鋒を固めるのは、かつてオレグの補佐を勤めていたイワンへと変わり…



イーゴリのような合理的な戦法を得意とした騎士団の訓練が、レオニードの指揮のもと実戦重視の荒々しいものへとなる。




「来い…!!遠慮はいらん!!」



全身を漆黒の甲冑で固め、レオニードはイワン率いる3人の騎士を1人で相手に叫ぶ。


3人の騎士がレオニードを囲むようにして、連携を取り駈けていく。


訓練場の土煙が波打つ。


獣のような掛け声が交差し、イワンが槍に力と速さを乗せてレオニードを刺しにいった。


重いレオニードの槍とかち合い、その一撃は無効となる。


「後ろへ回れぇ!!」


イワンの号令に合わせ、レオニードの背後へ2人の騎士は急旋回する。


レオニードは怒号で吠え、イワンを力で押し退けた。


そして、囲まれることなく即最速で馬を駆けて包囲網を抜け出してしまった。



見ていたほかの騎士達から思わず歓声が上がる中、深く兜をかぶっていたイワンから焦りが生じる。


手を上げ、三人で追跡する、



(…上手い。馬の操り方も…段違いだ)



書記官の仕事として、動きをすべて記録するケンジも思わず手が震えた。



「1セット5分ね。あと、残り何分かな?」

「……あと、2分です」



レオニードの代わりに、天幕内でナターリヤが ヴェーラに聞いていた。


「珍しい。手加減してるわ」


初回。ということもあるのだろうか。

レオニードが出向して初の訓練は、力でねじ伏せるようなやり方を避けていた。


代わりに彼は、馬を上手く操り複数から囲まれる事を避けて得意の一対一の戦いへ誘導している。レオニードが最も得意とする戦法だ。



ケンジはいつもイーゴリの隣に座り、騎士団全体に檄を飛ばし巧みに戦術を使うやり方に慣れていた。


だからか、第二騎士団の騎士達は個人戦の当たりがあまり芳しくない。だからこそ、数を使い

協力し合うイーゴリのやり方に合っていた。


レオニードに何とか喰らいつくイワンも、元は第一騎士団から来た騎士だ。



( ああ…オレグくんが、ここに居たらならなぁ)


個の力量なら、最年少の騎士であってもオレグならまず間違いなくイワンと共にレオニードについていけただろう。

血気盛んで伸び盛りの少年だが、その強さは騎士の中でも上位5人には入る。


もどかしさを感じ、ケンジは苛立ちを隠せず足裏を何度か地面に叩きつけた。


オレグの連絡は途絶えている。

ケンジは週末の休暇返上で、北部へ行くヴェーラと行動を共にする約束をしていた。


(団長…早く帰ってこないと、第二騎士団が…どんどん変わっていってしまいますよ)



息子のイーゴリが王太子に目をかけられ、出世街道を登り始めた…。


それは、男にとって天にものぼるようなことだった。


14歳の息子を、学者への道ではなく騎士への道へと押したのは無駄ではなかったのだ。



(そうだ…あの時に、失敗したと思ったが…イーゴリは俺が突き放したことでたくましくなったではないか)


嫌がる息子を、無理やり王立の騎士の養成校へ入れた。

騎士のエリートが進む道。

そこで1年間、王侯貴族の子息がしのぎを削って騎士としてのすべてを学ぶ。


頭脳の高さは幼い頃から抜きんでいた。

息子の成績は顕著だった。


座学では比べる者がいないほどの明晰ぶりを見せ、教授からはべた褒めされた。


問題は、実技だった。慣れない馬術や剣術、そして騎兵としての気概…

それは、背ばかり高く筋肉不足の息子には不向きだった。


座学だけ目立ち、ほかは平凡以下。

同期の少年騎士からイジメを受けているというような、情けのない報告まで上がる。


卒業したが、息子に声をかける騎士団はいなかった。

唯一かかった声は、南部の補給騎士団とも揶揄される第七騎士団の雑用だという。


イーゴリの父親は、そんな息子の現実を受け入れがたかった。


かつては、第一騎士団というエリート部隊で、団長候補として活躍した己の経歴すら、息子に汚されたとすら感じた。


『…何を努力した?言ってみろ』


卒業の日、固まるイーゴリに押しつぶすような声で言った。


『…申し訳…ございま…せ』

『最低でも第四騎士団までだ。後は許さんと言っておいたはずだ。貴様は何をしていた?ここで』


忌々しいほどの細い体。折れそうなほどの華奢な腕。


息子の貧弱な体に、やる気も覚悟も見当たらなかった。



『第七だと?あそこに行けば一生、王都には戻れん。貴様とはこれきりだな』






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