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女神の護符  作者: のはな
第一章
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7.少年騎士オレグ2 〜レオニードとの因縁〜


イーゴリは、にやけ顔から一転して真剣な表情に戻した。


「まぁ、冗談はここまでだ。第一騎士団との模擬戦が近い……毎日どう戦うか模索してるが、第二騎士団の騎士たちから一番出てくる声は一つだ」


ケンジが息をのむ。

オレグも背筋を伸ばす。


「――どうやって、レオニードを止めるか……だな」


重い沈黙が落ちた。

模擬戦といえど、あの“極北の獅子”を正面から受け止められる者がどれほどいるだろう。

騎士たちの不安も無理はなかった。


イーゴリはゆっくりと笑みを取り戻し、しかしその瞳は鋭い。


「……一応、考えたんだけどな。泥臭えけど、効きそうなやつは」


そう断言する声は、いつもの軽薄さを欠いていた。

ケンジの胸に、奇妙な安心と同時に背筋を冷たくする緊張感が走った。




夕暮れの訓練場。砂埃の舞う中、オレグは銀の甲冑に身を包み、鉾を構えて馬上に立つ。


対するは三人の騎士。

正面から突っ込めば圧倒的に数的不利――しかし彼の馬は素早く回り込み、時に速度を緩め、時に一気に突進する。


その「緩急」に振り回され、騎士たちの動きが乱れる。

足並みが揃わなくなった瞬間、オレグの鉾が鋭く突き上げ、一人、また一人と馬から弾き飛ばされた。


残る一人が必死に食らいつこうとしたが、オレグは馬体を斜めに操り、囮のように誘い込むと、一気に逆側から打ち倒す。


観戦していたケンジは思わず息を呑んだ。


(…!まだ十六歳だぞ!?)


それは、卓越した技術をもつ老騎士のような戦い方だった。

まだ入団して1年しか経っていないとは、到底思えない技術と勘の良さである。


イーゴリは誇らしそうに見つめつつ、その声は感情を押し殺していた。



「これをレオニードは何回やってた?」

「あ、はい。だいたい交代で5回を3セットです」


事前に聞いてはずだが、聞き直されたのでそのまま伝えると「鬼畜め」と溢した。


(多分、アレクサンドル様の訓練の仕方って狂ってるんだろうなぁ)


イーゴリは「記録つけろよ」と隣にいたヴェーラに伝え、同じように3セットをオレグにやらせた。

時折つぶやくように「浅い」「…よし」とオレグを観察しながら言う。弱点を見つけるとつらつらとそれを述べ、ヴェーラがメモする。


若き狼を観察するようだと思った。

イーゴリの目は高揚していく。


怪物へと成長していくオレグを、止める事なくみとどける。

その目に移るのは、おそらく成長して成熟を迎えた数年後のオレグだった。



最後の騎士を落とし、馬を止めたオレグは鉾を立て直し、涼しい顔で下馬した。

周囲の騎士たちが息を荒げている中、彼だけは呼吸すら乱れていない。


ケンジは思わず拍手をしていた。

「オレグくん、すごいね。相手三人を翻弄して、あっという間に……!」


だがオレグは眉一つ動かさず、ただ冷たく答える。

「……これでは、まだ足りません」


「え?」

ケンジは思わず聞き返す。


オレグは鉾を軽く地面に突き立て、悔しげに拳を握りしめた。



「昔、一度だけ……レオニード殿と手合わせをしました」


その名を出した途端、空気がぴりりと張り詰める。


「結果は?」とイーゴリが笑みを消して尋ねる。


「……歯が立たなかった」


オレグの声は苦く、悔しさが滲んでいた。


「眉一つ動かさず、俺を馬から叩き落としました。目すら合わせずに、です」


ケンジは息を呑む。


(……このオレグが、まるで相手にならなかったなんて……!)


オレグは拳を握りしめ、地面を睨みつけた。


「俺がここまで磨いてきたのは、その時の悔しさがあるからです。あの人を越えなければ、俺はただの子供のまま……」


イーゴリはしばらく無言で彼を見つめ、それから口角を上げて笑った。


「……面白ぇじゃねぇか。模擬戦で、望み通り存分に暴れさせてやるよ」


その言葉に、オレグの瞳が再び獣のように光った

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