7.少年騎士オレグ2 〜レオニードとの因縁〜
イーゴリは、にやけ顔から一転して真剣な表情に戻した。
「まぁ、冗談はここまでだ。第一騎士団との模擬戦が近い……毎日どう戦うか模索してるが、第二騎士団の騎士たちから一番出てくる声は一つだ」
ケンジが息をのむ。
オレグも背筋を伸ばす。
「――どうやって、レオニードを止めるか……だな」
重い沈黙が落ちた。
模擬戦といえど、あの“極北の獅子”を正面から受け止められる者がどれほどいるだろう。
騎士たちの不安も無理はなかった。
イーゴリはゆっくりと笑みを取り戻し、しかしその瞳は鋭い。
「……一応、考えたんだけどな。泥臭えけど、効きそうなやつは」
そう断言する声は、いつもの軽薄さを欠いていた。
ケンジの胸に、奇妙な安心と同時に背筋を冷たくする緊張感が走った。
※
夕暮れの訓練場。砂埃の舞う中、オレグは銀の甲冑に身を包み、鉾を構えて馬上に立つ。
対するは三人の騎士。
正面から突っ込めば圧倒的に数的不利――しかし彼の馬は素早く回り込み、時に速度を緩め、時に一気に突進する。
その「緩急」に振り回され、騎士たちの動きが乱れる。
足並みが揃わなくなった瞬間、オレグの鉾が鋭く突き上げ、一人、また一人と馬から弾き飛ばされた。
残る一人が必死に食らいつこうとしたが、オレグは馬体を斜めに操り、囮のように誘い込むと、一気に逆側から打ち倒す。
観戦していたケンジは思わず息を呑んだ。
(…!まだ十六歳だぞ!?)
それは、卓越した技術をもつ老騎士のような戦い方だった。
まだ入団して1年しか経っていないとは、到底思えない技術と勘の良さである。
イーゴリは誇らしそうに見つめつつ、その声は感情を押し殺していた。
「これをレオニードは何回やってた?」
「あ、はい。だいたい交代で5回を3セットです」
事前に聞いてはずだが、聞き直されたのでそのまま伝えると「鬼畜め」と溢した。
(多分、アレクサンドル様の訓練の仕方って狂ってるんだろうなぁ)
イーゴリは「記録つけろよ」と隣にいたヴェーラに伝え、同じように3セットをオレグにやらせた。
時折つぶやくように「浅い」「…よし」とオレグを観察しながら言う。弱点を見つけるとつらつらとそれを述べ、ヴェーラがメモする。
若き狼を観察するようだと思った。
イーゴリの目は高揚していく。
怪物へと成長していくオレグを、止める事なくみとどける。
その目に移るのは、おそらく成長して成熟を迎えた数年後のオレグだった。
最後の騎士を落とし、馬を止めたオレグは鉾を立て直し、涼しい顔で下馬した。
周囲の騎士たちが息を荒げている中、彼だけは呼吸すら乱れていない。
ケンジは思わず拍手をしていた。
「オレグくん、すごいね。相手三人を翻弄して、あっという間に……!」
だがオレグは眉一つ動かさず、ただ冷たく答える。
「……これでは、まだ足りません」
「え?」
ケンジは思わず聞き返す。
オレグは鉾を軽く地面に突き立て、悔しげに拳を握りしめた。
「昔、一度だけ……レオニード殿と手合わせをしました」
その名を出した途端、空気がぴりりと張り詰める。
「結果は?」とイーゴリが笑みを消して尋ねる。
「……歯が立たなかった」
オレグの声は苦く、悔しさが滲んでいた。
「眉一つ動かさず、俺を馬から叩き落としました。目すら合わせずに、です」
ケンジは息を呑む。
(……このオレグが、まるで相手にならなかったなんて……!)
オレグは拳を握りしめ、地面を睨みつけた。
「俺がここまで磨いてきたのは、その時の悔しさがあるからです。あの人を越えなければ、俺はただの子供のまま……」
イーゴリはしばらく無言で彼を見つめ、それから口角を上げて笑った。
「……面白ぇじゃねぇか。模擬戦で、望み通り存分に暴れさせてやるよ」
その言葉に、オレグの瞳が再び獣のように光った




