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女神の護符  作者: のはな
女神の泉編
73/83

3.女神の泉の神殿。そして、届く残酷な知らせ

タイトルの通りです

ケンジは泉を後にし、ヴェーラの後ろをゆっくりとした足取りで追いかけた。


(団長が…もしかして、ヴェーラさんのお父さんを手に掛けたのか…?

ただ、確証は、ない)


と、ほぼ確信にせまり、神殿に続く道を観察する。

昼間ならまだしも、こんな入り組んだ洞窟は死角も多く、夜ならほとんど人がいないだろう。


おそらく何らかの事故か、やむを得ず手にかけたのではないか?と推測した。


そして…


(本当に憎くて殺すなら、イーゴリが女神の泉で不自然に殺したりするだろうか)


綿密な計画を立て、事故か戦死に見せかけてやるくらい用意周到な男だ。


そして、恐ろしく頭のいい人だ。

なんの疑念も周りに抱かせず、始末していただろう。


(…でも、泉で…。

もしかして、亡命か…?

団長は拒否して、止めようとしたんじゃないか?)


一つ一つのピースをはめていき、ケンジはイーゴリが認めた頭脳で、真相を浮き彫りにさせていく。


なんとなく、真実の輪郭を浮かび上がらせた時だった。




「ケンジ…?」



不意にまたヴェーラに呼ばれ、思考の森からケンジは呼び戻された。


「え…?あ、すみません」


考えすぎて別の方向へあるいていたらしくヴェーラに「こっちよ?」と神殿を指さされた。



洞窟は神殿がある場所に着くと、そこは劇場ホールのような高く広い空間が広がっていた。


鍾乳洞特有のヒヤリとした空気と、天井からはつらら石と地中からの石筍がいくつもある。


どれも太く、立派だった。

一本形を作るのに何千年と時を要する。


ケンジは思わずため息をつき、その光景に見惚れた。


(…すごいところに神殿があるんだな。これは、貴重な文化遺産だ)


石切りで作られた神殿の柱や、外壁の一部は洞窟の岩を直接掘って作られていた。


ケンジの祖国の建造物はほとんどが木造だが、この国は基本的に石膏…石の加工で作られる。


元々洞窟をくり抜いたとあれば、多湿な鍾乳洞だと腐食しない。よく考えられている。



神殿の前で、護符が売られていた。


種類は様々あるが、見慣れたイーゴリの大きめな護符とヴェーラのペンダントタイプもある。


他にも身につけられるブレスレット、指輪、カフス…


「め…めちゃくちゃあるんですね」


商売っ気につい言ってしまった。


「うん。でも、子どもが買うのは高いでしょ?なかなかお父さん買ってくれなくて」


(俺の国の神社とかでもいろんな種類あるもんなぁ…なるほど)


商売っ気を感じて苦笑したが、指輪タイプを見て「ん?」と何処かで見た気がした。


誰だっただろうか…?


旅の途中でも南部の人はみんなつけている人が多かったので、そこでだろうか?


(いや…?なんか、意外な人だった気がするけど…?)


王太子ミハイルの小指にはめられていたことを思い出せず、うーんとしばらく見つめているとヴェーラは首を傾げている。


「指輪気になるの?」


「え!?あ、いや。俺は指輪とかは似合わないので…なんかさりげないのがいいですかね」


「確かに似合わないと思う」


「…凄いバッサリ切り捨てますね…」


ヴェーラの淡々としたところは嘘がなくて好きだ。

だが、似合わないと言われちょっと傷つく。


イーゴリのように大人の色気や筋肉があれば、何をつけても似合うだろう。


それに、傷だらけの護符を肌身はなさず付けている感じが妙にこなれてて、悔しいのだ。


俗に言う、育てて味を出した感じだ。


「俺、ペンタイプにします!!

あ、オレグくんとかレオニードさんにも柔術でお世話になっているので…何か買っていこうかな…?」


二人ともとてつもなく強いため、頑丈な護符を…と思う。


だとすると、イーゴリの極太平打ちネックレスと護符は実に理にかなって品だ。


戦闘で身につけても甲冑の中なら、引きちぎれなさそうだ。


(俺の周りの男…みんなゴリゴリの筋肉の塊というか、怖いやつばかりなのでは…?)



「騎士様にお土産?」


並べた護符の会計係の神官は、一緒に考えてくれた。


「ネックレスのほうが壊れないと思いますが…」

「いや…知り合いにネックレスもらうとかキモくないですか?」

「ブレスレットはどう?」


ヴェーラの提案に対し、一日で破壊され 「ちぎれました」と報告してきたオレグが想像できた。



「ス…ストラップにします。剣の鞘に着けられるやつなら…身につけやすいですかね?」


「うん。いいと思う」



ヴェーラが微笑んだので、ケンジはホッとしてストラップ2つを手に取りお土産として購入した。

皮肉にも王国で最強の騎士レオニードと、その後を追うような強さのオレグに護符を買い与える事となるとは。


(…今でも充分強いのに、ただの書記官の俺が護符を渡してきたら、二人とも苦笑しそうだけど)




購入しているケンジの横で、ヴェーラはふとイーゴリ同じ形の銀の護符のネックレスに目を留めた。


新品のそれは、10年以上イーゴリの胸元で光る護符とは異なり、傷もなく形も整っていて光っている。



(…イーゴリ。極秘の任務と言ってほとんど何も教えてくれずに、北部へ行ってしまったけど…大丈夫かな…)



この護符をもらった時は、イーゴリは背丈だけ大きい細くて痩せた少年だった。


だが、今は…


ヴェーラは、堂々とした体躯となったイーゴリの逞しくも美しい顔や身体を思い出し、胸を締め付けられるような苦しさを覚えた。



ーーー イーゴリが好きか?



最期に父に聞かれた問いが聞こえ、さらに心臓が跳ね上がった。



彼が好きだ。


他の人なんて考えられないくらい、その存在が心の中から出ていってくれない。


ケンジは、ヴェーラの視線がイーゴリと同じ形の護符に注がれているのを確認した。


イーゴリのことを思い出しているのがわかる、少し熱を帯びた瞳。


ほんのりと赤くなる頬。


旅も、宿に帰り荷物を引き取ればもう終わる。


イーゴリがいる王都へ帰ると思うと、少し気が引けた。


「あの…」


お土産も買い終わり、ケンジは意を決して帰り道の途中で声をかけた。


偶然にも、女神の泉の前だった。



振り返ったヴェーラは、枯渇することのない女神の泉を背にケンジをみあげる。


青い吸い込まれそうな水面の前には、数人が既に祈りをささげている。


美しい泉の前に立つヴェーラを見ると、まるで彼女が泉の女神のようだった。


ケンジは、泉の女神の悲劇的な伝説を思い出していた。


二人の男が、同時に女神を愛し…


そして、彼女に愛されたいと思った。


男達は女神をめぐって争い、共に命を落とした。



ヴェーラの淡い青色の瞳が見つめてくる。

泉の色と似ていた。



「…俺、貴方が好きです」


何度かの告白か分からなかったが、ケンジにとってそれは勢いに任せた昨夜とは異なる思いがあった。



初めて女の子を心から愛しいと思い、ヴェーラの全てが欲しかった。


その気持に偽りは無く、昨夜の事を無かったことにすることはできない。


イーゴリがヴェーラの父の死に対して、ヴェーラに隠していること。


まだ確信はなかったが、不意に浮かび上がった真相の輪郭を話してしまおうかと思った。


彼は……


ここで、何か重大なことを起こした。


いや、行動したのか。


それとも――黙殺したのか。



「…団長の事を好きだというのは知っています。でも、ちょっと気になることがあるんです」


と、そこで唇を噛み締めて黙ったケンジの仕草にヴェーラは少し待った。


(……気になる、こと……?)


ケンジは視線を落とし、

思考を巡らせたまま、何度か乱暴に頭をかいた。


確証のない話をどこまで言うべきか、考えながら迷っていた。


「……団長は。

お父様の死に関して、

何かを――隠している……と思います」



そこまでしか言えなかった。





ケンジとヴェーラは荷物を預けたままの宿屋へと戻るなり、フロントの男から一言



「御客様宛に一つ、電報が届いております」



と、告げられた。







届いた電報の内容は

言わずもがな…

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