女神の泉編 プロローグ
ケンジ視点に戻ります
ついに女神の泉へいきます
目の前で好きな女の子が、他の男に心を囚われて泣いている。
そんな姿を見ても、理性を失ったまま愛撫を続けられる奴がいたら、俺はそいつを尊敬する。
少なくとも俺はその夜、何もする気になれなかった。
…失恋?
いや、初めからわかっていたじゃないか。
彼女と、団長の間には俺なんかが入り込めないほどの特別な絆があることなんて。
彼女が寂しそうな目で、時折団長のイーゴリを追っていることなんて。
全部わかっていた。
分かったうえで…
イーゴリの事を好きな所もふくめてーーー
俺は、彼女の事が好きになったんだ。
※
翌朝、ケンジは一人寂しく寝たベットの上で体を起き上がらせた。
顔を洗いに洗面所へ行くと、目が赤い。
そして、髪の毛が寝癖でボサボサだった。
実にブサイクだった。
顔を洗い、歯を磨き、髪を濡らして整えてから顔を二回手で叩いた。
振られたからといって、このまますごすごと帰る薄情者ではない。
本日の予定は、ヴェーラの亡き父の墓参りと決まっている。
ケンジは顔を叩き終わり、気合を入れ直すと、洗面所を勢いよく出た。
そして、そのまま
「おはようございます!」
と、衝立ての向こうにいるヴェーラに声をかけた。
昨夜の嵐が嘘のように、明るい晴れた空。
それが、朝日と共に窓から差し込み、部屋は輝いていた。
服を着替え終わったヴェーラが少し戸惑いをまといながらも、微笑む。
ヴェーラにいつもと変わら接することに徹したケンジは、思った。
(振られても、俺がヴェーラさんを好きなことは変わらない。それでいいじゃないか!)
宿を出て、彼女のかつて住んでいた街へ向かったのは朝食を済ませてすぐのことだった。
ケンジは知らない。
昨晩の嵐の日に、イーゴリが行方不明になった事など。
そして、ヴェーラもまたそのことをその日の夕方宿に帰るまで知ることは無かった。
遅すぎた知らせに、酷く後悔することになることなど…。




