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女神の護符  作者: のはな
第六章 南部編
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16.嵐の夜に後半(ケンジとヴェーラ編)

ヴェーラとケンジ編です



ちょっとだけ、大人向けの描写があります


よろしくお願いします


「…これだったら、直せるかもしれません」


ケンジは鎖の状態を確認し、ボストンバッグの底から道具箱を出して拡大鏡で確認する。


留め具の部分の鎖が大きく歪み、隙間ができてちぎれていた。


道具箱の中には裁縫の針や糸、ハサミ、接着剤、そして簡単な工具などが小さな缶に収まっている。


ケンジは貧乏性というか、壊れたものは買い換えるより、手先の器用さを頼って修繕する派だった。


心配そうに覗き込むヴェーラを意識しつつ、ケンジは自分のベットに腰掛けてニッパーをうごかした。


寝間着に薄いガウンを羽織ったヴェーラからは、シャンプーのいい匂いが香ってくる。


(近い…いやいや、そうじゃなくて。集中しないと)


好きな女の子と、シャワー後にベットに腰掛けるという理性ギリギリのシュチュエーションに、鎖が弾けそうなくらい緊張して手が震えた。



今夜は、どこまでもケンジの理性を試すような夜だ。



「…直る?」


「一応、応急的なものですけど、歪みを直せばいけると思います。…良い鎖ですね、これ」


宝飾品として価値があるように感じた。


護符はおそらく銀製だが、鎖はもっと高価な白銀かもしれない。

細い鎖2連が編み込むように絡み、光を浴びると煌めいている。職人技を感じた。


ヴェーラはポツリと言った。



「…鎖だけは、イーゴリに買ってもらったの。元々付いてた鎖はずっとつけてたら頻繁に切れるようになっちゃって…」


「…なるほど」


「ペンダントの護符は、亡くなった父からもらったものだから…ずっと付けてて」



明日行く、墓参りの父のことを思っているせいかヴェーラの目はどこか寂しそうだった。


ケンジはほとんどヴェーラの家族のことや、その生い立ちを知らない。

ただ、彼女のすでに両親は居ないこと。


そして、イーゴリがずっと側にいて、家族として共に暮らしてきたことだけは分かっていた。


王都に来てから二年間。

イーゴリは彼女を好きなのに、家族として護ってきた。


それが、愛の証明のように。

決してそれ以上の境界線を越えずに…。


ケンジは、普段は滅多に感情を表に出さないイーゴリの頬が赤く染まり、時折ヴェーラにだけ動揺した子供のような顔になっていたことを思い出す。


思い出すと、自分のヴェーラとの思いと重なり、勝手に胸が痛む。



彼のヴェーラへの思いに、勝てない気がした。


そしてまた、指先が震えた。



「…直りました」


小さな音を立てて、鎖がはまった。


ケンジが短くそう言って顔を上げると、ヴェーラの顔がかつてないほどすぐ近くにあった。


長いまつ毛の1本1本が確認できるほどの距離に、思わず顔を逸らす。

ほぼ同時に、ヴェーラも意識した様に顔を逸らしていたのが確認できた。



心臓が痛い。


恋を初めて知ったのは、おそらくヴェーラと出会ってからだ。

それが、こんなにも苦しいものだとは知らなかった。


そして、こんなにも…



「ご…ごめんね。近かったよね…」



最初は、気の所為なのかと思ったがヴェーラは頬を赤くしてくれていた。


ケンジは、自分だけが意識してるわけではない事が分かり、ヴェーラから目を逸らせなくなった。


初めて、だれかに意識されたいと思ったせいで、まともに返事もできない。



震えながら「いえ…」と、なんとか声をだす。



早く離れて、適切な距離を保たなければ。


ケンジが直った護符を差し出した、そのときだった。



雷鳴と共に青い光が部屋を包み、轟音が空から落ちてきた。


それが合図のように、ヴェーラの悲鳴と身体がケンジに飛び込んできた。


まるで見えない力で引き合わせられるように、距離のなくなった身体が、ぶつかり合う。


近距離で稲妻が落とされ、ケンジはしがみついてきたヴェーラの柔らかさに息を呑んだ。


その時、声が聞こえた。


イーゴリの声だった。



『そのへんの安っぽい女みてぇに扱ったら許さねぇ。

分かった上で、手を出せ』



ヴェーラはケンジの声が耳元に落ち、強く抱きしめられたせいで息が一瞬止まった。


くすぐったさと同時に、熱い熱が体を帯びていく。


その時、初めて首筋にキスされていると理解した。


イーゴリよりも厚みの無い身体だが、想像以上に身体は強く大きい。簡単に抱きすくめられたせいで、ヴェーラの身体は覆われた。


(…っこ、これって…)


キスがゆっくり首を撫でる形から、舌が絡む生暖かいものへ変わってくる。


「く…くすぐった…」


腰に手を回したケンジの腕が身体に沿う。

そのまま撫でてきた事で、感触に身体が反応した時だった。



「好きです…ヴェーラさん」



雷鳴は聞こえるが、外は激しい雨音と共に土砂降りへと変わっていた。


優しくベットへ体を押し倒され、仄暗い部屋の中でケンジの顔は額が付き合うほど近くにある。


強引ではないが、少し強い力で彼の両腕がヴェーラの肩を押さえていた。


そのままケンジの手は、ヴェーラの手の上で重なり握りしめた。


真剣な目と期待するように赤く染まった頬を持ち、まっすぐに見つめられている。



見たことも無いケンジの顔は、少し戸惑いを孕みながらも何かを決意したようだった。



「…っふ…う…ん…っ!」



ヴェーラは押し付けられた柔らかな感触に、声を漏らした。


突然ケンジの口で唇をふさがれ、口の中は甘く愛撫されている。


今まで誰にもされたことない感触に、一瞬頭の中は真っ白になった。


ヴェーラは逃れようと顔を動かすが、ケンジは追ってさらに深く絡めてくる。息することもままならなかった。



「…っあ…」



ようやく息を吸い込む事ができたのは、ケンジがゆっくりと口を離し、舌を引き抜いたからだった。


ヴェーラの激しく脈打つ心臓は、今起こった事が現実なのかと混乱する戸惑いからきているのか。

それとも、ケンジにされたキスが嫌悪感がなかった事で驚いているのか。

どちらなのかも、分からなかった。



「ま…待って…」


まともに抵抗もできず、声だけなんとか絞り出した。


ケンジが、ヴェーラの着ているガウンを脱がしにきている。身体を硬直させると、再び口を塞がれるためケンジの顔が近づいた。



「…俺のものになってくれませんか?」



嫌ではなかった。


だからこそ戸惑い、ヴェーラは震えながら目を逸らして答えられない。

心臓が高鳴り続け、このままケンジを受け入れたらきっともう戻れない。


一瞬、イーゴリの顔が脳裡をよぎった。


ヴェーラを見ようとしない顔は厳しく、南部へケンジと行くことに対して酷く不機嫌となった。



イーゴリは…


(私のことなんて…きっと求めたりしない。

ケンジとこの先、生きていけば…)


答えを待てずに、ケンジの手がガウンから下の薄い寝間着の中へ入ってきた。



「あ…待っー…」


優しく肌をつたうケンジ指に、ヴェーラの身体はビクリと脈打ち声が出る前にまたキスで声を塞がれた。



「いいですか…?もう待てないので…抱きます」


熱い息を吐きながらキスを続け、ケンジが低い声のまま自分のシャツのボタンを外していた。



逃げれない。

そして、拒めない。


ヴェーラは熱の渦に落とされ、ベットに留められたまま受け入れるように抵抗しなかった。


小さくうなづいたように震えた顔。

そして、少しだけ腕で胸元を抑える。


ケンジは身体を愛撫しながら、手で隠すようなその仕草にもどかしさを憶えた。



「見せて…くれませんか?」


「だ…だめ…灯り消して?その…」


泣きそうな声で、か細く絞り出した。


目の前に、シャツのはだけたケンジの身体が見える。


先ほど脱衣所で見た上半身の裸と同じく、意外なほど引き締まり筋肉質な身体。


ヴェーラは、彼が男だと改めて意識させられた。



顔を赤くし目を背けたヴェーラの仕草に、ケンジは配慮してすぐに枕元のランプを消した。



暗くなった部屋の中は、激しい雨音だけが響き、外よりも静かだ。



ヴェーラは自分の身体に自信が無かった。

落ちてきたケンジの唇が、音を立てて首筋や胸元へキスを贈る。


そんな中、震えながら胸元を押さえた腕の力を緩めることができなかった。


優しいケンジのキスの感触に、身体は少しだけホッとする。


しかし、緊張の強いヴェーラにケンジは確認した。


「大丈夫ですか…?なにか、嫌なこととか…」


言いながら、ヴェーラの服を完全に身体からずり下ろした。

硬く胸元を押さえた腕のせいで袖だけが引っかかり、他は外気の冷たさに晒された。


「…っ、だ、大丈…っひ…ゃ!?」


肩に置かれた手がそのまま背中をつたい撫でると、素直に身体が弓なりになって反応した。



焦らずゆっくりと…とは、思ったが、柔らかく滑らかなヴェーラの素肌に、堪らなくなる。



「かわいい…すきです」


硬くなな腕をほどかせ、もう一度気持ちを込めてキスを口にした。

深いキスに気持ちを込めると、ゆっくりヴェーラの身体が柔らかくなっていく。


このまま何も考えず、愛し抜いて抱いてしまおうと思った。




ケンジの体の重みを感じた時、冷たい金属音が床で鳴ったのを耳が拾った。


青光りした稲妻が、部屋を照らす。


暗くなった部屋が白く変わり、ヴェーラは受け取った護符のネックレスが床に転がっているのを見た。


何も考えず手ですくい上げた時、目の前のケンジの顔が少し歪んだ。


イーゴリの顔が、そこに重なった。




こちらを見ない。

笑顔もない。

ただ、訓練に厳しい顔を向ける。

実戦で、激しい激を飛ばし、指示を放ち馬で駆けて行く。

血をたぎらせ、敵の粉塵を切り裂き戦乱へ身を窶していく男の背中には一切の情もない。


その後…幼い頃の彼の顔が、浮かぶ。



『誓うよ』


泣く幼い頃の若く細い声。






『君と、この国を守る』






「ヴェーラ…さん?」


涙が止められず、ヴェーラは戸惑うケンジの前でイーゴリを思った。


ケンジの事は嫌いではない。

いや、好きという気持ちも確かにあった。


ただ、心の中にいるイーゴリの存在が大きすぎて、出ていってくれなかった。


あの人が好きだ。


誰よりも好きだと、嘘がつけなかった。



「ごめんなさい…私、まだ…」


「…………」


「ケンジの事は好き。嘘じゃない…好きなの」


しゃっくりを上げ、胸がつぶれそうになるほど締め付けられる。


息が出来ないほど、苦しく痛かった。




「でも…っイーゴリが…出ていってくれないの…ここから」


と、胸を押さえて言った。


「あの人が私のことを、何とも思ってないのはわかってる…でも…好きなの」



嵐の音の中で、ヴェーラは初めて、自分の心がどこに帰るのかを知ってしまった。



ただ――

その時、イーゴリがどうなっているのかを、彼女はまだ知らなかった。










嵐の夜に


はこれでおしまいです


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