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女神の護符  作者: のはな
第六章 南部編
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13.嵐の夜に 前編

前編、中編、後編

の、予定です

部屋の外で雷がひびき、

窓ガラスが一瞬だけ白く光った。


その一拍の静寂の中で、

ケンジの耳に、あの声がよみがえる。


『ーー手を出すなら、分かったうえで手を出せ』


イーゴリの声。

挑発でも警告でもない、

“覚悟を問う声”だった。


胸の奥で何かが決壊した。


もう、考えられなかった。

理性は雷に打たれたみたいに飛び散り、

残ったのは、たった一つの感情。


――好きだ。

欲しい。

守りたい。

抱きしめたい。


ケンジはそっと腕を伸ばした。


「……ヴェーラさん」


細い腰を包み込んだ瞬間、

彼女の体温が掌に吸い付くように伝わってきた。


そのままベッドへ覆いかぶさり、

逃げ道を塞ぐように抱きすくめる。


嘘はつけなかった。

もう誤魔化せなかった。


全部、自分のものにしたい。

大切に、大切にして、

触れるところすべて愛し尽くしたい。


「…ケンジ…?」


振り返ったヴェーラの声は、

雷鳴にかき消されるほど頼りなかった。


冷たい唇をそっと首筋へ落とす。

濡れた髪が触れ、ヴェーラが震えた。


「……っ」


ケンジの指が、彼女のうなじから髪をすくう。

ゆっくり耳元へ流すと、

そのまま唇が柔らかく触れた。


「…っ? な、なに…?」


初めての感覚に、ヴェーラは戸惑いながら肩をすくめる。

腰に回したケンジの手が、

ためらうように、でも確かに下へ降りてきた。


「や…くすぐった……」


その声すら甘くて、

雷よりも深くケンジの心臓を打った。


「好きです……ヴェーラさん」


耳元に落ちた声は、

嵐よりも低く、静かにして強かった。


その声に、ヴェーラの呼吸が止まった。



なぜこんなふうに求められているのか、ヴェーラはわからず一瞬硬直した。


同じ部屋で一晩過ごすことになったが、何もしないとケンジは誓っていたはずだ。


それを信じていたヴェーラは、震えながら再び「どうして…?」と受け入れるべきか自問自答した。



時は遡り、北部…深い森でのこと。


吹き付ける風は、雨をまるで針のように鋭くさせてイーゴリ達を叩きつけていた。


水を含み、ぬかるんだ大地が馬たちを苦しませ、喘ぐ。

イーゴリは先頭を行くレオニードに追いつくため、悲鳴を上げた愛馬に鞭打った。


遅れれば4人の統率が取れない。

暴走させることとなる。


嵐の森を王国の騎士5人が木の間を縫い、全速力で駆けていく。



イーゴリの身体は頭のさきから爪先まで、濡れていない所などなかった。


たぎる血のざわめきに脳は興奮していたが、冷えた体から吐く息は冷たく凍りかけている。


勝手に震え始めた身体から、指先の感覚が失いつつあった。



自分はいい。しかし、馬は冷えれば取り返しがつかない。


そのため、限られた時間は残り僅かだと分かった。



青光りした稲妻により視界が一時的に白くなり、レオニードとルカの背中が見えた。


そして、その先…ーー!!


逃げる三騎の男の姿をついにとらえた。




稲妻が再び森を裂き、

白光の中で逃げる三騎のうち、

中央の男の甲冑だけが“異様に重厚”なのが見えた。


イーゴリの脳が瞬時に叫んだ。


(……アルマン!!)


護衛二騎が左右を固め、本陣から寝間着の上に急いで鎧を羽織って逃げ出した痕跡。


それが今、泥水を跳ね上げながら必死に走っている。


「いたぞ!!オレグ!イワン!!上がってこい!!」


振り返るとイーゴリの後ろを守っていた2人の騎士の目が、瞬時に獣のように光った。


一定の距離を保ちわざと抑えて走っていた馬を、オレグはすぐさま勢いよく前へ前へと速く走らせて行く。


イワンは笑うような口元でそれについていき、何ら問題なくイーゴリに二人は並んだ。


四人の騎士の真ん中でイーゴリは吠える。


「護衛を二人一組で囲って殺す!!ルカは俺に付け!!」


引き抜いた剣が雨で抜けないように腕に巻いていた革紐で縛る。

振り返ったレオニードが、殺気に満ちた目で睨んできた。


四人で護衛を殺すとなれば、残り一人がやることは決まっている。


雨で視界が濁る中でも、極北の獅子の殺気は刺すように痛い。

その目は、イーゴリの命令を待っていた。


どちらが指揮官か分からないほどのエゴイストぶりに、イーゴリは心から楽しくなり笑みを吐き捨てた。


ならば、お臨み通り命を下してやるとしよう。


もう時間もない。



「レオニード!!アルマンを捕らえろ!!」



嘘みたいなタイミングで、雷鳴が空を轟かせた。

歯を見せて笑ったレオニードは、すでに並んだルカとイーゴリにアルマンの護衛を殺すことを任せた。


手綱を強く握り、そのまま爆発するように愛馬をアルマンに向けて加速し護衛をすり抜けて走る。




「おのれ…っ」



護衛の一人の初老の屈強な蛮族の男が、叫んだ。

イーゴリはその男を知っていた。


アルマンの腹心の部下。

そして、あの男を育て上げた父親代わりの男。


護衛の予期せぬ大物の正体に、イーゴリは槍を何度となく突き立てながら笑う。


「…お前だったかっ!!ヴィルレルム!!こいつぁいい!!」


ルカにすぐさま命令した。


「殺すな!!こいつも捕らえろ!」








同時進行で行く予定です

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