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女神の護符  作者: のはな
第六章 南部編
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12.同日同時刻。死地へ向かうイーゴリと、同室を恐れて逃げ出す書記官。

五人の精鋭騎士は

エピソード62で整列した人達です。

ご確認いただければ幸いです

国を持たない北方民族の複数の民族の集まりを、王国の人間は纏めて「蛮族」と蔑んで呼ぶ。


しかし、それはあくまでも王国側から見た姿だ。


彼らの歴史は、深い。そして、誇り高い。


かつて、王国の最大にて最強を誇った傭兵騎士団の団長を務めた蛮族出身の男がいた。


その傭兵騎士団の数は、騎兵だけで400騎を超え、北方民族と諸国の荒くれた傭兵達をまとめ上げていた。


名を、アルマンといった。


男は、王国に忠誠を誓った傭兵騎士団のはずだった。

しかし、今から約10年ほど前に完全に寝返った。


己のルーツである蛮族の独立と自由のために、男は、蛮族の小民族をまとめてあげて首領となり、戦争を始めたのである。


それが、現在も王国と蛮族との戦争を指揮することになった男の名である。



イーゴリは、かつて一度だけこの男を戦場で相見えたことがある。



北方民族らしからぬ、日に焼けた浅黒い肌を重厚な甲冑で包み、瞳に冷たい炎を宿らず。


指揮するアルマンの声に従い、傭兵達はまるで寄せ集めの兵士とは思えぬ躍動を見せた。


陣の奥まで進撃したレオニードの前を、アルマンを守る騎士達が何十にも囲み守る。


単騎で押し切るには強固な力に押され、イーゴリもレオニードもやがて後進するしかなかった。


騎兵を下がらせたアルマンは、左方から滑り込ませた長槍の歩兵で王国の騎士達をさらに距離を取らせた。


串刺しにされる恐怖で馬はいななき、凍った大地を踏み抜いて後ろへ跳ねて下がっていく。


レオニードは声を張り上げ、恐れる軍馬をけしかけて歩兵を薙ぎ払いながら兵士を轢き殺していく。


アルマンを殺すことだけ考えた極北の獅子の荒々しい奮闘に、場はざめいた。


しかし、その数の多さに単騎では不利であった。


『レオニード!!退け!!』


イーゴリは包囲されていくレオニードの隣へ飛び込むと、必死にその肩を手で引いた。


レオニードの肩を引いた瞬間、イーゴリの腕に重みが走った。

獅子のように荒ぶる男を退かせるのは容易ではない。


だが、アルマンの陣形は鉄壁だった。ここで死ねば、ただの無謀だ。


『退け!今は勝てない!』


イーゴリの叫びに、レオニードは一瞬だけ瞳を燃やし、そして歯を食いしばって馬を後ろへ跳ねさせた。

その背を守るように、イーゴリも剣を振るい、迫る槍兵を斬り払う。


遠く、アルマンの姿が見えた。

冷たい炎を宿す瞳が、こちらを見ている気がした。


――あの男を倒さねば、この戦は終わらない。

`


それが、今から5年ほど前の記憶だ。

かつて18歳の騎兵でしかなったイーゴリは、今や王太子から王国の騎士を指揮する騎士団長となった。



宿敵、アルマンを捕らえ、王都で見世物として処刑せよ。



それが、王太子の望む命令だった。


イーゴリはこの命令に、たった5騎の少数精鋭の奇襲の策を打ち立てた。


敗北すれば、死である。



しかし、どうせ死ぬのであればあの男の手にかかりたいと思った。



アルマンを捕らえれるか、それとも己が殺されるか。



これほど胸躍る戦いはなかった。




所変わり、同日同時刻。


ヴェーラとケンジは連れ添い、南部の地方都市に六時間の汽車移動を終え、たどり着いた宿にチェックインしていた。



事前に連絡を取り、別々に部屋を予約したのだが…



「メドヴェージェワ様。おまたせいたしました。こちらがお部屋のキーでございます」


微笑んだフロントマンに渡された真鍮の鍵は一つのみ。

キョトンとした目で受け取ったヴェーラは、隣のケンジと顔を見合わせた。


嫌な予感がしたケンジは既に青ざめていた。



「あの…?別々で予約したはずなんですけど…?」


「…少々お待ちください」


笑顔を崩さず、予約票を開いたフロントマンは表を指でなぞり何度か確認をしている。



冷や汗をかきながら、ケンジは祈るような気持ちでこちらも笑顔を崩せない。



「先月… お手紙で、メドヴェージェワ様から、ツインということでご連絡いただいております。お手紙の控えもあるのですが…」


「あ…ツインだと、キャンペーン中で30%OFFと案内があったので、そうでした」


「ヴェーラさん?」


「ツインは、同部屋なのですが…?」



二人の男に見つめられ、キョトンとしたままのヴェーラはしばらく理解が追いついていないのか沈黙した。


「……私は物置でもかまいません…!!ケンジをお部屋で泊めてあげてください…!!」


「できかねます」



己のやらかした重大ミスにそう訴えたが、フロントマンは冷静に切り捨てた。


(あああああああ…!!可愛いミスだけど、色々地雷踏んでててやばい…!)



「あのぉ…同部屋は困るので、俺があたらしく部屋をとります。なんなら、俺こそ物置とかでもいいんで…」


フロントマンはケンジの言葉に頷くが


「あいにく、物置はお客様の宿泊はできかねます。そして、本日は満室でございます」


切れ味鋭い日本刀のように、バッサリやられた。


フロントマンはケンジとヴェーラの関係を、夫婦か恋仲かと見ていたが、会話の節々から距離感のある友人か知人と判断した。


あまりにケンジの顔が赤面し、同部屋を恐れすぎている。


「何か衝立て等をご用意いたしましょうか?簡易的ではございますが、プライベート空間は保てます…」


「あ…いや…」


(衝立て…?でも、同部屋なんだよな?)


ヴェーラの前に立てられた遮る壁を想像したが、結局はおなじ狭い部屋で一晩を過ごすのだ。


思案したが、嫌な予感しかしない。

というか、男の自分がそんな地獄みたいな空間で耐えられるだろうか。


おそらく、一晩中理性と戦って寝れない。


「…ちょっと、ほかの宿を探してきます。あ、お金はこちらも払いますので」



顔を赤くして、ケンジは素早く荷物と共に外へ出た。




ケンジが外へ飛び出していくのを、ヴェーラは慌てて追った。


「ケンジ…!待って!」


宿の外は冷たい潮風が吹きつけ、夜の街灯がぼんやり光っている。


ケンジは門の前で立ち止まり、片手にボストンバッグを持ったまま困ったように振り返った。


「ヴェーラさん、ほんとに大丈夫です。俺、軒先で野宿でも――」


「だめ!」


ヴェーラは思わず強い声を出し、自分でも驚いたように手を口にあてた。


ケンジは目を丸くする。


「…あの、俺、迷惑ですか?」


「違うの…!ケンジを困らせたくないだけ。わたしのミスだから…」


ヴェーラはぎゅっとブランケットを胸に抱きしめた。


「ケンジが外に出ちゃうほうが、もっと心配。

こんな知らない土地で…野宿なんてさせられない」


弱々しい声だが、必死さは確かにそこにあった。


ケンジは、胸を締めつけられるように息を飲んだ。


(……ああ、俺、ほんと負ける。こんな優しさ、どうやって耐えればいいんだよ)


「……じゃあ」


ケンジは、覚悟を決めたように姿勢を正す。


「俺、絶対にあなたに手を出しません。

……出すような男じゃないですから。

だから、同じ部屋で大丈夫です」


「ケンジ…」


「ちゃんと衝立て区切って、背中向けて寝ます。

布団も片方の端で寝ます。

明かりも消して、息も潜めます。

物音も立てません。

……だから、安心してください」


よくここまで言えるな…というほど、真っ赤な顔。


「そんな……ケンジに気を使わせて、ごめんなさい…」


「いや、俺の方が気使わせてますから…!

ヴェーラさんは悪くないです、本当に!」


ヴェーラはほんの少し笑った。


その笑顔は、ケンジの心臓に致命傷に近いダメージを与えた。


(やばい…やばい…やばい……!

今日、俺…死ぬな)


「じゃあ、戻ろう? フロントの人に衝立てお願いしよ」


「は、はい…」


二人は宿へ戻る。


だが――。


ケンジの背中には、薄ら寒い予感がまとわりついていた。


(団長に…これ絶対、あとで知ったら殺される)




宿へ戻ると、客の一人がホールで新聞を広げ、渋い顔で独りごちていた。


「北部は今夜、季節外れの嵐らしいぞ。ひどいもんだ……

 明日には南まで流れて来るかもしれんってさ」


その言葉に、ロビーの空気がほんの僅かにざわついた。


潮の匂いの風が、外の扉の隙間から冷たく吹き込んできていた…。











さて、どちらも修羅場の夜へ。



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