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女神の護符  作者: のはな
第六章 南部編
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9.ケンジの折り紙スキルと、クソガキ時代のイーゴリ

向かいの席に座っていた少女は、ケンジが渡した紙でできた鳥を見て目を丸くしていた。一枚の紙から巧みに作り上げた折り鶴。



「わぁ!!すごい!」


「すごい!ケンジ!」


「え・・・?ヴェーラさんまで・・・」



故郷の人間なら誰でも折れる折り鶴に、ヴェーラも瞳をキラキラさせて食いついている。


長旅で暇となり、なんとなく向かいの女の子と話していたらおもちゃを作ってあげたくなった。そこで、適当に折ったのだが・・・。



周りの客も立ち上がり、野次馬がたかる中でケンジは苦笑して頭をかいた。


まさかの食いつきである。




「こんなのもできますよ。はい、蛙」



折った蛙を押すとぴょこぴょこ手のひらで跳ねるので、少女は黄色い悲鳴を上げた。



「お父さんみてーーー!!」


「すげええええ!!あんた、大道芸人か何かか!?」


「いえ・・・ただの書記官です」



苦笑し、手渡されそうになった硬貨を手で遮った。


阿鼻叫喚が響く中、無料で作ってくれることが分かった他の乗客が「俺も!」「私も!」と我先にと何か作ってくれと紙を渡してくる。



必死にリクエストに応えて折り続けると、6時間の乗車のうち半分を終えていた。


ケンジは知らなかった。


この国で折り紙が特別なスキルとして驚かれるとうことを。



ヴェーラと話をする時間を楽しみにしていた乗車時間は、あっという間に残り2時間ほどしか無くなり・・・



「お兄ちゃん、お姉ちゃんバイバーイ!」



終点で降りるケンジ達より先に、向かいの親子は先に降りていく。


人なつっこく手を振る女の子の手には、一番多く折ってあげた折り紙が宝物のように大切に抱えられている。



ケンジは苦笑し「元気で!」と見送った。



列車の外へ出た親子は、仲良く手をつないでそのままホームの奥へと消えていった。



気がつけば、その駅では多くの乗客が下車していた。


車両には、ケンジとヴェーラ。そしてまばらに座る乗客数名だけとなった。



急にガランとした車両は空気もよく通り、少しだけ体感温度が下がった気すらする。




「はぁ・・・疲れました」



ぐったりし、再び走り出した列車の中で思わず顔を覆って前のめりになった。



「すごかったね」


「ええ・・・そんな。他人事みたいに・・・」



淡々としているヴェーラらしい反応に思わず苦笑する。



「新聞の切れ端や、果ては巨大な包装紙まで渡されて折ってくれと頼まれるとはおもいませんでした・・・。単なる折り紙なんですけど」


「・・・?ケンジにとっては、普通のことなの?」


「ええ。何の変哲も無いスキルです」



真顔で答え、とんでもない疲労と引き換えにやらされた恨みが漂う。


ヴェーラはそれでも、頼まれると断れない人のいいケンジを可愛く思う。



「そういえば、前に団長に折り紙で紙飛行機作ってあげたら「すげえええ!!!


」ってさっきのお父さんみたいに叫ばれました。あの時に、もっとこの技術がこの国では珍しいと教えてくれたら良かったんですけど」



「・・・なんだかんだ言って、イーゴリと仲いいよね」



いつも二人で叫び合って喧嘩したり小競り合いをしているが、おそらく単なるじゃれ合いである。


イーゴリとケンジは、上司と部下という関係だが、どこか親友然のような雰囲気が最近では漂っている。



特に、イーゴリはケンジの頭の良さを最初からいたく気に入っていた。



ケンジは、4年制の国立大学を飛び級で卒業したほどの頭脳をもつ。


書記官としても優秀で、一度聞いた話や仕事のやり方は瞬時覚えてしまうし、1ヶ月働いただけであっという間にヴェーラの仕事をほとんど把握してしまったほどだ。



イーゴリは、3ヶ月の仕様期間を無視し、即ケンジを本採用にした。



自分と同じような頭脳の高さで話ができる人間を、彼が逃すわけがない。


手元に置き、やっと出会えた半身のようにかわいがっているのが分かった。



仲がいい



と、言われてケンジはあからさまに顔を引きつらせている。


どうやら、そう思われたくないらしい。


その正直な反応に、やっぱり仲がいいとヴェーラは思って微笑んだ。



「普通はみんな、イーゴリのこと怖いくてそんな顔できないから。ケンジってすごい」



いつの間にか、ここに居ない男の話になってしまっている。


強烈なカリスマ性とめちゃくちゃ人をかき回す男の言動や行動に、毎日振り回されている二人は顔を見合わせて苦笑した。



「団長は、確かに怖いしめちゃくちゃですけど。あれって、わざとじゃないですか。あの人、本当は結構・・・暗いっていうか」



ケンジは何気なく言ってのけたが、そのあまりにも真意をついた言葉にヴェーラは目をみはった。


そんなヴェーラの反応に、ケンジも苦笑して続ける。


もう半年以上毎日顔を会わせていれば、だいたいのことは分かっている。



「・・・いや、まさか二人きりの旅行で、団長の話を中心にするとはおもいませんでしたけど」



もっと楽しい話や、ヴェーラとロマンチックな雰囲気になりたいのだが、なぜこうなる。



しかし、そんなことは当然言えない。



ヴェーラは、ケンジの鋭さに心臓が高鳴りしばらく落ち着けるまで時間が必要だった。


ケンジの言葉は、孤独で人を信じられなくなっていたイーゴリの幼い頃の本質をピタリと当ててしまっていた。




思わず



「すごいね・・・」



と、ぽつりと言葉を漏らす。



「イーゴリってね。私が子供の頃に突然、お父さんが家に連れてきたの。前に話したっけ…」



「いえ…あ。でも、ヴェーラさんとは昔から住んでるみたいなことは、団長から伺ってます。お世話になった人の娘だって。忘れ形見…みたいなものだって」



それは、ヴェーラのことを好きなのかと問われた温泉街での出来事だ。



目の前の彼女には言えない話だが、イーゴリは気持ちを認めたケンジにこう突きつけた。







『ーーーそのへんの安っぽい女みてぇに扱ったら許さねぇ。


分かった上で、手を出せ。』





ケンジは、目の前の美しいヴェーラを改めてしっかりと見る。



書記官の格好ではない彼女は、年相応の可愛らしい白いワンピースに馴染みのよい水色のカーディガンを羽織っている。



それが、肩まで伸びた銀色の髪と淡い目の色と合っていて、眩しいほどに可憐だった。



きゃしゃな身体は、ケンジの隣に座るとこのまま窓際に追い詰めて覆ってしまえるほど小さい。




(…安っぽく扱うな…だって?そんなこと、絶対にしない。俺は…)




「…っ、団長のことはいいです。ヴェーラさんの事が知りたい」




今すぐ白くて柔らかな頬を触り、抱きしめてしまいたい衝動を必死に抑える。



そっと膝の上に置かれたヴェーラの手に、自分の震えた手を静かに重ねた。




触れてきたケンジの顔が赤いのを確認し、ヴェーラは一瞬それが差し込んできた西日のせいかと思う。




「私のこと…?」




改めて確認され、ケンジはカッとさらに顔を赤くして慌てて立ち上がった。



「い、いえ…!あ!!俺、ちょっとトイレ行ってきます!!ついでに何か、つまめるものを買ってきますから!!」



やけに大声となり、人もまばらな車両の中で目立つことになった。



周りから注目され、唖然としたヴェーラにも静かに見つめられる。



(あ…ああああああああーー!!!??ヤバいヤツ!?俺、ヤバいヤツ!?!?)



慌ててそのまま飛び出して行ったケンジは、いつも以上に挙動不審だった。



頭のいいケンジの、そんな不器用な愛すべき姿に思わずくすりと笑みをこぼす。



一緒にいると飽きない。


そして、優しさにホッとする。



初めて会った時から、それはずっと変わらない。



(…ケンジと一緒に旅ができてよかった。皆、彼がいると笑顔になる)



さっきまで人に求められて必死におりがみを折っていたり、イーゴリのそばにいてその本質をみごとに見抜いていたり。



彼のそばにいると、自然と包みこまれるような温かさが心地いい。




自分を振り回すイーゴリとは、全く違うと改めて思った。





(もしも…ケンジと先に出会っていたら…)




幼い頃のイーゴリの寂しそうな横顔を思い出し、そんなもしもを思った。




絶対に仲良くなんてなれないと思った、出会った頃のイーゴリ。




誰も信じない。



…と、14歳の彼は、金色の目で全てを拒絶していた。








「…っきゃ!?い、痛い。やめてぇ」




在りし日。


まだ12歳と幼かったヴェーラは、長く三つ編みに編んだ髪を上へと引っ張られていた。



「…………」



見上げると、また背が伸びた居候の少年がギロリと冷たい目で見下ろしていた。



15歳になったばかりのイーゴリの身長は、既に175センチ程になっており、30センチ以上背丈の小さいヴェーラからは巨人のようだ。



無言の圧でこちらを上から睨み、ずっと髪を引っ張ったまま見つめてくる。



「こ…怖い。何?どうしたの?」



ヴェーラは小動物みたいにプルプル震え、朝から涙目になってイーゴリの前で縮こまった。




(え…?え?え?なんで、怒ってるの?全然わからない。なんで…?)



それは、いつもの何気ない朝の日課で起こったことだった。



母親不在のこの家庭では、幼いがしっかり者のヴェーラが率先して家事をする。


簡単な朝食を作り、外のポストへ新聞と手紙を取りに行くと、珍しくヴェーラー宛の手紙が入っていた。



幼いヴェーラはニコニコしながら差出人を確認すると、仲の良いクラスメイトの男の子から可愛いクリスマスカードが入っていた。



思わず「わぁ。可愛い!私もお返ししないきゃ」と取っておきの可愛いカードのコレクションを広げていたら…




起きてきたイーゴリに突然、この仕打ちである。



無言の圧で睨まれ続け、ヴェーラは半泣きになり「ひぃぃっ!」とついに悲鳴を上げた。



掴まれた髪の毛の先についたリボンをほどかれ、イーゴリは苛ついた様子でわざと髪をぐちゃぐちゃにした。




「五月蝿えんだよ。朝から、色づきやがって。ガキのくせに」




「い…色づき…?」




なんのことか分からずにいると、イーゴリは「フン」と吐き捨てて、贈られたカードをピッと取り上げた。




「…はっ!なんだこりゃ?このガキ、お前のこと好きなのか?」



歪んだ目でわざと笑い、意地悪に名前を確認された。



「か、返して…!」



「なになに?いつも、一緒にお昼ご飯たのしく食べてくれてありがとう…?


…うっわぁ。やべぇな」




「いやぁぁぁぁぁーーー!!」




淡い初恋を目の前でぶちまけられたような恥ずかしさで、ヴェーラは絶叫した。



仲良しの男の子と楽しくお昼ご飯を食べていただけなのに、イーゴリは「クソみてぇなデートだな」とこきおろす。




(…???デート???)




仲の良い男の子は、少しクラスで浮いている存在だった。


気が弱くいつもからかわれている優等生タイプで、ぽつんと食堂で食べている姿を見て声をかけたのがきっかけだった。



今、目の前でふんぞり返って朝ごはんを食べている偉そうな男の子とは、全く違うタイプ。



イーゴリは、朝食のシチューを山盛りにし、育ち盛りの身体に無言でかきこんでいる。




「おい。おかわり」



一年前の体の線の細さは、すでにない。


筋肉がつき始めた腕で無造作に渡された皿を受け取り、ヴェーラは言われたとおりにシチューをつぐ。




まだ涙が引っ込まず、グスンと鼻をすするとようやくカードが机を滑って返された。





「ダッサ。お前、こいつと付き合うの?」



「お友達…なんだけど…?」



「うわ。性格悪すぎ。最悪じゃねぇか」



「こらこら、食べるかいじめるかどちらかにしなさい」



ヴェーラの父は、イーゴリのわかりやすい嫉妬をなだめた。



ムスリとした顔で、多感な年頃のイーゴリはヴェーラを気に入らないと言わんばかりに睨んでいる。



一年かけてヴェーラに餌付けされ、完全に懐いた猛獣。


現在は、絶賛ひねくれた愛情と独占欲に満ちている。



何故当たり散らされてるかも分からず、ヴェーラは男2人が連れ添って騎士の仕事へ出かける様を見送った。



が、急にぐるりと振り返ったイーゴリが、玄関のドアを閉めてジッと見てきた。



指でちょいちょいっとこっちへ来いと呼ばれている。



「…?なぁに?」


「なぁに?じゃ、ねぇよ。お前、カードのガキともう飯食うな」



謎の命令に混乱していると、そのまま手がヴェーラの少し盛り上がってきた胸元の山をガッと掴んできた。




「……ーーー!?!?!?」



「ちっさ!ガキのくせに色気づいてたお前が悪いんだからな!」




ほぼ、胸なんかねぇじゃねぇか!と吐き捨てられ、歪んだ顔で睨まれた。




「朝から苛つかせやがって!じゃあな!」




この頃のイーゴリは最悪だった。



出会った頃も警戒心は強かったが、ゆっくりと雪が溶けていくみたいに消えていき、優しく微笑んでくれるようになったのは、ほんの一瞬。



あとは、ずっとイライラしているみたいに後をついてきて、どうしたのかと問いかけると噛み付いてくる犬のような存在だった。




(酷い…イーゴリなんて、大嫌い…っ!)



泣くと、さらにイライラさせるみたいで、まるで意味がわからなかった。



嫌われてる。

それか、いじめがいのある玩具にされている。



ヴェーラは毎日そう思いながら、それでもイーゴリと暮らしていくしかなかった。



何処か寂しそうな彼を放っておけない。



ときおり勉強を見てくれたり、優しくしてくれる彼のせいで、心は乱される。



今思えば、幼い者同士の素直になれない淡い恋模様だったのだ。














折り紙は私の経験から…です。

海外でなとてもおどろかれて喜ばれました(笑)


そして、クソガキイーゴリ。


現在16歳のオレグがかなり大人だとしたら

イーゴリはかなり子供臭い15歳でした。


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