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女神の護符  作者: のはな
第一章
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5.第一騎士団


第一騎士団の団長アレクサンドㇽ・モーリャは久々に個人の騎士として戦っていた。

荒々しく軍馬に声を張り上げて発破をかけ、並行する漆黒の騎士と鉾先をかち合わせる。


部下のレオニードは、初めの頃は少し加減をしていた。

しかし、徐々に遠慮なくアレクサンドルへ攻撃の手数を増やした。


いつの間にか時間を忘れて激突しあい、二人の文官がわざわざ第二騎士団から訪ねてきた。




「イーゴリのところの新しい文官か」


第一騎士団の団長、アレクサンドルは甲冑姿のまま、顎に止めていたベルトを外し、ゆっくりと兜を脱いだ。金髪の美しい髪が肩や顔にハラハラと落ち、まるで散る花びらのように軽やかに舞う。完璧な配置で顔に収まるその表情には、どこか神々しさすら感じられた。


ケンジは男でありながら思わず赤面する。

(す…すっっっご…)


天上人――その言葉を口にするのはためらわれたが、この人間離れした美貌を目の前にしては、思わず頭に浮かぶのを止められなかった。


「お初にお目にかかれて光栄です。ケンジ・サトウと申します。本日は、イーゴリ団長からこちらへ手紙を持参いたしました」


緊張で声が少し震えるケンジ。心臓は早鐘のように打ち、手には少し汗がにじむ。


アレクサンドルは汗で張り付いた髪を手でかき上げ、真剣な目で馬上からケンジを見下ろす。その鋭い視線に、ケンジは思わず背筋を伸ばした。


そばで訓練を見ていた宮廷の侍女たちが、黄色い悲鳴を上げている。

(…なんかファンがいる)


「わざわざ来ていただき、済まない。イーゴリは息災か?あいつとはここ最近会えていない」



妹に手を出すイーゴリと彼は犬猿の仲と聞いていたが、不意に笑った彼の目からは一つの敵意も感じなかった。


むしろ、昔からの友人と会えず少し寂しそうにも見える。


(…確か、同期って言ってたよな。その時から、ライバルなのか?)


真面目そうに見えるアレクサンドルと、あの下ネタ好きなめちゃくちゃなイーゴリが気の合う友人になるとは思えなかったが。


「元気です。元気すぎてこちらが苦労してます」


女性関係で色々疲れていると言いたいが、ふくみを持たせて苦笑した。


「ほう。模擬戦、か」


アレクサンドルは文官から貰ったペーパーナイフで手紙を上品に開けると、思案するように顎に指を当てた。

それだけなのに、絵になる姿はまるで宮廷に飾られている絵画だ。


「久しくそのようなことはしていなかった。休戦時であれば、それは良き案かもしれん」


「はい。お互いの騎士団の士気を高めるためにも、とのこでした」


「こちらは構わない。いつやる?」


即断即決。という言葉が似合うほどの速さであった。


(いや…この人、余裕なんだ)


ケンジはアレクサンドルを観察し、そう感じた。

イーゴリの第二騎士団にとって、精鋭しかいないアレクサンドルの騎士団にこの話を持っていくのはとても緊張する。

しかし、アレクサンドルからはそのような気配は微塵も感じない。


強者の余裕を漂わせ、第二騎士団の挑戦に対していつでも構わないと思っている。



「では、1ヶ月後に」


思わず口にしてから、自分で驚いた。


(でも…引けない。ここで怯んだら、第二騎士団の笑い者だ)


隣のヴェーラが目を丸くしている。だが、ケンジは真正面からアレクサンドルを見返した。

まごつくことはイーゴリは好まない。堂々としているのが正解だ。


「君が決めるのか」


アレクサンドルの声は静かだが、背後の侍女たちの息づかいまで張りつめる。


その顔は完璧に整っていて、笑えば光を放つのに、表情からは本心がまるで読めない。


(…なるほど。この人は笑顔も沈黙も、全部“武器”にしてるんだ。団長とは別の意味で怖い)



「いえ。イーゴリ団長からは僕が言われたことは、一つだけです。ーーー喧嘩を売ってこい!と」


そこまでハッキリと言って、ケンジは狡猾に笑ったイーゴリの顔を思い浮かべた。


アレクサンドルの美しい顔はしばらく何の反応もなくこちらを見てくる。

冷静に観察をしているのか。

その顔に見つめられれば男でも胸を高鳴る。


するとようやくにっこり笑った。


「頭の良いやつだ。このあと、私達の訓連を見学しろ」


目は笑っていない。

どこか威圧が込められた声だった。



初めて目にした第一騎士団の訓練は、ケンジにとって圧倒的った。


甲冑に身を包み、馬上で隊列を指揮するアレクサンドル・モーリャ。

やはりその顔はあまりにも整っていて、美しいのに表情からは何を考えているのか全く読み取れない。


ケンジは思わず息を飲んだ。


騎士たちは馬にまたがり、槍を握り、アレクサンドルの動きを忠実に再現しようと必死で動く。

だが一度でも列が乱れれば、アレクサンドルは眉一つ動かさず、淡々と一言。


「はじめから」


その冷徹さに、騎士たちはまるで時間を忘れたかのように、何度も何度も最初からやり直す。

風に翻る旗と馬の蹄の音、鉄の鎧がぶつかる金属音が、静かな戦慄のように響き渡る。


ケンジは遠くからその光景を見つめ、胸の奥で何かがざわめいた。

完璧を求めるその姿勢と、揺るぎない統制力。

第一騎士団の強さは、単に個々の力ではなく、秩序と徹底した訓練から生まれるものだと理解した瞬間だった。


次にアレクサンドルは個人戦をそれぞれの兵士に課した。


「来いっ!遠慮するな!」


先ほどアレクサンドルと、鉾を突き合わせていた漆黒の鎧のレオニードが叫ぶ。

猛々しく軍馬を走らせ、平行に騎士が並ぶ。

彼を追うのは精鋭部隊でもトップクラスの騎士3名だ。


馬を操りレオニードは追ってくる騎士を次つぎに返り討ちにした。


激しくかち合う鉾先が火花を散らす。

馬同士が激しくぶつかり合い、いななく。

あっという間に、馬から振り落とされていく騎士達。

レオニードが、そんな3対1の訓練をすでに5回以上繰り返していた。


レオニードは駆けることをやめず「次!」と声を張り上げて仲間を鼓舞している。



(強い。あの人が…極北の獅子)


ケンジは初めて見るレオニードの強さ、そして技の鋭さに圧倒された。

なんとか情報を持って帰りたいきもちとなり、メモを走らすが…


「すごいですね…俺も日が浅いからあんまり細かいことは分からないんですけど。ほかの騎士達をまるで子供みたいに扱ってる」


ヴェーラは眉一つ動かさず、じっと極北の獅子をみている。

彼女もなにかイーゴリに個別の任務を任されていた。目が真剣にレオニードと周りを観察している。


「…多分、この国の千人の騎士の中で一番強いです」

「え!?せ…千!?」

「昔から強かったそうです。イーゴリ様は見習い時代によく実技で助けてもらったとか」


にわかには信じられない情報が3つ出た。

1つは、レオニードがこの国の騎士の頂点であること。

もう一つは、彼もイーゴリの同期であること。

そして、昔から実技でイーゴリを助けるほどの強さだったということ。


「団長だって、相当強いはずだ。それなのに、助けられていたなんて…」


思わず独り言で呟いた。


「レオニードを休ませるな。次の3人、前へ出ろ」


また人を変えてアレクサンドルが何の感情もなく指示している。

これは、レオニードを鍛える訓練なのか。それとも、レオニードが騎士達を鍛え上げているのか。


どちらにもメリットはあるが、アレクサンドルは淡々とこの無慈悲な訓練を続けさせている事が恐ろしかった。


まるで、レオニードの弱点をわざと探しているようだ。


個の力の差は歴然にある。


「イーゴリ様は、昔はとても痩せていました。弱かったので」


不意にヴェーラがまた信じられないことを言った。



(俺たち第二騎士団が挑むには…並大抵の力じゃ勝てない…)


戦慄とともに、ケンジは自分の心に決意を刻む。


夕闇が始まり、どこから報告しようかと考えた。

あの、めちゃくちゃな騎士団長へ


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