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女神の護符  作者: のはな
第六章 南部編
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5.突き返された切符と、救いの手

ケンジが、頑張ってる回です(笑)


彼の魅力は、人に寄り添えるところだなぁ…と、思いながら描けました。

「すみません…個人情報なのに…見てしまって。失礼でした」


改めて言うと、ヴェーラはこんなふうに返してきた。


「ううん。ケンジの事信頼してるから…大丈夫。よかったら遊びに来てね」


すぐに喉が詰まり、飲んでいた水筒のお茶を思わず吹いた。

古典的な驚き方だったが、ヴェーラは動じず黙々とサンドイッチを食べている。


(え… ?すごいことサラッと言われた)


無防備すぎるが、そう言われると逆に手は出せない。

天然の小悪魔を確認し、冷静になるために3個目のおにぎりをひたすら口に入れて噛む。


赤面したまま、隣の女の子の言葉や態度に振り回されていることが、幸せとすら思った。


「あ…あの、はい。是非…行かせて…くだ、さい…!」


「うん」


(ああ…もう…俺、ヴェーラさんが可愛くて…どうしようもない)


早速、今日の夕方に仕込んでおいたおでんでも手土産にし、 訪ねようかと計画始めた。


「 …ケンジと話してると、ホッとする。イーゴリは、優しいけど…ちょっと今日は厳しくして突き放してくるみたいで…」


ポツリとヴェーラがまた元気なく言った。


「…そんなですか?」


「さっき無防備って住所のこと怒られたの。あと、一緒に帰省したいって言ったら…。

仕事だし、大人だから一人で行けばいいって、切符突き返されちゃった」


「え…ええ…!?珍しいですね、そんな冷たいのは」


大抵はヴェーラに甘く、過保護な保護者ムーブのはずだ。

南部の帰省となれば向こうに着くまでは、ほぼ一日がかり。そんな長旅を一人でさせるような男ではないはずだが。


約1年近く2人の関係を見てきたケンジは、様子のおかしいイーゴリに眉をひそめた。


「なんか、極秘の仕事あるみたい」


「…それで今朝、予算が赤字とか色々言ってたのかなぁ…?急に決まったみたいですけど、くわしい話は俺も教えてくれませんでした」


今朝の冷たい態度や雰囲気には、ケンジも同調せざるを得なかった。


(言ってることは正しいんだけど…なんか、わざとらしいというか…どこか、必死というか)


人間観察と勘が働くケンジは、イーゴリの違和感に焦りのようなものと感じていた。


なぜか、必死に…

ヴェーラを近づけさせないように、しているような…。



「…予定も聞かずに、勝手に汽車の切符買って用意してたら…そんなの確かに、大人のすることじゃ、ないよね?」



「………」



イーゴリの厳しさは、ヴェーラをしっかり傷つけていた。


めったに弱音を吐かないしっかり者のヴェーラが、泣きそうな顔をしている。

自分が悪いと、必死に受け止めて反省している顔は、あまりに切なかった。


ケンジはそんな横顔を見て、思わずそれを否定してあげたくなる。


惚れている弱みもあったが、それ以上に優しくしてあげたかった。肯定してあげたかった。


イーゴリが彼女を傷付けるなら…


必死に遠ざけているのであれば…



受け止めて、一緒にいてあげたかった。




「…おいくらですか?」


ケンジは静かに言った。


ヴェーラが膝の上に置いたままの切符へ視線を落とし…

そして、何も迷わず財布を開く。


指先が震えて、しかし目だけは真っすぐだった。


「俺、買い取りますよ」


「え……?」


「ちょうど南部に行きたかったんです。

仕事の休み、合わせれば何とかなりますし…」


軽い調子で言おうとしているのに、声だけはどうしてもやさしくなる。


ヴェーラが傷ついていることが、手に取るように分かったからだ。


「でも…これ、指定席だし…日付も…」


「大丈夫です。

……どうせ、一人旅より誰かと行ったほうが楽しいじゃないですか」


ケンジは微笑んだ。

“勘違いさせないための微笑み”じゃなく、

“安心させるための微笑み”。


イーゴリが突き放した部分を、

痛いほど丁寧に拾い上げるような表情。


「……っ」


ヴェーラの手がほんの少し震えるのを見て、

ケンジはさらに続けた。


「前に言ったじゃないですか。

南部、案内してくれるって。

俺、ずっと楽しみにしてたんですよ」


あくまで――

ヴェーラに負担をかけないように。


あくまで――

「君が悪いんじゃない」と伝えるように。


そして何より、

イーゴリには絶対言えない本音を、心の奥で噛みしめる。


(……君が泣きそうな顔をしてるなら、俺が隣に座りたかった。

イーゴリが傷つけるなら、俺が全部受け止めたかったんだよ……)


「ケンジ…」


ヴェーラの声が震える。

胸の奥の痛みと、あたたかさが混じったような声。


ケンジは優しく笑った。


「……迷惑じゃなければ。

一緒に行かせてください」


あくまで、控えめに。

けれど、絶対に引かない気持ちだけは隠さずに。


その言葉に、

ヴェーラの瞳が少し潤み、

ほんの少し救われたように揺れた。



「ありがとう…いいの?迷惑じゃない?」


「迷惑だなんて、そんな。凄い楽しみですよ!」


満面の笑みを浮かべ、チケット代はほぼ無理やりヴェーラの手に握らせた。


遠慮してお金を受け取らないようにしていたが、きちんと買い取らなければまたヴェーラが責められるかもしれない。


買い取ったのはケンジの希望が強かったから、ということにしなくては。


だから、ここは譲れない。


ヴェーラはようやくホッとしたような、くすぐったいような笑みを浮かべてくれた。


(…ああ、良かった。ちょっとでも…元気になってくれたかな?)


つられてケンジも笑みをまた返し、2人でほんわかするような時を共有した時だった。





「でも、いいのかな…?一泊旅行なんだけど…」




最後に爆弾発言をされ、ケンジ が赤面して絶叫した のはそれからすぐのことだった。



そんなわけで…


2人で旅行へ


がんばれ、ケンジ…(笑)

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