ストーカー編2.お互い変態呼ばわりしている2人
ストーカー編2ですね…
ここからどうポリーナへ繋がるのか…もう少し見守っていてください(笑)
書いていてだいぶイーゴリが胸の内を明かしてくれるようになったなぁと思いました。
イーゴリは、自分の考えを顔に出さないように努力している。
ゆえに、脳内と発言には大きな乖離があった。
王都に引っ越し、ヴェーラがパン屋の可愛い制服を着て目の前に現れた時も、顔はあまり変わらなかった。
「…まぁ、そんなの着ても幼園児なのに、給与が高いなら儲けもんだよな」
はっはっはっ!と大笑いし、しこたまヴェーラをからかうと特に関心も薄いと言わんばかりに私室へもどった。
「もう寝るの?」
「先に風呂入っていーぞ。もうちょっと読書してから寝る!」
パタン。と、部屋のドアを占めるなり、しばしの静寂のあと、ブワッと顔が一気に赤面し声にならない声をあげてベットに突っ伏した。
(くっっっっそ…!!かわいい!!なんだあの制服!?っっふざけんなよぉぉ!!)
頭を抱え、髪を手でぐしゃぐしゃかきむしり何とか発散しようとする。
しかし、高鳴った心臓はおさまらず、脳内で制服を着たヴェーラが何度も出てくる。
目をつぶってなんとか打ち消そうとしたが、こんな妄想が頭を占めた。
『かわいいな…ちょっとこっち来い』
ヴェーラの手をそっと掴み、ソファへ誘導。
ぽん、ぽん、と自分の膝を叩く。
『ここ、乗れ。……うん。そう、いい子』
ちょこん、と横向きに座るヴェーラ。
「?」と首を傾げて見上げてくる。
『…いや、ち、違え…。こう、向かい合って座われ。そ、そう……』
膝のうえに跨って向かい合う形になり、イーゴリはすでに限界。
肩に手を置き、震えながら顔を寄せる。
『……っ、か、かわ…キスして、いいか…?もっと、その…それ以上も…だけど、とりあえず…』
ヴェーラがこくん、と小さく頷いた気がした。
チュっ。
軽く触れただけのキスなのに、頭の中で鐘が鳴り響く。
『嫌……じゃねぇか? よかった……じゃあ、その…服……を』
着ていた服のボタンに手を伸ばし、真っ赤な顔になったまま確認する。
しかし、そこまではできずためらったまま固まる。
『脱ぐのはちょっとやめて…さ、さわっていいか…?』
『どこを…?』
『………………ッ!!』
ヴェーラの純粋すぎる質問に脳内のイーゴリ、気絶寸前となる。
『あ、あの……嫌じゃないところを言え……!
そ、そこ、だけ……そのとおりに……!』
と、そこまで脳内で考えて我に返った。
自分の妄想に気づいた瞬間。
「って…何考えてんだ俺はああああああ!!!!!」
壁に額を3回ほどぶつけた。
「…………」
ベッドに倒れ込み、ガンガン頭痛のする頭を抱えた。
「……死にてえ」
数分の沈黙。
そのあと、突然むくっと顔を上げて
「走ってくる!!」
ドアを蹴飛ばす勢いで外へ飛び出すと、後ろでヴェーラが「え!?」と言ったが振り返らなかった。
深夜の王都を全力疾走10km。
ひたすら走り走って、汗だくで帰宅した。
「毎晩すごいね…イーゴリ。運動…?」
と心配するヴェーラに、
「…………ああ……まぁ……発散……………………」
と、自分の理性のためとは言えず、目をそらしながら水を一気飲みした。
※
イーゴリは、団長任命式まであと一日となったその夕暮れ、
珍しく早めに仕事を切り上げて家へ向かっていた。
すでに第二騎士団の団長として、訓練は実施し働き始めてはいた。
しかし、まだ団員とは距離がある。
お互い腹の探り合いをしていて、会話は上積みを触ったようなものだ。
第二は強い騎士も多いが、荒々しい気性の者も多い。
また、イーゴリの年令の低さや第七騎士団出身ということを、あからさまに気に入らないと反発するものもいた。
今朝は、そんな騎士を何人か指導した。
整列の号令をかけても、のらりくらりと欠伸をかましてなかなか集まらない男共に
『おい』
と、低い声で声をかけ自慢の長身と立派な体躯で見下ろし睨んだ。
それだけで、ほとんどの男は震え上がる。が、一部は反発し「あ?」と反抗的な態度で睨み気だるそうな態度を変えない。
年令もイーゴリより10以上歳上だった。
『なんだよ…?殴るか?暴力…反対ーー?』
挑発的に語尾をのばし、手を挙げ降参のポーズをしてきたが、イーゴリはひるまない。
何人かはからかうように喉を押し殺して笑い、空気は最悪だった。
『子供じみた挑発をするな。後でお前らは、始末書を書け。ちょうど、書式を書きやすく変えてやった所だ』
『…は?』
脳筋万歳タイプの騎士が最も嫌がる処分に、反発した男が顔を歪めたのを確認した。
殴れば一時的には言うことをきくだろう。
だが、真の意味での信頼関係や統制からは、遠ざかる。
北風と太陽の極意で、体罰や厳しさだけを強めるのではなく、規律を少し与えた。
第七騎士団でヴェーラの父親、当時の団長のやり方に習う。よくこう言っていた。
"ーーーイーゴリ。
理不尽な事や腹が立つ事があったら…そんな時こそ笑え。
世の中には、お前の理解の及ばない頭のおかしい奴もいる。
納得がいかない出来事はごまんと起こる"
穏やかで常に笑みを絶やさない人生の師は、若く頭の良すぎる10代のイーゴリにゆっくりと聞き取りやすい口調で話す。
常にペースはゆっくりで、愛情深い人だった。
"笑って、よく観察しろ。
そして、理解しなくてもいい。
相手の望みが何か見定めてから、それを提示してやるんだ。
軽んじれば、お前もそんなふうに扱われるぞ?
大切にしてやれ"
あの人は、本当に頭のいい人だった。
勉強が出来ることや、知識が深いことが真の頭の良さではない。そんなことは、学べば得られる情報でしかない。
そうではなく、人を理解しどう声をかけ、どんなふうに接すれば人を動かすことができるか…
真理を深く理解していた。
そして、人を愛している人だった。
反発する騎士に向かい、イーゴリは教えに従いニヤリと笑ってやった。
理解できないように目を見張る反応に対して、かわいいとすら思う。
『俺をがっかりさせるな。第二騎士団はこの国で、最も誇り高い奴らの集まりだと聞いてきたんだ』
周りを見渡し、全員に聞こえるように問いた。
『…俺に見せてみろ。そんな強さを』
その一言で、ざわついていた空気が一瞬で変わった。
嘲笑も反感も、すべて飲み込まれるように静まる。
第二騎士団は、団長の声を聞いてしまった。
だが、まだまだ信頼を得て第二騎士団を統制していくには、時間と根気がいると思い、ため息はでた。
21歳の新任の団長。
始まったばかりの仕事とその苦悩を、夜道の月だけが見ていた。
※
(……夕飯、今日はヴェーラが何を作ってくれてんだろな)
昨日はシチューだったが、今夜はカツレツにすると言われた。腹は減っているのでたのしみではある。 ふと口もとは緩んだ。
ふと口元がゆるむ。家の鍵を開ける。
ガチャリ。
灯りは小さく、室内は静かだった。
「ただい――」
言い終えるより早く。
廊下の奥から細い影がこちらへ駆けてくる気配がした。
「イーゴリ……っ!!」
「うおっ!?」
胸元に、ドンッと飛び込んできた。
(近い……っ)
思わず、心臓が跳ねた。
反射的に一歩さがって体勢を立て直す。
胸にしがみついてきたのは――ヴェーラだった。
腕はぎゅっと服を掴み、肩に額を押し当てるようにしていて。
呼吸が速い。
細い腕が震えている。
「……な、なんだ!?どした!?」
声が少し裏返った。
普段のヴェーラが絶対にしない距離感に、
イーゴリは 本気で心臓が跳ねた。
しかし、ヴェーラは離れない。
服を掴む手に力がこもっていた。
「こ、怖かった……」
小さく、押し殺した声。
アイスブルーの瞳に涙が浮かび、まつ毛が濡れている。
普通ではない青い顔で口が震えていた。
「……へ、変な手紙が、また……」
その一言で、イーゴリの目が、スッと鋭くなった。
「……手紙?」
「うん……っ。職場でもらったの…。
今日のは……あまりにも、酷くて……見られてるみたいで……」
声は震えていて、喉の奥で言葉が詰まる。
イーゴリはゆっくり片腕を動かし、彼女の背に、そっと触れた。
ぎこちなかった。
どこを触っていいのか分からない人間みたいになる。
(……抱き返すべきか……?
いや、やりすぎると余計に怖がらせるか……?
いや、でも震えてんだし……っ)
中でぐるぐる迷っているが、顔には出さない。
思考は混乱していたが、声だけは低く落ち着き払っていた。
「……大丈夫だ。まず、深呼吸しろ。俺がいる」
その低音に、ヴェーラの肩がすこし落ち着きを取り戻す。
深呼吸をし、目をつぶった。
安堵して泣きそうになる。
しかし、それよりも手紙を見せて、どれほどひどい内容なのかイーゴリに知ってもらったほうがいい。
上着も脱がず、ソファーに座ったイーゴリにカバンから取り出した綺麗な花がらの封筒を渡す。
内容とは異なり、丁寧な字で書かれた宛名の字すら直視できない。
手紙を内容を読み始めた瞬間、イーゴリの指がピクリと震えた。
「…は?」
……読んだ瞬間、イーゴリの表情が極限まで歪んだ。
次の瞬間、低い怒声がこぼれる。
「なん…だ、こいつ。変態じゃねぇか……!!」
※
男は鼻唄交じりに帰宅すると、上衣のポケットから指輪ケースを取り出した。
宝飾店で購入したが、奮発してダイヤは大きくした。
指輪の太さはすでに確認済み。パンを渡してくれる手を観察し、自分の小指より少し細いと判断した。
もしも緩かったら、後で2人で直しに行けばいい。
気がかりなのは、彼女と共に住む…あの男。
図体もデカいが、顔も良いと男の敵でしかない。しかし、頭は悪そうな脳筋代表のようだ。
兄妹ではない、微妙な距離感が2人にはある。
そして、2人で買い物へ出かけた際に、男の視線が気になった。
彼女は気づいていないが、明らかに好意を持っている気配がする。
荷物が重ければ持ってやり、気のない返事をしても、気づかれないように見つめていたりする。
熟れたような熱を帯びた目で、何度も見ていた。
あれは、恋をする男の目だ。
それなのに、まるで気づかれるのを恐れるかのように彼女に対してかける言葉は、常に冷たかった。
とんでもない変態なんじゃないのか…?
(あんなに可愛いヴェーラちゃんと住んでるのに、手を出さないなんて…不能か?
そんな気持ち悪いやつと、なんで一緒にいるんだ?)
男のために時間を割きたくはなかったが、調べ上げると意外なほど有能な時の人であることが分かった。
第二騎士団の団長として、騎士団の改革のシンボルと新聞にまで載っていた。
名前は、イーゴリ・メドジェーヴェフ。
二十一とは思えない落ち着きぶり…いや、あれはもはや威圧に近い。
真底気持ち悪い上に、自分にはない名声に嫉妬の炎が立った。
(死ね死ね死ね死ね死ね…!!
騎士団長のコネでヴェーラちゃんに近づいて、住みやがって!!ヴェーラが嫌がってんだろ!!)
新聞に描かれた顔を、真っ黒に塗りつぶし何度も鉛筆で突き刺してやった。
明日は、名誉の団長の任命式。
あの男が一日家を空けるのは、調べ上げてある。
早く指輪を渡して、彼女を救い出してあげなくては。
このチャンスは、女神が与えてくれた好機と感じほほ笑んだ。
お互い変態呼ばわりしていますが
お互いヴェーラの事が好きなのも一緒ですね。
次回が、イーゴリの任命式に戻る感じです。




