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女神の護符  作者: のはな
第五章 ストーカー編(二年前)
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ストーカー編1.ストーカーより愛を込めて…

タイトルがあれですが…(笑)


ようやくイーゴリとヴェーラに戻れました。

過去の同棲に至った話となります。





王立109年、春…

ケンジがまだ騎士団の書記官になる二年前の事だ。


イーゴリは第七騎士団の功績を認められ、古巣の南部を出て王都を拠点とする第二騎士団の団長に抜擢された。


いわば、花形騎士団への異動。そして、大出世である。


騎士団の大改革、若返り…とも言われたこの編成を運と捉え、イーゴリは不安よりも期待に膨らませ「やります」と少しも迷わずに返答した。



『ヴェーラ。一緒に王都へ行ってくれねぇか?』


ヴェーラは父親の騎士団長を亡くし、南部で1人で生きていくつもりだった。

そのため、イーゴリのこの告白には目を見張った。


当時はまだ18歳で、学校を卒業したばかりだった。


イーゴリは身寄りのないヴェーラのために毎月自分の給与の半分を渡し、ほぼ毎日家を訪ねてヴェーラの世話をしていた。


この頃から半同棲のような、かつて一緒に暮らしていた馴染みとして…

そばに、いてくれていた。


しかし、王都へ行くことになったイーゴリからの「一緒に来てほしい」という言葉に、おもわず忘れていた期待と胸の高鳴りを覚えた。


春の日差しが暖かく、ヴェーラの家の庭先では木蓮の花がこぼれ落ちるように咲いている。


そんな場所で、照れたようなイーゴリの目を逸らした顔に、つられる。



『それって…』



まるで求婚のようだと思い、赤面する。

ヴェーラの頬が熱くなり、目をそらしつづけるイーゴリを見つめた。



『……お前がここに残ったら、誰が後見人になるのか心配だ。俺と王都に行けば、守ってやれる』


『……………』


期待した甘い返答ではなかったが、理にかなう説明だった。


父が亡くなってからは学業だけが支えで生活してきたが、イーゴリがいなくなれば生活は難しい。

働こうと思っても、成人したばかりで紹介状も持たない女子の仕事は、南部の田舎では限られていた。


良くて酒場の下働き…あるいは、娼館で元騎士団長の娘として付加価値がついて客を取るかだ。


イーゴリは返答がなく押し黙ったままのヴェーラを、ようやくチラリと横目で確認した。


下を向いて押し黙る様子から、迷っているのかと予想する。


ヴェーラは、この数年で誰もが認めるほど美しくなった。


珍しい透き通るような白い肌に淡い青い目。長く腰まで流れるような銀髪は、日差しを浴びてまばゆく光っている。


色気があるような体つきではないが、華奢で女らしい曲線美が服を着ていても分かる。

凛とした芯のある雰囲気と、上品な柳のような美しさは、男の目を引いた。


(ここに一人でいれば…男が放っておかない。男に消費される行く末が見える)



そんな例をたくさん見てきた。


世の中は…

世間知らずのヴェーラが知らないだけで、独り身の女は群がる男で貪られる。


金持ちの愛人にされるのも、時間の問題と思った。



『第二騎士団の団長になれる。お前に苦労はさせないし、向こうで好きに働いてもいい。…いっしょにいこう』



やはり求婚に近い言葉しか吐けなかったが、「保護者みたいに思ってくれていい」と付け加えた。



ヴェーラはしばらく感情のない目で下を向いていたが、やがて「うん…」と、少し元気のない返答をしてうなづいた。



『ありがとう、イーゴリ。私が、ちゃんと独り立ちするまで…よろしくね』



ヴェーラは期待されている通りの返答をして、少しだけはにかんだ。

まるで、イーゴリの心理を理解しているように。


ヴェーラのことを、恋愛対象としてはもう見ない。


そんなイーゴリの気持ちに応え、健気に自分の感情を押さえつけているような…


そんな淋しい微笑みだった。





「…おお?なんか、幼稚園児みたいだな」



イーゴリは、開口一番そんな感想を漏らした。


王都にヴェーラと移り住んでから約1週間の時がすぎ、ちょうど明後日に団長の任命式典をそなえている。


イーゴリが買い上げた集合住宅は、4階全てであった。

邪魔な3フロアの壁をぶち破って一つなぎにしたリフォームも終え、ただ広い廊下へヴェーラは飛び出してきた。


「幼稚園児ってどういう意味…?かわいいでしょう?この制服」


ヴェーラは半分ジト目で睨んでくる。


黒いベレー帽に、コックの白衣を模した上の服と赤いスカーフ。黒いミニ丈のキャロットスカートを着ている。


「凝った制服だ。人気高いんだろ?」

「そうなの。どうせ働くなら、かわいい制服がよくって…」

「たかがパン屋なのに、王都は洒落てんだな」


淡々としたイーゴリの感想に一つも「かわいい」という言葉はなかった。


塩対応というか、まるで眼中にないという態度にむっとする。

しかし、イーゴリはさっきまで居間で本を読んでいて、なにを話しかけても生返事で読書に夢中だった。

なので、受かったアルバイト先の制服で廊下に出て驚かす作戦に出たのだ。


本を閉じ「おーなんだ?コスプレか?」から始まり、制服を着ても特段反応は薄かった。



「まぁ、お前じゃなきゃ、生足が結構出ててなんかエロいな?はっはっはっ!」


腕を組み、最終的にはさわやかな笑顔で幼児体形に似合うぞーととどめを刺された。



同棲を開始しても、イーゴリとの間には何も甘い展開は訪れなかった。


居間などの共有スペースはあるが、元々3つのフロアを買い取ったので私室以外にもお互いのフロアで会わずに過ごす日もある。


ただ、食事の時と居間でのんびり過ごす時はそばに来て話はした。


イーゴリは基本的に仕事で忙しく過ごしていたが、夕食だけは極力一緒に摂ることをしてくれた。

それは、同棲するにあたり最初に決めたルールのうちの一つだった。


なるべく夕食は一緒に摂ること、と。


そして…


『…外でいくらでも遊んでいいけど。この家に、女の子を連れてこないで』


ルールのうち一つ。

イーゴリの女遊びに対して、ヴェーラからそれだけはお願いした。


戦場へ赴き、命のやり取りをするイーゴリから、時折血の匂いに混じって女の甘い香水が香る時があった。


それは、南部にいた時から感じていた。

父親を騎士団長に持っていたヴェーラは、男の本能としてある程度致し方ない事だと理解している。


しかし、イーゴリと生活をする家の中には立ち入ってほしくないと思った。


自分には興味を示さない男が、他の女を抱く姿は、この家では見たくない。


ここで静かに本を読み、騎士の時は見せない穏やかで知的な一面をのぞかせるイーゴリ。


普通の21歳らしく髪を下ろし、くだらない会話で笑い、生活を一緒に過ごしてくれる彼の横顔は誰にも見せたくない。


ここでの彼は、私だけのものだと思った。



課したルールに対して、イーゴリの返答は淡々としたものだった。



『分かった。…ここには連れこまねぇよ』



面倒くさそうでも笑うでも無く、感情の無い顔で約束をしていた。



(…たくさん働いて…正規雇用になって、お金が貯まったら…イーゴリを解放してあげなきゃ)


彼が若いうちに何年かかけて、自分の身を立てて早く一人暮らしできるようになろう。


ヴェーラは同棲を開始した時点で、そんなふうに思っていた。


恋人でもないこんな女がずっとそばにいたら、イーゴリの人生は普通の家庭を作ることもできず、大きく狂ってしまう。



そのパン屋のアルバイトは、若い女の子が働くにしては給与も高く、比較的で仕事も単純。

そして、正規雇用の道も開けるかなり良い条件の仕事だった。


可愛い制服でお客さんを惹きつけるのも、客寄せとして戦略的で、そこには特に抵抗もなかった。


若いうちにしか着れないが、それがお金になるなら別にいい。出世すれば、奥のパン作りを行う職人になるため、年相応の仕事にシフトチェンジできるのも気に入った。



その時はそう思っていた。


なんの問題もない。と…






その手紙は、ヴェーラの働くパン屋の郵便ポストに入っていた。


差出人は不明。

宛名は、整った筆跡でこう書かれていた。


「ヴェーラ様へ」


封を開けた瞬間、かすかに甘いパンの匂いがした。

油紙についた匂いだろう、と自分に言い訳しながら、ヴェーラは指で紙を広げた。



『かわいい、かわいい…ヴェーラちゃんへ』


『おはよう。君と出会ってからもう3日もたったね。

君のメッセージは、毎朝パンから受け取ってるよ。』


『君のパンが僕を呼んでいる。

早く“味わいたくて”仕方ないんだ。

最初は痛いかもしれないけど、大丈夫。

すぐに慣れて、気持ちよくなるから。』


『今は君を思って、受け取ったパンをゆっくり味わってるよ。

君もパンみたいに甘いといいな』



読み終わり、ヴェーラは首をかしげる。


「…………???」


意味が分からず、目を白黒させた。


すると背後から、パン職人の兄ちゃんが覗き込んだ。


「おっ?また来たのか“ファンレター”。

時々いるんだよな。若い子は特にさ」


「ファ、ファンレター…?」


同僚の女の子たちは慣れた様子で頷く。


「私もありますよ〜!

“昼はアイドル、夜は女豹になってください”って書いてあったやつ」


「こっちは“結婚してくれ、愛してる”って客から花もらった。

まぁ、無視が一番!」


「そ、そうなんですね……」


(これ……普通……なの……?)


本能的な寒気を、忙しさで誤魔化しながら制服のポケットに突っ込み、午後にはすっかり忘れてしまった。


——そのときは、まだ。



しかし、二通目の手紙は翌日の夕方、またポストに入っていた。


閉店準備で慌ただしく働く最中、店長が何気なく手渡してきた封筒。

宛名は、また「ヴェーラ様」だった。


読み始めた瞬間、ヴェーラは息を呑んだ。

冷たいものが背骨をゆっくりと昇り、喉がひゅ、と細く鳴る。


『おはよう、ヴェーラちゃん。

今日は珍しく黒いストッキングをはいていたね』


『どうして綺麗な白い肌を隠してしまうのかな?

もしかして、ほかのお客さんの視線が気になった?』


『君の肌は真っ白なパン生地みたいに綺麗で、毎日僕のことを誘惑していたね?

他のお客に見せたくないから隠したとしても、

ストッキングを僕に破いてほしいから“あえて”の黒ストッキングなのかな?』


『かわいくて仕方ないよ。

早くそれを破かせて君の脚をなめ(ここからは放送禁止用語連発)

ああ…君と一つになって、クリームパンみたいに中身を入れてあげたいな』


読み終えた瞬間、ヴェーラの指は震えて手紙を落とした。


制服から私服へ着替えるだけの狭い休憩室が、急に息苦しくなる。


(なにこれ……怖い。

昨日よりずっと……卑猥で、気持ち悪い)


周囲の女の子はすぐに異変に気づき、顔色の悪いヴェーラを心配した。


「ヴェーラちゃん、大丈夫? 今日は一緒に帰ろ?」


「……うん。お願い」


その日は、同僚二人がヴェーラの両側につき、暗くなり始めた王都の大通りを途中まで送ってくれた。


途中で手を振り、

「ここからは家近いから大丈夫」と笑ってみせたが――


一人になった途端、足が震えて止まらなくなった。


(だれ……?見られてた……?私の“脚”まで……)


家の前に着くと、ヴェーラは鍵を取り出す指がうまく動かず、何度も落とした。


ようやく鍵穴に差し込み、扉を開けて飛び込む。


――ガチャッ!


入った瞬間、振り返って勢いよく鍵を閉めた。

背を扉に預け、息を荒くする。


胸の奥で暴れる心臓の音が、家の中の静寂にやけに大きく響いた。


(……怖い。今日は…イーゴリが早く帰ってきますように)


祈るように目を閉じた。




手紙の内容は一部実体験になります。

無視せず、警察へ!!(笑)

と思って描きました。



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