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女神の護符  作者: のはな
第四章 女神の呪い編(七年前)
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女神の呪い7.王女との再会――まさかの逃亡

少し長くなりましたが、アレクサンドルと久々にイーゴリが出てきます(笑)


二人がなぜ若いのに騎士団長になれたのかという背景もようやく描けました。

王立109年

ポリーナとアレクサンドルが出会ってから7年の月日が経ったが、その間一度も会わなかった。


この年、王国は七つの騎士団の大改革を行った。

すなわち、騎士団の若返りである。


詳しく述べると大変であるため、割愛するが…


一つと言わずいくつもの騎士団の士気がある時期を境に著しく落ち、それらは騎士団を率いる団長達の古い体制や考え方が問題視されたのだ。


王国を守る騎士団の士気は下がり、周辺諸国との戦争にもその影響は顕著に出てしまっていた。


故に、大改革と称して若く才能のある男達が騎士団長として一斉に指名された。




その中に、まだ20代のイーゴリ・メドヴェージェフとアレクサンドル・モーリャがいた。


二人の若者は「時代の顔」となった。


ひとりは、秩序と理性をもって白の剣を振るう者。

ひとりは、激情と策をもって赤の炎を掲げる者。


アレクサンドル・モーリャと、イーゴリ・メドヴェージェフ。

この二人の名は、やがて王国史を二分する象徴として語られることになる。



第七騎士団

それは、七つある騎士団の中で少し異質な騎士団であった。


王国の南部を拠点とし、騎士団の中ではもっと騎士の団員数を誇り、騎兵だけで400人を超える。

通常150を基礎とする騎兵に対してである。


主な任務は、他の騎士団の後方支援や物資調達、人員補給などである。


戦争の前線で戦うことを主とする北方の第四騎士団からは「控えさん」と、呼ばれることも多々ある。


しかし、弱いというわけでもない。

どの騎士団に従軍してもすぐに力を発揮し、柔軟な適応能力をみせるためである。


そんな第七騎士団で頭角を現し、19歳で副団長にまで上り詰めたのがイーゴリだった。


イーゴリは、そこでの功績が認められ21歳で第二騎士団の団長に任命された。


王国の騎士団の歴史において、他に類を見ない大抜擢であった。




「ーーーアレクサンドル!!」



任命式の日、王宮へ集まった騎士団長達の中でひときわ目立つ男がいた。


イーゴリは式典用の制服に身を包み、堂々たる体躯でゆっくりとその男に近寄っていく。


鍛え上げられた筋肉質の体は分厚く、スラリとした長身も相まってイーゴリは非常に見栄えした。

目を輝かせ、歯を見せて笑うと、まだ21歳になったばかりの顔が興奮で紅潮している。


目に映るのは、こちらを振り返る男。


イーゴリよりも少しばかり背は低いが、輝くような黄金の髪が、王宮の天窓から入る光を浴びて宝石のごとくきらめく。

整いきった顔に、計算されたかのようにフワリと前髪がかかっている。


第一騎士団電灯の赤いマントと青い騎士の式典衣装を身に着け、ただそこにいるだけだ。


しかし、成長したアレクサンドルの立ち姿は、飾られた絵画のように麗しい。

誰もが目を向けてしまうほどに、輝きを放っていた。



先に王の間へ続く階段へと足を踏み入れていたかつての級友…


ーー騎士の学校を卒業してから、7年経っていた。



「久しぶりだな! 俺だ、分かるか!?」



イーゴリの声が王の間に響く。


アレクサンドルは振り返り、階段を上ってくる男の姿を見て一瞬だけ目を細めた。


……背が高い。肩幅が倍になっている。


あの頃の、痩せっぽちで夜更かしばかりしていた学友が——まるで別人だ。



「……イーゴリ、か?」


「そうだ! よく覚えてたな!!」


豪快な笑みとともにイーゴリは、アレクサンドルの肩を叩こうとして、すんでのところで思いとどまった。


式典中だったことを、ほんの少しだけ思い出したのだ。


しかし、イーゴリの声が、続いて王の間の天井に響いた。


「お前やべぇぇーな!! とんでもねぇ男っぷりの良さじゃねぇか!!」


アレクサンドルは何も言わず、静かに立っていた。

その姿を改めて見たイーゴリは、思わず息を呑む。


金の髪は糸のように細く、光を受けるたびに淡く揺れる。

瞳は深い海原のような碧。

整った鼻梁に、凛と結ばれた口元。


白い肌はまるで彫像のようで、鎧の銀の輝きさえ彼の清廉さにかすんで見えた。

完璧すぎて、汚れひとつない。


傷の一つでもあれば、人間らしく見えただろうに——。



「くぅーー!! 女だったらたまんねぇよ! 傾国の美女だな!! 国が滅ぶレベルだぞ!!」


イーゴリは腰に手を当てて、思い切り上体を後ろにそらして天を仰いだ。


周囲の女騎士や侍女が、アレクサンドルを一度見てから赤面して目を伏せる。

中には頬を押さえて、小声で悲鳴を上げる者もいた。


だが当の本人は、わずかに眉を動かしただけだった。


「……くだらん」


その一言だけで、空気が再び静まる。

イーゴリはにやりと笑い、低く囁いた。


「ちぇっ、慣れてやがるな? 言われ慣れしてる顔だぜ」


「事実を言われて反応するほど、未熟ではない」


淡々と告げながらも、その横顔には神が磨いたような美があった。


金の髪は一筋たりとも乱れず、碧の瞳は冷たい静謐を宿す。

その美しさはもはや“人間”という枠を超えて、見る者に畏れを抱かせるほどだった。


だが、アレクサンドル自身はよく知っていた。


――この外見のせいで、どれだけ中身を軽んじられてきたか。


剣よりも顔だと笑われ、理性を貫こうとすれば冷血だと囁かれた。


努力を積み重ねても、常に先に語られるのは「美貌」だった。


(……容姿だけで見られて、中身の評価が追いつくまでに、どれほど苦労したと思う)


心の奥でそう呟きながら、向かいに立つ男を見やる。


イーゴリ・メドヴェージェフ。


戦場では奇策を操り、王宮では飄々と笑う男。

武勇も知略も兼ね備え、民にも兵にも慕われる。


何より、どんな人間とも自然に距離を詰めてしまうあの話術。


(……なるほど、噂通りだ)


背の高さも、腕の太さも、笑ったときの光まで。

すべてが「人を惹きつける」要素に満ちていた。


顔を見るまでは嫉妬はしまいと思っていた。


しかし、目の前で笑うその姿に、

胸の奥が焼けつくような感情がわき上がってくるのを止められなかった。



煩いイーゴリに、まだ王が来る前ということもあってか、王宮の上級書記官が咳払いをしてこちらを睨んだ。


「おっと。やべぇ」


と、イーゴリは悪びれることもなく、悪戯を咎められた子どのようにそそくさとアレクサンドルの隣に並ぶ。

そこで横並びになり、国王陛下をまたねばならない手順だった。




王を待つ間、イーゴリはヒソヒソ声で言ってきた。


「まっ、昔のよしみでよろしく頼むぜ?第一と第二は同じ王都が拠点だしな?」


「……ああ」


イーゴリは腕を組み、思い出したように声を上げた。


「そういや聞いたぞ。王都じゃ今、“ポリーナ姫がめちゃくちゃ美人になった”って話題らしいな…それを楽しみにして来たんだ」


「………」


アレクサンドルは無言だった。

脳裏によぎるのは、七年前――銀の護符のカフスを渡してきた10歳の少女のポリーナだった。


『カフス。つけてね』


頬にキスをしてきた後、はにかみ去って行った嵐のような激しさの少女、ポリーナ。


彼女のことを忘れたことはない。


しかし、思い出として残るだけで思い出すことは少なかった。


イーゴリは、黙り込んだ相手に首をかしげる。


「ん? どうした? 顔がちょっと怖ぇぞ」

「……別に」


短く答え、アレクサンドルは視線を逸らした。

そして、金の睫毛の影の奥に、

言葉にできない何かが沈んでいた。


思い出として取っておいた女神の護符のカフスを、今日は必要に感じ腕に付けて来ている。


会えば、ポリーナはそれに気づいて人懐っこく寄ってくるだろうか。

そんなことを思い、まるで期待するように付けてきてしまったことが少し恥ずかしくもあった。


淡い子供の頃の初恋のような彼女との思い出は、この護符と共に宝石箱に大切にしまっておいた。



(……あくまでも、思い出の方だ)



アレクサンドルの心は未分不相応という硬い壁に支配され、それ以上はあえて先を探らない様にした。



若き騎士は青い目を伏せる。


式典の開始を告げる鐘が、王の間の天井を震わせた。

王族の入場を知らせるファンファーレが鳴り、参列する騎士たちが一斉に姿勢を正す。


「陛下ご入場――」


重厚な扉がゆっくりと開かれ、王と王太子ミハイルが入ってくる。


アレクサンドルは最も左に位置する場所で、成長したミハイルを確認した。

何度か王宮の公務をこなす彼を見た事はあったが、七年前とはやはり威厳が増して纏う空気が違う。


このところ体を壊し、塞ぎみの国王に代わりミハイルの存在は、王宮で日増しに強くなっていると聞く。


感情の見えない顔で老いた国王の後ろを行き、並ぶ新任の騎士団長全員を見ている。


確か、今年でまだ24になったばかりのはずだ。


眼光は鋭く、場を制するような威圧をすでに備えている。

その場にいる全員が、国王より先にミハイル王太子に視線を向けたのが分かった。



それほど、目を引く荘厳な雰囲気をまとった王としての資質を持ち合わせていた。



……しかし、その隣に立つはずの白いドレスの影がなかった。



後に続くはずのポリーナを探すためか、ミハイルは一瞬顔を後ろに向けた。


しかし、待てど暮らせど王女は奥からも横からも前からも姿を現さない。



流石に王も王太子も顔を見合わせ、何やら言葉を交わし始めた。

ざわつく周囲の雑言は大きくなっていき、アレクサンドルの顔も引きつった。



まさか…



「……おい」


イーゴリがぼそりと呟く。


「姫さん、いねぇぞ?」


「…………」


アレクサンドルはその時、ミハイルが突然激しく舌打ちをしたのを聞いた。


マナー違反の粗暴な振る舞いに空耳かと、場が凍る。


そして、妹不在に対して兄はこめかみを押さえ、顔を覆った。

青筋の浮かんだそこを手で擦り、ブルブルと怒りで震え始めていた。


天井に響くほどの声で叫ぶ。





「ポリーナぁぁぁぁーーーーーッ!!!」




前代未聞の出来事であった。



その日、ポリーナ王女は公務に現れず、アレクサンドルとの再会は持ち越しとなった。



王立一〇九年の春――止まっていた、女神の護符の約束という名の呪いはここから始まった。











と、いうわけで…

ポリーナは現れませんでした。


逃亡なのか、はたまたどこかで別のことをしてマイペースに不在なのかはまた次で。


アレクサンドルはイーグルほどお喋りではないので「不器用だな」と思っています。


そして、美形アレクサンドルを描き慣れていないため唸りながら書きました(笑)


読んでくださりありがとうございます、


良ければコメントやブックマークをつけていただけたら、たいへん励みとなります。


よろしくお願いします…!

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